契約を
「……私に何か用ですか」
少年に恐る恐る問いかけると、少年はムスッとした顔のまま、
「お前、十津川緑だろ」
と私に問いかけに答えずに質問を質問で返した。
「そ、そうですけど!なんの用ですか!」
流石にカチンと来て、軽く怒鳴って返す。さすがに大人気なかったかなぁと思うけれど。
「あれだろ、夏目はるかの元カノだろ」
やはり少年は質問には返答せず、ずかずかと人のプライベートに踏み込んでくる。
元カノという言葉にややショックを受けつつも、ここで引くわけにはいかない、と
「だからなんですか!ていうかあなた誰なんですか!」
と押す。
「俺?俺は小金井佑介。二宮有梨沙の元カレ」
「……二宮有梨沙?」
やっと質問に答えてくれて拍子抜けしたのと聞き覚えのない名前に思わず先ほどまでやや怒っていたことも忘れて尋ねてしまう。
「お前の元カレ、夏目はるかと今付き合ってるやつ。んで俺の元カノ」
……つきあってる?
思いがけない言葉に一瞬思考も行動も瞬きも息をすることさえも忘れる。
いやいや、おかしい。
だって私達が別れたのはたった3日前だ。
ということはもっと前から交流があった?いつから?
……あぁ、私を避け始めたあたりか。
何も言わずに固まってしまった私を見て小金井とやらはどうしたもんかと言う風に頭をかく。
「……んで、ここからが本題なんだけど、聞く?」
「……聞きます」
ここまで聞いてしまったらもう怖いものなんてない。
なんでも、聞いてやろう。
「俺は、有梨沙に未練持ってるわけ。んでさ、お前も例外じゃないと思ってんだわ。だからさ、手ぇ組まねえ?」
何言ってるのだこの男は。
「……手を組むって、どういうことですか」
「だーかーら!俺らが付き合ってるってことにして、あいつらに復讐すんの!」
理解できないかなぁー!とちょっとイライラしたように小金井は言う。
私達が付き合えば、はるかたちに復讐できる?
本当に訳がわからない。
「……あいつらに、俺らが幸せそうにしてるとこ見せつけて、あぁやっぱあいつと一緒にいればよかったって、思わせてえんだ。少なくとも俺は、有梨沙に」
急に日本語がつたなくなったようにしどろもどろと話しだす。
なるほど、そういうことか。
でも。
はるかがそんなことでゆらぐような男じゃないのは知っている。
有梨沙さんとやらと付き合ってるのにも何か惚れたであろう要因があるのも知っている。
でも、でもやはり裏切られたという気持ちはある。
この私を振ったことを、後悔させたい。
「……いいわ」
「あん?」
不意打ちに話しかけられた小金井は少しびっくりしたように返事をする。
「手を組みましょう、私達」
すっと手を差し出すと、小金井もそのまま手を握る。
「……おう、よろしく」
こうして、私達の復讐劇は始まったのだ。