表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花一匁  作者: 芦田香織
5/19

告げられた言葉

はるかからの訴えに私は答えぬまま、弱い雨が降り始めた中を、はるかに背を向けて走りだした。

答えたくなかった。答えられなかった。

それ以上聞きたくもなかった。

もし理由なんて聞いてしまったら、私はきっとイエスの答えを出さざるをえないから。

「待って、緑、お願い、聞いて?」

はるかが息を切らして追いかけてくる。

それでも私は足を緩めなかった。

少しづつ、少しづつ雨が強くなっていく中、傘をささずにバシャバシャ走る私達は本当にばかみたいだと思う。


「みど、り」

でも、鬼ごっこに終わりは来る。

私はついにはるかに捕まった。

きゅっと弱々しく、それでも私の足を止めるには十分すぎるほどの力で、はるかは私の手首を掴んだ。

「みどり、聞いて、くれる?」

体力のないはるかはまだ浅く息を切らして、私を見つめてくる。

ここまでさせておいて嫌だと駄々をこねるのも申し訳なくて、ふいっとはるかから目をそらすことしかできなかった。

「緑、俺は今から自分勝手なことを言う。多分、緑を傷つける。でも、このままは嫌なんだ」

何も言えない。

私が今、はるかになんの声掛けをするのが正解なのかもわからないから、多分何も話さなくていいのだろう。

「緑、ごめんね、好きな子が、できた」


一瞬、何を言ってるのかと。

逸らした目を思わずハッとはるかに目を向けてしまうくらいには衝撃だった。


好きな子が、できた?

私という彼女がいながら?

どうして?


どうしてと理由を聞きたい気持ちと、文句と、縋り付きたさが喉の奥で絡まって、結局、私の口から押し出すことができた言葉は、

「……そう」

の二文字だけだった。

それからまたしばらく苦労して、もう一つ言葉を押し出して、

「じゃあ、別れようか」

と言った。

泣きそうだったのはきっと雨がごまかしてくれただろう。

もう一度はるかから別れようなんて言われてしまうのは惨めで仕方ないと思ったから、自分から言った。

あとは、自分が振られたっていう事実を認めたくなかったから。

はるかはきっとそんなこと気にしないだろうし、別にいいだろう。

はるかはその後何も言わない私に少し困り顔をして

「今までありがとう。楽しかったよ。……じゃあね」

とまとめて言って、もう一度弱々しく笑って、傘をさして帰っていった。


今更、傘を刺したところで何になるというの。


ねえ、

いつかその傘に入る子が、

私以外に、

現れるのね?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ