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花一匁  作者: 芦田香織
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雨の日にて

でも、最近はるかがよそよそしい。

休み時間はぼんやりと窓の外を眺めてるし、寝不足かと思えば昼以降の授業も起きている。

放課後に残ってノートを写すこともなくなったどころか、最近はさっさと帰ってしまう。


雰囲気が、冷たいとでも言えばいいのだろうか。


「最近どうしたの?夏目と全然一緒にいないじゃん」

喧嘩でもしたかー?とクラスメイトの花が私の頬をつついてくる。

「別に……何もしてない、と思う」

自分でも情けない顔をしていると思う。

それでも、不安にならざるを得ない。



ねえ、はるか。

あなたは今、何を考えているの?



厚い雲がかかったかのように心がモヤモヤして、体すら重く感じた。

そんな状態が一週間も続くと、考えることも動くことも何もかもがしんどくて、

今だけは、いい子ちゃんの体裁を守ってきた自分を恨んだ。


ニコニコと笑顔を作ることも疲れた一週間と二日目。

放課後どうせ早く帰ってしまうであろうはるかの方も見ずに図書室へ行こうとしたとき。

「一緒に帰ろう。準備するから少し待ってくれる?」

と、私が席を立つより先にはるかが私に声をかける。

「……っ」

思わず言葉につまってしまう。はるかはそれでも笑みを崩さずに、

「だめかな?」

と揺らぐ私の心に畳み掛ける。

「……わかった」

いいよ、と言わなかったのは、別に望んでのことじゃない、強いられてるだけだ、と強がりたいだけの、私の、精一杯の怒りのアピールだったが、はるかがそんな回りくどいことに気づく訳もなく、鞄に教科書やら筆箱やらを放り込むと行こうか、と言って立ち上がった。


私の心を表してるかのような曇り空。

朝に雨が降るとか言っていた気がする。傘を持ってくるのは忘れてしまったが。

はるかは一緒に帰ろうと言ったくせに何も言わない。

お互い無言のまま、ただ淡々と歩く。

「あのさ、緑」

唐突に発された私の名前に驚きながらはるかのほうを向く。

私の名前を呼んでいながらはるかの目は私の方を向いていなかった。

「なに、はるか」

私も視線を前にうつす。

「言わなくちゃ、いけないことがあって」

はるかは一拍おいてから、そう切り出した。

「……うん」

またはるかが間を置くものだから何か返答しなきゃいけなかったかと思うも思いつかずに曖昧に相槌を打つ。


「……別れよう」


はるかの口から重いものを吐き出すようにこぼれ落ちたその言葉を一瞬素直に飲み込むことができなくて、思わずはるかの方を向いた。

はるかは軽く俯いて、それでもやはり私の方は見なかった。


雨が、降り出した。



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