騒がしい始まり
リビングに入ると、お味噌汁のいい匂いがした。
「おはよう、緑」
「おはよう、お母さん、お父さん」
朝食を食卓に並べている母と新聞を読んでいた父が顔を上げて挨拶してくれる。
それに笑顔で応える。
どこにでもある、平凡な、それでいて平和で幸せな環境。
愛には困らずに生きてきた。
一人娘で一人孫、身内からはくまなく愛されてきた。
それのおかげか、世間知らずや人見知りなんて言葉は程遠く、いつも大人びている人気者の地位を、学校でもどこでも確保してきた。
トントン、とローファーのつま先を叩いて、玄関の扉に手をかける。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい」
いつもと変わらない。あぁ、そう。
いつもの変わらないのだ。
ガラリと3-Aと書かれた教室の扉を開ける。
お喋りしていた女子がハッと私に気づいて顔を上げて、私がおはよう、と声をかけるより前に、おはよう!と元気よく挨拶してくれる。
私はこの瞬間に、なにより、優越感を喜びを感じるのだ。
友達の朝から親と喧嘩したとか、昨日の番組のあの俳優がかっこよかっただとか、そんな他愛もない話をうんうんと相槌を打って聞きながら席へと向かう。
鞄を置いて、ふと窓際の方を見ると、数人で固まってお喋りをしている男子を見つけた。
そのうちの一人が私を見つけて、おはようの代わりに、手を振ってくれる。
私も小さく手を振って、また友達の話を聞く作業に戻る。
あの人は私の愛しい人。
愛しくて愛しくて、たまらない人。