終業式
「えー、明日から高校生活最後の夏休みが始まるがくれぐれも羽目を外すことのないよう、三年生らしくしっかり勉強に励んで――」
あれから、特に小金井とは何事もなく、私たちは二学期の最後の日を迎えた。
昨日ほとんど荷物を持って帰ったおかげで軽いカバンに、もらった書類だけ突っ込んで、肩にひっさげる。
「緑ー!!ばいばーい!」
「緑!夏休みまた遊ぼうね!」
「また連絡する!カラオケいこー!!」
「勉強しなさいよ、先生にも言われてたでしょ、じゃあねー」
満面の笑みで夏休みの計画を立てている友人たちに笑いながら手を振って、私は教室を出る。
小金井のところのほうが終わるのが遅いらしく、校門にいないどころか、連絡も来ていなかった。
仕方ないから校門のところにもたれていると教室の窓から目ざとく私を見つけた花が手を振っているのが見えた。
よく見えるなぁ、と感心して手を振り返す。
少し目線を下げると、はるかと、はるかの腕に絡みついている有梨沙さんの姿が目に入った。
別に何も悪いことはしていないのになんだか見てはいけなかったような気がして、私はフッと二人から目線を外した。
「ばいばぁーい」
そうして下を向いていたのに、有梨沙さんは悪戯な笑みを浮かべて私に手を振ってきた。私が予想できない出来事に唖然としていると、
「感じわるぅー」
と、猫なで声で言ってきゃははと笑った。
はるかは、こら、と小さくきまり悪そうな声で有梨沙さんを叱った。
声を小さくしたのは私に対してのせめてもの気配りだろう。今更そんなものをされても、と思ったりもするが。
ごめんなさぁーいと、悪いとも思ってない声で言う。
二人が通り過ぎた後も有梨沙さんの笑い声が耳についてなかなか離れてはくれなかった。
下を向いたまま、小金井を待つ。
それから三十分くらいしたころだろうか、
「ごめん」
と上から声が降ってきた。
はっとして顔を上げると、そこにはきっと急いできたであろう小金井の姿。
この気温とも相まって、暑そうに、首元に汗が流れていた。
「……遅いわよ」
「だからごめんって言ってんだろ」
「熱中症になったらどうしてくれんのよ」
「ごめんっつってんだろしつけえな」
さっきのこととこの暑さでイライラしてしまって思わず小金井に当たってしまう。
ごめん、と言おうとするよりも先に小金井はくるんと私に背を向けて歩き出してしまった。
「……ごめん」
小金井の背中に言葉を投げる。
返事はない。
「ねえ」
「ねえ聞いてんの?」
小金井は聞いてる様子もなくスタスタと私の先を歩く。
「ねえ!!謝ってんじゃんか!」
次返事しなかったらぶん殴ってやろうとカバンを持っていた右手を振り上げると、小金井がいきなりこちらを向いて、
「お前、暇だろ、俺んち来い」
とだけ簡潔に告げた。
いつもこの男は突拍子なことを言いだす。
思わず動きが止まる。
「……おい、その手は何だよ」
その質問には答えなかった。