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花一匁  作者: 芦田香織
13/19

行動の意味

はるかと有梨沙さんが図書室から去ってしばらくすると、校門を閉めるというアナウンスが流れた。

慌てて目の前にあった参考書とノートや筆記用具なんかをカバンにしまって校内から飛び出す。

つい二時間ほど前まで空の上にあった太陽はすっかり傾いて、夕日が差し込んで少し眩しかった。

結局私はそのまま帰る気にはならず、てこてこと途中左に曲がらなければならない角を左に進んで、小金井がバイトをしているというコンビニエンスストアに立ち寄った。

小金井はちょうどレジ打ちをしていて、私がチョコを一つ持ってレジに向かうと、驚いたような顔をしていた。

会計を済ませて出ようかと思うと、小金井に引き留められ、もうすぐ休憩に入るから、と言って近くの公園で待ち合わせをすることになった。

十五分ほどすると、店の制服を着たまま、小金井が現れた。


「なに、なんか用かよ」


「……別に。私がコンビニに寄ったのが何か悪いの」


つい、喧嘩腰になる。

小金井はそういう物言いに慣れているのか別に気にした様子もなく、アイスを一つこっちに放って、やる、とだけ言った。

公園でブランコに座って二人で特に何も話さずにアイスを黙々と食べる。


「図書室でのことなんか気にしてんだろ」


小金井は相変わらずこちらを見もせず言った。

私が何も言わずにいると、小金井は何か言いたげにしたものの結局口を閉ざしてアイスの最後の一口を口に入れた。



今更私が何を気にしたところで、小金井にもはるかにも、ましてや有梨沙さんにも関係ないことはわかっている。

それでも、やるせない気持ちが胸に広がった結果のこの行動なのだ。

気づかぬうちに、彼氏『役』の小金井に縋っている部分があるのかもしれない、と自覚すると、なぜか少し恥ずかしくなった。



「……俺のやりたいことは復讐だけの、お前のやりたいことは別に知らねー。好きにしやがれ」


小金井はぽそりとそう言うと、私の目の前にある柵の上に腰かけ直した。

私も、アイスの最後の一口を口に入れた。


うつむいたまま、何も言わずにいると、小金井はそわそわと時間を気にしだした。休憩時間の終わりが迫っているのだろう。そろそろ帰ろうか、と思ったとき、小金井は、私の前に立って、私の了承も得ぬまま、唇を重ねた。

私だってはるかと何回もキスしたことがあるし、小金井だって有梨沙さんと何回もしたことがあるだろうにも関わらず、ぎこちない、子供のキスだった。


「……気ぃ付けて」


キスしたことに関しては何も触れず、小走りで店のほうに戻っていった。

私はただ一人、わずかな街頭の明かりが暗闇を照らす公園に取り残された。


あの行動の意味は、よくわからなかった。

偽物の彼女の私に、嫉妬心なども抱くわけがないのに。

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