いち
この世界のどこかに願いを叶えてくれる子供がいる、という噂が広がった。
薄い金色の髪は顎のラインでふわりと切りそろえられ、ややピンクがかった黄色の瞳と雪のように真っ白な肌をもつ性別不明の子供らしい。
不確かな情報だと言われているけど知る人ぞ知る話。
ある晴れた午後1人の少年が路地裏を走っていた。
少年は両手に何かを握りしめたままただひたすら走っている。足取りはしっかりしているので目的地はあるんだろう。
何かに追われてるのか時々振り返り怯えたような表情を見せる。
だが、上から見ていた自分にはわかる。
少年の手には希少な薬が。
そしてそれを目当てに追いかける店主が…。
母親の病気を治したい一心で薬屋から盗んだものを必死で握りしめ、追いかけてくる用心棒から逃げる。
「あーあー、捕まっちゃうよー」
まあ、高みの見物だし追い詰められて殴られて蹴られて薬を奪い返されてようが見てるだけ。
あー、でもそろそろやめないと少年が死んでしまうかもね。
ひらりと建物から飛び降りて少年のすぐそばに降り立つ。
びくりと体を震わせる少年。驚きに目を見開く用心棒。
「…それくらいにしないと、少年が死ぬよ?おじさんの役目は取り返す事でしょ?」
「いや、このガキに思い知らさねーといけねぇ!」
「薬はあるんだしいいじゃん。おじさんは…帰る時間だよ…」
そう言ってニヤリと笑うとおじさんはぼんやりとしたまま薬屋のある方へ歩いて行った。
怪我がひどく、またやせ細っていたため動くこともできないのか蹲る少年に声をかける。
「少年の願いは何?今なら凛が特別に怪我も治してあげる」
「…お…ね……はっ…ぐ…」
「あ、喉やられてたのか。もー仕方ないなあ」
手をかざして怪我を癒した。凛にとってこんなの朝飯前。息するのと同じくらいにできる。
自分の体があっという間に治ったからか目を見開きキョロキョロと体を見回す。
「改めまして…ごほんっ!自分の名前は凛である。少年の願いを一つ叶えてやる!」
胸を張って腰に手を当てる。
少年はまた驚いたように目を見開いた。
「…お前みたいなちんちくりんが何言ってんだ?その小ささで魔法使いなのは驚いたけどよ。まあんな事より助かったわありがとよ!この辺危ねぇし変な奴が来る前に母親んとこ帰れよ」
「んな…っ!信じてないでしょ」
「ごっこ遊びに付き合ってるほど暇じゃねーんだ。助けてくれたことには礼を言うしほんとにありがとよ!じゃあな!」
そう言って颯爽と少年はかけだした。
なので凛は苛だち半分、優しさ半分で尾行することにしたのだ。
ここまで読んでくれたあなたが神です
好きなものを詰め込んで詰め込んで行きたいと思います