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暗殺教団  作者: 8月流
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楽園の園


教会の奥深く、其処には地下特有の湿度や常闇は存在せず、変わりに地下一面に広がる庭園が存在した。


地下だというのに真昼の様に明るく、地面には花が咲き、川が流れている。


それこそ、地上の一部分を切り取り、この地下内に貼り付けたような擬似的空間、そう思わせる程、この地下は楽園と呼べる程の美しさを醸し出していた。


その"楽園"には、多数の暗殺者が潜む、と言うよりも、その楽園でまるで邪気の無い子供の様に楽しんでいる、と云った方が、今のこの状況には一番当て嵌まる。


日向ぼっこをする暗殺者、バイオリンを弾く暗殺者、花畑で花の冠を作る暗殺者、中には他の暗殺者と手を取り合って遊ぶ暗殺者も居る。


この光景を見れば、少なくとも殺戮集団と呼ばれた"暗殺教団"の暗殺者達とは夢にも想う事は無い。


それでも、夫々この楽園内にいる暗殺者は、皆全てただの一度も下された"任務(殺し)"を失敗した事の無い、生粋であり、一流である暗殺者達だ。


「―――下らない」


その光景を、クリークは切り裂く様な睨みで、その堕落している暗殺者達を見下す。


本来、暗殺者とは孤独であり、誰かに仕えるものだ。


仕える依頼人の言葉の真偽は関係なく、命令するのであれば子供でも女でも殺す、非道な人間ではならない。


それが暗殺者の心理であり、そう云う風に教育、または調教されている筈だ。


暗殺者同士が戯れるのは勿論、感情を外に出すとは最早論外だ、こんな奴等が、一流の暗殺者と謳われた殺戮集団の成れの果てか。


嘆かわしい、故にクリークは、楽園内に住む事を好まない。


堕落など、暗殺者にとっては最悪の落度、愉悦、快楽、そんな物は暗殺者としての腕を錆びさせるだけだ。


それ程までに楽園とこの暗殺者達を忌み嫌うのに、こうも楽園に来たのは、この"楽園内"に潜む禍津の神のお告げが、週に一度訪れるからである。


暗殺者達はクリークを見ると、陰湿に嫌悪を向かせられる。


当たり前だ、楽園を嫌うクリークだが、逆に楽園を嫌うクリークを、良く思う人間など砂粒の一角よりも少ない。


暗殺者として"暗殺教団"の一員として介入された筈なのに、その言動、行いはまさしく変わり者として、他の暗殺者はクリークを嫌うのだ。


それこそ、ごく一部分としてクリークを愛しく思うものも居る。


その"愛"は人としてか、それとも道具としてか分からないが、少なくとも、"彼女"はクリークの、一方的な味方と云えるだろう。


「おぉブラム殿、楽園に来ていらしたのですか!?」


片目の無い暗殺者はブラムを見るや否や、矢の如く風を切り、クリークを突き飛ばしてブラムの傍による。


クリークは一、二歩よろめくだけで地面に座るこそしない物の、片目の無い暗殺者に行われた行為に怒りを覚える。


「うんうん~、皆、たっだいま~」


ブラム自身、暗殺者とは思えないほどの軽口で、黒のローブを脱ぎだす。


この楽園には殆どの暗殺者は半裸か下着姿だ、任務とは離れ、自分自身を曝け出す事で、この楽園を楽しむ為の自由を与えられる。


そのような規則は無いが、暗黙としてその規則は成り立っていた。


ブラムは胸元に巻いた黒の布と腰元に巻きつけた仮スカートだけで、ゆっくりと伸びを行う。


豊満な胸は上下に揺れ動き、腰に巻いたスカートの隙間から太腿が露出する。


クリークは、この女こそが、最大の堕落者と思いつつ、彼女の腕前は暗殺者以上の物だと痛感する。


事実、彼女、ブラムは気緩みはあるものの、油断も慢心もしては居なかった。


彼女は分かっていたのだ、常日頃から発するクリークの殺気と動作。


いつ寝首を掛かれるか分からない状況で、ブラムは敢えて隙を見せる。


故にクリークは、手を出すことは愚か、その指一本触れる事さえ出来なくなっていた。


「んん~~~、ここはいいね、気持ちがいい」


それに加えて、"教団内"での殺し合いはご法度、これを犯せば、必ず全ての暗殺者がクリークを狙うであろう。


故に、ここは堕落した暗殺者共を歯を食いしばり、怒りを溜め込むことしか出来なかった。


「ブラム殿が此処に居る、と云う事は……成る程、先代を襲名出来た、と云う事ですな?」


またも訪れた問いに、クリークは実が崩れそうになる感覚に陥る。


先代を殺したのは彼女ではなく、自分自身だと知れた時、この暗殺者共はどの様な顔をするのだろうか?


憤怒か?恐慌か?嫉妬か?それとも全てか、いずれにせよ、彼らはクリークが長になる等、認める事は無いだろう。


しかし、襲名したのはクリーク自身であり、"禍津の神"のお告げは絶対である。


この暗殺者達は、何をどうしようとも、もうクリークを長である事を認めることしか出来ない。


チェスで言うのであればチェックメイト、詰みの状態と、彼らからして見ればその様になるであろう。


元々感情を露にしないクリークであったが、この時ばかりは愉悦を感じざるを得なかった。


歪む笑いを押さえ、内なる流行りを抑え、敢えて真顔でその場に佇む。


「んふふ~~、そろそろ、"禍津"様の"お告げ"が来るからさ、皆シャキっとした方がいいよ~」


ブラムの宣言から約二秒後、阿とも吽とも云うよりも早く、"楽園"の形は崩れ、一度舞台は暗転へ戻る。












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