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暗殺教団  作者: 8月流
1/3

クリーク

闇の中、逃げ回る一人の男は云う。


「殺すな、頼む、殺すな」


その男を追うように、二つの影が、森林の木の枝を踏み台代わりにして飛び回る。


ひとつは黒いオーブに身を包み、妖艶な肉体美を浮かばせている、女性。


顔を見なくても、その体を見れば、自然とその影が女である事が分る。


方や一方は、見てる方が暑苦しいと感じてしまうほどの厚着と防具を着込み、顔をパーカーで隠している。


のに大して、動きやすい様に肉体の間接部位は薄着になっている。


その体つきを見れば、少なくとも女でない事は確かだ。


「クスクス、ねぇクリーク、一人で殺れる?」


女は道化の面の裏から笑みを浮かべて、クリークと呼ばれた青年に問いを掛ける。


木々から木々へと飛び越えているのに大して、息切れや汗一つ掻く事無く青年は女性に答えた。


「問題無い」


と、青年は答えれば、右手の篭手を外して、長袖を捲る。


右手には呪詛のように書かれた包帯が巻いてあり、それを乱暴に解いて、その内から干乾びたミイラのような腕が垣間見える。


「"奪禍掌握(カタストロフィア)"」


右手を構えて、逃げる男に向けると、その大きく開いた手のひらを、何かを握り潰すかのように勢い良く握り締める。


途端に男の足は走るのを止めて、と云うか転ぶようにして頭から地面にぶつける。


男の片足は、太ももより先は千切れていて、何故かクリークの右手には、男の片足が握られていた。


「あ、足、俺の脚がッ」


「"奪禍掌握(カタストロフィア)"」


片足を投げ捨てて、再度手のひらを握り締めると、男の声は途切れ、うめき声は愚か、声を出す事自体を止めてしまう。


握り締めた右手に持つ塊を、クリークは見つめて捨てた、その男は、クリークが投げ捨てた物が、自分の声帯だとは思いもしないだろう。


「クリーク、駄目よ、殺しを楽しんじゃ、狩りじゃないんだから、今から殺す相手を甚振ってたら、死んだ時に地獄行きになるわよ?」


人を殺すことに天国行きがある物か、とクリークは心でそう呟いた。


女は木の枝に座り、足を伸ばして背筋を反った、その際に豊満な胸が揺れて、小さく吐息を漏らした。


無論、クリークに狩りと云う表現は出来ない。


一重に感情を表に出すことは赦されず、全ては殺戮の為に作られた肉体には、遊びと言う概念が無いのだ。


彼の右腕に宿る"奪禍掌握(カタストロフィア)"は、其処から何かを奪う呪詛の類の能力だ。


クリーク率いる"暗殺教団"にて信仰すべき神からの恩赦である、その禍々しい魔術の類でもある力は、対象が遠くに居れば居るほど、狙った部位を奪うことが困難になる。


さらに、対象が人物である場合、自身の能力の成功率が対象の幸運率よりも低い場合、無効、もしくは対象外の部位を奪うことになる。


その、呪詛だが魔術だが得体の知れない能力を得るのに、彼は右腕を犠牲にし、自分の固名、存在までも、"暗殺者"としての人生に身を捧げたのだ。


木に座り、ニコニコと笑う女性も、彼と同じ境遇。


故に、女性はクリークの行いを狩りと云っても本心まではそう思う事は無い、十数年間も共に過ごしてきた、表面上は仲間であるのだから。


「…………」


「ッ、ッ!!、ッッッっ!!!」


男は何かを訴えようとして、爪が剥がれるまで指で地面を削る。


血が滲み出た爪と肉の間に、十本の溝は川のように流れる。


その痛々しい男の姿を見て、クリークは慈悲は無い、と呟いた。


「"奪禍掌握(カタストロフィア)"」


狙いを定めて、手を握る、呆気無いほどまでに、男の動きはピタリと止んだ。


クリークの手には心臓、勿論先程まで動いていた、あの男の物だ。


今尚心音と鼓動が聞こえるこの心臓を、クリークは顔色一つ変えずに握り潰した。


今度は能力を使わず、己の腕力のみで潰し、手を振って血を払う。


「お、め、で、とー、クリーク、これで"先代"は無事役目を終えて、貴方が"ディザストロ"の名を襲名出来たのよ」


大して喜びも無く乾いた拍手が空に響き渡る。


最早血袋と化した、その"暗殺教団"の先代である"ロワナ=ディザストロ"を見て、感情も無くその死体に後ろを向いて去る。


女性は慌てた様な素振りを見せて、その死体に向けて指を振るう。



―――"亜炎指敵(カタストロフィア)"



その瞬間炎に包まれる先代は、その数秒も待たずに灰になり、風と共に消えて去る。


ばいばい、と女性は手を振ると、暗殺教団十二代目クリーク"ディザストロ"の後を追って行った。


"暗殺教団"それは、禍津の神を信仰する愚者達が、その神の為に禍津を起こす災厄を司る者達の事であった。





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