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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

正義の見方

作者: 椅子寝

改善点ばかりですが…とりあえず読んでもらえると嬉しいですね。

「こちら第7小隊!突破されました!」

「馬鹿野郎!…第3小隊はどうした!」

「通信途絶!壊滅した模様!」

「なんっ…だと!他小隊は!」

「第2、4小隊が半壊!第1小隊が交戦中!」

「第6、5小隊は!」

「最終防衛ラインに到着、配置完了とのこと!」

「第1小隊を最終防衛ラインまで後退させろ!突破されて生き残った野郎共も最終防衛ラインに急がせろ!ヤツを挟み撃ちにしろ!…必ず阻止するのだ!」

「ダメです!第1小隊が壊滅!このまま行くと生き残った戦力が最終防衛ラインに急いでも…間に合いません!」

「クッ…だったら全ての訓練小隊を出撃させろ!」

「しかしそれでは…!」

「構うものか!ここが陥落すれば全てが終わるのだぞ!」


 人が行き交う司令部に響くは男達の声。少なくともその声は喜びの声ではなかった。


「了解!訓練小隊の出撃の許可!至急、最終防衛ラインに向かわれたし!繰り返す!至急…」


 喧騒とした空間を僕は突き進み、苛立ちを隠せずにいる司令官様の目の前で止まった。


「第9小隊隊長より司令官様へ!地下シェルターへ避難された方が安全かと」


 僕がここで働くも14年目、死亡率の極めて高い職業にいながら…長生きしたためか、そこそこに出世していた。自分で思っている以上に頭が良かったことも功を奏したらしい。


「最悪、司令官様だけでも生きてください。あの情報を持っているのは司令官様だけなのですから」

「な…しかしそれでは貴様らが…!」

「我々はどうせロクでもない連中です。あなたの役に立てるとしたら…時間稼ぎと身代わりくらいですので」


 僕は司令官様を強引に地下シェルターの方へ繋がるエレベーターに連れて行く。司令官様の顔は若干青ざめ始めていた。


「地下にはバイクが4台あります。護衛を3人つけますので…頃合いを見て逃走してください」


 エレベーターまで行くとドアを開けるボタンを押し、中に司令官様を押し込んだ。


「僕が司令官様の影武者となります。死ぬ時は…手榴弾でも爆破させましょう」

「貴様…本当にいいのか?」


 エレベーターのドアが閉まり始めた。


「我らの正義…ここで見せましょうぞ」


 僕は閉まりいくドアの向こうにいる司令官様へ敬礼する。ドアが閉まるとエレベーターは地下シェルターに向かったようだ。そこには僕の小隊から優秀な者を選出してあるし、指示も出してある。あいつらはそれを泣きながら聞いてくれた。


「第9隊長!指示を!」


 僕は司令官様の制服に着替え、司令部に戻ると…中にいるメンツの緊張がヒシヒシと伝わってくる。


「これより僕が…俺が司令官だ!最終防衛ラインを下げろ!ここに籠城する構えを取れ!俺らの目的はあの方を逃がす!死にたくない者は速やかにここを立ち去るといい!」


 とりあえず…ここに残れば、死ぬことはほぼ確定する。僕が着ている司令官様の制服だって…多分2度と着ることはないだろう。


「私はここで最後まで戦います!」


 僕が叫び終わるとすぐにオペレーターをしていた女が決意を口に出した。肝の据わったいい女だ。嫁に欲しいもんだ。


「俺もやらせてください!」

「ぼ、僕も最後まで隊長についていきます!」


 女の言葉の後、司令部にいた全員が雄叫びに近いような決意を言いやがる。まったく…皆揃っていい奴らだ。


「待機中の第8小隊に最終防衛ラインの後退の援護に向かわせろ!訓練小隊は第8小隊に編成する!」


 あ~あ、どうして皆揃っていい奴なのに…こんな死線を潜るような真似をしなきゃならないんだろうな。


 僕らは本当にロクでもない連中だ。


 ある人は、仕事をかなり上手に熟せる社員だったのにも関わらず、それが気に食わなかった上司にイジメられ、挙げ句の果てには自分のミスを部下であったその人に責任転嫁。その人は会社を解雇させられた。訴えても会社は聞く耳を持たなかったと言う。


 ある人は、普通に生活をしていただけなのに警察から冤罪で捕まり、証明することもできずに懲役を課せられ…出所した頃には嫁も子供も消えていたらしい。そして数年後に真犯人が捕まったということで、冤罪の謝罪と賠償金は入ったが…昔には戻れない。


 ある人は、大学で優れた論文をいくつも出す助教授だった。しかしその人の論文は何もしていない教授に横取りされ、教授の名声を向上させた。それに関して教授に問い詰めようとしたその人は…大学から追い出され、どの大学にも拾ってもらえなかったらしい。教授の根回しというやつだ。



 他にもここにいるのは社会から追い出された馬鹿共だ。誰もが心に傷を持ち、その傷を舐め合うかのようにここへ集まり、気持ちを共有していくに連れ…僕らを悪の組織にしてしまった。


 この国の法で戦っても負ける。だったら非合法な手段で戦うしかない。そうでもしないと僕らの傷は深くなっていくだけだった。


「標的、後退中の最終防衛ラインと接触!」

「そこまで何kmだ!」

「およそ500m!すぐそこです!」

「突破された残存戦力まではどれくらいだ!」

「2km!戦闘には間に合いません!」


 始めのうちは今の社会に対する抗議デモなんかをしていたが…社会は僕らを潰そうとある男を送りつけてきた。そいつが今こちらに向かっているヤツなのだが…そいつは僕らを蚊でも叩き潰すかのように軽々と殺し始めた。ただ死ぬのを待つだけ、それが嫌で僕らは武器を持った。


 すると社会は自分達のことを棚に上げ、武器を持った僕らをテロ組織と呼び、ヤツを正義の味方と称した。社会は僕らの居場所を完全に消し飛ばしやがった。


 それからというもの、僕らとヤツとの戦いは続き…その中でも僕らは社会の弱みを探り続けた。


 そしてついに弱みを見つけたのだ。それは僕らのような悪の組織を生み出す原因とも言えた社会の闇だった。


 しかし…そういうことになると正義の味方であるヤツは僕らを潰し、社会の闇を守ろうと本格的に動き出し、社会の闇の全てを知り得た司令官様を狙い、森の奥にある僕らの本部に攻め込んできたのだ。


「ああ!第6小隊が全滅…」

「司令!こちらの窓から標的を補足!距離200m!」


 奴が近づいてきた。4階にある司令部の窓から…仲間達の叫び声が聞こえてくる。僕はその窓を開け、身を乗り出すようにして声の方を見る。


「建物内にいる全ての戦闘員に告ぐ!総員、第1種戦闘配備!非戦闘員は…」

「戦わせてください!」

「僕らも戦えます!」

「…各々武器を持ち、地下シェルターへの全ての道を死守。俺はここでヤツをおびき寄せる!散れ!」


 生きて帰ろうなんて気休めも言えない。僕らと奴の力の差は歴然なのだ。


 僕の号令と共に司令部にいた戦闘員達やオペレーターをしていた非戦闘員達が飛び出していく。これぞまさに最終決戦といったところだ。


 しかし司令部に残ったのは僕だけだと思っていたが、1番最初に決意を口にしたオペレーターの女も残っていた。


「司令…私は司令と戦います」

「ここにいれば、必ず死ぬぞ?ヤツの狙いは闇について知っている司令官様なのだから。そして俺が…その影武者」

「私は司令直属のオペレーターです。この命、司令を逃がすためなら」


 彼女は手に持っていたアサルトライフルをリロードして笑みを浮かべた。


「わかった。その心意気…高く買った」


 こんな状況でも笑える…そんな女に今更巡り会えるとは、神様はなかなか粋な心を持ってやがる。


「では奴が来るまでオペレーターとして頼む」


 僕はそれだけ言うと再び窓から身を乗り出す。そして交戦中のヤツに向かって…


「ヒーロー気取りか!たった1人で何ができる!」


 精一杯の虚勢を張り、大声で叫んだ。すると…戦いの最中にあるヤツと目が合う。100m離れた4階にいるというのに…禍々しい殺気が飛んできた。ヤツめ、一体どんな聴力をしてやがるんだ。


「残存戦力が予想以上の速さで戻っています!この速さなら…6分で到着するかと!」

「最終防衛ラインの戦況は?」

「第8小隊が援護のおかげでどうにか持ちこたえている模様。尚、第9小隊及び建物内にいた戦闘員は入り口にて配置完了とのこと」

「6分なら耐えれるか…司令官様の避難経路は?」

「裏口からですので敵影はなし。別動隊は合流地点に待機しています」


 僕らが全員死んでも、組織の10分の1程度の被害しかない。他にも仲間達がいる。司令官様さえ逃がすことに成功すれば…あとは他の仲間達が僕らの思いを引き継いでくれる。


 そう思いつつ、窓の外を凝視していると…戦場で大爆発が発生した。戦場は黒煙に包まれる。


「し、司令…交戦中だった第5、6、8小隊との通信が途絶…全滅です」

「ここにきて本気を出した、ということか!」

「標的の動き、速いです!」

「全員に発砲許可!建物に近づけさせるな!」

「発砲許可!…それと司令が裏口より出ました!」


 けたたましく鳴り響く銃声。しかしこちらに向かって走ってくるヤツの動きは止められない。


「標的より高熱源反応確認!…これは…エネルギー砲です!」

「エネルギー砲だと…!そんな情報入っていなかったぞ!」

「標的の新兵器のようです!…来ます!」

「総員、建物より離脱!」

「ダメです!間に合いませーーー!」


 僕は窓から飛び退くとオペレーターの女の頭を抱きかかえ、床に伏せた。


 ドゴォーーーーーーーーォン!


 床が大きく揺れ、傾く。頭には小さなコンクリート片が直撃する。窓ガラスは一斉に割れ、甲高い音を奏でる。


 まるで…巨大地震が起きたようだった。


 揺れが収まる頃合いを見て起き上がる。建物内は火災探知機だかなんだかが鳴り響いていた。床は大きく傾いており、エネルギー砲の威力を物語る。


 オペレーターの女も起き上がると、通信機器に駆け寄るが、こっちに振り向く顔はかなり青ざめていた。察するに…全滅。


「標的…確認…」

「俺らだけかよ…畜生が」


 僕は司令官専用の刀を抜く。彼女も落ちていたアサルトライフルの調子を確認した。


「ヤツの位置は?」

「もう建物内です…」


 司令部はかなり広い。僕と彼女は入り口から見て奥に陣取る。そして彼女は銃身を入り口に向け、照準を合わせた。


「うわぁぁぁぁ!」


 建物内に辛うじて生き残っていたらしい非戦闘員の叫び声と銃声が聞こえたが…すぐに止んだ。声の大きさからして3階にいる。


 カツ…コツ…カツ…コツ…


 近づいてくる足音は鍵をかけてある入り口の前で止まる。そして物凄い勢いで入り口が蹴破られた。


 ダダダダダダダダダダダダダダッ!


 中に飛び込んで来たヤツに彼女は撃つ。非戦闘員にしてはなかなかの射撃能力だ。


 司令部が広い部屋だとはいえ、それでも空間だ。外と違い、動ける範囲は狭い。ヤツはそれを理解してか、入り口の外に退避する。それまで1発として当たらなかったのだ。もはや人間ではない。


「お前が司令か」


 隠れたヤツは僕に問いかけてくる。声は若い男のようだ。ヤツは常に覆面マスクをつけ、全身もスーツに身を覆っている。移動手段はバイクらしく、社会は特撮ヒーローの名前を取り、ライダーと呼んでいた。僕らの推測ではスーツに身体能力を向上させる仕組みが組み込まれていると見ていた。


 その高い身体能力を駆使した戦闘はまさに一騎当千。仲間が何人こいつの前で死んだろうか?


「違うって言ったら逃がしてくれるかい?」

「その口ぶりから本人か」

「本人か…貴様は俺らを人と思っているわけだ。だったら貴様は人殺しだな。どこぞの軍人より人を殺しているんじゃないか?」

「ああ…1年で1000人。今日だけでも572人」

「数えてるとは…人殺しも律儀なもんだ」

「毎回報告書を書かされるんだよ。俺の後ろにいるお偉方からね」

「いいね~国から人殺しを許可されると」

「お前らが武装解除及び普通の生活に戻れば…」

「先に武器を持ったのはそっちだ。それに普通の生活ってなんなんだ?上司に責任転嫁され会社を追い出される。冤罪で家庭がぶっ壊れる。無能な教授に研究を横取りされる。それが普通と言いたいのか?」

「それは…」

「悪いな。貴様は正義の味方とも呼ばれているが、こちらも正義を持ってやっているわけだ。正義の反対は悪じゃない。正義の反対は正義なんだよ」

「…」

「ここまで来たら…もうお互いに正義を貫こうじゃないか。俺らは今の世界が間違っていると叫ぶ。それを貴様が間違っていないと叫べばいい」


 ヤツが司令部に再び入ってくる。彼女が再び照準を合わせ、引き金を引くも…やはり非戦闘員なのかリロードを忘れ、弾切れを起こしていた。さらに予備弾も持っていないときた。


「す…すみません!」

「まぁ、俺らは貧乏部隊だ。予備弾持ってないで当然だ」


 しかしヤツは弾切れを見抜いていたのか…


 ヤツは悠然と仲間達を斬り殺してきた剣を構える。


「さてと…死にますか」


 僕も刀を構えて彼女の前に立つ。


「ライダー、狙いは俺の首だろ?」

「ああ、お前のせいで大勢が死んだ」

「だったら後ろにいる彼女は殺す必要がないはずだが」

「俺に発砲してきた。その段階で敵だ」

「…ライダーは人間に非ず。殺人鬼か…」


 ゆっくりと相手の動きに警戒しつつ距離を詰める。


 正直勝てる気がしない。ただ…何もせずに死ぬのは嫌だ。


「はぁぁぁぁ!」


 とにかく斬り込んだ。相手のペースに持っていかれれば敗北は確定するから。


 キン!カン!キン!


 金属が幾度となくぶつかり合う。


 僕は一旦距離をおき、制服の懐から拳銃を取り出して素早く撃つ。ヤツは少し驚いたようだが…難なく躱してきた。早撃ちには自信があったのに…


「持ってたのかよ」

「一応…司令だもんでね」


 まだどうにかこうにか虚勢を張っていられた。しかし僕の出せるものは全部出し切ってしまった。


「俺も本気を出さないとな」


 ヤツはそう言った途端…消えた。


 なんか…ヤバい!


「なっ…!」


 反射的に後ろに退いたのが幸いし、首の皮一枚を斬られただけで済んだ。恐ろしい速さの斬撃だった。


「これを避けただと…さすがだな」

「…ハハハッ…参ったな」

「次はないぞ」


 確かにその通りだ。次はもう直撃だな。


 僕は拳銃をヤツに向けた。


「最後に言っておく。俺は影武者だぞ」

「知ってるさ。お前らの司令は武闘派じゃないからな」

「それでも斬るか?」

「今更命乞いか?みっともないな」

「ば~か、喜んで死ぬ奴なんていないんだよ。俺だって…僕だってもっと生きたいさ…たとえ悪の組織と言われようとも」

「しかしお前は俺に銃口を向けた。意味はわかるな?」

「もちろんだ。だから…」


 僕は拳銃を下ろし…手放す。持っていた刀も手放した。


「司令…小隊長さん!」


 彼女の焦りにも似た声が聞こえる。しかし僕は両手を広げ、構えも取らずヤツと対峙する。


「首だけはなしだぞ。しっかり心臓を狙え。首とはおさらばしたくないんだな」

「俺が言うことを聞くと思うか?」

「司令官様を逃がすことに成功した。その段階で僕らの勝利。貴様の負け。だから罰ゲームってことでどうだい?」

「チッ」

「ライダーなら…社会に、民意に忠実になるべきだと思うがね」


 ヤツは僕の最後の言葉に反応することなく剣を構えた。切っ先は僕の心臓に向けられていた。


「ふんっ!」


 そしてライダーの突きは僕の胸に突き刺さる。剣は僕の背中から突き出た。


「なろがっ!」


 次の瞬間、僕は激痛に耐え、ヤツの両肩を掴む。


「頼んだぞ!」


 僕はそのまま身体を反転させると…ヤツは剣を引き抜いた。


「何がしたかっ…!」


 全身の力が抜け、膝から崩れ落ちる僕。その目の前にいたヤツの腹から突如、剣が突き出てきた。


「お前らっ!」


 その剣はすぐに彼女によって抜かれたが、ヤツは僕より身体が強く、傷口を押さえると…握られた拳で彼女をぶん殴った。そして…フラつく足取りで司令部を出て行った。それでも相当な深手だ。


「小隊長さん…生きてますか?」


 僕がうつ伏せに倒れた時には、司令部は静かになっていた。その中で彼女はヨロヨロと起き上がり、僕の背中にできた傷口を押さえてくれる。


「ああ…おかげさまでな」


 辛うじてそう言えたが、僕は首をあげることもできず、ただただ床にキスをしているだけだった。


「どうやって…」

「心臓を狙えって言ったろ…狙われるの分かってりゃ…心臓や肺への…直撃を避けることくらいできる…ただ…痛いんだな…」


 ライダーはいい野郎だった。素直に心臓を狙ってきてくれたのだ。一方の僕は…降参したフリをした嘘つき野郎だ。


 何もせずに死ぬのは嫌だ。もっと言えば…生きたい。


 だから芝居をしてみたが…ヤツを殺せなかったか。


「なぁ…僕は…ゴフゴフ…生きれるか?」

「…ライダーの持っていた剣がもう少し太ければ、死んでいたかもしれません。ただ…狙った通りか奇跡か、出血量は少ないです」


 結果はどうあれ、ほぼ確実に死ぬとされた中で生き残れたらしい。僕は程なくして気絶したが、数分後には予想されていた通りに残存戦力が戻ってきて、僕はすぐさま医療機関に運ばれた。


 そして1ヶ月の入院生活を経て退院。組織の中枢に呼ばれた僕は功績を認められて、昇格するように勧められたが辞退した。その代わりに、この戦いで死んでいった572人の昇格をお願いした。墓に入る時くらい…立派な役職につけてやりたかった。僕のできる精一杯の恩返しだった。


 ~~~~

「本当に良かったんですか?」


 僕は572人の昇格を祝いに全員の眠る墓地に訪れ、572人分の花束を置いて回った。オペレーターの彼女も手伝ってくれた。


「僕はいいんだ。君こそ出世のチャンスがあっただろう?ライダーを負傷させたんだから」


 彼女も僕と同様に中枢に呼び出されたらしいのだが、昇格を断ったらしい。理由は知る由もないが。


「私は…ほら?小隊長さんの努力のおかげですし」

「その前にここにいる572人のおかげだろ?」


 それぞれの墓石に花束と線香を。社会に背いた彼らの墓など家族も訪れることはない。だから月に1度、僕は生きていればここに来ようと思う。


「そうですね。この人達の分も生きなくちゃ」

「そう思いたいけど…早速病み上がりのライダーとの一戦が控えていてね」


 僕の怪我の治りより遅かったがライダーも一命を取り留めていた。僕はライダーが復帰するまでの間に落ちた筋肉を鍛え直し、自分の戦い方を研究した。今では組織でもかなりの武闘派になっている。


「生きてくださいよ。そうじゃないと許しません」

「死んだら君の怒りも聞こえないけど…」

「毎日でも墓石に藁人形を釘で打ってあげます」

「おぉ~怖い。君は鬼嫁だな」

「生きて帰ってこないと旦那様って呼びませんから」


 ライダーは依然として正義の味方。僕らは依然として悪の組織。司令官様が手に入れた闇の情報を元に僕らはようやく本格的な社会への反抗を始めた。しかし僕らの反抗のせいで不幸になる人間が少しずつ出てきた。それでも今更辞めるわけにはいかない。僕らの持つ正義のためにも。


 この世において正義の味方は社会の味方だ。だが、正義の反対も…社会の敵である正義だ。


 だから戦う。敵にとっては正義の味方が敵なのだ。敵同士が分かり合うことはできない。だったら…敵対と言う名の均衡を保ち続けることを続ける必要がある。


 社会の敵でもいいことはある。社会の味方だけが正義ではない。


「そうだな…呼んでくれてもいいと思うんだけどな~」

「絶対に呼びませんよ。旦那様」

「呼んだぞ?」

「あっ…!」


 少なくとも僕は…社会の敵でもいいと思う。

悪の組織の見方も改善されるといいと思う。

何が悪いのか、それを決めるのは死んだあとの世界の人間だ。僕はそう思う。

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