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緩慢死か、即死か

作者: 藤華

 このところ、体調が悪い。

 風邪薬を飲んでみても、栄養剤を飲んでみても、一向に改善しない。

 仕方がないので、病院に行ってみた。


 内科から始まって、一通りの科をたらいまわしにされ、色々調べられ、総合的な判断をするという総合診療科の診察室に最後に回された。

 データを見た医師が、最後にこちらをちらりとみると、病院内で医師がやり取りをするのに使うスマホでどこかに連絡をし始めた。

 途端に、ひどくなる頭痛に顔をしかめる。

 その様子を確認した医師が、すぐにスマホの電源を切る。そしてこちらに向き直り、こう言った。

 「これはー、電波過敏症ですねえ。」

 「は?」

 「いや、最近は、いろんなものが電波でやり取りしているでしょ?その電波の影響を受けやすい人がたまにいるんですよねー。その影響で体調をくずしちゃって、最悪、体力低下して死んじゃう人もいるんですよ。」

 「対処方法は・・・」

 「電波の影響の無い場所に住んで、電波を発生するような機器を身近に置かない、というのが一番ですねえ」

 「・・・それは、無理です・・・。」

 「まあ、普通の方はそうでしょうねえ。」

 「う・・・」

 「それでですね、まだ研究段階で医療保険が使えないのですが、こんなのあるんですよ」

 と、なにやら医師が壁際にあったスチール戸棚から取り出した。

 小さい指輪ケースのようなものが医師の手にあった。

 「・・・」

 「いや、プロポーズとかじゃないですよ?出会ったばかりですし、第一あなた、結婚指輪してるじゃないですか。いや、僕も結婚してますし。」

 思わず椅子ごと引いてしまった私の顔をみて、医師があわてて言う。

 「付けている人の周囲の電波を攪乱して、身体に影響のある電波を減らす、という機能のある機器なんですよ。お察しの通り、指輪型なんですがね。」

 ぱかっと開かれたケースの中に、シンプルな銀色の指輪が入っていた。時々、指輪の縁が中にある電子機器の光なのか、かすかに光るのが見える。

 「試しに、使用してみますか?こちらもデータ取りたいっていうのもあるので、お試しで無料で一週間ほどでも。」

 うさんくさいセールスのような医師のセリフ。

 「あ、でも、サイズ合うかな?」

 と言いながら、勝手にひとの右手をつかみ、中指に指輪を嵌めてくる。

 「ちょっと緩い感じのようですが、まあ、大丈夫そうですね。」

 微妙な気分になりつつ、指輪型機器を嵌めたせいなのか、そうでないのか体調不良が治まった気がするので、そのまま病院を後にした。



 翌日の休日に、昼ごはんを作ろうと、台所に立つ。

 右手には例の指輪を嵌めたまま、玉ねぎの皮を剥きつつ、コンロにフライパンを載せ、火をつけようかとしたところ、かすかに何かの音が聞こえ始めた。

 「?」

 台所の窓から、見えている空に何か光るものが徐々に近づいてくるのが見えた。

 その物体が近づくにつれ、大気が揺れ、それに伴って住んでいるマンションのビルも、窓から見える近所の家々もビリビリと揺れ始めた。

 ゴゴゴゴゴ・・・・と、地鳴りのような音も聞こえ始め、更にその音よりも大きな町中に響き渡るような電子的な女性の声も聞こえ始めた。

 「・・・ます。未確認の・・・破壊します。未確認の電波妨害・・・・破壊します。未確認の電波妨害機器を・・・破壊します。未確認の電波妨害機器を確認しました。・・・・破壊します。未確認の電波妨害機器を確認しました。当ミサイルによって、周囲数キロ含め、破壊します。未確認の電波妨害機器を確認しました!当ミサイルによって、周囲数キロ含め、破壊します!未確認の電波妨害機器を確認しました!!当ミサイルによって、周囲数キロ含め、破壊します!!」

 

 !!

 えっ?

 ちょ、まて、おい!

 何事!?

 ていうか、ミサイルって、飛行速度速いんじゃないの?映画の隕石みたいにやけにゆっくりこっち向かってきてるんだけど!それとも、すっごくでかくて、まだまだ遠いだけなの?!

 いや、待て、自分。重要なのはそこじゃない。電波妨害機器って、これか?右手のこれか?ミサイルで周囲含めて破壊されるほどのものなのか?あの医者、研究段階って言ってたけど、まさか、違法なのか?大学病院だったよねえ??

 それより、これつけてたら、ミサイルの標的なのか?

 え、何それやばい。窓から投げ捨てるか?

 でも、ご近所さんの庭とかに落ちたら、そこが中心地になっちゃうよね?それは酷いよね?周囲数キロだと、あんまり意味ないかもだけど!!今から外に出て逃げても、人気のないとこまで行くまでに追いつかれるよね?

 うわああああああ、どうしよう?

 と、とりあえず手から外して、抜き身じゃなくしたら、どうかな?

 あわあわパニックになりつつ、右手から指輪型機器をはずして、履いていたジーパンのポケットに突っこんでみた。

 ゴゴゴ・・・となっていた音が、いきなり静かになった。

 「電波妨害機器の存在を確認できません。電波妨害機器の存在が確認できないので、当ミサイルは通常軌道に復帰します。」

 と、わざわざ報告しながら、不思議なミサイルは去って行った・・・。

 ・・・帰れるミサイルなのね・・・・。


 脱力しながら、床に座り込む。体調不良が戻ってきたが、それよりも心臓がものすごくドキドキしているのがつらい。


 隣の部屋のドアを開ける。

 絨毯の上で寝そべって、ノートパソコンで仕事をしていた夫が振り向き、

 「何か、外がうるさかったねえ・・・」

 とにこにこしながら言った。

 「・・・・ああ、うん・・・・。ごめん、昼ごはん、何かとる。作る気力が失せた。ご飯食べたら、病院行ってくる・・・。」

 「?。分かった。何でも良いよ。」


 ・・・このジーパン、繊維に金属でも含まれているのか?それとも染料が要因か?機器の性能を超える何かなのか?とりあえずこのまま病院に早く行って、機器を返してこよう。ミサイルで周り巻き込んで即死するぐらいなら、体調不良で緩慢に死ぬ方がまだマシだよ・・・・。


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