表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦神の祈り  作者: ミズキ
5/16

狂乱、狂剣、共闘?

 翌日の朝一番、日が昇る少し前に、リョーは起きる。隣にいるジェフも起きたようだ。二人は顔を合わせると、早々に身支度を開始する。二人の間に、言葉はない。とにかく、神殿区に行かなくてはならない。あれだけの殺意を向け、あれだけの言葉を投げつけた自分の事を、クラーラがかばってくれるとは思ってもいない。だから、自分で無罪を主張しなくてはならないと、リョーは気を引き締める。

 身支度がほぼ同時に終わると、二人は神殿区に向けて歩き始める。気が重い。リョーは、そのまま逃げ出して、犯人をとっ捕まえたいくらいだったが、それを神殿側が許すとは思えない。早々に自分を犯人として、扱うだろう。

 途中で、見慣れた金髪の傭兵を見つけた。苦々しい顔をした、レヴィだった。

「リョー、貴様では、ないのだろう?」

「違ェよ」

「ならば、何故!」

「俺は、ジェフの顔を潰したも同然だ」

 リョーは酷く落ち着いた調子で言う。レヴィが面食らう。

「今の傭兵区なんて、そりゃ神殿の仕事で食い繋いでるとはいえ、薄給に過酷だし、この間のランベル奇襲作戦みたいな事もあって、誰も神殿の事を良くなんか思っちゃいねェ。そんな中で、松葉杖ついたアイツを独り帰した俺にも、責任はある」

「……奴らに、頭を下げるのか」

「ああ」

「仲間を……犯人を特定したら仲間を! 貴様は神殿につきつけるのか!!」

「解らねェよ、んなこと。けど、このまま俺が隠れてたってしょうがねェのは確かだ。だったら、気に入らなくても、アイツ等んとこに、いかねェといけねェ」

「……ならば、私も征く」

「あ?」

「私も征くといったのだ! 当然だろう!? 私は、一昨日奴に傷を負わせた張本人だ! そして、貴様が奴を守ってたのを見た! 貴様の無罪を、私が主張する!」

 レヴィは儀礼用の重装をきていた。そもそも、最初っからレヴィのとる行動は決まっていたのだろう。勝手にしろ、とだけ言い、リョーは歩くのを再開する。

 重い空気の中、神殿区との架け橋につく。すると、なんの因果か、あの日、リョーとクラーラが出会った時の二人組だった。三人を見かけた神官は、剣を構える。

「安心しろよ。争いに来た訳じゃねェ。なんなら、剣渡すか?」

 リョーが腰の剣を外して、掲げながら言う。

「本当に悪いっぺ。けど、法王と、謁見させて欲しいっぺ。リョー・アラヤ、レヴィ・シューゲルク・ハイセンとジェフ・ブリードマンの三人だっぺ」

 神官二人は顔を合わせて困惑したようだが、笛を吹いて他の神官を呼ぶ。すると、十人を優に超える神官騎士が三人を取り囲む。二人のうちの一人が、神殿区の奥へと駆け出す。

「……殺気はねェけど、嫌な感じだな」

「仕方ないっぺ。神殿は今まで以上に、傭兵区に敏感になってるっぺ」

 リョーは初めての事に落ち着かない様子だったが、レヴィとジェフは落ち着いている。こんなもんかと、警戒はしながらも、ゆるりと待つ事にした。

 そして、日が一つ分昇る。

「……遅ェな?」

 さすがに長い、と思ったのか、リョーがそうぼやく。すると、ちょうど先程かけていった神官が戻ってくる。さらに十数人の神官を連れている。

「リョー・アラヤ、レヴィ・シューゲルク・ハイセンとジェフ・ブリードマンの三人、これより法王との謁見となる。法王の貴重な時間を割いていただける事に感謝しろ」

 ジェフとレヴィが頭を下げる。リョーもそれに倣って頭をとりあえず下げる。ここでは、二人を倣った方が得策と考えてだ。そのまま三人は、前後を各十人の神官に挟まれながら、神殿区の中を歩いていく。

「この程度で、俺らがなんとかなるって考えられてんのかね?」

「向こうも争う気はないはずだ。儀礼的なものだ」

 儀礼用の重装に身を包んだレヴィが言う。変な気を起すなよ、とリョーは歩きながら、レヴィとジェフに散々釘を刺され続ける。

「いいっぺか、リョー。絶対に、何があっても暴れるんじゃないっぺ?」

「解ってるって」

 やけにしっかりとした門と架け橋をいくつもくぐりながら、リョーとジェフはそんな会話を続けるばかりだった。神殿区の奥に行くほどに、水路の数が増えていく。それに伴って、建物も、大きなものが増えていく。なるほど、ここがお偉いさん方の居住区か。リョーは鼻で笑う。大した建物ばかりだった。こまごまといくつもの建物が立ち並ぶ傭兵区とは大違いだ。

 澄んだ空気で落ち着かない中、リョー達は神殿区の最奥に辿り着く。やけに立派な建物。今まででも十二分に立派ではあったが、その比較にもならない。

 産まれは寒村、そのあとの育ちも傭兵区、仕事も戦場ばかりのリョーは圧倒される。

「って、おい!? なんだ、ジェフ!? あそこ水が吹き出してるぞ!? 修理した方が良いんじゃねェか!?」

「……リョー、あれは噴水って奴だ。オメ、なんでそんな緊張感ねェっぺ?」

「いや、あまりに予想外過ぎる事態に混乱しちまってよ。……噴水ってなんだよ。水が吹き出してるだけじゃねェか。何であんなんわざわざ作ってんだ? 神殿ってのはよく解らねェなー……」

 ジェフは呆れ、レヴィは羞恥に顔を赤める。

「……リョー。貴様はこれから、何があっても黙ってろ。良いな?」

「んだよ、二人して」

「お前達静かにしろ。もう法王の御前だ。無礼のないようにな」

 神官が三人に注意する。目の前の馬鹿みたいにでかい扉の先に法王がいるという訳だ。やけに装飾性の強い扉を見上げて、この扉だけで貧民区の人間がどれだけ救えるのだろう、とリョーは考えるが、自分に興味のない事にはとことん無頓着なリョーには解らなかった。澄んだ空気が張りつめて、ピリピリと肌を刺す。んな緊張するもんなのか?とリョーだけは首を傾げて悠々と歩く。

 やけに分厚い扉が重々しく開く。そこは日の光が差し込んでいる廊下よりも、尚明るく感じた。

「……嫌な出迎えだっぺ」

 ジェフが二人にも聞こえない声で呟く。レヴィとリョーは殺意の籠った視線をその最奥へと向ける。

 やけに分厚いワインレッドの絨毯。その先のまるで王座のような椅子に腰かけた人物は、まだリョーとそう変わらない年頃の青年だった。リョーとレヴィはやや面食らった感じだ。

「あなたと会うのはこれで二日連続ですね、ジェフ・ブリードマン?私とこれだけ短期間で顔をあわせる事が叶うのも、あなたという人間だから。大切にしなさい」

「もったいない言葉だっぺ」

 整った顔立ちが歪む。嫌悪感が滲む。

「あなたのその、訛りだけでもどうにかならないのですか?」

「もう長年連れ添った言葉だっぺ。それをあなたはすてろと言うっぺか?言うなれば伴侶、信仰と同じだっぺ?」

「……そうですか。それで?今日は何をしに来たのですか?」

「俺はクラーラを襲ってなんかいねェって言いに来たんだよ」

「どうでしょうか」

 リョーの発言を一言で切り捨てる。あまりにも非情な対応。リョーがその態度に苛立ちを覚える。ギロッと強い視線で睨む。

「んだと?」

「リョー・アラヤ。あなたは神殿を恐ろしく憎悪していると聞きます。そして二日前、聖女候補騎士、クラーラ・フォン・アーティア・ブルックベンに斬りかかったとの報告が上がっています。そして同日の夕方、あなたの妹メイ・アラヤの目の治療の帰りにレヴィ・シューゲルク・ハイセンとあなたの私闘に巻き込まれて(・・・・・・)足に深い傷を負っています」

「だからなんだよ」

 それが昨日クラーラが襲われた事と、どう関係があるのか、リョーには理解出来なかった。

「一昨日の私闘があなたとレヴィ・シューゲルク・ハイセンとの共謀であり、足、ないし身体の一部を負傷させるのが目的だった可能性があります。そう、昨日の奇襲の為の布石として」

「馬鹿言ってんじゃねェ。一昨日アイツと会ったのは偶然だし、そっからはずっと一緒にいた。レヴィと連絡なんかとれっかよ」

「そうでしょうか?」

 法王は見下した態度でリョーを見る。馬鹿にされているのが解る。態度が恐ろしく気に食わなかった。

「クラーラ・フォン・アーティア・ブルックベンを襲撃するのは簡単でしょう。事前にメイ・アラヤに名前を聞いておけば良い事ではないでしょうか。クラーラ・フォン・アーティア・ブルックベンは些か厄介事に首を突っ込む傾向にあります。意図的に一昨日騒ぎ立て、彼女を誘い出したのです。

 そして、往診の約束に漕ぎ着けて、奇襲作戦を決行すれば良い」

「んだ、そりゃ。適当な推理ごっこは止めねェか。んなの、アイツが出てくる可能性考えたら無謀にも程があんだろ」

「ですが、奇跡的に成功した」

「違ェっつってんだろ?」

 法王は話をまるで決定事項のように話す。それがリョーの神経を逆撫でする。

「リョー、少しオメは黙ってるっぺ」

 リョーが口を開こうとした瞬間、ジェフが制止する。リョーが何を言ったところで無駄だったのは解っていた。だから、こうするしかないのだ。

「法王、ワシにとって、傭兵区は家だっぺ。コイツ等は可愛い子供。ワシはコイツ等が曲がった事はしねェって、信じてるっぺ」

「先日、クラーラ・フォン」

「レヴィはいきなり斬りかかるような奴じゃないっぺ。それに、手負いの独りを集団で襲わせるようの真似は絶対にしないっぺ」

 法王の言葉を遮りジェフが反論する。レヴィを侮辱されるのはジェフには耐えきれない事だった。

「立証がありません」

「立証がないってなら、オメの理屈も立証がないっぺ。このまま報復でリョーをどうこうするってなら、傭兵区は黙ってねェっぺ。アーティア神殿に報復するなり、このアンバルロガを離れるなり、なんかしらのリアクションをするっぺ」

「報復なんて物騒ですね。私はとるべき行動をとるだけですよ」

「それでワシ等が納得すると思うっぺか?」

「あなた方の意見は聞いていません。解りますか?ジェフ・ブリードマン。聖女候補とはいえ彼女は有望です。神殿としては、顔を潰されたも同じ事。それなりの厳しい処分が必要なのです」

 具体的な処分。ジェフはその言葉に不穏なものを感じる。

「具体的な処分ってのは、どういう事だっぺ?」

「そうですね。例えば、ジェフ・ブリードマン。あなたには無期で神殿に奉仕して頂きます。勿論、最低限の生活は保証しましょう」

 奉仕。それが意味するのは戦場に立つ事。無期で奉仕という事は、神殿に言われればいつでも戦場に立ち続けるということとなる。

「っざけんな!」

 それに反応したのは、当然だがリョーだった。怒気と殺意を視線に込めて、法王を睨む。

「俺はやってねェ! なのに、なんでジェフがそんな事しねェといけねェんだ!!」

「リョー解ってた事だっぺ」

 ジェフが悟ったように言う。リョーはジェフをみる。ジェフの顔には驚きも何もなく本当にこの事態を察していたようだった。

「オメがやったわけじゃないのは、ワシも理解している。だが、傭兵区の誰かがやったのなら、それはワシのせいだっぺ」

「っざけんなよ、ジェフ! あんたは顔役だけど、そんな責任!」

「あるんだ、リョー!」

 ジェフの悲痛な叫び。ジェフはジェフで、心を痛めているのだ。

「誰かは解らん。だが、傭兵区の誰かがあのお嬢ちゃんを襲ったというのなら、ワシの教育が甘かったんだっぺ」

「納得いかん」

 レヴィも前に出る。父が死んだのも、まさかこのように何かしらの責任をとってでは、と思えた。ならば、ジェフの末路は決まっている。

「ふざけるなよ、法王。貴様はそうやって、何人もの手駒を戦場に送って、自らは安穏とその椅子に座っているつもりか」

「レヴィ!」

「聞こえないな、ジェフ殿」

 殺気の籠った視線を、法王に向けながら、レヴィが言う。怒りで、二人とも周りが見えていない。この二人は、法王とでも斬り合うつもりだった。ジェフからすれば、無謀極まりない。

「やめるっぺ、二人とも!」

 二人はジェフよりも前に出る。法王が発言を撤回しなければ、きっと下がりはしないだろう。

「どうしてだろうか。ジェフ・ブリードマンは今の提案に納得しているみたいだが?」

「俺らは納得してねェ!!」

「その通りだ。我等を我が子のように扱ってくれるジェフ殿に、そのような仕打ちは納得出来ん!」

「我が子、ね」

 法王は少しおかしそうに笑う。そして、レヴィに視線を向けた。

「それは、ジェフ殿と御父上を重ね合わせての発言かな、レヴィ・シューゲルク・ハイセン?」

「なんだと」

「あなたの父は戦場で死んだ。その誉れある死を、あなたは認めなかったと聞く」

「誉れある、死だと?」

 レヴィの殺気が膨れ上がる。研ぎ澄まされたレヴィの殺気はより鋭く、法王へと突き刺さる。

「ふざけるな!誉れある死だと!?惜しまれぬ死のどこが誉れだ!?どこが尊い!?」

 強力な殺意の奔流に呑まれても、法王は涼しげな表情を崩さない。

「死んでも誰も涙を流しはしない!素晴らしい死と讃えるどこが誉れだ!私は傭兵達の死ぬ姿を見た!彼らは同胞の死を悲しみ、涙を流す!どっちが人間らしい姿だ、法王!?我々は騎士である前に人間だ!」

 涼しい顔を崩さずに、法王はレヴィを見る。そして一言だけ、呟くように小さく言う。

「哀れな」

 その一言で十分だった。レヴィは弾けるようにして前に、法王に飛びかかる。

「止めて下さい!」

 その前にクラーラが飛び出す。長い槍斧を持っている。レヴィの前に転がるように飛び出すと、槍の柄を使ってレヴィを抑えこむ。傷を負っているとは思えない程の力だった。リョーが目を凝らせば、クラーラの身体が僅かに黄金色に発光している。

 アーティア由来の肉体強化魔法。この神殿内ならではの効果であった。

 クラーラはレヴィを突き飛ばす。レヴィが数歩後退する。

「止めて下さい! 自らの首を締めるのとそう変わりませんよ!」

「貴様っ! 貴様がリョーを犯人だと謀ったのだろう!? そのせいで、ジェフが死に追いやられようとしているのだっ!」

「私はそのような事言っていません! 昨日襲撃から逃げて、そのままずっと治療を受けていました! 誰とも会話していません!」

 レヴィとクラーラがにらみ合う。レヴィにとって、クラーラ等小さな障害に過ぎない。すり抜けて後ろの法王に斬りかかれればそれで良いのだ。一太刀浴びせられれば、充分だ。

「無理です。いかにレヴィさんであっても、法王を傷つけられません」

「やってみなくては解らないだろう。そこの椅子に腰かけている馬鹿者が、私が苦戦をするような手練れだとは思えん」

「法王は剣の達人ではありませんが……解りませんか? 両の壁に、騎士が隠れている事に」

「……なんだと?」

 レヴィが意識を向けると、確かに人の気配があった。僅かな気配だったが、確かに人が、魔法を使っているのが解った。

「法王は謁見する時、事前に騎士を両の壁の裾に、十人ずつ待機させてます。隠密の魔法を使って隠れた彼らは、いつでも魔法障壁の魔術が展開出来るようになっています」

 二十人掛かりで唱えられた魔法障壁。それを破るのが安易ではない事は、レヴィにもよく解る。斬れてもせいぜい六つか七つ。もう一撃見舞おうとしても、人掛かりの魔法障壁を張り直されるのに、そんな時間はかかるまい。レヴィは、忌々しそうに剣を鞘に納める。

「だが貴様!」

「おい、テメェ」

 リョーがレヴィの肩を掴み下がらせる。レヴィは会話を邪魔されてリョーを睨む。だが、リョーは良いから、と言ってレヴィを黙らせる。

「ジェフが神殿に無期奉仕を要求されてんだ。被害者のオメェからなんとか言ってどうにかならないのか?」

「ジェフさん、私はあなたが優しい人だと言う事を知っています。だから、あなたがこの事件で誰よりも胸を痛めているのも」

「お嬢ちゃん……」

 ジェフは目が熱くなる。まさか、こんな娘のような年頃の子が、自分の怪我よりも誰かの心配している。それが自分を襲った相手側の可能性があるのに。

「法王! 私は確かに傭兵に襲われました! ですが、それが傭兵区の傭兵だとは限りません!」

 クラーラが法王に向かって言う。法王の顔には僅かに苦い色が浮かんでいる。

 確かにこのアンバルロガには傭兵の出入りがある。ジェフを初めに、リョーやレヴィといった凄腕の傭兵を抱えているこの町は、傭兵を志すもの達にとっての第一歩に丁度良いのだ。

 勿論、それ故に傭兵区と神殿区の不仲も有名だ。

「私を討って、傭兵区への手土産にしようとしたものか、はたまた、たまたま通った流れの傭兵かもしれません。その方々が、恩を売ろうとしてやったのかもしれません」

 クラーラの意見は今まで出て来なかった意見だった。

「一週間です。一週間以内に加害者を見つけた場合、この事件は不問としては如何でしょうか」

「……確かに、一週間ありゃ充分だ」

 リョーが挑戦的な視線を法王に向ける。涼しげな顔をしていた法王は、今や苦々しい表情を浮かべるばかりだった。

「文句あるかい、法王さんよ」

「……シスター・クラーラ。今度は死ぬかもしれませんよ」

「私は、傭兵区の皆さんを信じています。だから、今回の事にアンバルロガの傭兵区は無関係だと、私が主張致します」

「……そうですか。しかし、ちょうど良い。あなたにもちょうど通達があったのです」

「……通達?」

 クラーラが不安そうな顔をする。

「あなたは今回の事件で、逃亡をしました。戦の神アーティアに仕える者として、あってはならない事です。

 なので、あなたに試練を課します。傭兵区に住む、メイ・アラヤの目を治しなさい。それまで、神殿への出入りを禁止致します」

「「「なっ!」」」

 驚きは、クラーラを除く全員から。クラーラは覚悟していたようで、何も言わない。

「……解りました」

「解ったって、テメェ!良いのかよ!?」

「仕方ない事なのです、リョーさん」

 悲痛な表情のままに、クラーラが言う。メイの目の治療は困難を極める。それは、リョーもクラーラも、全員がよく理解していた。

「それと、先ほどの一週間の期限の間、ジェフ・ブルックベンの身柄はこちらで預かります。では、皆様にアーティア様のご加護がありますように」

 ジェフはその場に残る事となってしまったが、こればかりはどうしようもない。法王の言葉に、唾を吐き捨てながらリョーはレヴィと、クラーラを連れて傭兵区へと戻る。

「レヴィは情報屋を当たってくれ! 金は惜しむな! 俺は傭兵全員集めて、コイツに犯人がいるか見てもらう!」

「承知した!」

 二人は別れる。リョーは走って自分の泊まってる宿に向かう。クラーラは必死に後を追うが、足の怪我は完治していないようで、少しずつその距離は開いていく。

「り、リョーさんー!」

「チェッ、のろまめ」

 リョーは悪態をつくと、クラーラを抱えて走る。人独り担いでるとは思えない速さだった。

 クソったれ法王め。目にもん見せてやる。リョーは法王への怒りを胸に、傭兵区を走った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ