治療
前話のタイトル、エピローグとプロローグを間違えて書いてました(笑)
リョー・アラヤ二十歳。親の居ないリョーは八歳の時にジェフに拾われる。アンバルロガの傭兵区で雑務を仕事にし、十五の時に傭兵となった。僅か5年の間でリョーは急激に成長し、瞬く間にジェフと並ぶ、一流の傭兵となった。
その二つ年下の妹、メイ・アラヤの目の治療のために各地を飛び回るように仕事をしている。だが長期に渡る仕事は家を空けてしまうために基本的に行わない。代わりに最前線に赴く事が多い。個人的には一泊二日でサクッと帰れるのが一番良い、という贅沢な考え。
その戦闘は熾烈、無情を極め、敵は皆殺し。ついた渾名は「狂剣の軍神」。味方を大きく展開させて、逃げ場を潰して、その中にいる敵を、肉厚で重い剣の重量を活かした斬撃で惨殺していく。
荒ぶる軍神アーレーウスの申し子とも謳われるリョー。彼は今、クラーラを連れてメイと暮らす部屋に向かっていた。たとえ、どれだけ可能性が低かろうがリョーはそれにすがる事しか出来ないのだ。若干の魔法ならば使えるが、回復魔法はお手上げだった。心配性のジェフが二人の後ろをついて行くが、二人の仲が恐ろしく悪い。というよりも、リョーが一方的にクラーラを嫌っている。
というのも全て、クラーラがアーティアの神官というのが最たる理由なのだから、タチが悪い。
「幾度か往診させて頂いているのですが、目というのは中々難しく……」
「無理ならなんでやる?」
「まだ無理と決まった訳では……」
「なら出来んのか?」
「少しでも可能性があるなら、私はそれにかけたいのです」
「テメェにメリットは何もねェのにか? ……ああ、売名目的か」
リョーの悪態の嵐だった。これでは、荒ぶる軍神の申し子ではなく暴言の申し子だ。クラーラは、今日治療に成功しなかったら殺されるのではないかと不安に思い始める程だ。
「お、お嬢ちゃんはなんで神官なんかしてるっぺか? 危ない仕事だべ?」
「少々込み入った事情がありまして……。家の都合ですかね」
「ハン、大した事情な事で」
「……」
「……」
悪態に会話が途切れる。これで会話が途切れるのは既に三回目だった。クラーラがジェフに助けを求めるように視線を送るが、ジェフもこれに関してはお手上げだった。
リョーのアーティア神殿嫌いは、ジェフに引き取られる直前に遡る。リョーはアンバルロガから北に三日程離れた寒村の生まれだった。貧しい村だったが、人々は助け合って生活していた。貧しくても、それなりに幸せであった。
だが、幸せは脆く崩れ去る。突然、村の直ぐ近くの山が雪崩を起こした。原因はアーティア神殿の神官達が魔物と交戦した際に使用した魔術の余波であった。
魔術の衝撃によって引き起こされた雪崩で村は壊滅。生き残ったのはリョーと妹のメイのみ。偶然にもrリョーが村から少し離れたところで山菜を採っていて、メイもそれについていく事で雪崩に巻き込まれなかったのだ。
その時の戦闘に居合わせた傭兵隊の部隊長がジェフだった。神官達は魔物との交戦を優先し、その場にいたジェフが当時相棒を勤めていた傭兵に隊を任せ戦線離脱。傭兵隊の一部を連れて独断で向かったのだ。
ジェフはリョーとメイを保護し、神殿に抗議した。だが、神殿は不測の事態の一点張りで抗議を聞き入れはせず、契約違反、離脱、抗議によりジェフは報酬の一切を貰えなかった。それどころか、部隊に損害を出したとして多額の賠償金の請求をされる事となった。
リョーはそれ以来、傭兵に憧れを、アーティア神殿に憎悪を抱くようになった。
以前の神殿は過激派の教皇によって、魔物、邪神崇拝の根絶を第一にしていたが、今は温厚派が教皇の座についている。リョーの住んでいた村の壊滅が批判を呼び、過激派が失脚したのが温厚派が教皇の座についた理由の一端となったのだが、リョーからすればそれがまた気にいらなかった。まるで、自分達が政治の道具になったような気がするからだ。
それでもリョーがアンバルロガにいるのは、ジェフがいるからだろう。無神国家にすみたいところであるが、ジェフと戦わなくてすむのは、同じところにいるのが一番なのだ。
だから、リョーの憎悪は絶えない。
アーティアの道具に成り下がっている自分を憎む。
そうさせた、アーティア神殿を憎む。
そんな神々を奉り続ける世界を憎む。
憎しみは絶えず連鎖し、リョーの心を歪めていった。
ジェフは、リョーに自分を愛して欲しいと願っている。世界は素晴らしいと思って欲しいと願っている。
だから、二人はすれ違ってしまっている。意見がどうしても噛み合わない。
そんな事を考えているうちに、リョーの済む宿につく。リョーはクラーラに表で待っているように告げて独り部屋に入る。
「ジェフさん、リョーさんが、私達を許してくれる日は来るのでしょうか。何か、アーティア様に酷く怒っているようですが……」
「それに関してはワシも何も言えねぇっぺ。言えるのは、それはとてつもなく険しい道だって事だべ」
二人はそれぞれリョーに変わって欲しいと願い、唸る。クラーラは、その道の険しさがどんな試練よりも難しいと思えた。
リョーは部屋に入ると、メイに気付かれないように深呼吸をする。正直、クラーラのへこたれなさは異常であり、悪態をつき続けるのも決して楽ではなかった。戦闘、抗議、悪態での疲れを身体の奥底へと仕舞いこみ、椅子に座る妹の肩にそっと手をおく。
「ただいま、メイ」
「兄さん、お帰り」
リョーの声を聞いたメイは、嬉しそうに顔を綻ばせてぎゅっとリョーに抱きついた。リョーが傭兵をやると言い出した時、最後まで反対したのはジェフではなくメイだった。メイにとっては、リョーは兄であり、父であり、自分の世界そのものだった。
小豆色の肩口で切られた髪は、滑らかな絹のようだ。目が見えないために、あまり外出する事のないメイの体は細く、肌は白い。リョーはメイの髪に手櫛を通す。
「付き人はどうだった?」
「親切にしてくれたよ。兄さんの事、勘違いしていたみたいだから、優しい兄さんの事、いっぱい話したよ」
「そっか。ありがとう」
「今日は、アーティア様の神官さんが来てくれるんだよ」
メイは、村の壊滅の原因がアーティアにある事を知らない。幼いリョーが、メイにはその事を黙っていて欲しいとジェフに願ったのだ。ジェフはそれを受けて箝口令を傭兵達に出した。傭兵達もその事を誰一人として幼いメイに言おうとはしなかった。それだけが、黙っている事だけがリョーにとって残された救いなのを、皆感じていたのだ。
憎悪を抱えるのは、自分だけで良い。
それが、リョーに残された救い。
時にはメイに真実を伝えるべきだという動きもあったが、それはことごとくリョーの猛反対によって封じられてきた。最近になると、リョーが武力で黙らせようとする始末だから、誰もその話題に触れることもなくなった。
「ああ、知ってる。たまたまその神官とあったから、連れて来たよ」
「また兄さんが揉めたって話、もう聞いてるんだから。困らせちゃダメだよ?」
「怒るなよ。怪我した連中のためだったんだ」
「そうかもしれないけどー」
メイが頬を膨らませる。可愛いらしい仕草にリョーの頬が緩む。和やかな気持ちだった。このまま最愛の妹と、もっとゆっくり過ごしたいとも思うが、厄介事は早々に片付けてしまいたい。リョーは抱きついてくるメイの頭を何度か撫でた後に、そっとメイの体を引き離す。
「治療、してもらうおうか」
「うん。見えるようになったら、最初に兄さんを見たいから、そばにいて?」
「……」
一瞬の逡巡。あのクラーラとかという神官と同じ空気を吸いたくないという、身勝手な憎悪。
「兄さん?」
兄の異常に感づいたメイが、不安そうに声を出す。それを聞いて、リョーは我に返る。自分の憎悪に、メイを巻き込む訳にはいかない。
「メイは可愛いな。勿論だよ」
頭を優しく、何事もなさそうに撫でる。扉を開けて、ジェフとクラーラを招く。
「メイ、今日はジェフも来てるんだ」
リョーの発する穏やかな声に、クラーラがギョッと振り向く。リョーの酷く忌々しそうな視線から、静かに視線を反らしてメイを見る。なるべく、リョーを視界に入れないようにしている。
「こんにちは、メイさん」
「こんにちは、クラーラさん。こっちが兄のリョー・アラヤです。なんだか、神殿にご迷惑をかけたようで」
「さっきは申し訳ない真似を……。今日はお願いします」
リョーが人を殺せそうな目で睨みながら、酷く穏やかな声で言う。クラーラはリョーのその器用な殺意の向け方に、もはや感嘆する程であった。
「では、治療を、始めます」
クラーラは冷や汗を流しながら荷を解く。手早く、治療を行おうと小壺を出す。出してメイと向き直ると、リョーが口を動かす。
『はやくしろ』
声には出さずにそう催促する。クラーラは小さく頷き、その小壺の封を開ける。
「これはヒカリクサという薬草を軟膏にしたものです。このヒカリクサには視力回復効果があると言われているんですよ」
それを少し多めにとり、メイの瞼に塗っていく。しっかりと塗ると手を拭いて、手をかざす。薬に回復魔法、リョーはクラーラのやろうとしている事を理解して、普通とそう変わらない、という判断を下した。あれだけの大口をたたいておいて、やる事がそれかと、落胆してしまう。
「戦の神アーティアよ、我等が軍旗の元にある者に、幸を、光を、癒しを賜り給えよ」
クラーラが祝詞を唄い祈りを捧げる。アーティア由来の金色の魔方陣が浮かびあがる。複雑に絡まる幾何学模様の魔方陣は普通のものとは違い、所々にアレンジが加わったものだった。落胆していたリョーだが、全く魔法が理解出来ないわけではないし、戦場で生き残るために、それなりに勉強はしてきた。
だから、その魔法人が一朝一夕考えただけでは組めない事に気づく。
いくつかの回復魔法を複合化させた上に、補助魔法で被術者の時間の流れもやや早めているようだ。これによって、傷の治りを早くする事や、通常よりも少し速く動く事が出来るが、その分、リスクも高い。リョーもたまに使う魔術の高位版である。力が打ち消しあうことなく、互いをさらに高めるような術式。それでいて、回復魔法が時間操作魔法のリスクを打ち消している。
クラーラがメイのために真剣に考えてその魔方陣を組んだ事が理解出来た。そして、この魔法陣なら上手くいくのではないだろうか、とも思えた。
優しい金色の魔方陣。
クラーラは他の神官とは違うのかもしれない。もしかしたら、ジェフと同じように、自分たちの味方なのかもしれない。
「……」
違う。そんな訳がない。
俺達の両親を、村を殺したのはアーティア神殿だ。これは、と当然の事だ。行わない事がおかしいのだ。
だが、今まで行われなかったのも事実。
当たり前の事をしない神殿。
当たり前の事をするクラーラ。
「……目は開きますか?」
「……」
気付くと治療は終わったようだった。クラーラが心配そうに、メイの顔を覗き込む。
「……ダメ。開かないよ」
メイは少し気落ちしたようで、肩を落とす。クラーラはそれを見て、悲痛そうな顔をする。胸の前でギュッと自分の手を握る。その仕草は何かに耐えるようだ。
「……ごめんなさい、メイさん、リョーさん。私の力が足りないばかりに……」
「そ、そんな事ないです! クラーラさんはいつも、私のために頑張ってくれてるじゃないですか!
……私、魔法の事はよく解らないですけど、クラーラさんの魔法は凄く温かい。優しい力を感じるんです……」
「メイさん……」
メイの弁解に、クラーラは嬉しそうだ。リョーは入り口の所で立っていたジェフに向き合う。
「ジェフ、メイの事を少し頼む。俺は神官を送って行く」
「……ん? リョー、オメ、まさか……」
「心配するような事はしねェよ」
「兄さん! 口悪い~!」
妙な申し出に、クラーラもジェフも不安そうだ。どこかで仲間が待ち伏せしていてリンチ、なんて物騒な事も二人の脳裏に過る。
「なら愛剣は置いてく。護身用のショートソードなら、問題ないだろ」
リョーは腰の剣を壁に立て掛けると、刃渡りが半分程度しかない剣を持つ。リョーが使えば、それこそ何度か振っただけで折れてしまいそうな剣だ。リョーなりの、争う気はないという意志表示だ。
「送るのに、それじゃカッコつかんべ、リョー。剣を持ってけ」
ジェフが呆れて言う。先のランベル奇襲作戦の後で、アーティア神殿を傭兵達はよく思っていない。まだ、クラーラの無償治療の話が広まったとは考えにくい。ともなれば、リョーが居たとしても襲いかかる輩はいるだろう、というのがジェフの見解だった。リョーは外したばかりの愛剣を再び帯刀する。
「それじゃ、メイさん、また方法を考えてから来ますね。私の力不足で上手くいかなくてごめんなさい」
「そんな事ありません!クラーラさんの魔法は凄く温かい、優しい力を感じます。私を治してくれようとする本気が、伝わってきます」
「ありがとう」
クラーラは手早く挨拶して扉のところで待ってるリョーに頭を下げる。
「すみません、リョーさん。私の力不足でした……」
「……行くぞ」
リョーは何か言いたげに急かす。クラーラはどんな事が合ってもへこたれない、と決意して部屋を出る。
「礼は言う。テメェがメイの目を治すのに本気なのは解った」
「……」
思わぬ賛辞にクラーラは面喰らう。嫌味から始まり罵詈雑言の嵐だと思っていたからだ。
「だが、勘違いすんなよ。俺はアーティア神殿やテメェを信用した訳じゃねェ」
「……何故、リョーさんは」
「オラ、行くぞ」
会話を一方的に打ち切って歩き始める。宿の店主に手で挨拶して宿を出ると、十数人近くの傭兵が、行く手を阻むように立っていた。何人かの顔に見覚えがえる。ランベル奇襲作戦に参加した傭兵だ。
「邪魔だ、散れ」
リョーが不機嫌そうに言う。クラーラも彼らの目的には予想外がついたのか、やや不安気だ。するとその人垣の中から、リョーが見知った女が出て来た。それを見たリョーが露骨に嫌そうな顔をする。
「面倒クセェなー」
「何が面倒くさいというのだ?」
女の声に怒気が籠る。頭の高い位置で結ばれた髪先が、ワナワナと震えている。
「リョー! 貴様、まさかそこの神官の肩でももとうというのか? その、忌まわしきアーティアの神官の!」
「うるせぇよ、レヴィ」
レヴィはリョーの相方を勤める程の実力を持った女傭兵だ。面倒見の良さから姉御と呼ばれて親しまれている。
巧みな剣術で隙を作るのが得意な、個人戦派。家は騎士の名門の一つだったのだが、今は没落。そのために傭兵になる。
レヴィもまたアーティア神殿を憎んでいる。度重なる激戦に、騎士としての誇りと唄い戦い続けて最後は討たれたレヴィの父親。
父親は討たれた時、アーティア神殿の神官騎士をしていた。傷だらけの父を戦場に立たせ続けた神殿をレヴィは憎み続け、同じ憎しみを持つリョーと出会った。
以来レヴィはリョーに親近感を覚え共に戦う友となった訳なのだが。
「何故そんな奴らの肩をもとうというのだ! ランベル奇襲作戦で、我々を捨て駒のように扱った奴らだぞ!」
「テメェは怒鳴ってしか喋れねェのかよ? コイツと話しはついてんだ。治療費全額無償の往診だってよ」
「貴様はその程度の提案で手を打ったのか!」
「傷が治るなら良いだろ。痛みから解放されるんだ。それに、手を打ったのはジェフだ。ジェフが決めたなら、仕方ねェだろ? それともテメェら、ジェフの顔に泥でも塗ろうってか?」
ジェフは傭兵区一の古株で、顔役とも言える。この傭兵区に住んでいれば、一度はジェフの世話になるものだ。だから、全員の顔に苦々しい物が広がる。
「ならば、せめて謝罪文くらいは寄越さぬか!」
「謝ってくれだとよ」
「え、ええ!? わ、私ぃ!? ……えっと、皆さま、その節は大変申し訳ない真似を……」
「法王のだ! 法王が我々に頭を下げろ!」
突然話を振られたクラーラが頭を下げて詫びようとしたが、レヴィの怒号がそれを潰す。さすがのリョーも呆れ顔だ。法王が謝る訳がないのだから。それに、法王に頭を下げさせるのは、レヴィ個人の怨恨のためだろう。
「レヴィ、めちゃくちゃだぜ、テメェ。どー考えたって無理だろ、そりゃ」
「その程度の事も出来ないのか、神殿は」
ハッ、とレヴィが嗤うと、クラーラの顔に苦い物が広がる。だが、その言い草に嗤うのはリョーも同じだ。
「ハンッ、その程度の事、なら目でもつぶっとけよ?」
リョーの人を馬鹿にした態度が、まさかこんな形で味方になるとはクラーラは思いもしなかった。向けられると厄介な分、味方につくと凄く心強い。相手が逆上しない事を願うばかりだった。
「つーか、テメェ等こんなとこで溜まってて何しようってんだ?」
「そこの神官をリンチする」
「……それが没落したとはいえ、騎士の名門とさえ謳われた家の娘がする事かよ」
さすがのリョーも、まさかここまで開き直って言われるとは思わなかったようだ。苦い顔をしている。
「何も乱暴しようという訳ではない。少し痛い目に遭ってもらうだけだ。腕の一本や二本、なくなる程度だ。それに、手を下すのは私一人。他の連中は逃がさぬように張ってるだけだ」
程度、等と軽く言えるような内容ではない。姉貴肌もここまでいくと重症だ。レヴィの頭の中には怪我をしたものの無念とか、そういう事でいっぱいなのだろう。
交渉の余地はない。リョーはため息を吐いてレヴィをどうやって諦めさせようか考える。だが、頑固者で有名なレヴィを納得させられる訳もない、という結論に至り、率直な意見だけを口にする。
「テメェが納得いかねェのも解るけどよ、俺にはコイツが必要なんだよ。だから、テメェ等にリンチさせる訳にはいかねェんだよ」
メイの治療のために。後ろの宿で暗闇に囚われた妹に光を与えるためには、気に入らなくとも、一縷の望みにかけるしかないのだ。
「貴様ッ、正気か!?」
レヴィから放たれる怒気が殺気に変わる。研ぎ澄まされた殺気にクラーラが身構えるが、リョーはイライラと、鬱陶しそうだった。
「貴様は、忘れたのか! アーティアが我らの親を殺した事を! 貴様の村を破壊し! それすらも政治の道具に利用された事を!! そんな奴を、そんな奴を必要だというのかッ!!」
「……え」
「……ククッ、本当に鬱陶しい奴だな、テメェ」
ガチャ、リョーが腰の剣に手をかける。リョーの殺気を受けて、何人かの傭兵が数歩後退する。歪んだ殺意が魔力に変わり、リョーが臨戦態勢に入る。
「ぶっ殺すぞ、テメェ!!」
「や、やめ!」
「「すっこんでろ!!」」
クラーラの制止を無視して、二人は踏み込む。
殺す気なんて、戦う気なんてなかった。
だが、一番聞きたくない、思い出したくない古傷を刺激されて、リョーはとにかく自分の痛みを紛らわせるために、剣を振るった。