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リメイカーズ  作者: るふ
Remake:1 日常的生活
8/12

[第一部]海産物大戦争?:第七話 - 逆転、決着

私が放った矢は、ひゅぉん!と風切音を残しつつ、夕日を弾いて一直線に飛んでいった。


ぶすう!!


よっし!直撃っ!!

思わず私はガッツポーズを取る。僅かにでも揺れている船の上から、動いている相手に当たったのだから素直に嬉しい。


が。


「なにずんでずが!レオナざん!!」


どこまでも届きそうな大声で私の名前を呼ぶロイド。よく見ると、ロイドの白いとんがり頭に私の放った矢が深々と突き刺さっていた。

あ、なんだ、失敗か。情けない。

何度かこめかみを掻いて、ばつの悪い表情を浮かべてみる。


「無視ですかっ!?」


ロイドは器用に手(?)で矢を引き抜きながら、じっとこちらを見て抗議の意を表していた。いや…うん、ごめん。


ばしいぃぃぃん!!!


「!?」


そして大きな破裂音がして驚いた。タコの大足がロイドに強烈な一撃を与えたようだ。踏んだり蹴ったりで可愛そうになってきたよ…。


「見てられないなぁ」


隣のハーティアも呆れ顔。それはロイドに対して?私に対して?どちらにも?…そだよね…外したからね…。

彼は一歩前に出て両手を広げ、目を瞑った。何かの魔法を唱えているけど、私にはそれが何を意味するかは全く分からない。

魔法ってのは、普段私たちが使っている言葉とは別な言葉を使うと聞いたことがある。その言葉を理解し、正しく紡ぐことで世界に干渉して、目的とする効果を得るんだとか。詳しくは分からないけど、そういうことなんだって。

言葉を紡ぎ終わった彼は、かっと目を見開いて正面のタコを睨む。


「ウィングセイバー!」


一閃、外へ向けていた両腕を内側へ薙ぎ、手に籠めた魔力を一気に押し出した。放たれた魔力は空気を刃に変え、一直線にタコへ向かっていく。


ばしゅっっ!

ずばばっ!


空気の刃が、今度は間違いなくオオタコを切り刻み、腕を二本斬り落とした。これで間違ったら洒落にならない。

この風魔法はある程度なら遠隔操作が出来るらしく、ハーティアの持ちネタの中では命中精度はピカイチらしい。確かに外したところを見たことはない。

これだけ距離が離れているのに命中するのだから、間違いはないのだろう。

そして何度かこの魔法を見ているけど、普通のモンスターだったら一撃必殺の威力を持っている。彼のことを見習いだと言ってはいるが、流石はギル爺の弟子。魔法の腕は確かではある。

 

「ナイスアタック!」


ロイドが手を上げてこちらに向けて言う。ちゃんと戦ってほしいけど、まぁ、これで大勢は決した。あの魔法を喰らって平気でいられるワケがないし、いくら巨大タコといえど実力差を見せつけられて、大人しく引き下がるハズだ。


「うぐぅぅぅぅ…貴様ぁぁぁ」


ええ?うそ?え?


海中に沈んだはずのタコが出てきた。ただでさえ赤い頭が更に赤くなる。あー、どうやら大変ご立腹のようだ。コレはまずい。


「人間風情がワシに手を上げると言うか…。よろしい、ならば貴様らから先に喰らってやるわ!」


タコはこちらをカッと睨みつけてそういった。次の瞬間、真っ赤なタコさんはロイドを一瞥し、先ほどよりも強烈な一撃を彼に加えた。

大きな破裂音が数回して、ロイドの巨体が海中から引き出され宙を舞う。


「「あ…」」


私とハーティアがあっけに取られる中、ロイドはそのまま海面に激しく叩きつけられて動かなくなった。うそ…。

ロイドが行動不能になったことを確認したタコは、ゆっくりとこちらへ向かってきた。マズい。そう思うが早いか、タコは腕を数本振った。間もなくして船の周囲に巨大な水柱が何本も立ち上がり、大きく揺さぶられる。直撃したら沈没する。


「ハーティア!」

「分かってる!!」


焦りを含む…珍しく怒っているようにも感じる声が聞こえる。仕留め切れなかったことに対するものか、それとも切り札を用意していないのか。ハーティアは大股で構えながら、両腕を上げた。

刹那、早口な魔法が甲板に響く。そこからも焦りが伝わってくる。

私も貫通能力優先の矢を手に取り素早く弓に番え、タコに向けて構える。この矢は、羽を含む全てが特殊な金属で出来ている。貫通だけでなく、ターゲットの体内をも破壊できるという恐ろしい矢だ。そんなえげつない威力を持つから、あまり使うこともないけど…。

ふと周囲を見れば、船員も船長さんもどうしようもない表情でこちらを見ていた。何よ海の男達!最後まで分からないから人生楽しいのよ!

逆転勝利の可能性は十分にある!!


ハーティアより先に準備が出来た私は、空気の刃で出来た傷の近くに照準を合わせ…。


ひゅおっ!!


一気に放った。これだけ近ければ、まず外すことはない。

矢は狙い通りの軌道でタコの頭を貫通する。間違いなく体内にもダメージは与えられているはずだが、それでも全く堪えない。タコはこちらへ確実に近付いてくる。


「喰らえ!フレアストリーム!!」


魔法を紡ぎ終えたハーティアが両腕を正面に突き出す。真っ赤な炎と共に火炎弾が数発放たれた。…う…熱い…。身体が燃え尽きてしまいそうな熱量を感じる。

火炎弾は私の頭くらいの大きさはある。流石にこれを喰らえばあのタコも…。

 

どごっ!どどどどどどっ!!


全火炎弾がタコに命中し、同時に業火に包まれる。

 

「ぐああー!!」


火炎弾によって発生した煙で姿が見えない。念のためもう一本矢を出しておくけれど、確実に倒したはずだ。緊張しながら立っていると、一気に煙が晴れる。ハーティアが魔法で風を起こして飛ばしたようだ。

そこにいたのはところどころ焦げて海面に揺らいでいるタコ。そして、船の横まで来ていたロイドだった。あぁ、生きてたんだね。


「…ふぅ…何とかなったようだな」

「そうみたいね」


それまでの緊張から解きほぐされたように、ハーティアが息を吐き出す。

タコはぴくぴくとしているもののそれ以上動かない。火炎弾が決定打になったようで、無事勝利したようだ。


「ああ!助かりました!本当にありがとうございます!何とお礼を言って良いか!」


ロイドが感激極まりないといった声を上げる。


「お礼ならハーティアに言ってよ。私は何もしていないんだからさ」


そう言って、私はいやらしい笑みを浮かべながら隣のハーティアを肘で突付く。


「普段は出ないような魔法を軽々と使った、この大魔導士様にね~」

「…ははは、大魔導士ね…。ま、これで丸く収まればいいな」


ハーティアが言う通り、これでタコはこの海域に近付いて悪さをすることはないだろう。この海域の船も安心して航行できるし、ロイドも静かに暮らせる。フェインレリアの平和は保たれたわけだし、万事解決だ。


「本当にありがたいです。これでやっと、この海域を静かに治められます」


ロイドは感謝してもしきれない、といった風に感謝を述べた。そこまで言われると悪い気はしないよね。


「いや、本当です。私の借金を取りに来たと言うこのオオダコも、これに懲りて暫くこの海域に近づかないでしょう」


…ん?


……んん?


………。


え?

 

私とハーティアが顔を見合わせる。


「今、何って言った?」


借金?どゆこと?


「“私の借金を取りに来たこのオオダコ”って聞こえたんだけども?」


ハーティアが目を点にしてロイドに聞いた。


「ええ、このオオダコは私が借りたお金を取り立てに来たみたいなんですよ」


さらりと言う。


「先ほど海中に引きずり込まれた際、借金を返せって言われたんです。でもこのタコに借りた記憶はないし、どういうことか聞いてみたら、妹さんが貸主だって言うんです。あぁなるほど。確かにこの海域を担保に借りたことはあったんですが、どうも資金繰りが厳しくてそのまま返済を放置してまして…」


テレながらロイドはそう言った。触手のような手を顔に当てて“恥かしさ満点!”なポーズをしている。


「へー」


この乾いた声は私のだ。


「そーだったのかー」


こちらの乾いた声は、ハーティアのだ。


「このタコさんは借金の返済を求めてやってきたんだねぇー」


念のため、確認の意味も含めて聞いてみる。


「ええ、妹さんの代わりに来たんだそうですが、流石に金貨二千枚なんていっぺんに払えないですからね。少し待ってくれって言ったんです。乱暴するなら冒険者があなたを倒しますと伝えたんですが…じゃあその冒険者に払ってもらう!なーんて言い出しましてね」


つまり、私たちはこのイカに騙されたわけか。そうだな。そうに違いないな。


「…ハーティア。じゃあ、お願いね?」


俯きながら、極めて冷静かつ落ち着いた声で隣の大魔導士の名前を呼んだ。こういうときにも頼りになる仲間なのだ。


「あぁ、分かってる」


冷静沈着。落ち着き払った声でそう返してきた。流石は知性と教養に溢れる大魔導士様。パーティを組んで一年。私が思っていることを理解してくれる。


「ですから私も困って攻撃を加えたんですが、いやー強い強い。妹さんも確かに強いんですけど流石はお兄さんです。金を返さないとこの辺りの船をさらに沈めるぞって。この海域を治める私としては船の安全を守る役目もありますから、それは困ると言ったんですよ。最初は冗談かと思ったんですが、本当に沈めてましたからね。いや、本当に。はっはっはっは」


笑いながら、極めて楽しそうに、安堵したのが分かりまくりの高揚イカがここぞとばかりに喋りまくる。心配事が消えたからか、迷惑なくらいに饒舌。

それに混じってボソボソと声が聞こえる。ハーティアの声だ。魔法を紡いでいるんだろう。風の魔法と同じく、僅かに広げた両手に今度は赤い光が宿る。

ん…今までに見たこともない魔法…だなぁ…。

え?

ひょっとしてこれが今朝言ってた新魔法!?


ぶおおっ!!


赤い光は業火に姿を変える。傍にいるだけで焼かれそうなほど凄まじい熱を放っている。決め手になった火魔法よりも熱い…。う…お…熱すぎる…。

思わずハーティアから数歩離れる。身体全体が焼け焦げそう。


「え?ハーティアさん、いえ、もういいですよ。これ以上やると彼が可愛そうです。私からも撤退するように言いますから、これくらいで勘弁してあげてください」


イカは相変わらずのペースである。


「いい加減にしろ…このクサレイカ…」


ハーティアじゃないよ!この口調、この魔法!どれをとってもハーティアじゃない!大魔導士なんて言ったけど、ここまでの魔法を使える彼じゃない!


「え?」


イカが目を丸く…あ、元々か?見開いたような気がした。

一閃。


「バーニングフレアっ!」


イカに驚く暇も有らばこそ。


甲板から大きく飛び出したハーティアは、眼前のイカへと猛り狂った業火の塊を無造作に、しかし優雅に舞うかのように解き放った。

 

どっ!!!ごごごごごごごごっ!!!


塊から吹き上がる無数の炎の柱は、現場から相当離れた王都からも確認することが出来たんだとか…。


教訓。何事も、ご利用は計画的に。

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