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リメイカーズ  作者: るふ
Remake:1 日常的生活
7/12

[第一部]海産物大戦争?:第六話 - 開戦

「まー、とりあえず私とハーティアがあんたを強力にバックアップするから、それで良いわね?」


イスを思わず目の前の巨大イカに投げつけてしまったので、私はハーティアの横に立ちながらそう言った。


「はい、お願いします」


目の前のイカは慇懃に礼をする。

夏の太陽を反射する、ぬらぬらとした白い肌が美しいこのイカは、フェインレリア湾一帯の海域を治めている大王イカだった。危うくコイツに船を沈められるところだったのだけれど、よくよくワケを聞いてみると事は意外に重大だった。

何でも、二週間くらい前から突如として現れたオオダコにこの海域を荒らされて困っているいるというのだ。

もっとも、私達人間にしてみれば海産物同士の争いは当人同士でやってもらうのが一番である。海の中のことはよく分からないし、変に干渉してしまうのも問題だとも思う。

けれど、フェインレリアに入出港する船が沈められたり、壊されたりといった被害も出ているんだ、と私達の“本当の仕事の依頼主”である船長さんの話で明らかになった。

この海域で沈められた船も多数あるとかで、船乗りにしてみれば一大事だったりする。貨物船が沈められれば、それだけフェインレリアに物資が入らなくなる。人も入らなくなる。これは確かに私達や街の人に影響を与える。

…というわけで、私と魔導士見習いのハーティアは、この大王イカの手助けをすることにしたわけ。あくまで船長さんからの追加依頼として。

それに伴う追加報酬は不要と伝えたものの、船長さんは気にするなという感じで「成果給」として幾らか払ってくれると言っていた。

何だか申し訳なさすぎる。


さて、問題はさっきからレナードが伸びてることなのよね…。さっき部屋に行ったら、唸りながら言いながらベッドに倒れてたし。

レナード抜きでやるしかない、か。


「…で、いつ来るんだ?そのオオダコは」


イスに座りながら優雅に紅茶を啜るハーティア。むー、足が痛い。イス投げなきゃ良かった。それにさっき打ちつけた背中もまだ痛む。


「決まって夕方に来ます。ですからこの海域の住人の間では“夕闇の悪魔”と呼んでいます」

「何でそんな洒落た名前を…」


呆れた声はもちろん私のもの。ハーティアは相変わらず紅茶を啜る。私の飲み物はオレンジジュースだったんだけど、イスの前にイカに投げつけてなくなっちゃったんだよね…。

いい加減この性格も直したいもんだ。


「俺たちは周囲の警戒に当たるとする。全員!警戒配置だ!周囲の海面変化に注意しろ!」


船長さんは大声で船員に指示を飛ばす。本来それは私達の仕事なんだけれども、人の目は多いに越したことはない。まして相手は海産物だ。どこから来るか分からない。

概ねこのイカを狙ってくるのだろうけど、航行中の船すら沈める相手なのだ…この船が直接狙われないとも限らない。


「とにかく警戒しつつ…夕暮れまで待つしかないのかな」


ハーティアはそう言うと立ち上がる。何かあったら呼んでくれとだけ言い残して部屋へと戻っていってしまった。大方あの分厚い本の続きでも読むのだろう。

そんな私はすかさずイスをゲット。脚の疲れを取らねば。ふぅ。


「ハーティアさんってクールな方ですね」


去ったハーティアを見ながらイカがそう言う。

何をどう思ったらクールなのかよく分からないが、イカ的センスからするとそう見えるのだろうか。


「いや、甘いよ大王イカ君。ハーティアは実際クールじゃない」


私はどこぞの探偵のように俯き、やれやれと言わんばかりの表情を浮かべ、人差し指を振ってそう言った。一回やってみたかったんだ、この仕草。


「あ、申し遅れましたが私はロイドといいます。呼び捨てで構いません」


あぁ、名前あるんだ。このイカにも。ロイドは両手(?)を万歳のように空へ挙げてそう言った。心なしか喜んでいるように見えなくもない。


「でも、ハーティアさんって魔導士ですよね。格好からしても。知り合いに聞いたのですが、魔導士は瞬時に状況を見極めるだけの冷静さを持ち合わせていると…」


ロイドはそう続けた。知り合いが誰なのかが気になったけど、確かにそうだ。概ね魔導士クラスになると、とんでもなくキレ者が多くて、何を考えているか分からない人たちばかり。あのギル爺だって表向きは飄々とした爺さんだけど、実際裏ではもの凄い計算をして動いている。


「へぇ、知ってるんだ。でも、ハーティアってまだ魔法使いの…それも“見習い”なのよ」

「はぁ、そうなんですか」


…私とロイドは、それからたっぷりと雑談を楽しんだ。なかなかどうして話の合うイカだ。レダに話したらきっと驚くだろうなぁ。

ある意味、良いお土産が出来たわ。


*****


「ん…」


体中が痛くて私は目を覚ました。それもそのはずだ。甲板に出した木製のイスで寝ていたんだから。この、単なるイスで寝られる私も私だけど…。

ふと横を見ると、船外にやたらと先の尖った、それでいて白いぶよぶよしてそうな物体が見える。

それは夕暮れの光を反射して、てらてらと輝いている…。これは一体何だろう?


「…あ、起きましたか」


そう聞こえるのと同時に、尖った物体が動き出した。

ぬっと顔を出したのは巨大イカだった。2つのくりくりした黒いおめめがこちらを見て光った。


「…ああ、ロビンかぁ」


思い出した。大王イカのロビンだった。


「ロビンじゃないです、ロイドです」

「どっちでも良いじゃない…ったく、細かいんだから」


寝惚けたような声で私が呟く。


「イカの名前間違っておいてそれはないでしょう」


このイカ、結構礼儀にうるさいし細かいヤツだった。


「ああ、ごめんなさい。私が間違ってましたぁー」


ったく…。


「…で~。オオダコは来たの?」


眠い目をこすりながら私はロビン…もとい、ロイドに聞いた。まだハーティアも部屋にいるんだろう。甲板に姿が見えない。


「いえ、まだ来ていません。時間的にはそろそろだとは思います」

「ふーん」


まさか来ないとかっていうオチはないでしょうね…と思って言うのはやめた。このイカに聞いても仕方ない。

来るか来ないかはタコ次第。私たちはあくまで迎撃するのみ。


「あ~あ、まったくこんなトコで足止め食うとはね」

「恐縮です」


ロイドは触手の様な、あの長い手で人間で言うところのこめかみを押さえながらそう言った。この妙に人間くさい姿が面白い。


「すっかり日も傾いたわね」


申し訳なさそうなリアクションをしているロイドを横目に、私は立ち上がって目の前に広がる景色を眺めた。夕日が水平線に沈み行く。

空も海も、遠くに見えるフェインレリアもオレンジ色に輝いている。

綺麗だ。


「知ってます?夕暮れから夜になるくらいまでの時間を“逢魔が時”って言うんですよ」

「いや、知らない…」

「そのまんまなんです。“魔物”に“逢う”って。最悪ですよね」


ロイドは面白おかしそうにそんなことを言う。


「…ヒトがせっかく気持ち良さそうに夕暮れの大海原を眺めていたというのに…」


全く雰囲気ぶち壊しである。私的には魔物に逢おうが何だろうが、今この現状が最悪だ。私からしたらこのイカが既に魔物のようなものだし。

確かに船を沈めているオオダコは危険で、私達のような冒険者にしてみたら格好の獲物だろう。でも何が悲しゅうて、イカの援護なんか…。

レナードは失神するし。


「もう!さっさと来なさいよオオダコ!!」

「ヒステリーはよくありませんよ」

「あんたに言われたくないわい!!」


と私がヒステリックに叫んだその時だ。


ごごご~~ん!!


また!船底から突き上げるようなこの揺れ!いや、確かに私も大声出してみっともないとは思うけど!でも、船を揺らして強制的に矯正することないじゃない!私のこの性格は生まれつきなの!!


「ロイド!悪かったわよ!」

「はい?」


二つのくりくりおめめがキョトンとしながらこちらを見ている。


ばが~~ん!!


まただ。船員たちが慌しく動き始めた。

でもロイドじゃない?


「ロイド!船底見て!!」


私は目の前のイカに指示を出す。同時に手元にある弓と矢を手に取って構える。嫌な予感が全身を掛け抜ける。

それしかないだろう。ロイドの言う、オオダコの仕業だ。

一気に緊張が高まる。どんなふざけた仕事だって、戦いが絡むと真剣にならざるを得ない。


ばごご~~ん!!

どご~~ん!!


船底で何か大きな衝撃が走った。ロイドとオオダコが戦っているのか。

その衝撃が走るたびに、船は縦に横に大きく揺られてる。

荷物満載なので喫水も深く、沈まないとは思うけど…少し不安だ。


「レオナ!」


部屋から勢い良く出てきたのはハーティアだ。麻の黒いズボンの上に同じ色をしたTシャツを着て、さらにその上にベージュのローブを羽織っている。

流石にあの衝撃では気付かないわけがない。


「イカは!?」


ああ、そうだ。ハーティアはあの大王イカの名前を知らないんだっけ…って悠長にそんなことを考えている暇はない。


「船の下!」

「戦ってる、のか」

「多分!」


…私達は神経を尖らせて辺りの気配を探った。

一転、衝撃が止んだ。船への影響を考えてロイドが配慮したのか、海底でやりあっているのだろう。


ばっしゃああん!!


右舷で大きな水柱が上がる。同時に三角の白い頭が見えた。ロイドだ。その正面に丸くて赤い物体が見えた。

おおう…あれがオオダコ…ってかなり大きいよアレも…。

ロイドが触手のような手で大きく弧を描き、思い切りタコへ叩きつける。私達があんなのを食らったら間違いなく全滅ってくらいの一撃が決まる。

タコもタコでなかなかに強い。流石は“夕闇の悪魔”と呼ばれているだけあって、ロイドと攻撃方法は変わらないものの、複数の足を巧みに操ってロイドを翻弄している。


「ハーティア、援護するわよ!」

「ああ」


私達2人は甲板、なるべく海に近いところから攻撃を加えることにした。

飛距離が出る特製の矢を取り出して、弓に番える。くぅぅ、有効射程ギリギリかな。仮に当たっても、この距離じゃあ威力は期待出来ないかな…。

一瞬戸惑ったものの一気に弓を引き、そのままオオダコの頭目掛け…。


しゅばっ!!


矢を放った。続けざまに矢を出して番える。


うぅ…これまで何度となく危機に晒されて来たけれど、今回はちょっとレベルが違っている気がするよ…。

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