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リメイカーズ  作者: るふ
Remake:1 日常的生活
6/12

[第一部]海産物大戦争?:第五話 - 追加依頼

そう。

そこにいるのは紛れもない“イカ”だ。ただ、それはとんでもなく巨大な、世間一般に言われる“大王イカ”ってヤツ。

さらに、船が傾いている原因もこのイカだ。右舷に現れたイカが船の縁に掴まり、体重(?)を掛けていたからのようだ。

なるほど、こいつか。こいつなんだね。

ふふ…ふふふ…特製の鋼鉄矢で蜂の巣にしてさしあげようかしらオホホホホ。


ここから見えるのは目から上の部分。

とんがり頭に黒いおめめ、そして真夏の太陽の日差しを反射しまくる、てらてらと光る白い肌(?)がまさに『私イカやってます』な感じだ。

コレ一体で何人前のイカの刺身が出来るだろう?倒した後に食べきれるだろうか。そんなことを考えつつ、私はやっとのことでハーティアのいる甲板へたどり着いた。

マスト上にいた船員の何人かが落ちてきたようで、頭にでっかいタンコブを作って呻いていたり、イカを見て気絶している。そんな中、あのオジサマ船長はマストに体を預けたまま気絶しているのが見えた。

屈強な海の男がこんな姿では情けないのだけど、海に飛んで行かなかっただけ運が強烈に良いヒトなのだろう…。


「ハーティア!」

「なんでこんなにでかいイカが…」


寝言で魔法を放つギル爺と一緒に住んでいて、大抵のことには驚かないであろうハーティアも驚いている。

それだけでも一大事ってことだ。


「自己主張の激しいイカだよねぇ!」

「いや、そういう問題じゃないって」


珍しくハーティアに突っ込まれた。


「早く倒してイカ刺しにしようよ!」


私としては二度も痛い思いをさせられているのだ。早いところこのイカを倒して刺身…もそうだし、先へも進みたい。

逸る気持ちを抑えきれず、ハーティアにそう突っかかる。既に鋼鉄矢を出して弓に番えているので、打とうと思えばいつでも打てる。

ただ、イカはそれ以上何かしでかそうとするわけではなく、ただ船に手(?)をかけているだけだった。

…それだけでも十分被害が出てるんだけども。


「まぁ待て、様子が変だ。コイツ…何しに来たんだ?」


ハーティアがイカをみてそう呟く。

様子が変だというより、このシチュエーションが既に変ですケド。


「…」


イカは何かを訴えるような目でこちらを見ている。目がうるうるしてるけど、これは海産物だからなのか。

可愛いようで、気持ち悪いようで…どちらとも言い難い、そんな目だ。


「私の話を聞いてくれますか…」


え?


「…今、何か言った?」


ハーティアにそう聞いてみる。


「…いや?何も?」

「…何か聞こえなかった?」

「ああ、空耳じゃなければ」


………。

顔を見合わせていた私とハーティアは同時に目の前のでっかいイカを見る。


「ちょっとご相談がありまして…」


それまで船を掴んでいた手(?)を離し、イカは急に敬語でしゃべり始めた。

もちろん急に手(?)を離されたもんだから、その反動で船はまた大きく揺れ、船員が何人か海に投げ出される事態になった。何してくれる、このスットコ海産物。

その後、投げ出された船員を救出したのもこのイカだったりするんだけど、海水を浴び、それに驚いて目を覚ました船員たちは、至近距離ででっかいイカを見て再び失神するという事態になっていた。あぁ、阿鼻叫喚とはこのことなのか。

…はぁ…またこういうトラブルに巻き込まれてしまうのね…しくしく。

私は心の中でため息をついて、目の前の惨事を眺めていた。


*****


…一刻ほど経ち、奇跡の復活を遂げた船長に事情を説明した。既に船員は全員救出し終えているので、とりあえず私とハーティアはそのイカの話を聞くことにした。

それまでは船を停めてもらうように頼んで。

ちなみにレナードはまだ部屋で伸びてるはずだ。さっき一回復活したんだけど、でっかいイカを見てまた失神した。

そう。レナードは『イカとタコは大の苦手』って言ってたのだ。ようやく思い出した。そんな彼があんなでっかいイカを見たら…そりゃね。仕方ない。


「で、話っていうのは?」


イスとテーブルを甲板に持ってきて、私とハーティアはそこに座った。

目の前には大王イカが顔?頭?を出している。案外可愛いかもしれない…なんてことを思っている私を知ってか知らずか、ハーティアが話を切り出した。


「実は私、この海域一帯を治めるイカなのですが…最近、どこからともなく現れたオオダコの暴挙に悩んでいまして…」

「ふむふむ」


イカだけじゃなくてタコもいるのかい…一体どうなってるんだ、この海域は。フェインレリアの安全はどこ行った。

そして海域を治めている海産物がいるのも初めて知ったよ。

ここいらは、このでかいイカが領主?らしい。


「それで、たまたま、本当にたまたま通りかかったこの船に助けを求めようと…」

 

ひゅおっ!がっしゃぁぁああん!!!

 

私は思わずその場にあったグラスをイカに向けて投げつけていた。見事命中。狙った的は外さないよ。的がでっかいけどさ。


「いだい!!なにずるんでずが!!??」


イカは本気で抗議して、あの長い手(?)でグラスの当たったところをさすっていた。

あ、痛覚あるんだ。そかそか。


「あんたら海産物同士の問題に、どうして私達が協力しなきゃならないのよ?海産物は海産物で何とかしたらいいじゃない」


テーブルを叩いてそう言う私。そもそもこの船は貨物船であり、荷物を運ぶだけが役目の船。戦闘用の船ではない。

そして私たちはこの貨物船の護衛を任された人間でしかなく、イカだのタコだのホタテだのが諍いを起こしても知ったこっちゃーない。


「いえ…それがですね…。ここいらの海域で最近、船が破壊されたり、沈没が相次いでいるという話は聞いてませんか?」


イカはまだグラスの当たったところをさすりながらそう言った。

どうやら本当に痛かったらしい。


「あぁ。確かに」


とは、船長さん。マストにもたれ掛かって腕を組んで話を聞いていた。海に関係する人たちの間では周知の事実なのかな。

私はそんな話、初耳だ。ハーティアに視線を送るが、彼も首を横に振る。


「ここ十日くらいの間だな。フェインレリア湾の外側で原因不明の破損で出戻りする船や、沈没してしまった船が頻発してるんだ」


私とハーティアが知らない、といったそぶりを見せたからか、船長さんが教えてくれた。それって結構大事なんじゃ…。

でも、ギルドが斡旋する仕事でそんなの見たことがない。ってことは、ギルドに降りてきている仕事ではなくて、王国が直接対応しているのかもしれない。


「ということは、そのオオダコが犯人なのか?」


船長さんがイカに問う。


「はい、私はこの海域を治めている大王イカですが、平和主義者ということもあり、彼の横暴には困っているのです」

「…平和主義者ね」


急にしょぼくれる大王イカ。喜怒哀楽と自己主張の激しい海産物だこと。

苦笑しながら私が呟くが、船長さんはうんうんと頷いていた。何に納得してるんだ、何に。私は全く納得するポイントを見つけられてないんだけども。


「で?俺たちにどうして欲しいんだ?」


ハーティアも同じく苦笑しながらイカに質問する。

返ってくる答えはある程度予想出来るのだけど…。


「そのオオダコを追い払って欲しいのですが…そこまでは流石に心苦しいので、援護をお願いしたいのです」

「援護ったって…いったい誰が追い払う役をするのよ?」


あんた平和主義者でしょ。と言いかけて止める。


「いや、そりゃ私です。この海域を治めるものとしてはやらなければならないでしょうし」


責任感があるように聞こえるけど、妙にやる気満々だなぁこのイカ。平和主義者じゃなかったっけ?

ひとまず仮にイカを手伝うにしても、問題は戦力の中核であるレナードが使えないってことかなぁ。仲間がイカで、敵がタコ…あーダメだダメだ。レナードは絶対使えない。失神しすぎてそのうち死んでしまう。

そして、それ以上に越えられない問題もある。


「とりあえず話は分かったわよ。でも今私達は…」

「別件で依頼を受けている最中だからねー。多重契約は御法度なんだよ」


ハーティアが続ける。

そう。冒険者は複数の仕事をいっぺんに引き受けることは出来ない。個人ないしパーティーごとの依頼者は一人もしくは一団体までと決められているからだ。同時に二人以上から受け、どれかが疎かにならないように基本事項として決められている。仮にこのルールを破ると、以降ギルドへの出入り禁止を食らってしまうので、事実上廃業せざるを得ない。

なので私達はイカからの依頼を受けられないことになる。


「うぅ…困りましたね…」


イカは腕(?)を組んでうーんと唸る。いちいち人間くさいなぁ。


「じゃあ、こうするのはどうだ」


と船長さんが提案したのはこう。

私達がイカからの依頼は受けられないのは今言ったとおりだけど、現在受任中の依頼人から追加依頼なら問題はない。なので、船長さんが私達に『オオダコからの護衛依頼』を追加するというわけだ。

なるほど、これならばとりあえずの多重契約問題は回避できる。仕事を受ける側は追加分に見合う報酬を上乗せして請求出来る仕組みになっているが、もちろん今回の待遇を踏まえてこれ以上船長さんに請求するつもりは一切ない。このあたりの海域の平和を取り戻したとあれば、これから護衛関係の仕事が増えるかもしれない。


「私達はそれで構いませんけど」


そう言いながらハーティアを見る。彼は特に何も言わず頷いた。

同じ事を考えたようだ。本来はパーティーリーダーの立ち位置にいるレナードに意見を聞くべきだけど、イカが目の前では以下略。

ってことで。


「じゃあ決まりですね。ありがとうございます」


急に明るい声色になったイカが両手(?)で万歳をしている。だからいちいち人間くさいんだって。

しかし…。


「ところで、仮に私達があんたから直接依頼を受けてたとしたら、報酬は何にするつもりだったの?」


興味があったので聞いてみる。イカがどんな報酬を用意しているのか。


「この海域での永住権です。オススメのステキな岩礁もあるんですよ?」


待ってましたと言わんばかりに、誇らしげな声色でイカはそう言った。これ以上は出ないよお客さん!と言わんばかりに。

が―――――


ひゅおっ!ばっしゃーん!!


それは、私が座っていたイスをイカに投げつけ、イスが木っ端微塵に砕け散る音だった。ダメだ、この先が思いやられる…!

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