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リメイカーズ  作者: るふ
Remake:1 日常的生活
5/12

[第一部]海産物大戦争?:第四話 - 巻き込まれ度200%

「ん…」


寝返りを打つのとほぼ同時に目が覚めた。

丸窓から差し込む光がちょうど私の顔に当たり、眩しさを感じる。軽いデジャヴを感じながら、


「ふぁ~」


むくりと起きて、大きな欠伸を一回。

動き始めたばかりの、ぼーっとした頭を動かしながら、これまでを思い出す。…あー、どうやらしっかり寝てしまったようだ。

隣を見ると、まだレナードは夢の中。流石に突っ伏したままではなく、仰向けに…鞘に納まったままのロングソードが抱き枕代わりなのか、大事そうに抱えながら眠っている。流石は一流の剣士。


「あり?ハーティアは…」


それに対する返事はない。

私が眠ってしまう直前まで、ハーティアはそこのテーブルであの分厚い本を読んでいたはずなのだけど、いないのだ。

ベッドに倒れて寝てしまったレナードを放って、ハーティアと出航後の予定を話していたのだけども、あまりにハーティアが真剣に本を読み進めるものだから話し相手がいなくなって…。そうだ、それで寝ちゃったんだ。

テーブルの上には閉じられた分厚い本が二冊、重ねて置かれている。

どこ行ったんだろう?


「よっと!」


ベッドから跳ね起きて、私はドアを開けて部屋の外に出た。


部屋の中よりも眩しい光が私を出迎える。船は既にフェインレリア港を出港しており、湾内航行中だった。大きく広げられた十四枚の帆は十二分に風を纏い、この大きく立派な貨物船を力強く押し進めている。

進航方向の反対を見ると、遠くにフェインレリアの街並みと王城が見える。この距離からすると、外海に出るまでにはまだかかりそうだ。

護衛体制を敷くにはまだ早い。

概ね海賊が出るのは外海。それもある程度エリアが決まっていると事前にハーティアから聞いているし、ここはまだフェインレリア領の湾内だ。


辺りには船が波を切る音と、周りを飛び交うカモメの声が響く。

私たちの部屋はちょうど貨物船の中央付近に位置していて、ドアを開けるとすぐ目の前が海。良く見るとトビウオも一緒に跳ね泳いでいる。

あぁ…平和だねぇ。ホント。

寝起きの身体を起こすべく、一度大きな伸びをして私は甲板へ向かった。


*****


「ああ、起きたかい?」


そこで私を出迎えてくれたのが例の船長だった。船の設備を点検しているらしい。私が寝ていたのを知っていたけど、ハーティアに聞いたのだろうか。


「ごめんなさい、いきなり寝ちゃって」

「いいさ、外海に出るまでまだ二刻ほどあるしな」


船長さんは海の男らしい笑いを浮かべると、そのまま『作業があるんでな』と言い残し、船の後方へ向かった。

船長というのも大変なんだろう。それなりに船員がいるにしても、船一つを任されているわけだ。仕事は多岐にわたるのだろう。

ふと、王様にこの船長の姿を見て欲しいと思った。あの王様は暇つぶしのために誰彼構わず謁見をして世間話をしているわけで…。


「ふー。気持ちいー」


海風が身体を包み込む。真夏の太陽は暑すぎるけれど、この風があれば心地良い。

輝く水面、波を切る音、澄み切った青空、心地よい風、飛び跳ねるトビウオ、自由に飛び回るカモメ…そして船首で黄昏ているハーティア。


え?

あの人何してんの?


「ハーティア…」


小走りで近付きながら、私は左足を船首に上げ、さらに手を腰に当てながら進航方向を見やる…たぶんカッコつけているつもりのハーティアの名をを呼んだ。

勇猛果敢な海の男のつもりだろうか。


「ん?」


ヤツは何事もなかったかのように振り返る。少しは恥ずかしそうな顔とかして欲しかった。


「…何してんの?こんなトコで」

「いや、どこからか凶悪なモンスターが出てこないかな~って」


そういうハーティアは少し恥ずかしそうな顔をした。なぜ。


「…何で」

「せっかく新しい魔法覚えたから使いたくてさ」

「アァソウデスカ…」


苦笑しながらハーティアに相槌を打った。

私は出来ることなら何もなく終わって欲しい所存である。

魔法を使わなきゃならないような相手が出てきたらそれこそ困るし、とんでもない荷物がごまんと積まれてるわけだよキミ。

積荷に何かあっては私達の稼ぎじゃ弁償しきれんのだよキミ。

それに覚えたての魔法って…ハーティアのことだ、上手く発動するのかも疑問なんだよね…前例あるし…。


まぁ、そんな彼の希望は叶わないだろう。まだここはフェインレリアの湾内だし、この辺りは定期的に王家の近衛兵が掃海任務に就いているので、海賊が近づくこともなければモンスターの襲来もないはず。


「んー…何かあるにしても、まだまだ先じゃないかなぁ。外海に出るまでまだ二刻あるみたいだし」

「フェインレリアの湾内だからなー」

「何も起こらずに終わるのが一番じゃない」

「確かに」


意地悪するつもりはない。だけどコレが事実だ。

護衛任務は本当に疲れる。貨物船の護衛は過去に数回やっているけれど、警戒エリアを航行している間は休みなしが基本。交代制で見張りに付くことになる。

実際に海賊船に襲われたこともあったけれど、地上と違って自由が利かない場所なだけに、戦闘も神経をすり減らす。

だから、何も起こらずに終わるのが一番なのよ。


「今はゆっくりしましょ」

「そだな」


ハーティアも同意した。待機も仕事のうちだ。

が。


どご~~ん!!

 

それまで安定して航行していた船が、謎の爆発音と同時に突如大きく揺れた。

マストの上にいた船員たちも何事かと辺りを窺うより先に、身の安全を確保するのに精一杯なようで、方々から叫び声しか聞こえてこなかった。


「な…!なに!?」


ハーティアがよろけて倒れそうになる。

あぁぁぁぁもう。またか。毎度のコトながら、この“トラブルに巻き込まれます200%”っぷり。そろそろ卒業させて欲しいわ。


爆発音は船の近く。周囲を見渡すが海賊が出てきたわけじゃあないようだ。周りに航行中の船は一隻も見あたらない。

遠方からの射撃にしても、それらしい影は見あたらない。いったい何事なのだろう。


ずーん!!


重低音と共に揺れ続ける船。


「ど…どうした!?」


さっき後ろへ消えた船長も、焦りの色を当社比20%増量中な顔で困っていた。平和から一転、危機だ。


「それが」


ハーティアが困っている。原因不明なのだ。


「…何だ何だ!?海賊のお出ましかっ!?」


寝起きで髪の毛がハネてるレナードも、ロングソード片手に部屋から出てきた。


ぼ~ん!!


「いったい何…!」


船の上は混乱状態だった。私もしかり。周囲に原因らしいものが見えないのに、爆発音と揺れが治まらない。


ばす~~ん!!


再び大きく揺られる船。沈むほどじゃあないけど結構強い衝撃が加わり、積荷が心配になる。


「ほ…帆を全て畳め!!船を停める!」


船長さんが大声で悲鳴を上げ続ける船員たちに指示を出す。

 

ぼ~~ん!!

 

「だれよぉぉお!!」


私は海に向かって大声で叫んだ。他に船がいるでもない、海の上は穏やかであり、この船だけが揺れているのだから。何かがこの船に何かを仕掛けているとしか思えない。

ふと、フェインレリアの所有する魔砲台からの誤認攻撃と考えたけど、ここはすでに王都が所有する砲台の射程範囲外。

それに出航したり、王都に停泊するには役所に届出をしなきゃダメなはずだし、無断出航でないから攻撃されるような理由はないハズ。

だとしたら…一体何でこんなことになるワケ?

やっぱし野良モンスターの襲撃?

ああ~!もう!!


「ここお願い!」


私はレナードにそう言い残して部屋へ戻る。万が一に備えて矢入れと弓を用意しなければ。

まったく人がせっかく良い気持ちで航海をエンジョイしてたっていうのに…。絶対に許さない!

矢筒を確かめ、弓の弦の張り具合を一応チェック。グローブを着け、矢入れを肩に掛け、弓を持って…。


「よしっ!おっけいっ!!」


気合十分!

体力十分!

戦闘体制も完璧!

どっからでも来なさい、躾のなってない野良モンスター!!


ず~ん!


船が揺れ、すっ転んで肘を打った。


「いだだだ…」


絶対に、絶対に許さん。オナゴの身体に傷を付けようなど、あってはならない。

私は痛みに耐えながら起き上がり、一人で盛り上がるだけ盛り上がったあと、私は部屋を出ようとドアの前へ移動したその時だった。


ごごごごごごごごご……


低い音と共に船が……?傾いてる!?


「うそぉ!きゃああああ!!」


船はドアと反対の方向…進航方向右を下にして傾いた。私はというと、その傾斜に耐えきれず宙を舞い、逆側の壁に体を思いっきり打ちつけた。

机もハーティアの本も壁にぶつかって、部屋の中は酷い有様になっている。


「…ぐぅ…ぅ…。痛ったーぁ……」


涙目で背中をさする。痛くて起き上がれない。

なおも傾いたままの船。一体何が起きている?


「…ったくもう!!」


何事が起きているのか分からない不安はある。でも、何が起きているのか確かめなきゃならない。

痛みに耐えながら床にへばり付き、やっとドアまで辿り着く。傾斜が急過ぎる…どれだけ傾いているんだって話なのだけど、気を抜いたらまた壁に飛んでいってしまう。

慎重に…慎重にドアノブへ手をかけて開けようとしたその時!

ドアが勝手に開いた!!


「!?…え?…れ…レナード!?」


逆光で良く分からなかったけれど、そのシルエットはまさしくレナードそのもの。彼はそのままこちら側へ…えっ!?倒れてくる!?

私は瞬時に身体を反らし、倒れ込んでくるレナードを回避した。


どがっしゃーーーん!!


彼はそのままハーティアの本が置かれていたテーブル(壁に激突して大破)へと突っ込む。テーブルの脚っぽいそれは木っ端微塵。

うん、何度も言うけどそれだけ傾斜が急ってことなんだけど…彼は口から泡を吹いて倒れていた。

とりあえず伸びているレナードは無視して、私は部屋から出て甲板に向かう。気を抜いたら…今度は壁ではなく海へ落ちてしまうだろう。

部屋の外壁にもたれ掛かりつつ、ちらりと甲板を見やった私は、そこにいたものに腰を抜かしそうになった。


「い…イカ!?」

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