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小さい魔王(?)と女の子好きの勇者(?)

作者: カイン

長いので、読むのが辛いかもです。

あ、あと派手な戦闘シーンは期待しないで下さい。

それは、城の地下で密かに行われていた。

地面に描かれたのは複雑怪奇な魔方陣。その周りには等間隔に立った、黒い服を纏った魔術師が六人。

「・・・よし、これでいいんだな?もし間違っていた場合は、そなたも覚悟せよ、神官」

若い青年が傍らの男に尋ねる。両名、地下の闇にまぎれるような黒い衣装を身に着けている。

「承知しております。しかし、大丈夫でございます。必ずや成功させ、この地に魔王の降臨を」

「頼んだぞ」

その言葉に頷き、神官と呼ばれた男は魔方陣を見つめた。その手が上げられるのを合図に、彼の部下達が詠唱に入る。

怪しげな呪文は朗々と響き、壁に反射した。

その詠唱が始まり、中ほどまで来ると、魔方陣の中央に闇の塊ができ始めた。進めば進むほど、大きくなっていく。

そして、最後に近づいた頃には、人が一人、余裕で通れるような闇の塊になっていた。喜びと期待で、青年は見入っていた。

そして、最後の一言を六人が言い終わった途端。

その塊が一気に収束し、静かに爆発した。いや、拡散した、というほうが正しいかもしれない。

どちらにせよ、全員の視界が一瞬奪われた。

そして、青年が魔方陣の中央に目を向けると、そこには一人の人影が立っていた。

しかし。

「・・・えーと・・・」

一旦目をこすり、もう一回見る。

どう見ても、魔王と思われる人影は、自分より小さかった。声変わりのしていない、少し高めの声がする。

「・・・えっと・・・?ここは、どこ・・・?」

「え・・・と・・・魔王様、ですか?」

「え?魔王?僕が?・・・あなた、頭大丈夫ですか?」

明かりがつけられ、一気に明るくなる。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

目の前にいるのは、どう見ても自分より小さい少女。見たことのない奇妙な服を着ているが、とても可愛らしい。

思わず青年は神官に詰め寄った。

「神官!これはどういうことだ!?どう見ても少女ではないか!」

「わかりませぬ!し、しかし、この魔方陣で呼び出せるのは魔王のみです!たとえ、形は小さくとも魔王のはずです!」

彼等は気づくべきだった。

『少女』や『小さい』と言われるたびに、少女が反応していることを。自分等が、龍の逆鱗に触れてしまっていることを。

「魔王!?十やそこらの魔王!?何かの間違いでは!?」

「きっと魔王が転生した姿です!小さかろうと魔力はかなりあるはず!」

「そんな馬鹿なことがあるのものか!今すぐやり直せ!」

「しかし、魔力が足りませぬ!」

「なんだと!?こんなのが出てこなければ・・・!?」

すさまじい怒気に、青年は台詞を途中で飲み込んだ。

その発信源は、魔王と思われる少女。皆、その怒気に呑まれ動けなかった。

「・・・だぁれが小さいだって?」

さっきとは違う、低めの迫力のある声に青年は無意識に後ずさった。

もごもごと言い訳がましい言葉を言おうとする。

「え、いや、その・・・」

「誰が子供でチビで豆でガキで女だとぉ!?」

「そんなことまでは言ってな」ズガァン!「!?」

青年の言葉は轟音にさえぎられた。見ると少女のいる床が砕けている。少女の拳によって。

「てめぇの頭もこうしてやろうか・・・?」

「申し訳ございませんでしたっ!」

皆、急いでその場にひれ伏した。

青年は、いや、その場にいた全員が心の奥底からわかった。

少女は紛れもなく魔王であり、絶対に逆らってはいけない存在なのだと。




同じ頃。

別の場所で、同じようなことが行われていた。

こちらは地下ではなく高い塔の上。

六人の白い聖術師に、魔方陣。そしてその近くには可愛らしい少女と、神官の姿。両名、白い服を着ている。

「・・・ねぇ、これでいいのよね?間違ってたら困るのよ?」

「大丈夫でございますとも。勇者は必ずこの場に降臨し、姫様を助けてくださるでしょう」

こちらもどこかで聞いたことのあるような会話をして、詠唱に入る。

こちらに集まったのは光。そして、爆発ないし拡散が起こり、中央には人影。

「ああ・・・!来てくださったのね、勇者様が!」

「えっと・・・ここはどこかな?」

辺りを見回す勇者に、彼女は喜びの笑顔を浮かべながら駆け寄った。

「勇者様!お会いしとうございました!」

「君は誰かな?可愛らしい姫君」

青年は少女に笑いかけた。整った顔つきの彼に微笑まれ、少女は頬をかすかに染めながら微笑した。

「ここは城の近くの塔でございますわ、勇者様」

「そうか。お城、ね・・・勇者ということは、魔王を倒さなきゃいけないのかい?」

「ええ、そうですわ!勇者様は聡明でいらっしゃるのね・・・!」

尊敬の目を向けられ、青年は苦笑した。定番だのベタだのは言わないでおこうと思いながら。

「・・・しかし、困ったなぁ・・・姫君よ、残念ながら私にも予定というものがあるのです。可愛らしいあなたと別れるのはとても辛いのですが、どうか、私を元の世界に戻してくださいませんか?」

辛そうな顔をしながら懇願され、少女はうろたえた。

「そ、そんな・・・!・・・えっと、えっと・・・!ああ、そうよ!魔王を倒さなきゃ帰れないわ!魔王が帰り道をふさいでしまってるもの!」

「そうか、それは困ったな・・・」

少女が口ごもったのを不思議に思ったものの口には出さず、青年は頷いた。

「で、反則や裏ワザ・・・じゃなかった、何か能力的なものはないんですか?」

「能力?魔術は使えませんが、聖術は使えるのではないですか?魔術は魔王が使うものゆえ・・・」

「じゃあ、その聖術はどうすれば使えるのです?」

「それが・・・聖術は何十年も修行をつまなければ無理なのです・・・」

(っていうことは、ここの世界の剣とか武器が使えるようになるまでしばらくは無力、か・・・ああー、もう、漫画とかだったら反則ワザ的な能力とかがついてくるのになぁ。現実はそこまで甘くないってことか・・・)

「では、武器庫を見せてもらっても?何か武器を・・・」

「ああ、そういえば聖剣がございます!渡すのをすっかり忘れておりましたわ」

(忘れてた・・・?うわぁ、なんつー適当な・・・・・・い、いや、まぁ、武器が決まってるだけマシかも!あとは出発日まで練習すればなんとかなるし!)

少女が目で合図すると、数人の下女が大きな剣を持ってきた。それを見て、青年は引きつりそうになる笑顔を必死で防いだ。

柄には大きな青い宝石が埋め込まれており、鞘には白や金の装飾が施され、優美な中に勇敢さやたくましさが見える。おそらく相当な腕の職人が作った物であろうことは容易に想像できた。

しかし。

どう見ても、大きな問題点があった。それは、大きさである。

どう見ても自分と同じような大きさである。こんなもの、振り回すどころか背負っているだけでもきついだろう。

(こんなん使えるかーーー!!!練習とか言ってられない!無理無理無理!絶対筋肉痛で死ぬって!)

しかし、少女に期待や喜びが混ざった目で見つめられると断りづらい。

「さ、どうぞ、勇者様」

「は、はは・・・どうも・・・」

柄の部分を握る。その途端、青い宝石が光った。

「ああっ!」

「!?」

少女の声に何か問題を起こしてしまったのかと慌てる。しかし、少女は喜色満面の笑みでこちらを見上げてきた。

「おめでとうございます!これで勇者様は聖剣の持ち主となられましたわ!」

(問題があったわけじゃないのかよ!紛らわしいな、おい!)

「ん?思ってたより・・・っていうか、凄く軽い・・・?」

「その聖剣は言わば勇者様の一部!好きなように重さも形も変えられますわ!」

「ああ、説明ありがとう。ってことは・・・」

青年は目を瞑り、イメージした。手の中で柄の感触が馴染んだ物へ変わっていく。

目を開けると、手の中には一本のレイピアがあった。

「よかったぁ。これだよ、これ!これで練習とかしなくていいな!」

思っていた以上のできばえに喜びを隠せない。

「・・・あの、勇者様。なんですの、その細っこい剣は・・・?」

「ああ、レイピアっていって、私の相棒なんですよ」

「こんなのが使えるんですか?」

「使えますよ。大丈夫です」

あの、似ているだけでいつも使っているレイピアではないことは理解できるのだが、どうも愛着がわいてきてしまう。

「あ、そういえば、勇者様。お名前をお聞かせ下さいな」

「ああ、名前ですか?そうですねぇ・・・リュウとでも呼んで下さい」

そう言って、青年はにっこり笑いかけた。

その笑顔に少女が見とれるのを肌で感じながら、リュウは考えていた。

(ああ・・・早く帰ってミカヅキと再会したい・・・)




時を少し戻す。

魔王である少女の目の前には様々な料理が並んでいた。

「どうぞ、お食べ下さい。魔王様」

青年が跪く。跪かれている少女は居心地が悪そうに身動ぎした。

「? どうしましたか、魔王様。まさか椅子のすわり心地が!?すぐさま他の椅子の手配を・・・!」

「いやいやいや、違うんです!大丈夫ですから!」

「そうですか?なら・・・まさか料理が口に合いませんでしたか!?今すぐ作り直しを・・・!」

「わー!違います!おいしそうですから!食べますから!」

慌てて近くのスープに手を伸ばす。そして一口食べてみる。

「あ、おいし・・・」

「そうですか!それは良かった」

青年が笑顔を浮かべる。さっきまでは怯えていたのに、禁句を言わなければ大丈夫だと分かったら安心したらしい。

しかし、畏敬の念はあまり変わっておらず、とても親切にしてくれる。

(リンにも食べさせてあげたい・・・ていうか、リン、どうしているかなぁ・・・早く元の世界に

帰りたいよ・・・)

「先ほどまでは大変失礼をいたしました・・・まさか男だったとは・・・」

青年は恥ずかしそうにうつむいた。だから怒っていたとも納得できたのだが。

そう、魔王として召喚されたのは少女ではなく、少年だったのだ。

お互い、少年が落ち着いてから自己紹介をしていた。

少年の名前はミツアキ、青年はイブリースといい、この魔族の国の王子らしい。

「それで、お食事中ですが・・・話をさせてもらってもかまいませんか?」

「え?ああ、どうぞ。話って、なんですか?」

「実は・・・魔王様に、我々を救ってほしいのです」

「・・・・・・・・・えーと?話が見えないのですが・・・」

(魔王っていうのは普通何かを滅ぼすもので、救うものじゃないよなぁ?あ、でも、魔物とかから見れば救世主か・・・)

イブリースは恥じるような暗い顔を俯かせた。

「実は、魔王様の御耳にいれるのはとても心苦しく、恥ずかしいのですが・・・」

「あの!もっとフレンドリーにいきましょうよ。せめて魔王様はやめてください・・・」

「そ、そうですか。えぇっと、ではミツアキさ・・・んに救ってほしいのです。我々を。実は、勇者が来るのです、我々を滅ぼしに。情けない限りですが、我々には勝てるような相手ではありません。なので、まお・・・ミツアキさんを呼んだのです」

「なるほど。でも、そんな力が僕にありますかねぇ・・・?」

「大丈夫です!勇者というのはあなたのように異世界から呼び出すのですが、厄介なのは勇者の持つ聖剣なのです。あれには、一つを除いて武器も何もききません。対抗できるのは魔剣のみ。しかし、この魔剣を扱えるのは魔王だけなのです。わかっていただけたでしょうか?」

「僕に魔剣を扱えと・・・?でも、ほんとに勝てるでしょうか・・・」

「我々が全力でサポートいたします!いえ、いざという時は我々が盾に!」

慌ててミツアキは首を横に振った。そんな風になってしまったら目覚めが悪い。

「いやいやいや!いいですから!そうじゃなくて、僕のいた世界では、勇者と聖剣が揃ったら魔王は必ずやられてしまう役柄でしたから。勇者かぁ・・・もしかして僕と同じ世界の人なのかな」

「どちらにせよ、敵です。協力、してもらえますか・・・?」

(・・・殺さなくても、止めればいいよ、ね・・・?まさか殺せなんていわないと思うし・・・)

「・・・わかりました。僕が協力を断ったせいで魔族の方々が滅んだら目覚めが悪いですもん・・・あの、魔剣って見せてもらえますか?」

「少々お待ち下さい。おい!あれをすぐにこの場へ!扱いには気をつけよ!」

しばらくすると、数名が剣を捧げ持ってきた。

ミツアキは勇者と似たような反応をした。顔を引きつらせたのだ。

黒い柄には赤い宝石、鞘には細かい装飾がなされている。

だが。

やはり、こちらも大きさに問題があった。

少年よりも大きいのだ。

「無理です無理!もてませんよあんなもの!」

「大丈夫です。この剣は言わばあなたの下僕。好きなように形状も重さも変えられますゆえ」

「そ、そうなんですか?なら・・・」

宝石が光り、形状を変え始める。そして、少年の手には一本の日本刀が生まれていた。そのできばえに少年は感嘆のため息をついた。

「この世界でこれと会えるとは・・・素晴らしい」

「変わった形状ですね。こんなに細くて切れるんですか?」

「大丈夫。これは僕の相棒ですから」

ミツアキはイブリースに笑顔を向けた。初めてこの世界で安心することができたその笑顔は、イブリース達が見とれるほどに美しかった。




「姫君、私はいつ行けばいいのですか?魔王の場所へ」

「行かなくていいわよ?」「・・・・・・・・・はい?」

きょとんと姫を見る。そんなリュウの反応を見て、姫は面白そうに微笑んだ。

「だって、もう決戦の日は決まってるもの」

「・・・え?そうなんですか?」

「ええ、その決戦で勝ってくれればいいのよ!簡単でしょ?」

「・・・えーと、いつからそんなことが決まってたんです?」

「あなたが来る前からよ?」

「魔物とかの被害とかが出てるわけじゃないんですか?」

すると、今度は姫がきょとんとした。

「魔物?なぁに、それは?魔族なら敵だけど・・・そんなものは出ていませんわ?」

「・・・あー。そう、ですか」

(・・・あれ、なんか予想と違う・・・?魔物とかに可愛い女の子や綺麗なお姉さんが怖がったり被害受けるのが嫌だったから引き受けたんだけど・・・?ああ、うん、男はどうでもいい。どんだけいなくなろうが構わない。例外はいるけど。でも、え、何、被害ねぇの?じゃ、俺的にはどうでも・・・あ、でも、戦争があるのか。可愛い女の子や綺麗なお姉さんに被害あったら困るな~。しゃーない、それが終わるまでいるか・・・居心地は、まぁ、悪くないな。女の子を毎日見れるし、口説けるし・・・あー、でも、ミカヅキには会いたいな~・・・)

「勇者様、何を考えられてるのです?」

「え?!あ、いや、ちょっと思い出してただけですよ!」

「幸せな顔をしてましたわ。誰か好きな人のことでも思い出しておられたの?」

冗談のように言ってきたが、リュウはそれをわかりながらも大真面目に答えた。

「ええ、そうです。大好きな人でした。ですから、一刻も早く帰りたいのです」

「・・・そう」

姫がふくれっつらをするが、それだけは譲れない。ミカヅキのことだけは。

ミカヅキは、自分が愛する人なのだ。世界で一番と言っても過言ではない。

姫が機嫌を損ねたので、茶会はお開きとなったので、戦う相手である魔族とやらを調べることにした。

ちょうど、メイドが通りかかったので呼び止める。

「そこの美しいお嬢さん。少し、手を貸してもらえますか?」

彼女はこちらの顔に一瞬見とれながら夢見心地で頷く。にっこりと笑顔を浮かべながらリュウは言葉を並べ立てる。

「綺麗な白いあなたの手を煩わせ、聡明なあなたに迷惑をかけてしまって申し訳ないが・・・」

「いえ!勇者様の頼みですもの!なんでも言ってください!」

「そうですか?慈悲深いあなたの優しさに感謝します。あの、魔族について知りたいのですが、どこに行けばいいんでしょうか?」

「ああ、それなら書庫が一番ですよ」

結局そのメイドは書庫に案内してくれるだけではなく、どこの棚にあるかまで教えてくれた。

彼女が去っていくのを笑顔で見送ってから、適当に抜き出した本を読む。

(何々・・・魔族とは、魔術を使う者達の総称・・・魔王は召喚される・・・?ってことは、もう一人俺と同じように召喚されたのか?うっわー、会ってみたいな~・・・)

脱線しながら読み進めると、一つの文が目に入った。思わず二度見する。

(あれ?おい、ちょっと待てよ?なんだよ、これ・・・これも、これにも・・・どういうことだ・・・?)

他の本にも同じような文を見つけ、唖然としたがすぐにリュウは他の文献をあさり始めた。

書士に言い、最近の物流の記録や色々な書物を読み漁る。

そして、ある一つの可能性にたどりつき、リュウは呆れた。

(・・・馬鹿馬鹿しい。俺がいる意味ねぇじゃん!なんだよ、これ。完璧に道化じゃねぇか、あほらしい)

一つの仮定を頭に記憶し、色々な人(女性)に聞いてまわり、確信を得、リュウは帰る決意をした。

あまりにも馬鹿馬鹿しくて、すぐに帰りたくなったのだ。

リュウはイラつきを抑え、笑顔を浮かべながら姫の元に向かった。




城の訓練場。そこで、ミツアキは兵士の一人と向き合っていた。

ミツアキは日本刀、兵士は何の変哲も無い剣。兵士は剣を構えているがミツアキは日本刀をぶらさげたままだ。

ミツアキが一歩を踏み出すと警戒しているのか兵士は一歩下がり、一歩下がると一歩踏み出す。

「・・・行きますよ?」

無造作にミツアキは近づいていった。隙を見て、兵士がすばやく上段から切りかかるがすぐにはじかれる。驚く間もないまま、日本刀が首筋にそえられていた。

「・・・降参です」

「ありがとうございました」

「いえ、お手合わせできて光栄です」

お互い礼をすると、見ていたイブリースが拍手をした。

「すばらしい!さすがはミツアキさん!これなら勇者も恐れることはない!」

賛辞するイブリースを見て、ふと疑問に思いミツアキはたずねた。

「そういえば、どうして勇者が来るとわかったんです?」

ぴたっと、イブリースの動きが止まる。そのままぎこちない動きでこちらを向いた。

「えーと・・・」

うろうろと目がさまよっている。嘘をつくのが苦手なんだろう。後ろ暗いことがあるのが見え見えだ。

「・・・あちらの国に、間者が、おりまして・・・」

「それ、僕の目を見ながら言ってくれます?」

「・・・・・・・・・嘘ですごめんなさい」

「でしょうね」

跪かれるが、すぐに立ち上がらせると不思議そうに聞いてきた。

「・・・あの、もしかしてミツアキさんは心の中がのぞけるのでしょうか?嘘をついたのがすぐわかったでしょう?」

「いや、さっきのを見れば誰だってわかりますって」

苦笑しながらイブリースを見上げた。

「で、どうしてわかったんです?」

「・・・実は、一週間後に決戦があるのはご存知ですよね?」

「ええ、知っています」

「それは人間の王女と決めたものなのです」

「考えたら結構間抜けですよね~。この日に戦いましょうっていう約束するなんて」

「・・・確かに・・・」

目から鱗が落ちたような顔で驚かれ、ミツアキは呆れながらも話の続きを促した。

「その、ですね・・・あのー、そのー・・・実は・・・えっと・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・んか、なんです」

「はい?」

「原因は、喧嘩、なんです・・・」




「あら、勇者様、どうなさっ・・・」

「これはどういうことですかねぇ、姫様?」

姫の言葉をさえぎり一枚の紙を出した。それを見て、姫の笑顔が固まる。

「・・・どうして、魔王に攻められるはずの国が魔族の国と貿易なんかやってるんですか?しかも、それは今でも続いていて、ごく最近まで頻繁に姫様も遊びに行ってるとはどーいうことです?」

「え!?ど、どこからそれを、じゃなくて!な、なんのことかしらっ!」

「嘘が見え見えです。ついでに言うと、私は今怒ってます。早く言わないとさすがに切れますよ?いくら可愛らしいあなたのしたことでも限度、というのがあります」

「・・・・・・・・・」

「ほぅ、あくまでも口を閉ざしますか。ならば、一つ、私の仮定を聞いていただきましょうか」

「え?」

「この国は昔から魔族と良好な関係を結んでいた。その証拠はこの貿易の記録からもわかります。しかも、聞いたところによると姫様は最近まで魔族の王子と婚約をしていたとか・・・何か仰りたいことがおありですか?」

「・・・・・・・・・」

「で、ここからは仮定なんですが・・・姫様、この王子と喧嘩したんじゃないですか?」

ぎくっとした顔を姫はしてからすぐにつくろい、素知らぬフリをしたが遅い。

「どうせ下らないものなのでしょうが・・・そしてお互い決戦とは・・・」

「だって!イブが浮気を・・・!・・・あ!」

呆れた顔でリュウはこめかみを揉んだ。

「ほぅほぅ・・・で?」

「・・・・・・・・・」

「今更黙ったって遅いんですよ、姫様。言わないんだったらさすがの私でも怒りますよ?そうですねぇ、一番高い塔に逆さづりにしてさしあげましょうか?それとも、一番暗くてじめじめした地下牢に閉じ込めましょうか。ああ、確か姫様は幽霊の類が大の苦手でしたね。幽霊が出るという森にでも連れて行ってあげましょうか・・・最後にもう一度だけ言います。話してください」

リュウは笑顔である。しかし、その怒りを感じ、姫の意地は折れた。

「ご、ごめんなさい・・・!」

「わかっていただけたなら結構です」

「・・・そもそも、イブが浮気したのが最初なの・・・!」




「姫は・・・あ、レリィと私は呼んでるんですが・・・レリィは私が浮気をしたと思い込みこの城へ怒鳴り込んできたのです。その時私は政務が溜まっていて忙しく、不機嫌だったものですから・・・」

「邪険にしちゃったわけだ」

「はい・・・その後、姫が男を集めているという話を聞き、是非を問いただしたら、婚約破棄とともに決戦するよう記してある書状がきたのです。勇者を呼んで我ら魔族を滅ぼすとも書いてありました。なのでミツアキさんを呼んだのです」

「なるほど・・・」




「イブが浮気しなきゃこんなことには・・・!」

「そもそも本当に浮気していたかどうかも怪しいですけどね。それに姫様だって誤解させるようなことしてますし・・・」

「私は何もしてないわ!悪いのはイブよ!」

「イブ、でしたっけ?その王子様だって、決戦のこと知らされてないのに男集められたらそりゃあ勘違いしますって」

「男じゃないわ!騎士よ!決戦なのに集めないわけないでしょ!?」

(・・・ダメだこりゃ・・・)




「なるほど・・・事情はよくわかりました」

「わかってくださいましたか・・・」

「ええ。ですから、一つお願いがあります」

「なんでしょうか?」

「決戦は、僕一人で行かせてほしいのです」

「ええっ!?」




「ひ、一人で!?どうしてですのっ!?」

「そんなばかばかしいことに国民を殺すなんて・・・あきれ返りますね」

「あ・・・」

「今気付いてよかったですね。終わってから、死んでから気付いたって遅いですからね」

「で、でも、どうして!?」

「そのほうがいいからです」




「ほら、一人なら交渉に応じてくれるでしょう。お二人とも話し合って和解してください」

「で、でも・・・」

「・・・わかりました。ならば、魔王として命令します。僕を一人で行かせて下さい」

「・・・わかりました・・・」

「大丈夫ですよ。なんとか・・・」




「大勢行っても無駄ですからね。一人のほうがいいんです」

「な、なぜ!?」

「食料やらなんやらの経費なんていりません。大丈夫ですよ。たぶん・・・」




「「なんとかなりますから」」

二人は期せずして同じ言葉を呟いた。




「はぁ~・・・大言壮語したものの・・・いざとなったら結構不安だな、おい・・・」

(くっそ、そばにミカヅキがいてくれたらなぁ・・・)


「どんな人なんだろう、勇者って・・・話のわかる人だったらいいなぁ・・・」

(早く帰ってリンに会いたい・・・)

「えぇっと・・・確かここだよね・・・?あれ?でも誰もいない・・・」


「・・・場所を間違えたわけじゃないだろうし・・・ん?あ、誰かいるなぁ・・・ちょうどいい、ここがどこか聞くか・・・おーーーい!」


「・・・おーーーい」

「え?あ、誰かいる・・・ちょうどいい。ここがどこか聞ける」

二人は歩み寄り、そして固まった。

「リン・・・?」「ミカヅキ・・・?」

先に動いたのはリュウこと、リンだった。走りより、相手に抱きついた。

「うっそだろ!お前も来てたなんて!うわ、マジか!会いたかったぜー!」

「それはこっちの台詞だよ!っていうか、なんでここにいんの!?」

抱き返しながらミツアキこと、ミカヅキが抱き返す。

「あー・・・なんつーか、自分勝手な姫様に勇者として召喚されちまってなぁ・・・」

「え!?リンが勇者!?」

驚き、リンの顔を見上げる。リンは得意げな顔をした。

「おう。似合うだろ?」

「うん、似合うだろうけど・・・ほんとに?」

「なんだよ、疑うのかよ~」

「違うって。僕は魔王なんだよ」

「え!?お前が!?」

今度はリンが驚いて見下ろす。

「・・・随分と可愛らしい魔王だな、おい」

「むー、わかってるよ!似合わないことは!」

「いや、ある意味最強かもな・・・」

きょとんとミカヅキが首を傾げる。

(可愛いから、誰も倒せないって言ったら怒るだろうなぁ・・・)

「えっと、これからどうしよう・・・?」

「お互い元の国に戻って話そうぜ」

「・・・そうだね。なんか、事情、知ってそうだし」

「ああ、そんなのとっくに突き止めたさ」

「さすがリン!」

笑顔が可愛くて思いっきり抱きしめる。

「く、くるし・・・!」

「あー、ごめんごめん。久しぶりだったから、つい」

「久しぶりで殺しかけないでよ!」

そのふくれっつらが可愛くて、また抱きしめそうになったのは秘密だ。




「じゃ、はじめますよ」

足元には複雑な魔方陣。周りには白と黒の術師たちが交互に並んでいる。

「ああ、わかった。つーか、なんかむかつくな、お前ら」

ミカヅキは苦笑いした。

リンとミカヅキの前には王子と姫がいるのだが、誤解をといた二人は傍目を気にせずいちゃついているのだ。

「まぁまぁ・・・イブリースさん、お世話になりました」

「いえ、こちらこそすみませんでした」

「姫様、もう勘違いしないでくださいね」

「しないわ。だって、私達は愛し合っているもの」

「レリィ・・・」「イブ・・・」

「はいはい。見せ付けなくていいっての・・・」

二人の世界に行ってしまった二人を魔法陣の外に出す。

「じゃあね、また会うことはないだろうけど、とても楽しかったですよ」

「姫様、どうかお元気に。また呼び出さないでくださいよ」

「お二人も!」

そして、魔王と勇者は二人の前から姿を消した。

「じゃあ、行こうか、レリィ」

「ええ、イブ」

二人は手をとり、その部屋を出て行った。




「あー、今、何時?」

「五時すぎ。じゃあ、あの世界にいたのは大体五分ほどって感じかな」

制服姿で二人は歩いていた。

ミカヅキは男の制服で。リンは女の制服で。

「リン、なんで自分が女だって言わなかったの?」

「えー?めんどいじゃん。女の子もさそえないし~」

「くすくす。リンらしい」

沈みかけた夕日が仲良く歩く二人の影を長く、映し出した。

長い駄文を読んでくださり、ありがとうございました!

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