最初の願い
おれはゆっくりと目を開けた。
どうやら寝てしまったようだ。それに、しゃべるカラス(しかもデカイ)が出てくる変な夢を見ていたような気もする。
まぁいいや。どれぐらい寝てたんだろう? おれは時計を確認しようとした。
「やっと目が覚めたかこのチキン小僧」
ん? まだ夢の中か? 80歳ぐらいのじーさんがおれに話しかけてきたぞ。
おれはこんなヤツ知らない。
いや、ちょっと待てよ……。チキン小僧ってのはおれのことか? 聞き捨てならねェな。
「おい、おれのことチキン小僧って言ったか?」
「言ったが?」
「すまないが、おれはチキンでもないし、小僧でもない」
「すまないが、貴様はチキンで、小僧だ」
!?
「オレ様は大ガラスの姿が気に入っているのだ。それなのに、貴様ときたら……
オレ様の姿を見ただけで気絶するとはな。大したヤツだ」
――記憶が一気に蘇ってきた。そういえば、おれの部屋にカラスがいたんだ。
それで、話しかけられて――ショックのあまり気絶したのか。……カッコいいとは言えないな。
「おまえはカラスなのか?」
「正解ではないが、間違いでもないな」
「おまえは……何者なんだ?」
「貴様が呼び出したのではないか。何をぬかしておる」
実は、薄々気づいてたんだけどな。
まだ信じきれずにいたみたいだ。ランプから――魔神が出てきたなんて!!!
やった、これでおれは、何でも願いが叶うぞ! 3つだけだけど。それでも十分だ。
「おほん、……ワタシは、おまえの主だ。おまえは、ワタシにしなければいけないことがあるんじゃないか?」
「フ、図に乗るなよ小僧。だが……まぁいい。貴様がランプを擦った時点ですでに契約は成立している。貴様の願いは叶えてやる。何でも言ってみるがよい。
だだし――なに!? こんな小僧がか!? どういうことだ!?」
突然あわてだした魔神(であってるよな?)。
ずいぶん取り乱しているみたいだが、おれには何が起こっているのかサッパリ分からない。
少しすると魔神は落ち着いたらしく、再び話し出した。
「オレ様には全く理解できないが、どうやらそういう事らしい。
貴様の願いを叶えてやる。何でも言ってみるがよい。
ただし――30個までだ」
そういう事ってどういう事だよ、と突っ込みかけたが……
「……」
「どうした? 願い事はないのか?」
「サンジュッコだとおぉ~! ほんとか!? 冗談か!? マジか!?」
「本当だ。オレ様は嘘はつかない。落ち付け」
なんてこった。
これは面白い事になってきたぞ……!
だが、30個。何を願おうか?
力? お金? 知恵? 視力? 彼女? ん……どうしよう。
ん……あっ!!! これにしよう!
「よし、おれの1個目の願いはこれだ。――おれを、魔術師にしてくれ」
最高だと思わないか?
魔法の力を手に入れたおれは、襲い来る悪を倒し、竜から姫を助け……
「無理だ」
「なんだって!? 何でも願いを叶えるって言ったじゃないか!」
「小僧は何か勘違いをしているようだな。オレ様は神ではなく、最強の悪魔だ」
「要は魔神だろ?」
「いや、全然違う。オレ様は悪魔であって神ではないのだから、小僧の願いを叶えるのも、魔術によって行う。
魔術は何でもできる訳ではない。魔術で出来る範囲で、願い事を言え阿呆が」
「なんだよ……。思ってたよりショボイじゃないか」
「ふざけるな。オレ様は最強の悪魔だ。」
「あっそ。じゃあ何でその最強の悪魔様が人間の言いなりになっているんだ?」
「貴様っ!! ブチ殺されたいか! オレ様は……このランプに封印されたのだ。」
「封印……? 誰に?」
「ソロモンというクソ餓鬼だ。オレ様をここに封印して、呪いをかけやがった」
そうか。この悪魔(魔神じゃなかった)はあの伝説のソロモン王にランプに封印されて、それを擦った人の願いを3つ叶えるという呪いもかけられたのか。
ということは……何千年ぐらいランプに閉じ込められてるんだろ?
ちょっと可哀そうだな。
ん、ちょっと待てよ? じゃあ何でおれは30個も願いを叶えてもらえるんだ?
おれ、悪魔に気に入られたのかな。……それは無いか。
「何でおれは30個も願いを叶えてもらえるんだ?」
「そこから先は言えない」
「『願い事』を発動しても?」
「ああ。そこから先は言えない」
どんなに頼んでも教えてもらえなさそうだな。まぁいいや。
「じゃあ……」
落ち着いて考えろよ。30個とはいえ、無駄使いはできない。
ん……欲しいモノ……欲しいモノ……あっ!
「じゃあ、改めて1個目の願いだ。――銃をくれ。ホンモノのやつをな」