カラス
「昨日のサバゲー楽しかったな!」
そう言ったのは、おれのクラスメイトであり親友でもある粗樫力人だ。
「お前すぐ殺られてたじゃん。アキラに」
こう言ったのはもう一人の親友、椿原学だ。
そして“アキラ”とは、おれ、青桐暁のことである。
おれたちはこの3人でよくサバゲーに参加したりする。ていうかいつも一緒にいる。
今は電車に乗って、学校に向かってる途中だ。
「いや、まぁそうだけど。けど、バトルロワイヤルって初めてだったろ? いつもチーム戦だからな。俺はこっちの方が好きかもしれん」
「はぁ? バトルロワイヤルのどこがイイんだよ。僕はチーム戦の方が良いね」
「そうかよ……。ところでさ、どうしたんだアキラ? 元気ないぞ?」
「え……そ、そうか?」
「ああ。なんかあったのか?」
「……」
正直、あった。
すごく悲しい事が。それは昨日の夜、サバゲーから帰った後の事――。
「よし……」
お母さんは風呂に入っている。お父さんは仕事でいない。弟はもう寝た。
……今がチャンスだ。
おれはカバンから、例のランプを取り出した。持って帰ってきちまったよ。
「えっと……」
おれが知っている物語では、ランプを擦ったら、魔神が現れて願いを何でも叶えてくれるのだが。
果たしてこれもそうなのだろうか。
バカバカしい。それは分かってる。そんなもの、本当にあるはずがない。分かってる。
なのに……なぜか、諦めることができない。
きっとおれは、信じてるんだ。そんなバカバカしい物がこの世にあるのだと。
それか、そう願っているのか。
まぁ、とりあえず擦ってみるか。別にお金取られるわけでもないんだし。
おれは恐る恐る手を伸ばして――ハンカチでランプを擦った。
……
……。
すると、黒い煙とともに大きな魔神が――魔神が――現れないぞ?
あれ? なんか反応しろよ! 時間がかかってるのか?
おれはそのまま待った。が、ついに魔神は現れなかった。
そして今に至る。
のだが、そんなことは言えない。バカにされるどころじゃすまないだろうからな。
「いや、何にもないよ。気のせいだろ」
「そうか? ならいいけど」
やっぱり、世の中はそんなに甘くないんだな。
今日の教訓。この世に魔法のランプなんてない。……悲しいよ。
それからおれは、魔法とか、そういうのは一切信じないと誓った。もとから信じてなかったはずなんだけどな。
そうしてランプの事なんか忘れて、普通に過ごしていた。
それから3日後。
「ただいま~」
おれは学校から帰って自分の部屋に入った。
そしてカバンを置くと、水槽の前に立った。すると、魚たちがワラワラ水面に集まってきた。
ふふ、お腹が減ってるんだな……。ちょっと待ってくれよ。
「ほれ。ご飯だぞ~」
おれはエサをピンセットでつまんで、ちょっとだけ水面に落とした。
するとスゴイ勢いで食べ始めた。
「そんなに焦らなくても、まだまだあるって……」
そう、おれは熱帯魚を飼っているんだ。維持しているのは、60cm水槽と、45㎝水槽の2本。
60cmの方は、ネイチャーアクアリウムに挑戦中だ。ネイチャーアクアリウムっていうのは、水草とか流木とか石を使って、水槽の中に自然を再現すること。
これが結構難しいんだよ。もうネイチャーアクアリウムを始めて半年になるが、おれの水槽は「自然」と呼ぶには程遠い。
何がいけないのかな……
と、そこで初めて背後の気配に気が付いた。おれの後ろに、何かがいる……!?
振り返った。
すると、そこには普通の2倍くらいはありそうな大きなカラスがいた。
へえ、こんな大きなカラスもいるんだ。
ん? ちょっと待てよ……。
何でおれの部屋にカラスがいるんだよ!? しかもデカイし!
「出ていけ!」
「あ? 小僧、自分で呼んどいて出て行けとはなんだ」
……!
しゃべった、だと!? そんなバカな。気のせいだ。
カラスは鳥だ。鳥はしゃべらない。だからカラスもしゃべらない。そうだ。
「あと小僧、オレ様には敬語を使え」
おれは気絶した。