発掘
おれは茂みに伏せたまま、息を殺した。
足音が近づいてくる。
おれの愛銃、P226を握る手に力が入る。鼓動が速い。ヤツに聞こえないかと不安になるほどだ。
足音がさらに近付き――遠ざかっていった。
ふぅ……。一瞬力が抜ける。
だがボヤボヤしている暇は無い。ヤツは今、おれに背を向けている。
こんなチャンスを逃す訳にはいかない。
おれは素早く立ち上がると、容赦なく引き金を絞った。
「ぐわぁっ!」
弾はわき腹に命中した。
ヤツがこちらを振り返り、目があった。その目には悔しさの色が浮かんでいた。
「おお、アキラじゃねーか。くっそ~、やられた! そんなとこにいたなんて、気配すら感じなかったぞ」
「そういうおまえはリキトか。いいからさっさとコールしろよ」
「分かってるって。ヒット!」
そう言うとヤツは去って行った。
あの頭悪そうな足音でなんとなく分かってたんだけどな。リキトだったか。
今ので他の敵に位置がバレたかもしれない。さっさと移動した方がいいな。
おれは体勢を低くして、木々を縫うように走った。
少しして、休憩しようとしたその時。BB弾がおれの耳のすれすれを通過した。
アッブネェ~!!
おれはサッと木の陰に隠れて、様子をうかがう。敵の姿を確認。距離は……20メートルといったところか。
そして、今度は周囲を観察。15メートル程さきに大きな大木がある。
よし、あそこまで行こう。
おれは新しい敵に一発撃つと、走り出した。
フルオートで撃ち出されるBB弾の嵐が、おれのすぐ後を追ってくる。
おれは一番近くにあった細い木の陰に転がり込む。
すぐに立ち上がり、今度は周辺の木々の間を縫うように、ジグザグに走る。BB弾もおれに続く。
このスリル。このスピード感。たまんねぇゼ!
目標の大木はもう5メートルにまで迫っている。
だが、なんてこった。そこまで身を隠せる木が無い。
あそこまで行こうと思ったら、開けた空間を5メートルも駆け抜けなければならない。
おれは振り返って敵を確認した。
遠目にも、その顔が勝利を確信して笑っているのがわかる。
だが、すまないねぇ。
おれはこういうシチュエーションには慣れっこなんだよ。
なにせ、サブマシンガンを装備せず、ハンドガンだけで戦うってのがおれのスタイルなのだから。
おれは深く息を吸い込むと、障害物のない超危険地帯に躍り出た。
BB弾の嵐が襲いかかってきた。
だがそのタイミングも、射線も、全て予測通りだった。
おれは素早く地に伏せてそれをかわすと、伏せたまま発砲。敵の足元に着弾した。
とたんに銃撃が止んだ。よし、形勢逆転だな。
おれは発砲しながら立ち上がると、走り出した。
そのままマガジン1本分撃ちきるころには、目標の大木にたどり着いていた。
おれは大木の陰に隠れて、慣れた動きでマガジンを交換していた、
その時。
一瞬、太陽の光が反射して、足元で何かがキラリと光った。
「なんだ?」
こんな状況で、普通なら無視するだろうが、これには何か不思議な引力のようなものを感じた。
500円玉が落ちているのを見つけてしまったかのような。
おれはかがんで観察した。
黄金の、コップの取っ手のような物が地面から突き出ている。これが光ったのだろう。
にしても、これは……埋まっているのか?
取っ手を引っ張ってみた。ダメだ。ビクともしない。
今度は掘ってみた。おれはスペアマガジンを取り出して、夢中になって掘った。
徐々に全容が明らかになっていく。
どうやら、取っ手は球状のものに付いているようだ。その球状のものが半分ぐらい現れた時。
もう一度引っ張ってみた。
スポッ!
今度は抜けた。
いよいよ全容があらわになったそれを観察した。
これは……
「……魔法のランプ?」
な訳ないか。
だが、おれが掘り出したそれはあまりにも魔法のランプな姿をしていた。
数千年の時の経過を感じさせる、すり減った体。でも、それでいて輝きはあせていない。
その時、すぐ近くで足音が聞こえた。
クソ、これに夢中になっていて敵の接近に気が付かなかったか。
急いで銃を構えた。
どこだ……? 敵はどこにいる?
木々の陰、茂み……必死に探すが、見つからない。音は聞こえたのに。
どこだ……いた!
10メートルほど先の木の陰に敵を発見した。
が、その時にはもう遅かった。飛んできた弾が胸に命中した。
「ヒット!」
弾が当たったことをコールして、両手を上にあげた。
それと、いま気付いたんだが、どうやらおれは無意識のうちに魔法のランプ(?)を背に隠していたようだ。
さて、どうする。
とりあえず持って帰るか。誰にもバレないように。