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ミミック・コミュニケーション  作者: ごぼふ
二章 化け物
6/39

ミミック(擬態の方)

 “彼女”が学校の裏門に到着したのは、二十二時十分であった。

 辺りは既に闇に包まれており、時たま後ろを車が通る程度で人通りもない。

 鉄門扉の裏門は取っ手に足をかけるコツさえ知っていれば、簡単に乗り越える事が出来る。

 警備システムが死んでいることは確認済みであった。

 左右を念入りに確認した後、彼女が門を乗り越えたその先は、ランニングコースの林へと通じている。 

 進入に成功した彼女は林の中を慎重に進んだ。幸いにも月明かりによって視界が不自由になる事はない。

 目的地はこの学校の校舎裏である。 

 三分ほど歩いて校舎裏に辿りつくと、そこには先客がいた。学生服の男である。

 彼女はその男に気づかれないように、林の陰に隠れると、彼の様子を観察し始めた。

 制服を着た男は、まだ残暑の厳しい九月だというのに厚手のマフラーを巻き、落ちつかなげに、それを口元に上げたり、熱そうに首元に手を入れたりしている。

 月明かりに照らされた物憂げなその顔は、低めの身長と併せて彼を少女のようにも見せた。

 相手が自分に気づいていないと確信した彼女は、次にどうしようかと考えをめぐらせ始める。

 そんな時。

「ぷっ」

 先程まで、ともすれば怯えた様子だった男が、急に吹き出した。

「ふふふふ、あは」

 この状況にあって、何故。彼女が相手の真意を図りかねている間にも、男は体をくの字に曲げ、笑い続ける。

「くく、く、ははは、あはははは」

 男は息継ぎをしない。笑い続ける。やがて彼は、折り曲げていた体を今度は逆に月へと向かってそり返した。

 パリ、パリパリ。

 同時に、どこからか玉ねぎの皮を破るような音が聞こえてくる。

 とても小さな音なのに、それは彼女の耳に深く深く入り込んできた。

「あはは!ハハッ、ハハハハ! ヒャーアッハッハッハ!」

 笑い声はどんどん大きくなっていき、夜の空気を震わせる。

 バリッ! と、一際大きい音が響いた。

 同時に、彼の口もより大きく開く。

 ――その光景に、彼女は目を見開いた。

 大口を開けた男の口の端が、耳まで届いている。

 本来あった唇のラインは、まるで彼の面の皮が紙でできていたかのように破れ、めくれ上がっていた。

 そして、顎のラインなど知った事かと耳の横にまでずらりと並ぶ歯。

 「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――」

 彼の変化は、それで終わらなかった。

「アハハハハ! ヒャッ、アハハハハ!ギャハハハハハハハハハ!」

 男の頭が破裂した。 かと思ったが、違う。

 彼は口を更に大きく開けたのだ。

 例えば、唇に沿って人間の顔に鋸を入れればこうなるか。

 口から伸びた亀裂は耳の下を通り過ぎ、首まで裂けている。

 顎に続いて頚動脈がその存在を無くし、蝶番は首の後ろ。

 彼が笑い声を上げる度、後ろに倒れそうになりながら、まるで宝箱のように口から上全体が開閉する。

 ガチンガチンガチン! と、いつの間にか、男の口が閉まるたびに大きな音が鳴るようになっていた。

 その音の正体は肥大化した男の歯、もしくは牙である。男の歯はいつの間にか大根のように大きく、氷柱のように鋭く変形していた。

 それに併せて彼の頭部自体が、常時の三倍ほどの大きさにまで膨れ上がっている。あるいは頭に箱を被っているようにも見える光景である。

 しかしその頭には、ゴムのように伸びきった、少女にも見えたはずの顔が、歪んで張り付いていた。

 比率もめちゃめちゃ。まるででたらめ。こどものらくがき。

 生き物であるかすら判別がつかない怪物に、男は一瞬で変わってしまった。

 いや、違う、アレは……化け物だ。

 人の皮を被っていた化け物が、今まさにその皮を破り、正体を表したのだ。

「ひゃは、ひゃ、ひゃは…」

 笑いが、収まっていく。

 がくんがくんと揺れながら、その視線が下へと戻っていく。

「ひゃはぁ、あ?」

 いつの間にか茂みから大きく顔を出していた彼女と、目が、あった。

 食われる。

 本能でそう察し、彼女は悲鳴を上げて逃げ出した。

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