ディープブルー&ピンク
足の痛みと混乱で溺れそうになりながら、三橋愛華はようやく水面に顔を出した。
急いで落ちてきたテラスを見上げてから、飲んでしまった水をケホケホと吐く。
……立島大輔が居ない事に安心した自分を確認し、嘔吐感に目に涙をにじませた。
どうしてこんな事になってしまったんだろう。よぎる考えを、必死で振り払う。
きっと、まだ大丈夫だ。もっともっと人間を食べれば、きっと彼は認めてくれる。きっと、自分は彼のようになれる。
きっと……。
ドボン。
背後で、何かがプールに落ちた。
本能が必死で拒むのを感じながらも、愛華はまたも後ろを向いてしまった。
ばしゃん……、ばしゃん……、ばしゃん、ばしゃん。
水上へと跳ねながら、プールの端から何かが迫ってくる。
リズム良く、大きな水しぶきを上げながら。
あれはバタフライだ。 自分が彼と改善しようとしていた、バタフライ。
スピードはゆっくりだが、まっすぐ自分に向かってくる。
愛華は微笑もうとした。
大丈夫、怖くない。
自分が憧れ、愛した人だ。
大丈夫、彼が例え私を食べようとしているとしても、一つになることは怖くない。 食べようとしているのだとしても、食べようと、食べられる食べられる食べ化け物に食べられる。
「いやあああああああ!」
愛華の目の前で、それがひときわ大きく跳ねた。 牙がびっしりと生えたディープピンクの口腔。
ざばん!
彼女の叫びは、それに体ごと飲み込まれ消えていった。
――波紋と共に、プールに満ちる静寂。
しばらくし、立島大輔は水面から顔を出した。
顎を引き、彼を宙から見下ろす双子に問いかける。
「……なぁ、愛華って本当に人間だったのか?」
『人間を丸呑みできる人間なんて』
『いる訳無いじゃない』
大輔の足が水底を離れ、ゆっくりと体が水面に浮く。
「だよなぁ」
月を見上げながら、彼はまた水底へと沈んでいった。




