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科学な都市の四方山話  作者: 久本誠一
そして再び一時休息
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一人ぼっちの終息

今年最後の投稿です。これは間違いなさそう。

今の自分に、シリアス(っぽいの)がどこまで書けるかという限界への(?)挑戦。



……結論?やっぱシリアス難しいね。やんなきゃ良かった、とまでは言わないですが。普段の文体とこういうのとどっちがいいか、意見がある人は感想で送ってくれると嬉しいです。

「……さて、兄貴はもう行ったかな?」


 そう呟きながら、そっとテーブルの脇に佇む一つの影。その表情(かお)からは、何を考えているのかもわからない。


「もう、会えないかな……」


 彼は、それ以上何も口にしない。しかし、そんな彼を見る者がいれば、十人中十人がこう言うだろう。曰く、『どこか寂しそうだ』と。

 と、そこで、一つの声がドアの向こうから響いた。


「その通りだ。そして君自身も、ここで死………いや、そうだな、君の場合は『破棄』される、とでも言えばいいのか?」


 その重々しく、どこまでも黒い声に聞きおぼえがあるのか、彼はほんの一瞬、ビクリと身を震わせる。でも、精一杯に虚勢を張り、その声に向けて言葉を叩きつける。


「ハッ……『破棄』ね。そりゃまた随分とオブラートに包んだ言い方だことだね?糞真面目変態中年も少しはまともな日本語ってやつを覚えたのかな?」


「お前こそ、相も変わらず挑発好きな奴だな。まあ、こんな壁越しで話していても埒が明かん。悪いが、入らせてもらうぞ」


 そう言うや否や、ゆっくりとノブが回転する。そして、ドアが開く―――――――!


「甘いなっ!!」


 寸前、動き始めていたドアがピタリと止まる。


「ほう……?」


「無駄だよ………たった今、限界能力(オーバーヒーター)でそのドアと蝶番(ちょうつがい)の間の摩擦力(・・・)を限界以上に引き上げたからね。通りたければそれこそ象でも持ってきてこじ開けてもらえば?」


「なるほど、『物体にかかる力を上下させる能力』だったか?我ながら、下らないことをしたものだな」


「なんだと……!」 


 下らない、という部分でピクリと反応する。先ほどまでのとらえどころの無い表情とは対照的に、その顔に浮かぶものは怒り。そして、自虐。そして、悲しみ。彼は、感情に任せて叫び返す。とても強く、同時にとてもか弱く。


「下らない、だと!?あれだけのことをして、この僕なんかを出して、その結論が一つ、『下らない』!?たったそれだけ、たったそれだけなのか!?ああ!?何とか言ってみろよ、この鬼畜!下道!!」


 我を忘れたように叫び、そのままうなだれた少年に対し、声の主は含み笑いを返す。


「ふふふ……鬼畜?外道?それもよかろう。事実、その通りでもあることだし、な」


 声の調子に、怒ったような様な色は見えない。だが声は、ただし、と付け加えた。


「君の様な『出来損ない』をわざわざ動けるようにまでした恩を忘れた、とまでは言わせんぞ。なあ、そうだろう?何しろ私がいなければ、君の様な産業廃棄物は即刻焼却処分すべきもの、として処理(・・)されていただろうからな」


 恐らく、彼を精神的にさらに追い詰めるために言ったのであろうこの一言――――――――――あるいはこれが、明暗を分けたのかもしれない。彼は、その言葉に再び反応するかのように顔を上げた。だが、その表情に、さっき怒りに我を忘れていた時の様な狂気はない。その前のような、どこか寂しそうな表情もすでにない。そこに浮かんだ感情は、ずいぶんさっぱりしたものだった。まるで、憑き物が落ちたかのような。長いこと背負い続けた重荷を、急に下ろした時のような。その表情のまま、ポツリ、と呟く。


「…………安い、ね」


「うん?」


 ドアの向こうの主は、声にこそその感情を表さなかったが、内心では多少驚いていた。彼の考えでは、今の問答で理性を失い、がむしゃらに突っかかってくるであろう()をその場で捕えることが出来るはずだった。事実、その考えは途中まで上手く言っていたはずだ。だが、()は今、落ち着いた声で平然と返事を返した。

 そう思考する間にも、彼の言葉は続く。


「多分、僕の兄貴……うん、兄貴(・・)ならこう言うよ。『安いんだよ、挑発が。安い。まったくもって安い。んでもって中身もつまらんしさ、もうちょい工夫ってもんはできねーのか?あのないいか、はっきりしっかりすっきりさっくりわかり易く、この俺自ら喧嘩のルールってやつを教えてやるよ。まず一つ。テメエみたいに超が付くようなかませ野郎にはな、挑発なんて高等技術なんぞ使う価値は一ミクロンたりとも()えんだよ!わかったかそこなモブキャラ!』……ふふっ、ふふふふふ…………これ、あの兄貴なら一語一句ホントにそのまま言いそうな気がするな……ふふふ」


 喋りながら自分でもいい出来栄えだと思い想像してみて、あまりの似合いっぷりに思わず堪え切れなくなってしまったらしい。笑いを堪えているせいで、顔が真っ赤になっている。それでも、何がそこまでツボにはまったのかちょっと笑いが漏れていたのだが。

 そしてそんな笑いの発作も治まったようで、再び彼は言葉を紡ぐ。


「だからね、僕はもう……いや、僕()もう、そんな安っちい挑発なんかには乗らないようにしたんだよねー。お生憎様、一昨日出直して来いってんだ」


 彼の口はまだ止まらない。まだ言い足りていないことがある。


「ところでさ、単純に好奇心で聞かせてもらうけど、今のそっちとしての感想はどうなの?普段だったら泣いて喜んでただろうねぇ?なにしろ、今の僕はここまで……こんな、自分でもちょっと驚いてるくらい自我に満ち溢れてるんだからさぁ?ね、どんな気持ちかな?アンタらの言う『できそこない』が最高の結果を叩きだした、っていうのはさ?」


 そう言いながら多少得意げに、けどやっぱり哀しげに胸を張る。それを聞いたドアの向こうの主は、軽く苦笑を洩らした。


「なるほどな。つまり、それが今のお前の誇りか?」


「え?ああ、うん。そうさ、これが『僕』の、『できそこない』とやらのたった一つの矜持さ。できそこないの逆襲、とでも呼んで欲しいね」


「なら――――――――――」


 微かにドアの向こう側で、人の動くような気配。それになんとなく嫌な予感がして、一瞬だけ眉をひそめる。だが、その動きは。その動作は。


それ(・・)を遺言、ということにするんだろう?」


「…………!!?」 


 ほんの少し、遅かった。ほんのちょっぴりだけ、間に合わなかった。

























 ほんの一回だけ、声が響いた。その後、何も聞こえなくなった。

言い忘れてましたが、メリー苦離済ま………もといクリスマス。リア充な皆さんは今すぐどっか行って下さい。てかさっさと爆発しろ。べ、別に羨ましくなんてないもん!


それでは、よいお年を~♪








清明「……俺は?」


出番なしね。


清明「今年最後なのに主役を無視っ!?一人称を三人称にねじ曲げてまでだと!?」


それこそがクオリティ・オブ・久本。


清明「なんなんだよそれ……ま、来年もよろしく頼むわ。そんじゃーなー!」

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