50:前科、出来ました。
しばらく桑折&祓は出番が薄そうです。
「よし・・・・・!今・・話すよ・・・・だからさ・・・少しはさ・・・静かにでき・・・ないかな?」
いや、血。血出てますけど。と言うよりこれで落ち着けって言う方が無理だよねどう見てもこれは不味いよね何が不味いってもうとにかく不味いよねいやだって血が血が血が・・・・・・・
「・・・・・・・・・はあ・・・・まったく・・・怪我人に・・こんなこと・・・させるなんて・・・・大した神経・・・だね?」
言いざまに弱々しく指を鳴らす。と、パニック状態になってた感情がいっぺんに落ち着いた。いや、というのもちょっと違う。何というか・・・・そう、押さえつけられた。そんな感じ。
「もう・・・いいね?」
「あ、ああ・・・・」
多分、こいつが何かやったんだろう。そういえば、こいつの能力は何なんだろうか。まったく予想できねーけど。
「さて、どこから話そうかな・・・・」
ゆっくりと口を開いた、瞬間。
「誰が、来ているんだ?」
部屋の方から声がした。おっと、いけね。忘れてた。・・・・・これ、本人には内緒だぞ?
「ちょっと待ってろ、今連れてくから!」
「・・・・私の知り合いか?」
もちろん、そう言おうとしてちょっとためらった。第一、彼女がどこまで知ってるのかもいまだにさっぱりだし。
「まー、ちょい待ってろって」
いったん保留にして、よっこらせいと担ぎあげる。と、今度は担がれた本人から注文が入った。
「・・・・・・待った!」
「ん?」
「いいか、誰かは分からないけど、その彼女さんにも来てもらうんだ。OK?」
「な、何!?てかそんな興奮したら傷に響くぞ!?」
「いいから!この甘ちゃんがっ!」
「・・・・・んだと?俺が怪我人相手に加減するとでも思ってんのか?」
「じゃあ君は、ついこの間手も足も出ず(笑)ボロッボロにされたことをもう忘れたのかい?はははっ、ずいぶんと大した記憶力じゃないか?」
こいつ殴りてぇェェェェ!!!いいか俺、こいつは怪我人・・・怪我人だぞ・・・・・!!ん?殴んないのかって?ふん、怪我人なんて殴っても楽しくないね。つまりはそーゆーこと。
「・・・・ま、あんまり馬鹿話をやるほどの時間もないしね。とりあえず、彼女さんを呼んで下に降りてくれ」
・・・・・たく、ここは折れといてやるか。
~3分後~
「ほら、着いたぞ。んで、どーすんだ?」
「ああ、簡単だよ。手間も一切かからないね」
ふーん。さっきから分かったことによると、どうもどこかに移動するらしい。ただその肝心の移動手段・・・・つまり『脚』がさっぱり見当もつかない。こいつ、車でも持ってんのか?バイクで三人乗りは地味にきついもんなんだぞ?
「ん?ほらほら、さっさと頼むよ?」
ん?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、読めた。
なるほど、そーゆーことね。
「ヤだ。この年で前科はさすがに・・・」
「ま、そこを何とか、ね?」
「拒否」
「そう言わずにさぁ」
「断固、拒否」
「ケチ」
「あー聞こえない聞こえない」
「バーカ」
「今日はいい天気だな。な、シエル?」
「え?あ、ああ、確かによく晴れているな、うん。なあ、私は一つ聞きたい事があるのだが」
「何を?」
「一体さっきまでの会話は、何について話し合っていたんだ?」
「ちょっと、道徳と論理について高尚な話題をな」
「・・・・・・・つまり?」
「そこらにある車俺の能力使ってテキトーに一台盗ってけと」
「『盗る』なんて人聞き悪いね?『借用』とか『売買』とか、世の中には素晴らしー言葉があふれてんだよ?」
「『無断』借用に『金を払わない』売買、な。要するにただの泥棒だろ?」
「・・・・・・・ふむ・・・・・・だが、そちらの人は怪我人なのだろう?」
「・・・・・・お前までそれ言うか?」
結局そのわずか5分後、俺達は誰の物とも知らない車を乗り回していた。ねえ、俺無免許でもあるんだけど?