10:行動開始!・・・・・①脱出partⅡ
彼女は少し迷った後、結局自分の意識が戻ったことは悟られないようにすることにし、目をうっすらと開けたまま桑折の様子を見張ることに専念した。一瞬、この女一人であれば気絶させてそのまま逃げ出すことも考えたが、他の人間がいたらコトだし、第一このボロボロの体で行うにはあまりにもリスクが大き過ぎる。あの女の戦力もよくわからないではないか。
―――――くっ・・・、情けない・・・・
自分は、動きたいときに動くことすらできないのか。肝心な時は、結局何一つ役には立たないのか。そんな思いがかけめぐる。が、その目から悔し涙は出ない。涙は出さない。泣きだして心が折れたりしないよう、感情を全て自分から遮断する。そしてそれは、成功した。いつも通り。いつものように。
そんなことも露知らず、桑折は彼女に背を向けたままひどく慌てたように氷嚢のようなものを戸棚からひっぱりだしたかと思えば、そのままとたぱたと部屋から出て行った。何が来るか、と少しは緊張していた彼女にとって、その行動は・・・・・なんというか・・・・脱力モノで・・・・意識がそのまま吸い込まれそうに・・・・
「・・・・・・くっっっっっ!!」
・・・・・かろうじて、意識が保てた。やはり、体が相当弱っているのだろう。頭をはっきりさせるため、寝転がった状態で頭を左右に振る。
と、ここで彼女は、桑折がうっかり犯したミスを発見する。・・・・・ドアが半開きになっている。彼女は、そこで迷わなかった。
―――――もちろん罠かもしれない。だが、この上でじっと寝ているよりはマシだろう。
そう決意して痛む体を無理やりに、誤魔化しながらも部屋の端まで行き着く。たかだか数メートルの距離だが、今の自分にはつらかった。が、その表情に辛そうな色は見当たらない。『辛い』という感情をも強引に押し殺し、彼女は壁に寄りかかりつつも、前に前に進んでいく。
―――――いいだろう、もしこれが罠であれば―――――そう彼女は思った。
―――――仕組んだ者の手の上で、徹底的に踊って壊し、罠の仕組みごとひっくり返してやろう―――――