スレ主が毒殺されかけた話7
昼食後、ちょっと一休みのつもりがガッツリ昼寝をしてしまった。
そのため起きた時には太陽が傾きかけていた。
あわてて元きた抜け道をそのまま使って屋敷にもどってきた。
そして、小屋へと急ぐ。
珍しく、誰もいないはずのルートに人がいた。
メイド達だ。
「なんで旦那様はあんな役たたずを置いてるのかしら??」
「仮にもご長男だからねぇ。
ほら、政略結婚とか?
そういうのに使うんじゃない??
知らないけど」
あ、俺の事だね。
「でも、邪魔くさいわよ。
早く死んで欲しいわ。
最近なんて、ルキウス様をわざわざ呼びつけてるのよ??」
「え、それマジ??」
誰もいないと思っているからか、口調もとても子爵家に仕えるメイドとは思えないほど乱暴になっている。
「そうよ。
それも、ルキウス様にわざわざ料理まで作らせて運ばせてるの!」
……あの弁当、お前が作ってたんかい!!
「うっわ、なにそれ。
旦那様はなにも言わないの?」
「言ってないんでしょ。
たぶん、知らないと思うわよ。
ご家族は誰も知らなかったはず」
「なんでアンタはそんなこと知ってるのよ」
「たまたまね、見ちゃったのよ。
ルキウス様が料理長に、厨房を少しだけ貸してほしいって頼み込んでるところ。
それからずっと、ルキウス様は役たたずのところに食事を運んでるの」
「皆で相談して、役たたずには餌はやらないって決めたのにね。
早く死ねって意思表示なのに、全然死なないし。
ガープ様もせっかく協力してくれたのに」
ガープ??
誰だ??
「ねー。
まぁ、仕方ないわよ。
ルキウス様は、ここに来てまだ二ヶ月ちょいでしょ。
事情を知らなくて当然よ」
聞くにたえない。
俺は気配を消してその場から離れようとした。
メイド達の楽しそうな声が届く。
「うん!
だからね、身の程を思い知らせてやることにしたの♡」
思わず足を止めてしまった。
おい、何の話だ。
「え、なになに?
何したの??」
ほんと何したんだよ。
「ないしょ♡」
この前のこともある。
あの時、下男と一緒にいたメイドとは別人だが。
だいたい、何をしたのかは予想できた。
メイド達が立ち去るのを待って、すぐに小屋へもどった。
夕食用の弁当を確認する。
前回と違い、変わったところはなかった。
開けて、それとなく匂いと見た目を確かめる。
先程の時のことを思い出して、小さく一口食べてみる。
味わう。
毒は入っていなかった。
警戒しすぎたかな。
と、そこへルキウスが現れた。
一緒に用意されていた、水差しからカップへ水を注いで一口飲んで、気づいた。
こっちかぁぁあ!!!!
水に毒が混ぜられてる。
やべぇ、飲んじまった。
まだ少量だから、毒耐性でなんとかなっているけど。
これ、どうしよう。
いや、ルキウスに知られたところでどうって事ないといえばないが。
しかし、おそらく水もルキウスが用意したはずだ。
この数週間、ずっとそうだった。
でも、ルキウスは毒を入れることはしなかった。
となれば、あのメイドが入れたか。
あくまで可能性の話だ。
とにかく、ここで俺が毒だなんだと騒ぐとめんどくさいことになる。
いや、ならないか。
しかし、ルキウスに知られたら通報とかしそうだ。
この世界、警察とかも普通にある。
子爵家内ならともかく、この毒のことが騒動になったらそれはそれでかなりめんどくさいことになるだろうことは予想できた。
それによって、逃走予定が延期になることだけは避けたい。
幸い、毒の症状はまだ出ていない。
ならば、と俺はほぼ飲み込むように夕食を食べあげた。
水は飲まなかった。
あとで、なんとか自分で調達して飲もう。
大丈夫、以前も弁当に毒を盛られてもなんとか耐えられたのだ。
「ご馳走さま!!
俺は寝る!!
片付けよろしく!!」
ベッドに潜り込んだ直後、毒がまわりはじめことに気づいた。
ちくしょー、一口しか飲んでないのに。
「あ、はい」
ルキウスの戸惑った声が届く。
広げた弁当を片付ける音。
それから部屋を出ていく気配。
気配が遠ざかる。
それを確認して、俺は小屋を飛び出した。
さらに小屋の裏手へまわりこむ。
込み上げてきた物を全部ぶちまけた。
おゥろろろろろロロロ!!
ビシャビシャっと、胃に入っていた夕食だったものを吐き散らかす。
やべぇ、ガチで殺しに来てる。
わかっていたはずだ。
そんなこと、わかっていたはずなんだ。
昼間のスレでのやりとりを思い出す。
なんなんだよ、あのメイド!!
この前のメイドと下男も!!
餌とかなんとか言ってたし、感覚としては害獣の殺処分程度にしか思っていないのかもしれない。
スレ民が言っていたように、ガチで家出計画の予定を早めた方がいい。
しかし、こんなことが続いたならそりゃ前のリアムも、その辺の草を煮て食べた方がマシって考えになるのもわかる。
その方が、まだ安全だからだ。
とりあえず、吐瀉物には土をかけて見えないようにした。
誰も来ないだろうが、念の為だ。
それから小屋に戻ろうとする。
その時、声が聞こえてきた。
こっそりと小屋の裏側から顔を出して、様子を窺う。
小屋の前、というかリアムの寝ている部屋の窓のところに誰かいた。
「どうなってるかしらね?」
「死んでるんじゃないの??」
実に楽しそうな声である。
「虫みたいにのたうち回ってたりして」
キャハハと笑う姿は、まさにサイコパスだ。
この家で、リアムは人扱いすらされていないらしい。
それにしても、雇っているメイドの質も落ちたものだ。
役たたずだなんだと冷遇こそされているものの、リアムは貴族の子息だぞ。
そいつに毒を盛るとか、正気の沙汰とは思えない。
メイド達が窓から部屋の中を覗き込む。
「あ、いない」
「え、いないの??」
「うん、いない」
「なーんだ、つまんないの」
と、今度はルキウスが血相をかえて走ってきた。
小屋の扉を乱暴に開け放つと、
「リアム様!!」
叫んだ。
メイド達も目を丸くしている。
なんだなんだ??
「くそっ!!」
悪態をつくのが聞こえてくる。
しかしすぐにルキウスは小屋の外にいたメイド達に気づく。
瞬間、怒鳴った。
「おい!
リアム様はどうした?!
どこにいる?!」
あまりの圧に、メイド達は怯える。
人に毒を盛るのは楽しんで、ルキウスの形相におびえるの、意味わかんないな。
「え、し、しりません」
メイドの片方、おそらく俺に毒を盛った方がそれだけ口にする。
もう1人はコクコクと頷いている。
ルキウスはそこで、メイド達の顔をジロジロ見ると、
「なぜ、ここにメイドがいる??
なぜ、窓から中の様子をうかがっていた??
返答によっては……」
ルキウスがソッと、佩いていた剣の柄へ触れるのが見えた。
あ、これまずい!!
直感だ。
直感で、まずいというかヤバいとおもった。
「おっ、ルキウス!
どうした??
なんか忘れ物でもしたか??
っと、そっちのメイドは??
なんか用??」
俺は比較的明るく、ルキウス達に声をかけながら姿を見せた。
ルキウスが目を丸くし、俺を見てくる。
一方、メイドたちは戸惑い、いや違うな。
なにか不気味なモノをみるような目をこちらに向けていた。
「え、あ」
同時にやはり戸惑ってもいるようだ。
互いに目配せしている。
「ダメだぞーこんなとこでサボってちゃ。
子爵様からムチ叩きのお仕置されちゃうぞ。
早く仕事もどんなー」
俺の言葉に、そそくさとメイド達はその場から走り去った。
よし。
あとはルキウスだな。
「ご無事ですか?!
体調は?」
「は?
いや、何ともないけど。
どうしたんだよ??」
何ともないは嘘だ。
まだ少し吐き気がある。
しかし、我慢できる程度だ。
この程度なら、いつもの調子を装うくらいは簡単である。
「それが……」
ルキウスの話によると、どうやら水差しに残っていた水を、使用人達が飲んで血を吐いて倒れたらしい。
食べ残しとか、そういう所謂おこぼれを下男などの食事、賄いとして提供することが往々にしてある。
今回はそれが、俺に提供された水だったわけである。
「ご無事で良かったです。
……あの、本当に体調は――」
「へいき……」
オゥろろろろろろロロロロっ。
平気だ、と言おうとしたところで吐いてしまった。
「平気だ」
キリッとした顔で言い直してみる。
「なにいってんですか!!??」
「これは、アレだ。
よく噛まずにご飯食べたからだ。
大丈夫だから、お前も屋敷の方行け」
少なくとも一部の使用人が血を吐いたなら、すでに医者と捜査機関に通報がされてるはずだ。
バタつくに違いない。
こんなとこにいるより、そっちへ行かせて事情説明してもらった方がいいだろう。
「頭イカれてんですか!?
毒にでもやられましたか??」
なにげに失礼だな、こいつ。
「いや、リュカのとこ見に行った方がいいんじゃないかなと。
ほかの水差しにも毒が入ってるかもだし」
「すでに子爵様の晩餐に出されていた水差しは、回収されています。
それに、リュカ様にはガープ様がいるので大丈夫ですよ。」
二度目だな。
誰だよ、ガープって??
「ガープって誰だ??」
思わず聞いてしまった。
すると、ルキウスの顔が青くなる。
「座って!!
動かないで!!
ご自分の名前言えますか?!
ここがどこかわかりますか??
この指、何本に見えます??」
無理やりその場に座らされる。
ルキウスが人差し指を立てて、質問してくる。
「意識確認なんてしなくても大丈夫だって」
「答えてください!!」
「はぁ、一本だよ。
んで、ここは実家の敷地内にある小屋。
俺が住んでる小屋だ。
これでいいか??」
まあ、なんやかんやあったものの、ガープについては知ることができた。
早い話が、ガープなる人物は原作でのルキウス枠だった。
どういうことかと言うと、ここで俺は初めて知ったのだが。
ガープは、子爵家へ俺たちが産まれる前から仕えているのだという。
その仕えるまでの流れが、原作のルキウスと同じだった。
子爵夫妻が野盗に襲われていたところを、各地を旅していた剣士ガープが助けたのだと言う。
ガープはそのまま子爵家お抱えの剣士となった。
その時、子爵の妻はリアムとリュカを身ごもっていた。
リアムとリュカは双子だ。
ただ、二卵性双生児だから似ても似つかない双子だが。
リアムが茶髪に茶色の瞳なのに対して、リュカは金髪碧眼。
まさに絵に描いた王子様のような外見をしている。
これは原作通りだ。
とにかくガープは、リアムとリュカのことを生まれた時から知っている存在というわけだ。
そりゃ、そんな存在を知らない等と口にすれば毒によって記憶障害を起こしたと思われても仕方がない。
そして今俺と話しているルキウス。
彼は原作のルキウスとは違う流れで子爵家に雇われたらしい。
騎士学校を卒業後、彼は冒険者となって活躍していた。
その話を聞きつけて、ガープがスカウトに来たのだという。
それが今からだいたい二ヶ月まえのことだったとか。
原作とまったく別な流れだ。
やはり、この世界は原作に非常によく似ているが、まったく別物の世界だということでいいのだろうか??
わからん。
そう考えておいた方がいい。
そもそも、リアムへの扱いが原作と違いすぎるのだから。
少なくとも、原作ではリアムの死を望んでいる者などいなかったはずだ。
挿絵のことを思い出す。
そう、今の俺のように痩せてはいなかったし、食事だって過剰に反応して吐くなどということもなかった。
なにが起きてる?
どうして、リアムはこんな扱いを受けている??
双子でさらに出来が悪かったから?
たしかにそれはあるだろう。
けれどだからって、使用人に毒殺や餓死を望まれるようなことを、記憶を辿る限り、このリアムはしていない。
それは断言できる。
なら、なぜ??
リアムは、老夫婦に預けられた??
死を願われつつも、リアムは生きてここにいる??
「……リアム様??」
ルキウスに背中を支えられつつ、小屋に入る。
そのままベッドまで歩いて座った。
頭を抑える。
「横になりますか?」
ルキウスは本当に心配そうに、俺の顔を覗き込んでくる。
「いや、いい。
ルキウス、頼みがある」
「はい、なんなりと」
「毒がまだ抜けてないんだ。
悪いが毒消しポーションを持ってきてくれ。
今日はそれ飲んで寝る」
「……わかりました」
ルキウスが俺の指示のもと、毒消しポーションを持ってくるために小屋を出ていく。
それを見送って、俺はステータス画面を表示させる。
さらに掲示板を表示させた。
「まずは報告だ」
俺は、新しくスレ立てをした。




