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貴族のボンクラ長男に転生したスレ主は、生存したい  作者: ハチミツレモン


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3/11

プチ家出3―1

※※※※※


【一週間後】


「あぁ、今日も完食されたんですね。

偉いです」


食べ終わった粥の皿。

今日の朝食だ。

それを回収しにきたのは、ルキウスだった。

ゲロ吐いて前世を思い出してから一週間ほどが経過した。

ルキウスは毎日、三食全てを運んで来るようになった。


「いや、うん、そうだけど。

なんでお前、毎日ここに来るの??」


それも食事を運んでくる、朝、昼、晩だ。

来れない時は、事前にその事を伝えた上で、保存魔法を掛けた食事をきっかり三食分用意してくれる。

今のところ毒は入っていない。


リアムの記憶があるため、珍しいこともあるものだ、と感じてしまう。


それはそうと、さすがに疑問を投げてみた。


「俺は、ご子息たちの世話係も任されていますので」


いや、それはリュカに対してだけだろう。

原作だって、基本リュカに張り付いていた。


「……父上、もしくは母上から監視しろとでも言われたか??」


「まさか。

旦那様や奥様がそんなことしないのは、リアム様が一番ご存知でしょう」


「じゃあリュカから命令されたか?」


確信を持って聞けば、あっさりと否定されてしまう。


「いいえ。

リュカ様にも、貴方には関わらない方がいいと忠告されました。

命令ではないので、気持ちだけは受け取りましたが」


「正直だなぁ」


「よく言われます」


「じゃあなんで、ご飯持ってきてくれるんだ??」


「………」


俺の質問に、何か言いたそうにこちらを見てくる。


「……何故か俺が怒られたんですよ」


「誰に?」


「医者に」


「それは、なんかすまん。

でも、お前が怒られる理由無くないか??」


「家の主の一人でもあるのに、栄養失調にさせるなんて何事だ。

子爵家に仕えているのなら、ご家族にもっと気を配れ、そして時には主の行動を諌めるのもお前の仕事だ、と」


「気にすることないさ。

お前を雇って、金出してるのは父上だ。

お前はこの家に仕えているのはその通りだし。

医者の言葉もわからなくはないが。

少なくとも、子爵家の家族に俺は入ってないから。


だからお前は父上や母上、あとそのご子息の言った通りに動けよ。

反感買ったら、めんどくせぇことになるぞ。

俺の事なんて放っておけ」


遠回しに、出世できなくなるぞと伝えてみる。

本編開始時は、ルキウスも出世しようと野心に満ち溢れていた。

そして、リアムに対して良い感情は持っていなかったのは確実なのだ。


「…………」


またなにか言いたそうな顔をされる。

ダメ押しで付け加えておこう。


「俺に餌を与えたところで、お前になんの得もない。

食事を用意してもらったことには感謝してる。

でも、もうこういうことはやめろ。

出世したいなら尚更だ」


スレ民達の助言通り、寝ていたら毒は消えていた。

体調も整いつつある。

これからは自分のことは自分でした方がいいし。

行く行くはここから逃げるのだ。

コイツがいると、そのつもりは無くても監視されてるみたいで嫌だ。

だから、はっきりと拒絶してみたのだが。


「そうですか。

わかりました。

それはそうと、そろそろお粥では飽きたでしょう。

昼食は何が食べたいですか?」


話が通じていない。


「俺の話、聞いてた??」


「なにが食べたいですか??」


圧が掛けられる。


「だから」


「な、に、が、食べたいですか??」


さらに圧をかけられる。

こっちもここで流されるわけにはいかない。


「お! れ! の!!

話を聞け!!」


何度か応酬を繰り返した挙句、俺が根負けすることとなってしまった。


「じゃあ、ハンバーグ。

ナポリタンが一緒になってるやつ」


世界観が世界観なので、ナポリタンが通じるのがこの作品のいいところだと思う。



ルキウスが皿を持って小屋から去っていく。

その背を見送ってから、俺はかるい運動をした。

曲もなにもないが、日本人なら誰でもできる運動。

そう、ラジオ体操である。

意外と体が動くから不思議だ。


それから、使用人のいない所を通っての散歩である。


体力作りのためだ。

あとは、逃走経路の確認も兼ねている。

今までのリアムも、気分転換に散歩くらいはしていたらしい。

ただ、昼ではなく人が寝静まった夜にだ。


そのため脳内に屋敷と敷地内の地図がインプットされていた。


体を動かすようになって一週間だが、それでも一週間前よりは動けるようになっていた。

これならあと一週間もすれば、次の行動に移れるはずだ。



【さらに一週間後】


基本、放置されているリアムだが、実は家から出ることを禁じられていたりする。

リアムの記憶によれば、彼は五歳の頃にはすでにこの小屋で過ごしていたようだ。

ただ、その頃のリアムの記憶は楽しいで埋め尽くされていた。

というのも、年老いた使用人夫婦が彼の面倒みていたのだが、本当の孫のように接していたようだ。

その老夫婦にはリアムと同い年の孫娘が一人いて、この子とも仲良く遊んでいた記憶がある。

幼なじみというやつだ。

その使用人老夫婦も、リアムが十歳の時に解雇されている。

記憶によると、当たり前だが孫娘も老夫婦と一緒に屋敷を出たようだ。


以来、リアムは独りでここに住んでいるらしい。

そして十五歳になった年、彼ははじめて毒を盛られ、死にかけた。

その時はなんとか、一命を取り留めたものの、騒ぎをきいた子爵やその妻から心無い言葉を叩きつけられてしまう。

それから定期的に、リアムは毒を盛られている。


やはり、原作とはなにもかもが違っている。

こんな設定も、ストーリーも俺は知らない。

ここまで来れば、原作と比較するのも馬鹿らしくなってきた。

もう本編と同じことが始まる前に、とにかくこの家から逃げ出さなければならない。

しかし、『急いては事を仕損じる』、『急がば回れ』などなど先人の偉大な言葉があるくらいだ。

慌ててはいけはい。


さて、まずはこの屋敷からどうやって出るかを考えなければならない。

なにかヒントは無いかと、昼も夜も歩き回った。

ヒントは無かった。


いっそのこと、表から堂々と出てみようか。

案外、物乞いかなにかが紛れ込んだとして追い出されるかもしれない。

なにせ、警備兵の全員が全員、リアムの顔を覚えているとは思えないからだ。

兵の入れ替わりだってある。

そしてなにより、俺が着ている服はボロボロのまさしく襤褸(ぼろ)。


いつしか服の支給すらされなくなった。

そのため、前のリアムが屋敷中を徘徊して捨てられる直前のものを持ち込んで使用していた。

そして、使用人の老夫婦が置いていった裁縫道具を使って少しずつ補修して着ていた。


糸も無限ではないため、少なくなっては屋敷にこっそり忍び込んで拝借して使っている。

幸い、気づかれることはなかった。

もし気づかれたなら、いくらなんでも使用人たちがすっ飛んできて、リアムのことを袋叩きにしたはずだ。

盗みはよくないが、そうでもしないとまともな生活すらできない。


「せめて外に出ても普通に見える服も手に入れないと」


ぽろりと俺が呟くのと、ルキウスが朝食を持ってやってくるのは同時だった。


「おはようございます、リアム様。

朝食をお持ちしました」


「あ、あぁ。

ありがとう」


かれこれ二週間か。

こいつが俺に餌やりを始めて。

最初は、野良猫の面倒を見ている感覚なのだろうと思っていたが、どうやら違うらしい。

それこそ彼は、この小屋の掃除やら俺の服の洗濯やらを始めたのだ。

とても騎士のする仕事では無い。

しかも、そのうち、自然とやめると思っていたのにやめる気配がないのだ。

止めても聞かないので、今は放置している。


あ、そうだ。


「なぁ、ルキウス。

頼みがあるんだけど」


「なんですか?」


いま、声が弾んだか、こいつ??

いや、気のせいか。


「古着を用意してくれないか。

今の手持ちの服がそろそろ寿命でな。

出来れば動きやすいやつがいい。

平民が着てる、普段着でいいから」


寿命どころかとっくに天に召されていても不思議じゃないほどに、ボロボロだ。

それを誤魔化し誤魔化し補修して使っていたのだ。


「お任せ下さい」


即答された。

あぁ、そうだ。

これも伝えておかなくては。


「それと、お前が立て替えてくれた治療費?診療費?


とにかくアレだ、医者代はもう少しまっててほしい」


変な顔をされた。

しかし、お金のことはきっちりしておきたい。

前世で貴族の人とは会ったことなどないから、たぶんものすごく変なことを言っているのだろうとは思う。

俺はたしかにリアムだが、やはり前世の俺の部分が大きいのだろうと思う。


リアムの部分ももちろんあるから、ルキウスのことを信用しきれていないのも事実だ。


「それは気にしなくていいとお伝えしたはずですが」


「そういうわけにもいかないだろ」



さて、そんな会話をした数時間後にルキウスは服を用意してくれた。

ありふれた町民が着ている服だ。

そして動きやすい。

リクエスト通りである。

早速着てみた。

サイズも問題ない。

よしよし。


「ありがとう、ピッタリだ」


「お気に召したようなら幸いです」


その後、ルキウスは仕事があるので去っていった。

そう、ルキウスは騎士だ。

本来ならリュカの護衛もつとめている騎士。

食事や、今みたいに服を用意してくれたことには感謝している。

しかし、こんなことを続けさせる訳にはいかない。


「早く金稼いで出ていかないと」


とりあえず、次にするのは抜け道を見つけることだ。

これだけ広い屋敷だ。

どこかに子爵も気づいていない綻びがあってもよさそうだ。


この考えは的中する。

なんと、抜け道を見つけたのだ。


それを見つけたのは本当に偶然だった。

たまたま寄りかかった木が、屋敷を取り囲む塀のすぐ近くで、上手く枝から塀に飛び移ることができたら外に出られそうだったのだ。


キョロキョロと周囲を見回す。

思い立ったが吉日だ。

俺は、するすると木を登る。

登りやすかった。

これなら!!


俺は、盛大にジャンプして塀に飛び移った。


やってみるもんだな。

成功した。

よし。


筋力的に不安しか無かったんだが。

とにかく、ある程度、体力と筋力がついてることがわかったからいいや。


そのまま塀の外を見てみる。

小路があった。

誰もいない。

人の気配そのものがない。

警備が回ってくる様子もなかった。

このまま降りるか??

いや、帰ってきた時に戻れない。


ロープとか用意しないと。


本当はすぐにでも逃げ出したいところだが、なにせ先立つものがないのだ。


原作では、ルキウスが冒険者として活動していたし。

スレでのやりとりで、レベリングの話も出ていた。

当分は、魔物狩りをしてレベリングしつつ、ドロップするだろうアイテムを売買してお金を稼ぐしかない。


慌てない慌てない。


とにかく、確実にお金を作っていこう。


そこからの俺の行動は、自分で言うのもなんだが早かった。

敷地内を歩き回り、丈夫そうなロープを確保。

それから、ルキウスにそれとなく冒険者ギルドの話を聞いて情報収集をした。


「冒険者に興味があるんですか?」


そう聞かれた時に、


「たまに使用人たちが話してるからな。

やれ予言だ、英雄だ、勇者だ、魔王だって。

そりゃ多少は、な」


これは嘘では無い。

実際、予言だかなんだかで魔王が復活し、世界の滅亡が示されている。

その魔王を倒すことのできる英雄、もしくは勇者のことも話題になっていた。

それは原作でも変わらない流れだ。

ちなみに、その英雄は目の前に居たりする。

……俺が逃げると、ルキウスが英雄になれなくなったりするんだろうか??

まさかな。

なにしろ、ルキウスはやがて世界を救う英雄、勇者様、主人公なのだから。

流れが違っても、彼は子爵家に雇われたわけだし。

なら、違う流れで世界を救ってくれるのだろう。


とにかく、数日間、情報収集に力を入れた。


そろそろ外に出てみようと決意したが、ひとつ障壁があることに気づいた。

他ならないルキウスである。


彼がいると、こっそり行動することができない。


彼が俺に情けをかけて食事の用意や、身の回りの世話をしているのは理解している。

子爵やその家族から指示されての行動でないことも、おそらくその通りだ。

しかし、だからといって信用しているかと言われれば違う。


それとこれとは違う話なのだ。

なんとか、彼をこの小屋から引き剥がさなければならない。

どうするか。

あれこれ、アイデアもどきは浮かんでくるものの、コレというもの出てこなかった。


「あ、こういう時こそ掲示板じゃん」


相談スレ、なんてジャンルのスレがあるくらいだ。

掲示板に生息するかの如く存在しているものたち――通称スレ民達――なら面白がって相談に乗ってくれるに違いない。


俺は数週間ぶりに、スレ立てをした。

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