ゲロ吐いて前世を思い出した件1
おゥろろろろろロロロロっ!!
おゥろろろろろロロロロっ!!
おゥろろろろろロロロロっ!!
ゲェゲェゲェっ!!!
「きぼぢわるい」
吐き気と共に、目が覚めた。
すぐ近くを流れていた小川へと、胃の中のものをぶちまけた。
「飲みすぎたぁ」
調子に乗るんじゃなかった。
繁忙期も終わって、ようやく明日から三連休となった。
久々の連休に浮かれすぎて、飲みすぎてしまった。
酒は飲んでも呑まれるな、という偉大な先人たちの言葉を思い出す。
うぅ、頭痛い。
こりゃ二日酔い確定だ。
液キ〇ベ、液キ〇ベ飲まなきゃ。
毎回、二度とお世話になりたくない味に頼ってしまうのは、酒カスの宿命か。
でも、アレが1番効果があるのだ。
「う、寒っ」
風が吹き抜けて、ハッとした。
あれ?
おかしい。
俺は独り宅飲みをしていたはずだ。
なのに、なんで外にいるんだ??
周囲をキョロキョロ見回す。
どこだ、ここ??
周囲には、石造りのお城のようなもの。
中からは賑やかな声が聞こえてくる。
アレだ、シンデレラとかそういうおとぎ話で見るお城そっくりだ。
遊園地ならともかく、うちの近所にこんなとこあったか??
……なかったはずだ。
しかし状況から察するに、泥酔した上、家を出て徘徊したのだろう。
こんなことは初めてだ。
俺の場合、酔いつぶれると寝るか笑い転げるかして吐くのだが。
徘徊した上で吐いたのは、初めての経験だ。
疑問に思っていると、月明かりが出てきた。
ふと、吐瀉物を撒き散らした川面を見た。
「え、だれ??」
俺の顔が全くの別人に変わっていたのだ。
十代後半、いや、二十代前半??
それくらいの茶髪の青年だ。
いやいやいや、待て待て待て??
何が起こってる??
しかし、この顔どこかで見たことあるような??
酒のせいてガンガンと痛む頭をなんとか使い、この顔を思い出そうとする。
その時だった。
「ここにいましたか。
ほら、戻りますよ」
そう声を掛けられる。
声のした方を見やれば、銀髪の美青年が立っていた。
アイドルか??
え、なんでアイドルがこんなとこにいるの??
いや、まてまてもしかしたら俳優さんかもしれない。
若手の俳優さんも、顔立ちがアイドルのように整っているのが現代だ。
「リアム様」
青年が、俺を見てそう呼んでくる。
あ、今の俺の名前だ。
そう自覚した途端に、洪水のように記憶が溢れ出した。
その情報量を処理しきれず、また吐いてしまう。
おゥろろろろろロロロロっ!!
おゥろろろろろロロロロっ!!
おゥろろろろろロロロロっ!!
ただ、胃の中にはもうなにも残っていなかったらしく、胃液しかでない。
「ちょ、大丈夫ですか!?」
美青年が蹲って吐き続ける俺へ駆け寄って、背中をさすってくれる。
「わ、わるい、ルキウス、み、水。
水持ってきてくれ」
俺が頼むと、美青年ルキウスがどこかへ走っていった。
頭も胃も調子が悪すぎる。
ゲェゲェと吐いて、やがて頭がぼうっとしてきた。
フラフラする。
そう思った直後、体がぐらついた。
続いて体にかるい衝撃。
そして、視界が暗転した。
【落ちこぼれ魔法騎士の成り上がり】という作品がある。
剣と魔法とゲーム要素のある世界観のWeb小説だ。
先日完結したこの作品を、俺は他の積読小説と一緒に酒を飲みながら読んでいた。
そして、酒によって寝入ったのだろうと思う。
そこまで思い出した。
先程の美青年ルキウスは、この作品の主人公である。
話が進むと、英雄【氷の騎士】として世界中に名を轟かせるキャラクターだ。
ルキウスは魔法が上手く使えず、通っていた騎士学院では落ちこぼれとされていた。
騎士学院卒業後、冒険者として活動していたところ、お忍び視察帰りに、盗賊に襲われていたとある貴族を助けることとなる。
その貴族こそ、リアムの両親である子爵夫妻だった。
二人はルキウスの腕を見込んで、次期子爵である【リュカ】の護衛として雇うこととにしたのだ。
そして物語は彼が子爵家へ雇われ、しばらく経過した頃からはじまる。
【リュカ】は【リアム】の弟である。
それもとてつもなく出来がいい、弟だった。
そのため両親も、家に仕えるもの達も【リュカ】にご執心だった。
物語のはじめの方のエピソードで、リアムはルキウスとリュカに討たれてしまう。
よくあるストーリーだ。
【リアム】は子爵家始まって以来の出来損ないとして扱われ続けたため、闇堕ちしてしまう。
自分を蔑ろにし続けた周囲に復讐するため、違法な薬物に手を出し、化け物に変じてしまうのだ。
それを、リュカとルキウスが退治するのである。
その一件から、ルキウスの名が徐々に広まっていくことになる。
そして、他ならないリュカから、世界を見てこいと背中を押されて旅立つのだ。
「やべぇ、俺殺されちゃうじゃん」
ベッドの上で、そんなことを呟きながら目が覚めた。
頭がガンガンする。
二日酔いだ。
変な夢を見た。
まさか、作品世界に俺が転生して、しかも転生先が敵キャラだなんて。
とにかく今は二日酔いをなんとかしなくては。
液キ〇ベ、液キ〇ベのまなきゃ。
と、液キ〇ベを探そうとして、気づいた。
見慣れない天井。
殺風景な部屋。
俺の部屋じゃない?!
ここは、リアムの部屋だ。
必要最低限の物しか持つことを許されていない、彼の部屋だとすぐに理解できた。
部屋というか小屋だ。
子爵邸の敷地内、その片隅にひっそりと建てられた小屋である。
思わず飛び起きる。
頭はやはりガンガンと痛む。
昨夜のことがすぐに思い出された。
そして全てを理解することが出来た。
部屋を見回す、すぐ近くにガラス窓があった。
そこに写っているのは、やはり【リアム】で。
「夢じゃ、ないってことか」
こんな漫画みたいなことが自分に起きるなんて。
痛む頭を抑える。
昨夜のことを思い出す。
リアムの記憶だ。
昨夜は、そうパーティーに強制参加させられたのだ。
国王主催のパーティーで、俺にも招待状が来たために父親も無視することが出来なかった。
そのため、流行遅れではあるが用意された夜会服を来て参加した。
そして、父親やリュカとともに挨拶まわりに駆り出され、散々貶されまくったのだ。
引き立て役にはちょうど良かったのだろう。
リュカの株をあげるために、いかに俺が出来損ないなのかということを笑って話していた。
リアムが吐いたの、もしかしてそのストレスからだったりして。
リアムとしての記憶を手繰ってみたけれど、変なものを食べた記憶もない。
ドリンクを渡されて、舐めるように少しだけ口にした程度だ。
それにしてもあれだけ吐いたのは、俺の前世の経験上、金欠だったためにフワフワしたカビが生えた大福を食べた時くらいである。
あの時ばかりは、死ぬかとおもった。
結局、カビ大福では死なず、何年も経ってから飲酒して寝こけて死んだのだから。
人生って何が起こるかわらないものだ。
さて、それはともかくとして。
城に行って吐くという、こんなエピソードは知らない。
ということは、まだ本編が始まる前ということか?
そう考えた時だ。
この部屋というか、小屋に来訪者があった。
ルキウスだった。
「お目覚めでしたか」
ルキウスは、なにやら湯気のたっている皿を乗せたトレーを持っていた。
あと、水差しとグラスもある。
「食べますか?
というか、食べられますか??」
それは粥だった。
「え」
「胃が弱っているらしいです。
それと脱水の症状もあるとか」
「え、なんでそんなこと知ってるの??」
「医者に来て、診てもらいました」
「は??
誰が呼んだんだ??」
まさか、父親かリュカか??
それとも母親か。
いずれにしろ、有り得ない。
「俺が呼びました。
旦那様、リアム様の父君や母君、リュカ様には捨ておけと言われましたが、さすがに放っておけなかったんです。
だから、こっそり知り合いの医者を連れてきて診てもらいました」
……???
俺は子爵家の嫌われ者なのに??
なぜ??
Why??
いや、いまは疑問よりも言うことがある。
「そ、そうか、ありがとう」
服も着替えさせられているし、体も拭かれている。
使用人達は父親に仕えているのだから、こんなことはしない。
消去法で着替え諸々をやってくれたのは、おそらくルキウスだろう。
まぁ、ルキウスも父親とリュカに仕えているのだから、こんなことをする必要は無いのだが。
「えっと、いくらかかった?
今は手持ちがないから、そのうち返すから教えてくれ」
なんとか金をつくろうと、金策について考えていると、
「必要ありません」
バッサリと言われてしまう。
「え、いやいや、そういうわけにはいかないだろ」
「必要ありません」
にべもない。
「そんなことより、貴方細すぎませんか??
いくらなんでも食事くらい用意して貰っているでしょう。
リュカ様やほかの使用人から聞いていますよ。
気に入らないメニューだと、トレーごとひっくり返して怒鳴りつけているらしいじゃないですか」
非難がましい視線を向けられる。
ふむ、そういうことになってるのか。
なるほどなるほど。
まぁ、ボンクラわがまま息子ならそれくらいする、と思われていても不思議じゃない。
粥の盛られた皿、それが乗ったトレーごとルキウスは俺に渡してくる。
俺は、それを受け取りながら答えた。
「あ、あぁ、そうだな。
もう子供じゃないんだし、これからは改めるよ」
とりあえず、殊勝な態度をとっておこう。
「使用人たちへ謝罪もして下さいね」
「わかった。
するよ」
わざわざルキウスの言い分を否定することもない。
彼は何も知らないのだ。
それに本当のことを言ったところで、どうせルキウスは信じない。
「それでは、このお粥、一口でもいいので食べてくださいね」
無理に全部食べろと言われないでよかった。
その辺、優しいな。
「あ、あぁ」
「皿はあとで使用人に頼んで回収させますから」
「わ、わかった」
とにかくいまは、話を合わせておこう。
俺が頷くのを確認して、ルキウスは部屋を出ていった。
気配が小屋の外に留まっている。
なんなら視線のようなものを感じる。
スキルか魔法を使って、俺が粥を食べるか確認しているのだろう。
なんでそこまでするのか意味不明だ。
二日酔いとはまた違った意味で気持ち悪い。
こりゃ、食べるまで動きそうにないな。
……仕方ない。
俺は、自然と慣れた動作をした。
(見た目、よし。
匂い、よし)
いざ!!
俺は一緒にトレーに乗っていたスプーンで、一匙救って舐めてみる。
少しだけ舐めとったそれを、ゆっくり味わう。
「大丈夫そう、だな」
なにせリアムの記憶によれば、毒を盛られ苦しんだことがあり鳥の餌ほども食べられなくなっているらしかった。
なにかものを食べようと、口に含んだだけで体が過剰に反応して吐いてしまうようになったらしい。
加えて、使用人たちから嫌われているので食事なんて一週間に一度運ばれてくるかどうかだ。
ちなみに、誰が毒を盛ったのかは不明である。
今までのリアムにしてみれば都合が良かったのと、何を言っても受け入れて貰えないことは目に見えていたので、なるようにしかならないと受け入れていたらしい。
しかし、いまは前世を思い出した俺であるためか、粥を食べても吐くことはなかった。
それでも、少しでも変な味がすれば即座に吐き出すと決めていた。
心配は杞憂に過ぎず、安心してしまう。
さすがに皿一杯分の粥は久しぶりすぎて胃が痛くなってしまう。
食べ終えた皿はあとで、こっそり戻しに行こう。
ルキウスはああ言ったが、どうせ誰も来ない。
よし、腹ごしらえは済んだ。
今後のことを考えなければ。
なにせ、いまは原作と違っていても本編と同じ流れになってしまえば死は避けられない。
いや、いまは俺になったのだから闇堕ちはこれだけで回避できているようなものだ。
なにせ、原作のリアムは自身への扱い諸々に不満を溜め込んでいたのだから。
しかし、である。
今回はともかく、まともに食事すら運んでもらえず、ガリガリに痩せ衰えている現状。
こんな状態が続けば、遅かれ早かれ死ぬ。
たぶん、餓死する。
闇堕ちや討伐を待たずに死んでしまう。
それを避けるためには、やはりここから逃げ出さなければならないだろう。
せめて栄養をとらねば。
あと、体力をつけて逃走資金の確保だ
やることは沢山ある。
どう動こうかとか、粥をモグモグ食べながら色々考えてみる。
そこでルキウスの気配が小屋から遠ざかっていくのがわかった。
それに安心した直後、ふと思いついた。
「あ、そうだ」
ここは、剣と魔法とゲーム要素のある世界観だった。
「ステータスオープン?」
恐る恐る、王道なセリフを呟いてみる。
なんと、ステータス画面が出現した。
――――――
○名前:リアム・トール・フィエルテル
○レベル:3
○状態:毒
○技能:[毒耐性][初級火魔法]
○特殊:[異世界交流]
○備考:食事はよく味わって食べれば、毒かどうかわかります
――――――
名前、なっが。
リアムって、こんなに名前長かったのか。
それに毒に耐性持ってたんか、リアム。
そして火魔法を使える、と。
備考の記載が悲しすぎる。
彼は、よく味わうことが出来ずに吐いてしまっていたのだ。
そして、毒耐性がありながら状態が【毒】。
お粥に異常はなかったから、たぶん昨夜口にしたドリンクにでも入っていたんだろう。
どうすれば、この状態異常治るんだろう。
わからん。
まぁ、今のところ死んでないからいいか。
【毒】状態ではあるけど、体感としては酷い二日酔いでしかない。
あ、毒耐性が効いてるからか??
ゲームだと時間経過とともに毒状態は自然と回復するけど、今はどうなんだろう。
あとは。
……この異世界交流ってなんだろ??
「スキル、【異世界交流】を使用」
これまたよく漫画で見てきたセリフを呟いてみた。
すると、新しいウィンドウが表示される。
「え、これ、匿名掲示板か?!」
ある意味見慣れた画面が表示されていた。
ネットの匿名掲示板に告示した画面だ。
同時に、その掲示板の説明が頭の中に流れ込んできた。
それによるとどうやら、【異世界匿名掲示板】と呼ぶのがふさわしいらしい。
あちこちの世界に次元諸々を越えて繋がっているのが、この掲示板らしかった。
スレ立て、書き込み、画像の貼り付け、なんでも出来るようだ。
……相談、してみるか。
掲示板の治安はあまり良くない。
けれど、今はとにかく意見がほしかった。
関係の無い第三者に話を聞いて欲しかった。
俺はすぐにスレ立てをしたのだった。




