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望郷のエルフ  作者: 沙伊
魔剣ヴォーディン編

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27/31

二十七

 巨人の骨は、さすがに硬かった。がんっ、という鈍い音と共に、腕にしびれが走る。

 だが、巨人も無事というわけにはいかなかった。

 骨こそ無事だったものの、腰を殴打されたことで体勢を崩し、後ろに座り込む。その勢いで、ネリアが肩から滑り落ちた。

 落下したネリアは、しかし身軽に着地すると、ユリウスに斬りかかった。大上段から振り下ろされる魔剣を受け止め、ユリウスは声を張り上げる。

「ネリア、聞こえるか⁉ 剣を手放せ! 無理でも、せめて返事をしてくれっ」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 鍔迫り合いを繰り広げながら、ユリウスは必死にネリアに呼びかける。だが、ネリアは反応する素振りも見せない。ただぼうっとした眼差しで、剣を振るうだけだ。


 ──何とか、剣を奪うか、破壊するしかないのか⋯⋯


 ユリウスはがんっ、と大剣を魔剣に叩き付けた。全力で振るわれた一撃は、剣もろともネリアの身体を吹き飛ばす、巨人スケルトンのところまで戻されたネリアは、スケルトンと共に再びユリウスに襲いかかった。

 だが振り上げられた巨人スケルトンの腕を、ルキウスが斬り上げる。弾かれた巨人スケルトンの腕に、僅かにひびが入った。

 一方のネリアは、ユリウスとの間合いを詰め、ぶん、と魔剣で半円を描いた。全身を使った一撃を何とか受け止めたものの、ユリウスの身体が後ろに押し戻される。

 激しい金属音の合間に聞こえる身体が軋む音に、ユリウスは歯を食いしばった。

 早く魔剣からネリアを解放しないと、彼女がもたない。確実に激痛が走っているはずなのに、無理矢理動かされているのだ。そのうち致命的なことになりかねない。

「兄上、ネリアは!」

「解っている! だが、見捨てることはできない」

 ユリウスの言葉に、ルキウスも諦めたのか魔法で援護する。ルキウスの魔法を付与された大剣が、僅かに炎を帯びた。

 一方ルキウスは、雷を帯びた剣で再び巨人スケルトンに斬りかかった。同じところを斬りつけられたスケルトンの腕は、半ばまで絶ち斬られる。だが痛みなど存在しないスケルトンは、その傷付いた腕で周囲を薙ぎ払った。

「ぐあ⁉」

 巨大な手に吹き飛ばされて、ルキウスもまた下に落ちてしまった。辛うじて着地はしたものの、すぐには動けない。

 そんな彼の頭上に、巨人スケルトンの手が落ちてきた。

 回避する間も無い。ルキウスが顔を上げた時には、眼前に迫っていた。

 あ、と思う暇も無く、ルキウスは潰される──かと思われた。

「は──あ!」

 その腕を、突如横合いから斬り付ける者がいた。ミカエルシュナである。

 ミカエルシュナはルキウスが傷付けた個所と重ねるように剣を振るう。すでにひびの入ったそこに対する鋭い一撃は、腕の骨をすっぱりと斬り落とす。

 骨が斬れたことで目測がずれた手は、ルキウスの脇に落ちた。ルキウスは腕の骨から距離を取りつつ、目の前に降り立ったミカエルシュナに声をかける。

「すまない、助かった!」

「いえ、ご無事でよかった」

 ミカエルシュナはそう答えて、ユリウスの方を見た。

「陛下、魔剣は核となる魔晶石があるはずです! そこを破壊すれば、能力を喪失するはずです」

「簡単に言ってくれるな⋯⋯」

 ユリウスは苦笑して、ネリアと向き直った。

 魔剣は刀身も含めて真っ黒で、一見すると魔晶石らしきものは無い。だがよくよく見れば、刃の根元にそれらしい黒い石がはまっている。現状、それを狙うしかない。

 また狙いにくい場所に、と歯噛みしつつ、ユリウスは剣を振るう。狙いが解っているのか否か、ネリアは──ネリアの持つ魔剣は、ユリウスの剣を受け流すように止めていく。

 何合と打ち合うたびに、ネリアの身体が悲鳴を上げる。ついには、ドレスの袖から血がにじみ始めた。

 おそらく、声を上げるほどに痛いだろう。本当なら、泣き出してもおかしくないはずだ。

 けれど、ネリアは無表情のまま、濁った眼差しで見返すだけ。そこにネリアの意思は無い。


 ──ネリアは、ずっとそうだった。


 ユリウスは攻めあぐねながら、今まで見てきた妹の姿を思い出す。

 妄執に取り憑かれた皇太后に押し込められ、自分というものを出してこなかった(ネリア)。兄として何とか関わろうとしてきたが、皇太后が邪魔でほとんど叶わなかった。

 折を見て贈っていた贈り物もまともに受け取ってもらえず、手紙さえほとんど行き着いたことが無い。

 それでも、ユリウスの手元に残った数少ない血縁。愛しい妹であることに変わりはない。

 助けたくて、せめて笑ってほしくて──手が届かないことに、何度心苦しく思ったことか。

 だが、今度こそ。

「ネリア、今度こそ助ける! もう、これ以上おまえを傷付けたりしない。だから、応えてくれ!」

 ユリウスは叫ぶ。届かないとしても、届いてほしいと願いながら、どうか応えてほしいと願いながら。

 果たして。

「⋯⋯おに、い様」

 ネリアの口が、動いた。目はどろりと濁ったまま、表情も動かないまま。

 それでも、その口は、動いたのだ。

 同時に、魔剣が一瞬だけ動きを止め──

「充分だ」

 しかしすぐ振り下ろされようとした魔剣を、ユリウスは掴んだ。魔剣と、ユリウスの籠手が、がき、と嫌な音を立ててぶつかり合う。

「ネリア、よく応えてくれた」

 ユリウスは微笑み、魔剣の宝石に柄頭を叩き付けた。

 ぱりん、と音を立てて砕ける宝石。と同時に、魔剣の柄だけがネリアの手から弾け飛ぶ。魔剣の柄は勢いよく飛んで、離宮の壁に深く突き刺さった。

「ふむ⋯⋯案外脆いな。これなら、うちの鍛冶師の方がよほどよい剣を造る」

 根元から折れた刃を放り、ユリウスは倒れそうになったネリアを受け止めた。

 ネリアの手の平は、皮と肉がめくれ、酷い有様だった。ユリウスが柄を殴り飛ばしたせいでもあるだろうが、無理に剣を振るい続けていたため、手も限界を超えていたのだろう。

「う、あ⋯⋯あ⋯⋯」

 魔剣から解放されたネリアは、苦しげな呻き声を上げた。意識が無い中でも、激しい痛みで苦しんでいるのだろう。今すぐにでも回復魔法をかけてやりたいが、あいにくユリウスは強化以外の魔法は使えない。

 それに、だ。

「ワイバーンの時もそうだが⋯⋯都合よく消えてはくれないな」

 ユリウスの見上げる先には、巨人スケルトンがミカエルシュナとルキウス相手に暴威を振るっていた。

「陛下!」

 いつの間にか降りてきたのだろう、オリヴィアが駆け寄ってきた。

「ネリアを頼む。俺はふたりに加勢してくる」

「かしこまりました」

 オリヴィアはところどころかすり傷を負っており、非常に疲れた様子だったが、それでも力強く頷き、ネリアの傍に膝を着いた。

 それを確認した後、ユリウスは駆け出した。

 巨人スケルトンは、ミカエルシュナに片腕を斬られ、それでもその威容を保っていた。ぶん、と残った片腕を振るい、ルキウスの剣やミカエルシュナの魔法にもひるむ様子が無い。

「魔剣は破壊した! なぜこのスケルトンは動いている⁉」

 ユリウスが状況を尋ねると、ミカエルシュナが答えた。

「このスケルトンは、魔剣が召喚したものです。おそらく、スケルトン自身の核が存在します!」

「スケルトンの核、ということは⋯⋯」

「頭、だな」

 三人は巨人スケルトンを見上げた。多少跳んだり跳ねたりでは届かないところに、頭がある。

「まずはスケルトンの下半身を何とかするぞ。でなければ、魔法も届かないだろう」

 ユリウスはそう言って、巨人スケルトンの腕をかいくぐり、太い大腿骨に斬りかかった。

 鈍い音を立てた後、大腿骨は大きなひびを作る。そのひびが伝線するように、片脚が崩れた。さすがの剛腕である。

 たまらず倒れ込む巨人スケルトンの残った脚を、ミカエルシュナは蔓草で絡め取る。そこにルキウスが電撃をまとった剣を振り下ろした。その一撃は腰骨を強打し、巨人スケルトンの全身を電撃が覆った。

 痛覚の存在しないスケルトンとはいえ、電撃による一時的な麻痺からは無事ではいられない。むしろ魔法的な電撃である分、余計に影響を受けるだろう。

 動けなくなり、更に蔓草に引っ張られる形で、巨人スケルトンは地面に巨体を引き倒された。そこに、大剣を垂直に構えたユリウスが突貫する。

 まっすぐ突き出された大剣は、スケルトンの空っぽの眼窩(がんか)に突き刺さる。そこから更に頭蓋骨に押し込めば、骨を突き破る以外の感触が手に伝わった。

 巨人スケルトンの、悲鳴無き悲鳴が響き渡った。音も無く空気を震わせる振動は、半壊状態だった離宮を崩していく。

 それは、巨人スケルトンの断末魔だった。

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