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望郷のエルフ  作者: 沙伊
魔剣ヴォーディン編

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二十四

 ニヴィエの密告に加えてミカエルシュナの話も聞いたことで、ユリウス達は皇太后が魔剣を持ち出したことが事実だと信じざるをえなくなった。更に宝物庫の魔剣が偽物にすり替えられているという報告が入り、いよいよ状況が逼迫(ひっぱく)してくる。

「ミカエルシュナ嬢、戦装束に着替えてきてくれ。場合によっては戦闘になるかもしれん」

「かしこまりました」

 ユリウスにそう言われて、ミカエルシュナは客室に戻った。客室では、エリルが不安そうな顔をして待機していた。

「エリル、悪いのだけれどすぐ出るわ」

 ミカエルシュナはそれだけ言うと、戦装束を引っ張り出して着替え始めた。手伝おうとするエリルを制し、手早く済ませる。剣を帯びて腕に盾を通したタイミングで、オリヴィアが前に出た。

「お供します」

「オリヴィア、でも」

「私はお嬢様の護衛を仰せつかっております。お嬢様が危険な場所に行くのに付いていかなかったら、それこそ皇帝陛下のお叱りを受けるでしょう」

 オリヴィアは意地でも付いていく、と言わんばかりにミカエルシュナを見つめた。そんな彼女に、ミカエルシュナの方が根負けする。

「解ったわ」

「ありがとうございます!」

 オリヴィアは満面の笑みを浮かべた。一方のエリルは、悔しそうにうつむく。

「⋯⋯私には、戦う力がございません。おふたり共、お気を付けて」

「ええ。⋯⋯エリル、帰ってきたらすぐに湯舟に入りたいわ。用意して待ってくれる?」

「っ! はい、必ず」

 エリルは表情をぱっと明るくし、頷いた。


    ───


 ユリウスとルキウスに合流したミカエルシュナとオリヴィアは、紋無しの馬車で離宮に向かうことになった。目立つことを避けるため、ひとつの馬車に四人が乗り合うことになる。

「「「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」」」

 馬車は重苦しい雰囲気となっていた。決して狭くないものの、それでも背の高い四人が密室の高い四人が密室に腰を下ろしてむっつり黙り込んでいるので、必要以上に空気が荒んでいる。

 ミカエルシュナは窓越しに空を眺めた。太陽が沈みかけ、青色から茜色、濃紺へと色変わりしている。じきに夜を迎えるだろう。

 ほどなくして、皇都にある貴族街に入った。

 離宮が近付くにつれ、ミカエルシュナは嫌な気配をひしひしと感じていた。それが魔剣の気配なのかどうかは解らない。少なくとも、お茶会の時や昼間はそんな気配を感じなかった。

 ただ、何かが起きていることは感じ取れた。貴族街の住民も同じことを感じているのかもしれない。夜が近付いていることを考慮しても、辺りは恐ろしいほどの静寂に包まれていた。

 離宮にたどり着いた時には、太陽はほとんど顔を隠していた。馬車は離宮の門の前に止まり、まずルキウスが降りる。

 門番はやや青白い顔で、ルキウスをいぶかしげに見つめた。

「何者か!」

「ローディウム帝国皇弟、ルキウス・カルンシュタインだ。皇太后に用向きがあって来た」

「は、皇弟殿下⋯⋯⁉」

 門番が戸惑っている間に、ユリウスもまた馬車から現れる。さすがに皇帝の顔は知っていたらしく、門番は腰を抜かさんばかりに驚いた。

「こ、こ、皇帝陛下⁉ なぜ離宮に?」

「緊急事態だ。悪いが押し通らせてもらうぞ」

「しかし⋯⋯」

 門番がまごまごしている間に、ルキウスが彼を抑えて鍵を奪い取った。それを受け取ったユリウスは、門を開ける。

「陛下!」

「繰り返すが、緊急事態だ。⋯⋯ミカエルシュナ嬢」

 ユリウスが差し出した手を取り、ミカエルシュナもまた馬車から降りた。薄闇の中でも燦然と輝く美貌に、門番は状況も忘れて見惚れる。にこりと微笑めば、頬に血色をのぼらせた。

「──”眠れ“」

そんな彼に視線を合わせたまま、ミカエルシュナは短い呪文(コマンド)を唱えた。とたん、ぐにゃぐにゃと門番は座り込み、いびきをかき始める。鮮やかな睡眠魔法だった。

「⋯⋯本当に敵に回したくないな、貴女は」

「陛下は魔法抵抗力が高いですから、そもそもかかりませんよ」

 ため息をつくユリウスに、ミカエルシュナは苦笑した。

 ミカエルシュナの精神作用魔法は、彼女自身に魅了されることを前提とすることで、即効性を保っている。そもそも魅了されなければ効かないので、ミカエルシュナの美貌を前に平静を保っているユリウスでは効きが薄いだろう。そこに彼自身の抵抗力もあって、精神作用魔法は、軒並み効かないと思われる。


 ──この人、職業皇帝だけで本当にいいのかしら。


 状況も忘れ、そんなことを思ってしまうミカエルシュナだった。

 閑話休題。難なく離宮に侵入した四人は、建物の中に入った瞬間立ちすくんだ。

 肌をびりびりととした感覚が覆い尽くし、空気が薄くなったように息がしづらくなる。明らかに様子がおかしい離宮内に、四人は顔を見合わせる。

「⋯⋯私が先行します。陛下がたは少し距離を置いてから付いてきてください」

 オリヴィアはそう言って、剣を抜いた。

 オリヴィアを先頭に進みながら、ミカエルシュナは封印されていた魔剣のことに思いをはせた。

 魔剣という武器種そのものは、禍々しい存在ではない。そもそも魔剣とは、魔法が付与された剣の総称だ。魔法銀と呼ばれる特殊金属を使って鍛造され、通常の剣よりも鋭かったり、魔法を付与するのに伝導率が高かったりと様々な恩恵がある。ミカエルシュナの剣も、そんな魔剣のひとつだ。

 だが中には、禁術を使って造られたことで強大な力を持ち、その代償として何かしらのデメリットを使い手に与えるものもある。おそらくは、今回の魔剣もそのたぐいなのだろう。

 オリヴィアの先行で進んでいく一行がたどり着いたのは、上階にある部屋だった。そこが、一番嫌な気配を感じたのである。

 顔を見合わせ、頷き合った四人は、ばんっ、と勢いよく扉を開いた。

「なっ⋯⋯何⁉」

 扉の先にいた皇太后が、慌てたように振り返った。その顔は、少しばかりの憔悴が見られる。

「皇太后ユリア・カルンシュタイン、貴様に宝物庫の宝物盗難の容疑がかけられている。神妙にせよ」

 ユリウスが言い放つと、皇太后は目を見開く。だが、すぐにふん、と鼻を鳴らした。

「もう遅いわ。すでに馴染んで(、、、、)いてよ」

 皇太后は自身の後ろに目をやった。

 そこにいたのは、抜き身の剣を抱えたネリアだった。

 白い顔は血の気が一切失せ、息は離れていても解るほど荒く、ぜー、ぜー、という呼吸音が聞こえてきた。剣を持つ腕は小刻みに震え、見開かれた目は焦点が合っていない。

 そんな彼女が抱え込む剣に、ミカエルシュナは見覚えがあった。

 片刃の大きな剣だった。ネリアの体格には不釣り合いな剣は、千年前トリストラム公爵が持っていた剣だったのである。

「なぜ、あれが⋯⋯⁉」

 ミカエルシュナは驚きのあまり、身体を硬直させた。

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