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幽霊カフェ

 そして俺はと言えば、最初にこの写真を見た時、石田は「常世探偵と言うのはウソではないようだ」と言った。つまりはそう言うこと。白い服の女は確かに写っていた。

 なるほど。先ほど客たちが空席に向かってシャッターを切っていたのにも合点が行く。あとで部屋を出て再びあの席のあるホールを通らなければならないことに俺の心がざわついていた。

「今じゃ、舞子の幽霊カフェなどと言われて、舞子、カフェ、幽霊で検索すると山のようにヒットする。あげくどこかの雑誌やテレビ局までそれ絡みの取材申し込みが殺到した。本当に困ったものです。ああ、取材はもちろんお断りしましたがね」

 石田が忌々しげに呟いた。でも俺は石田のボヤキより、年寄りの口からヒットするなどと言う若者言葉が飛び出したことに驚いた。人は見かけによらない。

「天宮さん、どうですか? 私を助けると思って引き受けていただけませんか?」

「引き受けてって、私に何をしろと?」

「それがわかれば私たちでもうやっていますよ。近くの寺の住職を呼んでお経を上げてもらったり、胡散臭そうな山伏に加持祈祷してもらったりね、私もいろいろ手を尽くしましたが、一向に変わらない。それどころかますます話題になる。もう何をどうすればいいかわからないから藁をも掴む気持ちであなたに来てもらったのですよ。専門家であるあなたにね」

「はぁ。専門家って。私は決してそのような……」

「いいや、聞きましたよ。あなたの噂は。あなたネットでは随分と有名だそうじゃないですか。今までもこう言った厄介な事件を数々解決しているとね」

「事件って、誰がそんなことを」

「花井くんですよ。彼女が教えてくれた。実はあの子もあなたと同じで昔からそう言った世界に多少は明るいみたいです」

「そうですか。彼女が」

 俺は今回の件はあまり乗り気ではなかったが、なぜか彼女に不思議な縁を感じてい

た。最も、さっきのきゅっと締まったウエストに多少心惹かれたこともあっただろうが。

「わかりましたが石田さん、できるだけお力になれるように頑張ってみます」

「ありがとう。天宮さん。ぜひよろしくお願いします」

「早速なんですが、その写真のことで、私、思うことが一つ」

「はい、なんでしょうか」

「白い服の女性は、写真の中にしかいないわけですよね? だったら空気みたいに何もないのと同じじゃないですか。ただ、今はネットの中で噂が広がっているだけで、そのうちすぐに飽きられて消えてしまうのではないでしょうか? 特にこう言うオカルトめいたものは今までもそうだったように。騒ぎは一過性のものがほとんどです。後から時間が経てば、ああそんなこともあったな、程度のもので、世間の興味があるのは今だけではないでしょうか?」

「いやそれがね、そうでもないのです」

「どういうことですか?」

「さっきの花井くんね」

「あのオカルトに多少明るいと言う?」

「ええ、実はね、彼女も見えるらしい。それも写真ではなく」

「え、写真でない? 私には見えませんでしたが」

「あ、いや、彼女の話では、その女性はね、あの席にずっといるわけではなくて、現れる時間がほぼ決まっているらしい」

「え? いつです?」

「うちはディナータイムの前にその準備の為に一度店を閉める。その誰もいない時間になるとね、時々現れるらしい。あの食べナビの写真も客のいないのを見計らってその時間に撮ったものです」 

「ランチタイムって何時までですか?」

「ランチは二時まで、二時から四時まではアフタヌーンティータイム。その後、午後四時に一回、夕方六時半までディナーの準備で閉店しますよ」

 そう言えば、さっき入り口で彼女が、店は四時までと言っていたことを思い出した。俺はちらりと腕時計に目を遣った。今、午後三時五十分。と言うことはもう少しで店は閉まるのか。なるほどな。

「ああ、それで私に三時にここへ来るようにと」

「ええ、そう言うことです」

 やられた。否応ないわけか。俺は心の中で苦笑いしていた。


   4


 四時になった。

「店長、お客様すべてお帰りになられました」

 花井が報告にやって来た。

「そうか、ありがとう。ホールの様子はどうだね?」

「あの方はまだ見えません。いらっしゃる時にはだいたい五時前後にはお見えになるのですが」

(面白い子だ。いらっしゃる? 幽霊にいらっしゃるもないものだろうに)

「うん。わかった。じゃあそろそろ様子を見に行きますか」

 そう言って石田は出された自慢のコーヒーにも口を付けることなく席を立った。

                                  続く


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