-Episode.6-
『どうだ? 例のコもやはりその組織に絡まれているのか?』
上司の野村英次郎は気さくな雰囲気が持ち味の刑事だ。
「ええ。でも、ここまで行動に移す例は初めて見ました」
『そうか。例のおやっさんが変に動かないといいけどな』
「そのような感じはなかったと思いますが」
『子供っていうのは親の弱点だ。君も分かるだろう?』
「嫌味ですか? 笑えませんよ?」
『釘は打っておいたほうがいい。どうもこのヤマはこれまで以上にヤバい感じだ』
「大袈裟な。降霊神話絡みのコは大体が少年院にぶち込まれています。ずっとね」
『だからこそ早く捕まえてやらないと。今回は実際に動物を殺しているのだぞ?』
「ええ。そこは重々承知しています。でも、これが最後の仕事ですから」
『どうやら本当にその気みたいだなぁ』
「ええ。冗談だと思われたのですか?」
『いや現に辞表は受け取っている。こんなにイイ仕事を不満なくやめるなんてな』
「そこは色々事情があるのですよ」
『まぁ……そうだけど。例のコはちゃんと捕まえろよ?』
「ええ。信じてください。また」
野村氏とのZOOM会議を切る。
すると矢野氏からのネット通話が入った。
「矢野さん?」
すぐに応じる。画面に映るのは重装備のような格好をした矢野氏だ。
『柏木さん。申し訳ない。私は私で降霊神話について調べた』
「矢野さん、貴方は今どこにいるのですか?」
『降霊神話に言づけて犯罪行為をしている野郎がいる』
「どこにいるかって聞いているの!」
『その野郎共が集まって悪だくみをしている本拠地さ』
「まさか……」
『今は立ち入り禁止区域になっている。でも実際は違う』
「今すぐ引き返してください! それは私達の仕事です!」
『でも、琉美と対話するのは父親である私の仕事だから』
「取り返しがつかないことになりますよ!?」
『琉美のいない世界なんて何もない世界と同じだ』
「待って! 落ち着いてお話を!」
『御礼だけいいます。ありがとう』
画面越しに「何者だ!」という大声が。それと同時に通信も途絶えた。
と、思ったら再び繋がった。
矢野氏は俯いていた。
黙っている。
そのままゆっくりと顔をあげた。
『あぁあぁああぁあぁぁああぁぁああああぁ』
目から血を流し真っ白な顏をした彼。
それはもう人間なんて言える者ではなかった。
「うわああぁぁあああああぁぁあぁああぁあ!?」
私は叫んでパソコンを閉じる。
もうここから先は踏みこまないほうがいいと確信したーー
翌週。私は警察を退職した。
私がゆく先々で降霊神話がその影をみせるからだ。
私の息子は変死体で見つかった。
真っ白な体に両目から血をダラダラと垂らして。
しかし、こういった死体発見は世に明らかにされない。
『ネットで話題になった障害者の娘と父親。遺体で発見される』
ここ最近になってネットニュースの記事になっていた。
やっぱり。その遺体がどんな状態だったかを明らかにしない。
どうせまた自殺だか何だかで片付けるのだ。
その深淵に深入りしなけば、そのような最後を迎える事はない。
私はその真理を求めるがゆえに深入りしそうになった。
パソコンを開くたびに真っ白な手がうっすらと現れて手招きをする。
呼ばれている。でも応じてはいけない。
もう、見放す事でしか生きる術はないのだ。
ひっそりと生きよう。無関心が本音だと想って。
そしてそのノートパソコンを私はずっと閉じる事にしたーー