-Episode.0-
パソコンの画面を開く。
娘が幼い時の映像を眺める。
妻の阿佐美と一緒に桃色の団子を作る琉美。
妻も琉美もお互いに相思相愛だった。
私はそんな2人をビデオに収める事が何よりの趣味だった。
そんな妻が突然がんを患った。
病室で妻に寄りそう琉美。
『大丈夫?』
『大丈夫よ』
聴覚障害を持つ琉美の為に手話で2人は会話を交わす。
この1か月後に彼女は逝った。
何かが変わったとしたらこの時からだろう。
それでも多少の月日を必要としたが、私と琉美は親子二人で店を切り盛りし始めた。
「らっしゃい!」
和食店「やよい」を私は妻の2人ではじめた。
元々は私はサラリーマンで彼女はOLだった。いわゆる脱サラではじめたのがこの「やよい」だ。
画面に映る私はまさに仕事をしている時の私だ。
琉美の発想でそれをYoutubeに投稿する事を始めた。
彼女にできる事といえば物を持ち運びする事ぐらいだが……
そんな彼女も自分に何かできないか考えてくれるようになった。
阿佐美の死から塞ぎこむようになった彼女はそれはもう大変だった。
部屋から全くでてこなくて。大声で呼んだって聴こえもしないのだから。
彼女が通う学校の関係者や地域関係者。
ありとあらゆる人に手助けをして貰った。
しかし落ち着いたら「何か私にできることはない?」と私に。
もう絶望しそうなぐらいに私もまいっていたからな。
涙まで流れるほど喜んだものさ。
画面に映る私は活気に溢れていた。
琉美の提案する動画投稿やHP作成の挑戦。
それは思った以上の反響を呼んだ。
店は大繁盛。職員も3名入職した。
正直私と障害に不安のある琉美の2人だけでは限界があったからな。
だけど琉美には琉美で役割がある。
新生「やよい」をいよいよ勇んでやっていこうと思っていた矢先だった。
琉美が行方不明になった。
特別支援学校からなかなか帰ってこない。
それが門限の18時をとうに過ぎたので私もいよいよ警察に相談した。
私自身で調べる事は調べ尽くした。
時刻は深夜の00時すぎ。
ずっと送っていたLINEが既読になる。
「琉美! 琉美が読んだのか!?」
思わず大声をだした。
そして「どこにいる?」「大丈夫か?」と次々に打ち込む。
既読にはなるが返信がない。
電話をかけても彼女は通話ができないだろう。
「どうすれば……GPS……GPSで場所がわかるかも!?」
でも、どうしたらいいかてんで分からない。
そしてそのまま既読がつかなくなった。
警察とはこの日の昼にネット通話越しで話す事となるーー
∀・)夏のホラー2024×劇団になろうフェスの作品になります。いでっち51号(伊達賢治&野田栄一郎)が手掛ける「令和のうわさホラー」を味わってください♪♪♪