6 勝ったのは・・
「さて、あなたをどうしてくれましょう。」
床に剣を突き立て、半ばうずくまるようにしているクロードに、アイシャが問う。
「こ、ろせ。殺せ!父様を救えぬ俺に、無力な俺に!生きる価値など・・」
蚊の鳴くような声から徐々に語調を強めたクロードは、絶望の表情を浮かべた。
そんなクロードを見て、アイシャは唐突に笑いだす。今の状況が、愉しくてたまらないというように。
「ふっ。ふふ。あははは!あなた、そんなこと本気で言っているの?だとしたら傑作ね。貴方のお父様はあなたが死ぬことを望んでいない。聖女に自分が乗っ取られたときに家族を守ることを求めたはずよ。それを貴方は、一時の激情によって台無しにしようとした。それも元凶である聖女を狙うのではなく、非力で、自身に勝ち目がありそうなわたくしのところにやってきた。愚かね。」
そんなアイシャの発言に、クロードは愕然とする。
ーー確かに、自分は父からそのように言われていたはず。心のどこかでわかっていたというのに。俺は自分にのしかかる、家族の命という責任から逃れたかっただけだ。
「たし、かに、俺は、愚かだ。」
レバーブローの余韻なのか、ただ絶望したのかはわからないが、クロードはとてもしどろもどろに言葉を発す。
「でも、そこがいい。愚かしいあなたは、心底人間だわ。」
本来ならば無垢に見えるであろう青い瞳に、どろりとした狂気が浮かぶ。その瞳に吸い寄せられるように、クロードはへなへなと座り込んだ。
そんな彼に、アイシャはゆっくりと近づく。その顔に狂気を浮かべたまま。
「く、るな。」
クロードはなんとか立ち上がると、アイシャに向かって一撃を放つ。アイシャは余裕の表情で剣を振り、それを弾き飛ばした。アイシャはなおも近づき、クロードの目の前までやってくる。
「もう一度聞くわ。貴方、わたくしの仲間にならない?わたくしは聖女を殺そうと思っているの。わたくしの大好きな愚かなる人間をただの機械にしてしまう聖女は、排除しなくてはいけないわ。」
無垢なる狂気。アイシャは、まるで子供のような笑顔で微笑みかける。
「なにを、言っている。聖女は、お前の母ではないのか。それに、お前の言い方では人間を救おうとしているようにもとれる。」
困惑、恐怖、畏敬。クロードはいろいろな感情が混ざった表情で恐る恐る尋ねる。そんな彼に対し、アイシャはすっと真顔に戻ると、話始める。
「あら、肉親であることなど関係がないわ。第一、あの人に情はない。わたくしの楽しみを排しようとしているから、わたくしが先に排そうというだけの話よ。それに、わたくしは愚かなるものを求めているの。」
「なん、だよ、それ。そうだな、俺がこんな人にかなうわけがない。あんたはどこまでも自分の欲望に正直で、だからこそ強い。心底あこがれる。俺の負けだ。お望み通り、仲間になろう。」
クロードは手を挙げ、降参の意を示した。