4 面白くない
なかなか引かない侍女たちをやっとのことで追い出すと、ようやくアイシャは一人になる。
アイシャはベットから起き上がると、広い自室の中央に置いてある机といすに腰を下ろし、思案を始める。
―さてと、今の状況について整理しましょうか。
現状として、このミルカナ王国で実権を握っているのはアイシャの実母であるカリナだ。神聖力なる不思議な力で大臣はおろか、この国の長たる国王までもを掌握し、政を動かしている。そして、その神聖力に屈したものたちはみな、まるで機械のようにカリナの操り人形と化す。
「ほんっと、面白くないわねえ。」
機械のようになった人間には、愚かさ、人間臭さが欠落している。カリナの命を受けていない間はそれが特に顕著だ。愚かさ、人間臭さがなくなったということは、ある意味個性が消されてしまったということ。皆が平均に揃えられてしまったようなもので、アイシャが好む人間という生物の特長がなくなってしまったようなものだ。
「愚かさがないモノを、人間などと呼ぶわけがないというのに。」
やはり、早く神聖力の正体を確かめなければならないようだ。
「いえ、まずは、忠実な臣下を作るところから始めた方がいいかしら。いくら前のワタシに武術の心得があっても、所詮小手先のおままごとよね。」
アイシャに流れ込んできた記憶の中には、武術に関するものも多くあった。前世の記憶曰く、
『狂気を奥底に隠すのならば、それに見合う人間にならなければ。武術もその一環。己を律すことすらできない人間に、他人を観察する資格はない。』
とのこと。その世界ではかなり上といわれるほどの実力を持っていたが、この世界でどれくらい通用するかはわからない。
更に、王が言いなりになっている以上、アイシャの敵である王妃は現時点でこの国の最高権力者である。相手がどれほどの手駒を持っているのかわからない以上、此方もそれに対抗しうる強い手札を得なければ、神聖力の正体など確かめられない。
突然、アイシャは強い殺気を感知する。が、それには気づいていないふりをして、思案を続ける。
「問題は、どこから連れて来るかよねえ。ねえ、そこの貴方。貴方はスパイかしら。どちらにしろ、母様の洗脳にはかかっていないのよねえ。」
先ほどの殺気の主に対して話しかけると、アイシャの真後ろから首を狙い、剣が伸びてくる。
アイシャは首をそらすことで最小限の動きで剣をよけると、彼に向き直った。
「ねえ、チェダン家現当主、クロードさん?」
状況を鑑みてある程度考えはしていたが、その容姿を見たことで、その説は確実なものとなる。
父譲りの澄んだ青い目。髪色は母に似たのか、夜の闇をそのまま映したかのような群青色をしていた。
その青い目には、昼の父親同様強い殺気を孕んでいた。
「俺は、あんな女の忌まわしき洗脳になどかかっていない。」