1 序章
ここは読まなくても大丈夫です。次の話からが本編ですので、とばしたい方はとばしてください。
愚かなもの。けっして絶対的ではないものたち。それなのに、この世界に君臨する。
生物の中で、一番欲を与えた。それがこの種族の本質。
ほんのお遊びで与えた知性は、時にこの世界を破壊し、時に救い。
欲とうまく付き合えなかった者たちは争いあい、やがて愚か者として歴史に名を遺す。
知性と欲をいい塩梅で持ち合わせた者たちは天才として名を遺す。
けっして絶対的ではない。ヒトという種族はそういうものだ。
神は、愉しんでいた。愚かな人間たちを見て。
人間たちは、神の娯楽として作られた。
美しいばかりの世界にある、愚かで不思議な存在。
それは、神をとても楽しませた。
ほんのお遊びで与えた知性により、やがて自分のことを見つけ出し、自分たちに都合のいいように勝手にあがめ始めた。ヒトは、神に救いを求めた。勝手に愚かさを嘆いた。
自分たちが愚かなのをいもしない最初の人間のせいにした。最初の人間などいない。ヒトという種族は、みんなが同時に誕生した。
ヒトは、自分たちが思っているよりも長い間この世界にいた。
不毛な争いを繰り返し、滅亡しかけ、また増える。その繰り返し。
なんだか退屈してきた神は、自分の中から「善」の心をとりわけ、「悪魔」を作った。
少しでも刺激となるように。
神は、残忍で冷酷、そして絶対的なナニカだった。
悪魔は反対に、優しく、透き通っていた。神とは違い、絶対的な力は持っていなかったが、ヒトに干渉し、神が与えた愚かさ、欲を取り除く術を授けようとした。
そして、「聖女」が生まれた。「聖女」は人間の心を浄化していった。
浄化されたヒトは、みんな同じような存在になった。
ヒトの本質は欲。だから、それぞれの欲による個性もなくなった。
ただ、残ったのは愚かさによらない、優しすぎる世界。
ヒトは、神が求めていた娯楽ではなくなった。清らかで知性を備えた「人間」に。
ーーあきあきした神は、人間に脅威をもたらした。
神は、「魔王」を生んだ。
「魔王」は「聖女」の浄化から取りこぼされた人間だった。
神はそれを拾い上げ、力を与えた。
「魔王」は、無差別に殺戮を行い、あるいは人間の浄化をといた。自分と同じように取りこぼされたヒトに力を与え、さらにその行為は加速した。
絶対的な存在である神から生み出された魔王と、絶対的ではない悪魔から生み出された聖女。
その差は圧倒的だった。
そして世界には、聖女によって浄化された「人間」と、魔王によって元に戻された「魔族」が生まれた。愚かで、それでいて弱い、「ヒト」は消えていた。
神のように娯楽を欲しがった「魔族」たちは、「人間」を弄ぶことで暇をつぶしていた。
ヒトのいう、悪魔。それが神。
ヒトのいう、神。それが悪魔。
悪魔がもたらしたのは、救い。
神がもたらしたのは、終わり。
悪魔の救いはヒトから個性を奪い。
神の与えた愚かさはヒトに娯楽を与えた。
悪魔は清らかな聖女を生み。
神は邪悪な魔王を生んだ。
聖女によって生み出されたのは、人間。清らかな、それでいて弱い存在。
魔王によって生み出されたのは、魔族。傲慢で愚かな存在。
この世の悪は、人間。
この世の正義は、魔族。
だって神はいつだって、絶対的なのだから。その神によって生み出された「魔族」が正義。この世界において、「神」は掟。
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