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第六階位 『風翼』

だいろくかいい!第六話目です。

やっと6話、もう6話。そんな気がして複雑です(^^;


一応、今回は第五階位・異章を踏まえた内容ですが、多少の脳内補足をすれば未読でも大丈夫なはずです。

ちなみに第五階位のダイジェストは



絆達はフィオーレの屋敷へ

 ↓

真夜中になんか攻めてきた

 ↓

ズバババーン

 ↓

ノウラ進化ぁー。



わ、わからない(^^;

でも『だいたいあってる』からok



それでは前書きは書くことないのでこれで。また後書きでお会いしましょう~

森がざわめき、木々が鳴り、鳥が叫びながら暗い空に飛びたった。満月は削ぎ取られたように暗い穴を覗かせてあんなにも美しかった表情を一転した不気味なものに変えていた…。屋敷の二階、たった今ノウェム・カタロタスを倒した風翼絆・風翼嶺・聖蓮瀬名・聖蓮御簾の四人は窓から見上げた月の変貌に強烈な不安を抱いた。なぜならばそれは…本来ありえない姿だったから。月蝕もないのに欠けた月は不吉な物以外何と言えば良いのかわからない。絆は開いた口が塞がらない気持ちで月を指差した。

「ね…ねぇ、月が…消えたの…?」

屋敷の内側で物音がした。扉を開けて閉めて階段を登って扉を開いて閉めて、マリア・フィオーレは屋敷に戻ってきた。

「あなた達は無事ね。良かったわ」

幼い少女は血のついたチェーンソーを片手に胸をなで下ろした。だが逆にその光景に戦慄したのが一人だけいた。

「マリア…ちゃん?え?双子?」

風翼絆は、マリアの【二重人格】の能力を知らなかったのだ。

「……。私はフィオーレ。第三代当主『マリア』の半面人格……いや、『相互補完』と言う方が正しいのかな?」

「マリアとフィオーレ、どっちでもいいから僕らに説明してくれない?どうして月が欠けたのかを」

嶺が言うと少女は頷いて月を指差した。

「あの穴からこの世界と概念から違う力が流れてきている。あの穴はおそらくは…『死者の門』。大昔に一度だけ出現したという記述を私は記憶している」

「ふんふん。つまり超レアな現象ってこと?」

「違うでしょ瀬名。あれは禁術の類いね?」

「流石は『聖蓮』。なかなかの推理ね。確かにあれは禁術『死者の鍵』を使い出現する『死者の門』。放置すればこの森を、屋敷を冥界に引きずり込み、いずれは結界をも飲み込んで桃花市を…この国を冥界に変えるわ」

「そ、それはヤバイんじゃないの?」

瀬名が微妙にひきつった笑顔で言った。確かに『死者の門』などと大層な名前を出されると勝ち目がないように思えてくる…。本当にヤバイのでは………

「ほら、絆。なに暗い顔してんのさ」嶺がコツンとおでこを殴った。

「な、なんでそんな悠長なのよ!」

「んー。なんだろ、経験かな?今まで世界の存亡をかけた任務が多すぎてこの程度はなんとも感じないんだよね」

「はぁ?!」

思わず叫んだ。世界の存亡をかけた任務が多すぎて…ってこの人たちはどんな仕事を………。いや、そうだ。風翼嶺、精錬学園最優秀生徒の一人そして伝説の人!

隣には聖蓮瀬名、そして聖蓮御簾。二人とも抜群のコンビネーションで圧倒的な戦力差を作り出す学園の主力。そして隣には『フィオーレ当主』のマリア。そうだ、別に焦らなくてもこの人達なら………。

「……。蝙蝠たちから連絡がきたわ。『鍵』の使用者は森の西側にいるみたい。」

「よし、みんな。生きて帰りたければ全力で行きなよ!」

嶺の叫びに、全員が揃って答えた。そして一度、荷物を整理するために全員解散した。先の戦闘で消耗した物品の補充が目的で、解散とは言っても準備は5分しか出来ない。荷物も特にない絆は割り当てられていた部屋…ミレイア・フィオーレの部屋に戻ると鏡に飛び付いて自分の髪を撫で付けた。

「うぅ…ボサボサだよ…」

寝起き+飛行で髪は乱れていた。時間がないので多少は妥協するが、他のメンバーに比べたら余裕のある絆は時間ギリギリまで髪を整えていた…。


そして、時間。

絆はドレス姿で階段へ向かった。そして、今さらかもしれないが思った。せめて着替えだけは持ってくるべきだった!と。


1階に降りるとルイスが待っていた。彼は白い銃を手に窓から外の様子を窺っていた。

「ルイスさん!」

「あっ絆様、準備は終わりましたか?」

「えぇ。荷物もないのでやることないですし楽でした」

「あはは。おや丁度嶺さんも来ましたね」

階段を降りてきた嶺は、二着目とおもわしき白いコートを羽織っていた。一体何着持っているのかが疑問が浮かんだが…それをグッと堪えた。

「お待たせ。瀬名達は?」

「今来たとこっ!」

階段を飛び降りて瀬名が現れた。彼女は黄色い裾がパニエを入れたように広がったドレスタイプのワンピースを着ていた。つまり私服だ。

「瀬名…階段は静かに降りなさいって」スタン。と綺麗に着地した御簾が言った。どうでもいいがこの二人には『飛び降りない』という選択肢はないのだろうか?

「…全員。揃ったわね」

一階の部屋からマリアが姿を現した。彼女は黒いナイトコートに身を包んでいた……。シックな雰囲気を漂わせながらマリアは正面扉に手をかけた

「さぁ。悪夢の幕開けよ」

扉が開かれ、そして全員が夜の森を見た。西側から異様な雰囲気を感じて絆は震えた。

「怖いのかしら?」

マリアが笑った。ちょっとムッとしながらそんなことはないと言い切る。

「ちょっと寒いだけよ」

「あら。それは残念」

マリアは歩き出した

「ちょっとはイジメがいのある子かと思ったのね」

彼女は消えた。たった一歩で森の中に消えてしまった。

「やれやれ。僕らも追いますか」

嶺が瀬名が、瀬名が次々に走り出した。ルイスは絆の後ろをついてくるようで絆が走り出すのを待っていた。

「よしっ!行こう!」

絆も覚悟を決めて走り出した森は不自然に静まりかえっていた。森の主でもあるマリアはフクロウの鳴き声が聞こえない森に小さな不安を抱いた。

(どうやらこの森はわずかに冥界に寄ってきたようね……。虫すらも鳴けずにいる…。)

無音の森を駆け抜けて、先行するマリアは不吉な雰囲気のする方向を目指す。

森を駆け抜けて、小さな広場に出た。

木のない開けた場所、そこに彼女がいた。

「私はノウラ。現世と冥界を繋ぐもの…。」

銀髪が月光を受けて輝いていた。東にある月を背に受けるマリアと西に浮かぶ死者の大穴を従えるノウラ。二人はまるで対局な存在だった。

「意識を飲まれているな。既に自我も危ういのではないか?」

「私はノウラ。現世と冥界を繋ぐもの…。」

マリアはやはりな、と呟いた。ノウラは既に意識の一部を『死者の鍵』に飲まれている。このままでは数時間で武器を暴走させて桃花市周囲を冥界に染めてしまうだろう。

「私は第三階位当主。そして真祖の吸血鬼『マリア・フィオーレ』。我が領地よりお前を排除する。」

マリアは武器を作動させて、耳に残る爆音を響かせる。

「悲鳴を聞かせて――『サディスティックプリンセス』」

チェーンソーが鋭い一閃を刻んだ。「切り裂け『リッパー』」

ノウラが叫んだ。

そして彼女の剣が振るわれ、マリアの武器を正面から弾き返した!

「なんですって?!」

「『ノーラスコーラス』共鳴。」

二人の剣撃がうなるような大音量で森に響いた。間違いないとマリアは確信した。

(死者の鍵の能力は、死人の武器を再現する能力。確かに本の記述通りね)

剣を受け止め、そして押し返す。まだ『よく切れる』剣であるうちに仕留めた方が楽だろう。マリアは武器を振り上げる。

「伏して命請いなさい」

それに対するようにノウラもまた、剣を振り上げた。

「『ネクロゲート―――』」「『――ノッカー』」

「『ブラッディ・レイン』!」

森に刻まれた一撃は深く、マリアとノウラは吹き飛ばされて、森の木にぶつかって停止した。強く打ったが平気。マリアは立ち上がって武器を構える

相手はもう既に人間とは離れた存在で、たぶん。今の一撃も致命傷には到っていないだろう。だけど

「かかって来なさい。私はまだ生きてるわよ」

(フィオーレ)は屈する訳にはいかないのだ。マリア、どうか力を貸して……。

「私はノウラ。現世と冥界を繋ぐもの…」

彼女の呟きが聞こえた。

「私は皆を導く……。私は皆に導かれ……。私は現世と冥界を繋ぐ……。」

「……だから。」

振り上げられた剣に反応して動……けない?

不自然な抑圧を辿ると、そこには男が一人……。ノウェム・カタロタスの亡骸が腕を掴んでいた。

「嘘でしょ…【ネクロマンサー】の能力者なんてアリ?」



「あなたを冥界へ連れていく」

ノウラが剣に力を込めたそのとき、ドン!と鈍い音がして彼女の体が飛んだ。

「『プレスウィンド』!」

体当たりをした嶺が彼女を地面に叩きつけるような荒々しい技でノウラを封じた。

「お嬢様、お怪我は?」

ルイスが駆け寄ってきた。ノウェムの姿は消えていた

「気のせい…?まさか」

マリアはルイスに抱かれて、呟いた。

「あの子、想像以上にヤバイわよ」

「はい。心して挑みます。」カシャン、と銃弾が押し込まれた。ルイスの銃は『Alice』。幻覚系の武器で相手の感覚を混乱させることを得意とした武器……。

「なら、油断しないで行きなさい」

マリアは地面に下ろしてもらい、そう言った。ルイスが頷いて走り出す。嶺の『プレスウィンド』を押し返すようにノウラが立ち上がろうとしていた。ルイスは弾丸を思い描いて銀髪の少女に撃った!

「『幻惑猫(チェシャ)』」

「う?」

ノウラは弾丸を素手で受け止めた。いや…違う。彼女の両手は立ち上がるために地面についている……。では、あれは

「嘘だろ……ノウェムだと……」

嶺の呟きの途中にノウェム・カタロタスが地面から生えるような……とても不気味な形で現れた。だが彼からは何故だか『何かを感じない』。

「ノウェム……。」

「ノウラ、遺志を継いでくれたか」

空虚な言葉が呟かれた。それはまるで空洞の言葉で、心から伝えたい言葉ではないように感じた。

「私、みんなのかたきを……復讐を……」

「あぁ。我々も手伝おう」

地面からボコボコと腕が生えてきた

「絆ちゃん!下がって!」

「気持ち悪……」

瀬名と御簾が一歩下がった。

「間違いない。この娘はやはり【ネクロマンサー】系の能力者だ!真夜中では分が悪い!」

マリアの叫びが聞こえたが、嶺はそれ以上の叫びを上げた

「そんな……『ノウェム・カタロタス』『ノウラ・ユーフェミリア』『ヴァンス・ノベリス』『アウェン・ルー』……しかもコイツは『ジェイル・カーバンクル』?なんで、お前達が……」


「我々は復讐に来た」

「家族を奪ったあなたに復讐しに!」

「娘を救えなかったお前に復讐に」「父を殺した敵討ちに!」

「世界をつまらなくしているお前達に復讐をしに来た。」


「………!オラクルか!」

嶺は即座に理解した。このメンバーを編成し、来させたのは間違いなく、3年前に封印したはずの男だと理解したのだ。間違いない、そうでなければこんなピンポイントで嶺に憎しみを持つ者達は集められない……。

「さぁ開け!『死者の門』!」

「「光無き世界へ!」」

四人が叫んだ。

森が、月が黒く染まり、絆も逃げ切れずに閉じ込められた……。

「ここは闇の世界。あなたには二度と太陽は訪れない……。」

「俺達の、仲間達の復讐を」

「お前に奪われた全ての悲しみを引き連れて」

「葬列を飾ってあげるわ!」「せいぜい抵抗してみろ!」

ジェイルは武器を取り素早く駆け出した。

「嶺!」

瀬名が叫んで、ルイスが銃を構えた。

「そうか。」

嶺が素手でジェイルの腕を掴んで言った。袖の一部が切り取られていたが、彼はそんなことも気にしないように低い声で呟いた。

「復讐したいんだな。なら、しろよ」

腕を放して、ジェイルを蹴り飛ばした。

吹っ飛ばされ、仲間も受け止めずに暗い闇の壁に叩きつけられた男はまるでゾンビのようにゆらりと立ち上がった。

「僕は…俺は第六階位『風翼』 第18代当主 風翼嶺!復讐の挑戦受けて立つぜ!!」人格が変わった。

嶺の能力は【ウィンド】だが、風翼の老人達に【当主人格】を与えられた……いや、植え付けられたのだ。それを解放し、彼は普段とは違う激昂の表情を見せる

「来いよ!てめぇらまとめて吹き飛ばしてやるよ!!」嶺の変化を見て、瀬名は小さく舌打ちした。今の彼……『当主人格』は『フィオーレ人格』を参考に作られたまがい物だ。本来嶺にはない力。それの長時間の使用は嶺の精神を蝕むだけだ……。だからこそ普段は絶対に使用しないはずなのに、彼は使ってしまった。

今私に出来るのは……絆ちゃんを守ることだけ。今の嶺は……怖いのだ。まずとびかかったのはヴァンス・ノベリス。

「『ガスティ・ブラスティカ』」

武器を解放し、その高速打撃で嶺を狙う

「遅い!」

嶺はそれを流し見るように回避しつつ、その体を切り裂いた。瞬間で解放された大鷲の翼が鮮血で染まった……

「『ガランノイズ』」

「『リッパー』」

雑音と、それに紛れた足音でジェイルが走って来た。嶺はそれを回し蹴りで弾いて剣を払った。

キィン、と鋭く切り裂いた剣閃は物理的な距離を無視して男を真っ二つに分割した。そして、雑音の創造主を狙って歩き出し……

「『フェイク・ゲイボルグ』」投げられた槍は折れて割れて裂けて分割されて雨のように降り注いだ! 嶺はそれに左手を向けて呟く

「『絶空』」

空中に盾のような空気の膜が現れた。降り注ぐ槍を受け止めたソレは嶺が左手を下ろした瞬間に別のものに変化していた

「『乱空』」

受け止めた槍を全て跳ね返して、512の雨は1024の分割された槍となり2048に裂けて4096に割れて8192に折れて敵全てを襲った。ノウラは呟きと共に防御の結界を定める。

「『シーリングエリア』」

槍を全て止めた結界は、上空に飛び上がった嶺の一撃に沈む。

「『白羽(しろはね)の衝撃』」

大鷲が、嶺が剣を掲げて……身に纏っていたその膨大な風を叩きつけた!

『シーリングエリア』が砕け、ノウラが衝撃で投げ出された。彼女に狙いを定めて嶺が剣を振り上げる

「禁術に沈め。禁式解放―――」

「『仲裁の鴉ピース・オブ・レイヴン』」

鳥が、巨大な鳥が大鷲と嶺を踏みつけ押さえつけた。ルイスは銃口を上に向けてこれ以上の攻撃がないことをアピールする。

「嶺さん、禁式は駄目です。当主剥奪されますよ。」

「……わかったよ」

嶺は武器を封印した。いつもの表情で鴉を退かすように訴えると彼はゆっくりと立ち上がった。頭を押さえてはいるが無事なようだ。

「うぐ……久々だから……頭いたい」「ふん。風翼当主も難儀な力を与えられたな。私たちのように和解できないとは」

「うっさい!」

ふらっ、と嶺がよろめいた時、銀色の光が見えた。

「パパ!」

「へ?あっ、しまった」

嶺はそのまま動けずに、絆は駆け出した

「『刻鳥』!」

短剣で受け止めると、嶺の背後から飛び出してきたジェイルに蹴られて飛ばされた

「絆ちゃん?!いたっ!」

「違う!しまった、後ろ?!」

瀬名が、御簾が、後頭部に手刀を受けて…崩れ落ちた。絆は蹴られた部分を押さえながら立ち上がる…

「槍は囮。ノウラよくやった」

ジェイルとノウェムはあのわずかな時間、全員の目を引き付けることで結果的にこちらの戦力を削ったのだ。なんという素早い動きだろうか、絆は痛みにうめきそうになったが我慢して立ち上がった。

「あんたたち……斬られたんじゃ……」

「そんなものが死人に意味はあるか?」

あぁそうだ。こいつら全員死んでるんだ。だから殺しても無意味だし死なないし。私たちは不利なのだ。

痛みで全身が熱くなってきた。だけど休んでいられない。パパもママも瀬名さんも動けない。動けるのは私とルイスとマリアだけ……。

そうだ。私が頑張るしかないじゃないか。私が三人分頑張って戦わないといけないのに休んでなんていられない。やろう、やらなきゃ、やるしかないんだ!


ドクン、と心臓が高鳴った。全身が熱く、まるで血液が沸騰するように熱くなる!

「そうだ。私がやるんだ……」

絆の変化にマリアが気付いた。

「絆?」

嶺も、異変に気付いたようで絆を見つめていた。大丈夫。わたしがヤルから

「……風翼当主。あの娘はお前の血縁なのか?」

「そんな訳ないだろ。絆は先代当主、茜さんの養子だよ。」

「だが……あの娘から、茜の血を感じる……。間違いない。この雰囲気、圧倒するようなこの雰囲気は間違いなく茜の血だ!」絆は自分の中で何かが外れるのを感じた。まるで鍵が壊れたような、まるで何かが解き放たれたような感覚。それは絆の意識を激しく揺さぶり、そして

「私が殺らなきゃ。私が殺らなきゃ!」

『刻鳥』を水平に構えた絆は叫んだ

「始まりを告げろ!『始刻刻鳥(しこく きざみどり)』」

鳥の羽が舞って、絆の剣に触れた。そしてボウと燃え上がって灰に変わった。

「下がれ、ノウラ」

庇うように飛び出してきたノウェムを

「邪魔よ!」

一閃した。ノウェムの体が空中で霞のように消えて、そしていなくなった……。

「え?」

ノウラの剣から一人分の魂が欠落した。

「私が殺るんだ」

近くにいたアウェン・ルーの亡霊を打ち消した。

「そんな、皆は?!」

魂がさらに欠落した。あと半分。

襲い来るヴァンス・カタロタスの亡霊を突き刺して消した。

「皆?!ねぇ、どこ?どこなの?!」

「消えた。私の力は【終端】。死者を転生し、全てをリセットする力」

三人分欠落した『死者の鍵』はその力を保てずにゆっくりと力を失っていた。

「亡霊よ。消えて。」

背後を狙っていたジェイル・カーバンクルが切り裂かれて消えた。四人分の魂が消えた『死者の鍵』は最早維持すら不可能となって死者を呼び戻す力を失った。

「嘘よ……みんな、みんな一緒なのに!死んでも一緒に復讐できるって!」

「大丈夫よ。あなたもリセットしてあげるから」

振るわれた絆の剣が止められた。『死者の鍵』は力を失ったが、剣として、武器としてはまだ使えたのだ

「嫌!これ以上家族を奪わないで!」

振り下ろされた剣を絆は見上げて……呟いた。

「『復讐の終端ジ・エンド・オブ・ヴェンジェンス』」

鋭く突き出された剣の一撃によって『死者の鍵』が砕け散って、ノウラの心臓を深く精確に貫いた。彼女は意識を失い、そして数秒で絶命した。


マリアはその光景を見て呟いた。

「茜の再来ね……。」

真紅のドレスは茜の服に良く似ていた。敵を真っ正面から圧倒的に倒す様も良く似ていた。そして、死者を眠らせる手際の良さも良く似ていた……。絆が意識を失ってその場で崩れ落ちると、彼女はルイスに命じた。

「彼女を私の部屋まで。丁重にね」

「はい。お嬢様……」嶺はふらふらと立ち上がりながら絆が殺したノウラを見た。ここからは死に顔は見れなかったが、多分苦しい表情をしていたんだと思う。

「復讐するための人生なんて、つまらないよな」

だが、その原因は自分にある。彼女の家族を奪ったのは自分なのだ。

「安らかに眠ってくれ。そして、僕を恨んで。君の魂が安らぐのならいくら恨んでも構わないから……」

嶺が立ち去ろうとすると、

(ありがとう)

何かが聞こえた。

(本当は皆を置いて逃げ出した自分が許せなかったの。これで皆の所に行ける…)

「そっか……。ごめん。」(私は私の望みを果たした。みんなはみんなの願いを果たした。だからもういい。辛かった日々から解放されるんだから………)

それからはもう声は聞こえなかった。どんなに待っても何も聞こえなかったので嶺はその場を立ち去ることにした。

頭がいたいからその幻聴だろう。と夢のないことを思いながら嶺は瀬名と御簾を抱き上げた。二人分の腕を肩に回し、そして背負うように引きずって歩き始めた。

「くっそう……重いんだよ……。こんにゃろめーーー!」

気合いと共にズルズル引きずって行った………そうして嶺は決して短い時間とは言えない時間をかけて屋敷に戻ると、ルイスとマリアの二人に窓から呼び止められた。

「ねぇ、嶺さん!絆さんちょっと私の部屋で休ませていい?」

声をかけたのはいつものマリアだった。そして、ルイスも続けて言った。

「衰弱しているようで……今はお嬢様の回復魔法陣を利用して力の回復をしています……。おそらくは先ほど解放された絆様の能力による影響と思われますが…。」

嶺はわかった。と小さく頷いて、瀬名と御簾を屋敷の中に入れた。二人とも見事に意識を失っていてまだ目を回しているようだった

「やれやれ。にしても……絆の能力か。」嶺は絆の、あの変貌に疑問を抱いた。明らかに普段とは違う言動だったのだ。何かあったに違いない。

「これは、思った以上に面倒かもな」

3年前に封印したはずのオラクルが噛んでいるかもしれないと思った矢先にコレだ。絆の能力を詳しく調べてみる必要がありそうだった。

「やっぱ、他の家系かな……。『切風』と『飛鳥川』あたりかなぁ……。むぅー」


考え込んだ。


考えた。


…。


「よし。明日にしよう。」

今日も疲れたし。やることも残っている。もう夜も明けそうだから実際は数時間眠れれば良い方だろう。

嶺は瀬名と御簾を背負い直して階段へと向かった。見上げて、気合いを入れ直す。

「一歩進めば一歩ゴールに近づくよっ!と!」

えっちらおっちら登り始めた。嶺は二人を3階の角部屋…つまりは彼女達の指定部屋に連れてきた。この二人がフィオーレの屋敷に泊まるときは幼少期からこの部屋だった。嶺にとっても自分の屋敷のように住み慣れた場所だった。

部屋は漆喰の塗られた部屋。客室とほぼ同じ作りだが角部屋故に若干広めでベッドがふたつ並んでいる。まるでこの二人のためにあるのではないかという錯覚をするほどにこのふたつのベッドは鎮座していた。

「うぅ…ん」

瀬名が目を覚ましたようだった。

「おはよ、瀬名」

「………。おやすみぃ」

カクン、と頭を垂れて眠りに落ちた。たぶん疲れが押し寄せたのだろう、彼女はゆっくりと寝息を立てていた。

嶺は小さくため息をついて二人をベッドに降ろしてそれからこの部屋に仕込まれた印章を起動させる。

この屋敷は『印章技術』が各所に用いられており、客室には全てのベッドの内側に回復魔法陣が描かれている。本来はルイスが操作すべきだが、過去に何回か執事代理として瀬名と御簾に働かせられたこともあるのでそのあたりは熟知している。


まぁこの話はいつか別の機会にやるとして。


「おやすみ。瀬名、御簾」

嶺は部屋を後にした。

だいぶ眠くなってきたがまだやるべきことがあるのだから。嶺は一階に降りて、マリアの部屋に向かった。ドアをノックして返事を待ってから中に入る。

「嶺さん!いらっしゃい!」

「嶺さん、絆様はおやすみになられましたよ」

嶺は二人にまず礼を言って、それから絆を見た。今は幸せそうに眠っているが………。先ほどの出来事を思い出すとやはり聞いておかないといけないだろう。

「マリア、さっき茜さんと同じ血を感じるって言ってたよね?あれはどういう意味?」

マリアは少し考えるような仕草をして、それから言った。

「彼女にはおそらく茜さんの血が混ざっています。風翼の血筋でもないのならば……彼女に自分の血を分けたとしか考えられません」

嶺は驚いた。茜さんが絆に『血を分けた』なんて一度も想像しなかったのだ。

「そんな事が出来るの?」

「はい。危険ですが『一切不可能』とは言えません。輸血のようなものですから」

「輸血なら……確かに可能だね」

「あの……言いにくいんですが」

マリアは赤面して言った。

「絆さんの、血、少しいただいていいですか? あ、ほんのちょっと血を調べるだけですから!」

勘違いしないで下さいね!とマリアは慌てて言った。

「あー。いいんじゃね?」

「なら……ごくり。」

マリアが絆のとなりにかがんで首元に近付いた。そしてゆっくりと口を近付けて……かぷりと噛んだ。

「む」マリアは口を離して、それから綺麗に首の噛み傷を消した。これは彼女達…吸血鬼の基本スキルだ。

「これは…確かに茜さんの血です…1/3くらい。それにこの血自体が封印の術式ですね。ふむふむ」

口の中に含んだ血を吟味しながらこの吸血鬼は分析していく。

「これは……凄い。彼女自身(絆さん)の能力を封じ、自分(茜さん)の能力で上書きしてます。絆さん自身【ウィンド】の才能があったようで茜さんがそれを自身の能力を含んだ血を融合させて強制開花させたようですね」



「つまり?」

「絆さんの能力は【ウィンド】と先程自分で言った【終端】ですが、絆さんに施された自己再生する特殊な連鎖封印により【ウィンド】が【終端】を完全に上書きしているんです」

「つまりのほうがよくわからん……でも、じゃあささっきはなんで【終端】が発動を?」

「絆さんの封印は5つの鎖で行われてる。とイメージして下さい。絆さんの封印はついさっき1つが壊れて発動しかけましたが、まだ封印が残っているので完全な発動はしませんでした。これがさっきの状態です。そしてこのまま鎖が壊れないならば1つめの鎖が張り直され、また完全な封印を続けるようにしています。これはおそらく彼女の身に危険が迫った際に瞬間的に解放し、そして危機が去ったら封印するという特殊なサイクルを意識したものと思われます」

「なるほど、よくわかったよ」頭が痛い。これは今の説明によるものなのか『当主人格』が出てきたせいなのかはわからなかったが、痛い。

「痛みますか?お薬お持ちしますよ」

「いいよルイス。もう寝るから。マリア、ごめんね絆がベッド借りちゃって」

「いいえ。ルイスのベッドにもぐりこむだけですからっ!」

「お嬢様!」

「ルイスが怒ったぁー」

ふぇぇー。とベッドの裏側に逃げて、マリアはどこかの小動物のように頭をひょっこり出した。

「いじわる」

その光景があまりにも面白くて嶺は笑ってしまった。第三階位とか吸血鬼とか言ってもこの二人はそんな事は気にしていないのだ。なんだかそれが余計に面白かった。

「嶺さんが笑い茸を?!」

「いえ。嶺さんもお疲れのようですし、今夜はお開きにしましょう。また明日、です」

「また…明日。」

「また明日。おやすみ、マリア、ルイス。」

嶺はマリアの部屋を出た。もう空もずいぶん明るくなってきていて、眠気はだいぶたまっていた。

「くぁぁ~。ねむ。」

廊下で大あくびひとつして嶺は三階の割り当てられた指定部屋に向かった。

中に入り、そのままベッドに倒れると

「ぐぅ」

3秒と経たずに眠りに落ちた。


今日は疲れた……。

また明日、1日頑張ろう………。


おやすみ

あとがき


あれ?寝落ち?(←出おち


こんばんちは、白燕です。最近眠いです。

高校生の皆さん、うっかり遠くの大学を目指すと通学(というか主に帰宅が)大変ですよ…。


さぁ。今回の整理いってみましょう


マリア・フィオーレ(マリア

第三階位・第三代当主。吸血鬼

主に日常生活担当。誰にでも愛され、また誰でも愛せる類い稀な性格の持ち主。

生まれながらにして吸血鬼で、見た目は8歳程度だが中身は600歳くらい


マリア・フィオーレ(フィオーレ

第三階位・第三代当主。吸血鬼

主に戦闘担当。誰でも殺し、また誰からも狙われる夜の主。ただ彼女自身はまず死なない。

世界の吸血鬼の五指に入る実力を持ち、真祖の特権として他の誰かを吸血鬼化できる

彼女曰く

「真祖だの元祖だの、同じ吸血鬼からすれば大差ないわよ。紅いあの娘も学園のあいつも、800歳のあいつだってみんな兄弟姉妹みたいなものよ。実際、私の伯父はドラキュラだしね」

「ドラキュラすげぇ( ̄□ ̄;)!!」


風翼嶺(当主人格

別人格。以上。

「終わりなの?!(by嶺」

「またいつかやる」

「それはいつ?何月何日何曜(ry」



ふう。濃い中身だった……。


それから、登録タグを増やしてみました。他にも面白いタグ、良いタグがあれば感想からどうぞ!


それでは今回はこのへんで~

また次回お会いしましょう

(=△=)ノシ





アヴィメモ・アクセス70000突破しましたっ!

やったね!


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