第四階位 守護家系?
どなた様も気軽にお読みいただけます。
だけじゃダメですか?
今回は少しスローテンポに進みます。
「たまには休むことも大切だよ」by嶺
書くとネタバレになりそうなので、後書きにてお会いしましょう~
私は幸運なのかもしれない。
私は眠る友人の隣にただ立ち尽くしていただけだったのに…そう。奇跡的に。あやのんは目を覚ました。
「キズナン?」
まだ痛むのか、「うっ」と声を詰まらせた彼女を私たちは抱きしめた!「あやの~ん!」
「痛い!痛い!おーもーいー!!」
悲鳴に近い叫びにも絆達は構わずに意識不明だった友人を抱きしめた。絆は特に誰もいないが神にも感謝したい気分だった
「夜中に騒がしいですよ!」
看護師が飛んで来たが、その看護師は一瞬呆然と5人を見つめて
「先生!先生!!322の患者さんが」
叫びながら廊下を走って行った。「あ、彩乃ちゃん起きたんだ」
廊下で掲示を眺めていた嶺は慌ただしく駆けていく看護師の背中を見ながら呟き、隣にいた瀬名と御簾が「そのようね」と読んでいた本を同時に閉じた。
「…懐かしい感じよね」
集中治療室から聞こえる歓声と興奮に御簾がポツリと呟いた。
「ま、学園に居たときは私たちもああやって入院したりしてたしね」
瀬名が笑いながら立ち上がって、様子見る?と提案した。廊下にいた二人は頷いてから瀬名に続いて消毒液に手を浸した…
「あやのぉん!」
真畔がうるうると涙目で叫んでいた。苦しいのか顔をしかめた彩乃の背中をバシバシ絆が叩いている。
実に平和である。
ドタドタと賑やかな足音が響いてこの病院の医師が飛んできた
いかにもベテランといった感じの人物で、驚きと興奮の入り混じった表情で息を切らせていた…
「ふぃ…。お前さん、よく生き返ったな」
いきなり縁起でもない事を言った
「失血寸前だったのに…若いからか?」
医師が首をかしげると彩乃は笑って答えた。なんでもない。そんなふうに
「ずっと【リカバリーブースト】してましたから」
そう。彼女の能力は【ブースト】の力。自身他者関係無く『能力を引き上げる』事が出来る割とポピュラーな力である。
「リカバ…?」
「あぁいや彼女は傷の治りが早いんですよ。ねぇ?」
取り繕った嶺が全員に「だよねぇ?」と睨み付けた
「そ、そうそう!」
「昔から早かった早かった」
棒読みだった。
「…まぁいい。2、3日もすれば元通りだろう。数日は様子見で入院しなさい」
「えっ…」
彩乃は小さく驚いた。
医師が何かあるのかと聞くと
「授業を休むのは…わかんなくなるし…」
真面目な彼女は休みたくないと懇願したが断固として認められなかった。むしろ
「傷口が開いたらどうする?今度こそ死ぬぞ」
そこまで言われたら従うしかない。渋々頷いた彩乃に絆が肩を叩いた
「なら、私がノートを毎日持ってきてあげる」
「…私もだ」
「わたしも!」
和音、夕凪が手を上げた
「私は…寝てたいんだけどはっ?!」
真畔の横腹を手刀で一撃入れた。
「…これでよし。あやのん、ゆっくり休んで早く治しなさいよ。親友が怪我してたら私も気になるんだから!」
「あぅ…ごめん」
彩乃が布団に隠れたときに、瀬名がパンパンと手を叩いた
「さっ、時刻は遂に深夜。明日の学校に遅刻したくなければ帰宅っ!車で送るわよ」
「迷惑になるのもあれだしね」
聖蓮姉妹が席を立つと一人また一人と部屋を後にして行く…。最後に嶺と絆が出ると、瀬名はゆっくりと扉を閉めながら
「ゆっくりしていってね…」
覗き込むようにして言った。「いやいや。ゆっくり懐かしいな」
「もうずいぶん前のネタよねぇ…」
―この世界は2010年より微妙に未来の物語です―
「いーじゃんいーじゃん。たまには振り返らないとね」
「そうかい」
嶺が気のない返事をすると瀬名はむぅと唸ってそっぽを向いてしまった
「意外と面白い人たちなんだ。『死神』とかで通ってるから怖いのかと思ってたのに」
真畔が言って、絆が苦笑い
「普段からこんなだよ…はぁ…」
「絆も人のこと言えないじゃん」
嶺が言ってみんなが笑う
廊下を曲がり、階段を降りて、病院のロビーへ。そこには缶コーヒーを片手に外を眺めていた緋糸の姿があった。
「賑やかだったな」
「あの娘の意識が戻ったよ。これで一安心だ」
嶺が手短に報告して緋糸に帰るよと言った
「わかった。流石に追手はないだろうが…一晩見張っておくか?」
「んー。どうする絆?」
「え?私?」
急に振られたので声が裏返っていたが、こほん。と咳払いして彼女は答える
「ひ…一晩お願いします…」
「わかった。任せろ」
緋糸は缶コーヒーに口をつけて、階段に向かって歩いて行った。カツンコツンと無灯の廊下に消えていく足音が夜の病院の不気味さを引き立てるようで…怖くな…いや、少しだけ気押された
「さて、絆と僕は飛んで帰るよ」
「他の女子は私の車にー。今時ガソリン車なんて博物館でしか見れないよ」
絆の親代わりはツアーガイドのように右手を上げて病院を後にした外に出ると、駐車スペースに黄色い小型車が停車していた。やや古びた年代物で、隣に放置されている車と見比べても昔の車だと感じさせた。
「ついにガソリンスタンドも水素スタンドの1000分の1になっちゃったし、1Lも3万円になったわよね…」
「いい加減買い替えたら?地球に悪いわよ」
瀬名のぼやきにピシャリと冷たい御簾の一言が突き刺さった。
「でも私はこれが好きなのよねー…」
瀬名は名残惜しそうに呟きながら鍵を取り出し、ピピッ、とドアロックが外れて瀬名は運転席に乗り込んだ。続いて御簾が助手席に乗り込む。
「みんなも乗って」
キャーキャーと興奮気味に後部席に乗り込んだ三人を流し見て嶺が戸を閉める
「うむ。ご苦労」
「あーはいはい」
エンジンが駆動を始めて、車体が微妙に震度している。数秒暖めるようにアイドリングして黄色い車は走り出した。
「それじゃ、帰ろうか」
嶺は手を水平に掲げる。手首についたアクセサリーが手の内に収まって、そのまま手を交差するように払った。
翼を模した双剣が彼の手に握られて、緩やかに夜の風を乱した。
「風遊べ『疾風大鷲』」
月明かりを遮って、巨大な翼が広がった…今日一日、というか今夜は大鷲に助けられた。最初は一般人…リアライズ・ロナウド・ウィラコチャと言ったか、彼を危うく攻撃するところだったのを遮ってくれた。次は彩乃が倒れたとき、嶺のチームとの合流場所に連れて行ってくれた。そして今は家に向かって飛んでくれている。
「ゆうなんじゃないけど、頭いいね大鷲」
ピィィと短く鳴いた鳥は嬉しそうに体を揺らした。
「喜んでる喜んでる」
嶺がパシパシと叩きながら、はしゃぎすぎるなよとたしなめる
「はぁ…今日は疲れたなぁ…。まさかストーカーの話からこんなに壮大になるとは…。流石の私も眠いよー!」
「やれやれ。うちの娘は相変わらずおてんばだねぇ…。厄介事しか集まらないよ」
吹き抜ける風に、身震いする
夜の風はこんなにも寒いのか…。まだ春先の世界を軽く恨む。真夏ならば心地よいのに、と。
「ねぇパパ」
絆は呟いた
「今朝『嫌な風が~』とかほざいてたじゃん?」
「ほざいてた、は酷くない?」
「あれはさ、なんか予感か何かがあったの?それとも勘?」
「スルーかよ」
嶺はツッコミを入れてから小さくため息を吐いて…それから答えた。
「勘、かな?『何か起きる』っていう嫌なまとわりつくような感覚だよ。」
「そっか…。パパが感じたのはどっちの事件なんだろうね…?」
「…さあね。ほら、家に降りるよ」
大鷲が体全体で風を受けるようにしながら、地面に向けて何度も風を送る。風翼の敷地の土が舞い上がって、風圧の強さを感じさせる
トン、と軽い音と共に着地して嶺と絆は和風な屋敷に帰宅した。
「お疲れ大鷲」
パキン、と大鷲が封印状態に戻り、嶺の手首に舞い戻った。
Xの字に剣が交差した文様のブレスレットをぶら下げた嶺は屋敷に入って行った。絆も続いて、中へと入った帰宅して、唖然とした。
「あ、絆ちゃんおかえり~」
瀬名がのんびりとくつろいでいたのだ。
「あ、ありえない…」
「何よ嶺。ただ彼女達をパパッと家に送り届けただけよ」
忘れていた。瀬名の運転は『荒い』のだ。
大鷲で優雅に帰宅した私と違い、今ごろあの三人は倒れているころだろう…。普段は酔わない人間ですら、瀬名の運転では思わず袋を探すのだ…
「まさか、手加減無しに?」
「全力疾走直角カーブ!」
嶺と絆は同時に合掌した
不幸に対して哀れみを全力で込めて。
「南無南無。」
「…まさか、御簾さんも犠牲に?」
絆が振り返ると
「まさか。」
ぴったり後ろにいた。
「きゃっ!いたんですか!?」
「えぇ。夕食…カップラーメンの準備を…」
「お湯を沸かしてたのね」
嶺が、さいですかー。と言いたそうにしていた隣でペリペリとカップラーメンの蓋が開けられた。昔ながらのお湯を入れるだけのカップラーメンにお湯が注がれ…て、いるのだが。
「あれ?これにだけラーメンが入ってない?!」
「汁麺買って来てるし…」
無言で嶺の前に一切麺のないカップラーメン…いやカップスープが置かれた。
「…わかったよ」
深い、深いため息が落とされた………
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
絆が箸を置いて、少しカロリーの高い食事を終えた。瀬名がそれを持って片付ける
「いいよママ、私がやる」
「―――絆ちゃぁぁぁぁん!私感涙よっっっ!!こんな風に優しく育ってくれて感激っ」
「いやいや、当然よ…だからくっつかないでっ!助けて御簾さぁぁぁん!」
パチン!と小さな氷の破片が弾けた。
「いじめるのはそれくらいに。」
「一重に愛よ。」
真面目に呟いた瀬名の腕を抜けて、絆は障子を開いて廊下に飛び出す
そして、背中の切れた制服を思い出して、瀬名に縫ってと頼んだ
「うに。おっけー」
絆はそれだけ頼んで
「お風呂入ってくるから」
そう言って廊下を走って行った…。部屋に残されたのは、二人の姉妹と一人の少年。数年来の知り合いはいつしか机を挟んで思い出を語る。
「懐かしいわね。こんな風になるのは」
「そうだね、僕らが任務以外で一緒になったのは…3年前以来かな?」
「「『畏怖の幻影』事件、ね」」
「うん。あの時は…僕らも高校生だったか…時が経つのは早いねぇ」
「嶺も老けたかしら?」
「馬鹿言わないでよ、僕はまだ現役だよ」
「『畏怖の幻影』相手に死闘を繰り広げてた時よりは?」
「…考え方が老けたかも」
「「だよねー」」
聖蓮姉妹は何かスイッチが入ったように言葉の洪水をまきおこした!
「考え方も老けたよね」
「顔も、ちょびっと」
「お茶は緑茶!」
「趣味はぼーっとすること!」
「「このおじーちゃん♪」」
「うるさーい!」
長い机がひっくり返されて、上に乗っていたものは床に落ちる前に二人によって回収された。
「人をおじいちゃんとか呼ぶなー」
「「おじーちゃん♪」」
ダン、ダン!と軽く飛び上がった嶺は二人に向けて風を放った。【ウィンド】を【スパーク】【フローズン】が軽くあしらう
「冗談よ、冗談。」
「ムキにならない」
クスクス笑いながら姉妹は嶺を指差して
「「許して?嶺」」
まったく同時に言ったのだった
「はふぅ…いいお湯でした」
上気する顔で上機嫌に絆は歩いていた。桜が開花寸前の、ほんのわずかに暖かな夜、言い切れない幸福感に彼女は包まれていた。
「最初に『お湯に入る』って事を考えた人は誰なんだろ…。ノーベル平和賞をあげたい気分だわー」
時刻は既に深夜。だが、この気分では寝付ける気がしなかった。
「『刻鳥』」
小さく、愛刀の名を呼んだ。
手首のアクセサリーが小さな刀になり、それが絆の手に滑り落ちた。
「…ねぇ、刻鳥。大鷲は凄いね」
「…うん。わかってる。刻鳥と大鷲は違う。だけど、あんな風に助け合えるなんて素敵よね」
「刻鳥、あなたは私とあんな関係になれると…思う?」
刻鳥はただその場にある。何も言わず何も語らず。ただそこに。
「はぁ…やっぱり返事はないかぁ」
絆は武器を封印状態に戻して、立ち上がった。夜の冷気に触れていたからかほんの少し体が冷えたようで軽く身震いした
「風邪ひかないようにしよう…」
絆は足早に居間へ移動した…障子を開けて、中を覗く。
「あ、絆おかえりー」
嶺が気付いて、姉妹が手を振っていた。
「次誰かどうぞ」
「じゃ、私入るね」
瀬名が立ち上がり、
「嶺も入る?」
「冗談。どうせ頷いたらパチッと電撃でしょ?もういいよ…」
「まさか、パパ前科が?」
「まさか。いきなり瀬名が入ってきて…それから…それから………うぅ思い出したくない」
どうやら、過去に何かあったらしい。
絆が自室に行こうとすると嶺が呼び止めた
「絆、明日『フィオーレ』の屋敷に行こうと思う。一緒に来る?」
フィオーレ。この町の歴史書に何度か登場した名前だった。
「そういえばパパ、連絡してたね」
「うん。…なーんか嫌な予感がするんだよね…こう何?カンってやつ?」
「「でも、ヘタレのカンなんてあてにならないわよねぇ…」」
瀬名御簾二人が同時に呟いた。
「グサッと来た」
嶺が机に伏して、泣いているようにも見えたが無視した。
「…明日、何時出発?」
絆の質問に瀬名が御簾が答えた。
「明日の夕方」
「午後5時出発よ」そして。翌日。
「ほうほう。なるほどつまりキズナンは嶺さん達と同行すると」
教室にて真畔はうなずいていた。
「って!納得できるかぁぁぁぁ!」
彼女は突然叫んで机をひっくり返した。
「キズナンは、お見舞いに行かないの?」
「行くよ。ゆうなん。30分くらいだけどね…」
「そうか。家庭の用事だ。私は気にしなくていいと思うぞ」
和音がギシ、と椅子を揺らして言った。絆が礼を言うと
「感謝はいらない。家族が、少しだけ眩しいだけだ」
…この学園の生徒のおよそ半分は一人暮らし、もしくは寮生活だ。
もちろん、学校が遠いなどの理由もあるが大勢の理由は『親がいない』のだ。
能力故に捨てられた子供、悪用するために社会から隠されていた子供、自らの有り余る能力で殺めた子供。原因は数限り無い。大事なのは『親がいない』こと。
絆のように親代わりがいるのは、実はとても稀な事なのだ
和音にも親がいない。彼女はその重力の能力が暴走して、買い物に来ていたデパートを全て圧し潰してしまったのだ
彼女が生きていたのはとてつもない幸運。彼女は自分が犯した…事故とはいえ犯した罪を償うためにいるのだ。
「あぁ、すまない。空気を読まなかったな」
「いいよ、かずね。…今度パパに皆でどっか連れて行ってもらおうよ!あやのんの快気祝いでどう?」
「わたし賛成ー!でも…いいの?」
夕凪が見上げて呟いた。
「いいんじゃない?パパもお金ずいぶんあるし」
嶺の任務。これも精錬学園と同様なものだった。危険だが高額な仕事。かつて某大統領も国内で護衛していたと言う
しかも嶺はエースと呼ばれる学園屈指の有能な人物で、彼の報酬は同業の数倍。学園生徒の数百倍は一度に支払われる。
正真正銘のチームリーダーである
「…それじゃ、学校が終わるまで頑張りますかー…」
一限は、体育だった。…夕方。そう夕方。西陽が傾き、地に触れそうな黄昏の時間。教室で伸びていた絆達は帰りの挨拶でなんとか元気を取り戻した。
「つ…辛い…。体育の後に理科とは…」
理不尽な時間割はどこにでもあるものだ。恨んでも呪っても印刷物はただ事実を掲示し続ける。まるで私が正義だと言わんばかりに。
「…で、キズナンはこの後用事があるから全力疾走で病院に行かなくてはならない。」
「かずね、地の文みたいなセリフやめて」
絆は昨日、気軽にノートを見せると約束した自分を軽く、呪う。
「よし。行こう。こうしてると余計に急がないといけないし」
「そうだね。行こっ!」
四人は教室を後にした。誰もいない教室が、歪んだ。
「…ふむ。果たして風翼の娘はいかほどの能力者か……。風翼茜、お前が養子に迎えた理由、見せてもらおうか」
オラクルが空間を歪めて教室に現れて、適当な机を撫でる
「無駄に金をかけてるな。これ一台で何人の人間が食事にありつけるか…」
彼は指で机を弾いて、先程入って来たときと同じように空間をカーテンのように歪めて、消えた。
「風翼茜。期待しているよ」
誰もいない空間に、その言葉だけが残された…さて。教室でそんな出来事があったなど夢にも思わない四人は既に校門を後にしていた。大きめの片側二車線道路に沿って歩道を歩いていて、あまり遠くない病院を目指していた。
病院へは学園からだいたい10分、屋敷からは15分と言ったところ。徒歩で難なくたどり着けるのだった。
「あ。」
絆が立ち止まった。
「ケータイ返してもらってない!」
「な、なんだってー!!」
「うぉぅ、いきなり叫ばないでよマクロ」
絆と真畔が会話する
「女学生にケータイは必須よ!私女の子が電話してる光景が萌えるんだから」
「あんたの趣味を押し付けないで。」
絆は手持ちぶさたにポケットをまさぐり、それから小さくため息をついて行こうと言った。それから数分後に病院についた。
この病院は周囲で一番大きいが、少し古びた…年期の入った建造物である。
「緋糸先輩、まだいるのかな?」
「珍しいな。キズナンが他人を気にするなんて」
「…ちょっと、スッゴい誤解を招く発言しないでよ。まるで私が自己中みたいじゃん」
「だな」
「…え?それどーゆー意味よ?」
「さぁ、先に行こう」
「ちょ!かずね!どーゆー意味よ!」
「かずねに同意」
「お見舞いですね」
「ちょっとー。みんなしてどういう意味よ」
背後で叫んだ絆を、三人は必死で笑いをこらえながら悟られないようにしていた。
「キズナン、今日はテンション高いな」
「でも、これたのしー♪キズナンやっぱ面白いわ」
「あんまりいじめるとかわいそうだよ」
三人が振り返ると、
「ふーんだ」
ふてくされた絆がそっぽを向いた
「あっははは!キズナン冗談だってば!」
「泣くな」
「別に泣いてないもん。ふんだ」
むくれた絆を見て、ついに真畔が笑いをこらえきれなくて大笑いした
止めようとして震えながら、彼女は押し寄せる笑いのツボにあらがおうと…コンマ02秒程度頑張った。
「あはははは!もう…もうだめ…面白すぎて死にそう…ぷっくあはははは」
「死因『笑いすぎ』。か」
「なんか嫌だよ、それ」
「マクロひっどーい!」
「うん…ごめ…やっぱ無理っ!笑いが止まんない…」
「…しばらくはマクロは復帰できませんね…。とりあえず、キズナン、ごめんね」
夕凪が謝った。謝るのに『とりあえず』もどうかと思ったが、この場では見逃そう…。
っていうか、マクロ覚えてなさい…
内心そう誓った絆であった。階段を上り、3階へとやってきた。
まだ笑いの余波が抜けていないマクロを除いて三人は病室を目指す。
「来たか」
「「みっ?!」」
いきなり背後から声をかけられて、絆と夕凪が奇妙な声を上げた。
「あ、悪い。驚かせたか?」
「い…いえ、後ろはノーマークだったので」
「び、びっくりした…」
心臓が痛いくらい強く打っていて、二人はペタンと床に座り込んだ
「…悪い。」
「だ、大丈夫です先輩」
差し出された手を握って、立ち上がる。真畔が目をキラッキラさせているのを無視して絆は緋糸にお礼を言った。
「まさか、ここまで驚くなんてな」
「うぐ…背後に気を付けてなかっただけです。普段はこんなんじゃありません」
「そうか。なら悪かったな」
小さく謝った赤毛の青年に、絆は裏返りそうな声で
「そ、そういえば先輩はなんでここへ?」
そう言った。
「俺は、藤村の病室が『5-23』移ったのを知らせに来ただけだ。親友なら伝えておかないとな」
彼は小さく口元をつり上げてから、コートをなびかせて立ち去る。紅いコートが白い病院の壁にとても映えた。
「あと40分で出発だ。お前は遅れるなよ」
緋糸はそう言って階段に消えた。カツンコツンと階下に足音が消えていった…
「ふむ。相変わらずの人物だな。話しかけにくい」
「かずねちゃんがそれを言う?…そうじゃなくて、キズナン羨ましいよ!」
「キズナンが…緋糸先輩がス…」
「『ブラストエア』ぁぁぁ!」
パチン!と指をならした瞬間、真畔の体が吹っ飛ばされて5mくらい先に落ちた。
「うわぉ♪これって『キズナンのマクロツッコミ』記録。更新?」
「いや、昔の最高記録は6mだ。まったくマクロも学ばないな」
ぜぃぜいと息を切らせる絆の隣で実に勝手な事を言う和音と夕凪。実に平和である。
「あやのんの病室は5階だな。3階にいつまでもいては時間の無駄だ。行くか」
「はーい」
長身の和音の後ろをついていく夕凪は、とても幼く見えた。まるで馬鹿馬鹿しい意地の張り合いに絆もすっかり冷めて、その場から立ち去った
「キズナンの好きなひとわぁー」
「『ブラストエア』」
…。
まるで馬鹿馬鹿しい意地の張り合いに絆もすっかり冷めて、その場から立ち去った。『5-23』病室。そこは4人の相部屋で、友人、藤村彩乃が入院する場所だった。
「入るぞ」
「あやのん、お見舞いに来たよー」
和音と夕凪が病室に入った。それから数歩遅れて絆も追いかけるように入ってきた。
「はい、授業ノート」
突き出した学用ノートを受け取って、彩乃は絆に、それから友人達に感謝とお礼を言った。
「べ、別にこれくらい…」
「ツンデレーション発動だー♪」
キャーキャーとはやしたてる夕凪を退かして和音はベッド脇の花瓶に添えられた花を見た。
「これは?」
「きれいでしょ?ひまわり」
燦々と輝くような花はまごうことなく大輪の『ひまわり』なのだが、和音はそれじゃないと言って不思議そうに彩乃に聞いた。
「私たち以外に、誰か来たのか?」
「来たよ。まず嶺さんでしょー、瀬名さんに御簾さんに…それから黒須さん。お土産にひまわりとクッキーとDSもらっちゃった」
「なんと!」
絆は驚いた。パパやママが来るのはまだわかる。だが忙しいであろう御簾さんと黒須さんが来ていたのは意外だった。
何故来たのか考えたら…おそらくは彩乃の襲われた状況を聞きに来たのだろう。帰り道に突如襲われ、さらには犯人は死亡。彼らとしてもあまり手がかりがないのだから…当然か。
「あっ、キズナンDS欲しい?」
「い、いらないわよ」
欲しいのはDSじゃないのに、と思ったのに文脈を考えると…確かにそう言ったようにも聴こえた。絆はやんわりと否定すると机におかれた愛らしい小さな目覚まし時計を見た。時間はギリギリ…。もう行かないと
絆が立ち上がると、和音が察したように
「行くのか?」
「うん。パパは別にいいけどママは待たせたくないから」
「相変わらず、素直じゃないなぁ…」
彩乃は苦笑いして、
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
絆は答えた。病室を出て、階段を降りて、外に出て、風を呼ぶ。
外の風の流れを鋭敏に察知した彩乃は、和音達に行っちゃったね、と呟いた。
「…あれ?」
そして
「マクロはどうしたの?」
「今頃気付いたか…」
今度は和音達が苦笑いする番だった…町を走り抜けた一陣の風。
その風を引き連れて、女子高生が走っているなど誰が思おうか
住宅街を抜けて、道を走り、時には家の塀を走り、絆は風になったように素早く駆けた。ローファーが地面を蹴って、スカートが舞って、彼女は自分の家…風翼の屋敷に戻ってきた。
「おかえり、絆ちゃん」
聖蓮瀬名が車から手を出して絆の帰宅を歓迎した。他には御簾が車の窓を見つめているだけで人影はなかった。
「絆ちゃんも準備して!ほら着替え着替え」
「あ、うん…」
制服のまま出掛けるのもあれだろう。絆は急いで自室に向かった
「あ、御簾さんは何を?」
通り過ぎる時に絆は真剣に窓を見つめる御簾に聞いた。
「いや…窓にひびが…ね。ずいぶんボロくなったわ。まったく、時は嫌ね」
「…?」
絆はイマイチ理解できないままそこから立ち去った。
「…ねぇ、瀬名。この車で大丈夫なの?」
「大丈夫よ。…たぶん」
「やれやれね、今夜は荒れないといいけれど…」
御簾が柔らかく車体を撫でて、そして、空が暗くなった。風が舞い、砂が踊る。
「お待たせ。絆は?」
大鷲を封印し、巨鳥から降りた嶺が聞いた
「準備中よ。それより?」
「飛鳥川、焔村の家系も、昨日の結界は気付いたってさ…。そんで、また迷惑な話が舞い込んだよ」
「あらあら、あの家系が?」
「まっ、それはフィオーレに頼もうか。あいつにも参加してもらわないと戦力が段違いになるからね」
それから嶺は後部座席に乗り込んで、小さく伸びをした。クキポキと背骨が鳴った。
「ふぁ…うん。よし、後は絆待ちだね」
嶺が言って、瀬名は小さく肩をすくめてから助手席を開けた。そこに御簾が滑り込んで…出発の準備は整ったのだった絆は、準備を終えて姿見に映った自分の姿を見る。白いケープを肩にかけて、その下は真紅のドレスを想起させるちょっと派手な衣服。流石にこれはやりすぎかとも思ったが…
部屋にあった瀬名の走り書きに『ドレスコード』と書かれていたので…よし!と自分を納得させて姿見の前でくるりと回ってみた。うん。ふわっと舞い上がる感じはなんか優雅な気分だった。
「それじゃ、行きますか」
絆は自室を出て、無駄に急勾配の階段を降りていった。外に出ると、既にエンジンを稼働させていた車がクラクションを鳴らした。どうやら早く乗れ、と言われているようだった。
「しょーがないなぁ」
絆は少し走って、後部座席に滑り込んだ
運転席には、瀬名が。助手席には、御簾が。そして右隣には、嶺がいた。
「絆ちゃんかぁいいよぅ」
「へ?」
バックミラー越しに、鼻から大量出血している瀬名が見えて…絆は数センチ窓へ離れた。
「お、お持ち帰り」
「それは『レナ』!」
御簾の動きが滑らかすぎてわからなかったが、瀬名が後ろを振り向いた瞬間に強烈なアッパーを叩き込んでいたのだ。
「りゅぐぅ…痛い…」
「自業自得よ」
ふん。と小さく笑った御簾が少しだけ嬉しそうに見えた。
「ほら瀬名、発車オーライよ」
「うぐぅ…あとで覚えてなさいよ…」
クッ、と体が慣性に従って一瞬後ろに引っ張られた。動き出した車が滑らかに庭を走り、門を出た。
勝手に閉じる門を後ろに、車は住宅街を走り抜ける
「ねぇ、私たちはどこへ行くの?」
「ん?第三階位『フィオーレ』の屋敷よ」
「…ねぇ、時々聞くけど『階位』って何?」
「はへ?…あーーー…」
瀬名は嶺をゆっくりと見た。
見られた方はヤレヤレと呆れた風に首を振って、
「階位ってのはね」
そう切り出して、彼は説明を始めた。「階位っていうのは僕らの階級のこと。階級は全部で12の家系で決まっているんだ。つまり
第一階位 夜歩
第二階位 焔村
第三階位 |フィオーレ
第四階位 切風
第五階位 流浪
第六階位 風翼
第七階位 聖蓮
第八階位 秋霜
第九階位 刻曳
第十階位 |ロウ
十一階位 打紅
十二階位 飛鳥川
の全12の階位。この町の『旧家』はこれの表の呼び方。招待を知られていないからこそ僕らは仕事…つまり依頼をこなせるんだ。そしてこの12の家系は『守護十二家系』とも呼ばれていて、大昔からこの地域と日本の防衛、防災に力を尽くして来たんだよ
最近はいなくなった家系とかもあるけれど、だいたいはこの桃花市に今も守っているんだ」
「…?でもパパ。なんで十二階位も必要なの?多すぎない?」
「それは、各家系の力が人間離れした能力だからだよ。僕や絆の【ウィンド】が桁外れなのも同じ理由。強すぎる。だから押さえ込むのが大変。だったら反抗できなければいい…。そんな理由で十二階位のシステムは出来たんだ」
「むぅ…よくわかんない…」
「ようは、1vs11になるようになってるんだよ。それに第一階位と十二階位とじゃ結構、力の差があるからね」
「1vs11…それは反抗する気も起きないわ」
「でしょ?」「…と、言うわけだ。うん」
「アバウト過ぎる…」
瀬名と御簾が呆れたように首を振った。
「補則したら、精錬学園は僕らの十二階位システムを真似たものだ。ってとこかな?」
「へぇ~」「…と、言うわけだ。うん」
「アバウト過ぎる…」
瀬名と御簾が呆れたように首を振った。
「補則したら、精錬学園は僕らの十二階位システムを真似たものだ。ってとこかな?」
「へぇ~」
絆が、微妙に理解してない声を上げた。嶺も瀬名も苦笑いして仕方ないか、と呟いた。
車は市街地を抜けて、工業地区を走っていた。複雑に絡み合ったパイプが左右のどこの工場からも見受けられた。
そうして走ることおよそ10分、車は工業地区を途中で抜けて、町の外側…山沿いを走る道に出た。
この町の山手線…ともいうべき円を描く道は東西南北の山に道を貫き隣の町への移動口となっている。
その内の東の方面へ抜けた瀬名の車はわずか数分で正規の道を外れて山道に乗り入れた。
「あれ?道違うよ?」
「いーの。それよりお二人さん、シートベルト、しなさいよ?」
カチンカチンとシートベルトが音をたてた。それを確認した瀬名は嬉しそうに
「それでは、本日のアトラクション。絶叫ドライブと参ります」
ぐいん、とハンドルが切られて車の前後が反転した。
「キャー?!」
「ちょ!普通に行けっ!」
ゴツンガツンと後部席から、丁度ガラスに頭をぶつけたような音が何度か聞こえて、瀬名は更に逆にハンドルを回した。
目の前に立ち並ぶ杉や欅の木を車は見事に回避しつつ、後部座席からは悲鳴と…悲鳴が聞こえ続けた
「右」
御簾は持参した枕を窓に押し付けてキッチリガードしていた。
「よっ!はっ!これで…どうだっ!」
小さく突き出した岩を利用して小川を飛び越えた車は、ガコンと音を立てて着地した。そして、ろくに整備されてない、獣道のような道をさらに車体を滑らせながら移動していく
「パパぁ…私もうムリ…」
「同じく…」
後ろ二人が気を失った。
「ふぅ、軟弱な」
「いや、誰のせいよ」
御簾がピシャリとツッコミを入れた。
車はガクンガクンと山を上っていき、そして、止まった。
「ほら、お寝坊さんたち、着いたわよ」
絆はふらふらする頭を上げて、外を見た…「凄い…」
思わず、目を疑った。
「ただの山の中じゃん!」
景色はさっきとあまり変わっていなかった。否、実際大差がなかった。
「道間違えたんじゃないの?ママ」
「…いや、合ってるよ絆」
嶺がむくりと起き上がって言った。
「ここが『フィオーレ』の屋敷…正確には庭の入り口だよ」
嶺は車を降りた。絆もそれについていく
「これが、フィオーレの結界。名を『ファンタズマ』」
嶺が地面に刻まれた金属を指差した。そこには魔法の言葉らしき物が刻まれており、良く見ると左右にも点々と似たような物が存在していた。
「『ファンタズマ』の結界基点はほとんどが地面に埋められてる。そしてこの結界は普通の魔術師が見たら感動して神に感謝しながら泣きたくなるほどの超超高ランクの物なんだ。だから、絆、ここが目的地だよ」
「…へ、へぇ~」
絆は理解できていない。
「あ、そだ。絆、この中だと機械類は基本使えないからよろしく」
「は?」
「それじゃ、瀬名。行くよ」
「まっかせなさい」
車が結界に向けてゆっくりと走り出す。
「『さぁ開け。幻想の門よ。我は風翼、十二階位の当主が一人!』」
結界が、キシッともミシッともつかない音を立てて小さな穴を開けた。車1台分くらいの穴が空いて、嶺は瀬名の車に飛び乗った
「絆も!」
「あ、うん」
ぴょん、と飛び乗った。屋根に二人を乗せた車は無事に穴を抜けてフィオーレの敷地に到達できた。「グルルゥ…」
森の中から鋭い眼光が覗いていた。まるで虎のような目で、虎のような仕草で、そして実際、虎だった。
「グルル…」
その虎は、一番抜けてそうな人間を標的に選んだ。そしてゆっくりと近づいて…とびかかった。
こんにちは、お久しぶりです。白燕です
今回のテーマはズバリ『十二階位』の登場です。名前だけだけど。
長らく名前だけだったフィオーレも、財力豊かな聖蓮も、そして風翼も。階位とかが明らかになりました
次はどんな展開になるのか、作者もドキドキです(何
『ちなみに』
前作『アヴィス・メモリアル』を読んだ人なら…もうフィオーレが誰か分かってるんじゃないかな?
そう、アレだよアレ。アレだって!
見てない人は見ておくと…見た人ももう一度見ておくと…何かわかったりするかもしれない?
以上、白燕のあとがきでした!
また次回お会い出来ることを楽しみにしています~(・ω・)ノシ