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第十三階位 解析。邂逅。

日常系非日常能力者学園ストーリーです。(意味不明)


ぶっちゃけ、前話に時間をかけすぎました。2ヶ月?だったかな?

そのせいで今回はえらい短くなりました。いや、改行のせいなんだけど。



とゆわけで、今話も絆たちのお話にお付き合い下さい。



本編、始まります

バタン。と背後でドアが閉じた。

水素エンジンの控えめな駆動音が聞こえて走り去るタクシーを嶺は見送った。


ここは町のど真ん中に建つ幼等部~大学院部までを同一の敷地に持つ巨大施設。精錬学園。の校門だった。


この学園は大昔、江戸時代よりも前に日本中の異能の者…能力者の収容、隔離施設として建造された建物が由来だ。本来は盆地に沈んだ鬱蒼とした草むらに粗末な平屋と見回りの侍がいただけの場所に、次第に商人が集まり、人が集まり、町が出来上がった。


それがこの桃花市。


そして、万が一能力者が暴走。または脱走した場合に備えて町の全方位に朝廷に選ばれた十二の家系が監視役として置かれた。


守護十二階位の始まりである。


今は隔離施設も開放的な学園へと姿を変え、守護十二階位も日夜この国の平和を守る一警護組織として生活している。



―嶺は校門に手をかける。


だが、まだ学園には隠匿結界が張り巡らされており学園で能力の暴発が起きても結界の外からは何も起きなかったように見えるようになっている。


「檻のない檻…か」


嶺は小さく呟いて学園の敷地に入った。感覚の鋭利な人間なら気付く薄い膜を抜けるような感覚を確認して結界の内側へと足を踏み入れた。


目指すは大学院部、黒須の研究室だ。



校舎に入り、階段を昇る。


大学院部は学園でも最も新しい施設であり、まだ真新しい壁がやや傾いた日差しで薄暗く輝いていた。


嶺の隣には瀬名と御簾。瓜二つの双子姉妹に挟まれる嶺は『革命の刻』のメンバーから奪い取ったUSBメモリーを取り出して二人の前に掲げる。


「中身はなんだろうね?」


二人は首をかしげて答える。


「わからない。でも、貴重な情報よね」

「でも、あんなしたっぱみたいなのが重要な情報を運ぶなんて思えないわね…。しかもあんな畑のど真ん中で。」


しかも運んでいた二人はオラクルに奪い返されてしまった。残念だが、情報は間違いなく減ってしまっている。


「だからここへ来たんだよ。世紀の天才科学者、それからうちのメカニック。内崎黒須の研究室にさ」


嶺は『内崎黒須』と書かれたネームプレートの前で立ち止まった。扉を軽く叩いて、扉を開けた




そこには――――


「んー。やっぱ研究にはコーヒーにカップラーメンだねぇ…。ズズズ…」



白衣姿の嶺よりもほんの少しだけ年上の女性。内崎黒須が椅子に腰かけて赤いうどんを食べていた。


「黒須…せっかくシリアスに来たんだからさ、もうちょい頑張ってよ」


嶺が訴えると天才は手だけ振って答える。


「人生堅苦しく生きたらダメよ。私は前回(絆達とドリル装備で遭遇した時)に頑張ったからもう無理よ………。あぁ、鰹ダシ」


瀬名と御簾はやれやれと項垂れた。

天才メカニック。内崎黒須はどうにも気分屋で昔から自分のやりたいことをやりたいようにやらせないとすぐにやる気を無くす人間だった。

そのかわり、彼女の作った武器や技術はどれも洗練されたものだった。

例えば、嶺の『疾風大鷲』は彼女によって作り出され、そして彼女によって強化されてきた。持ち主のイメージを受け取り、最適な形で具現化し、その情報を記憶する。嶺の武器の能力は彼女の一般人には理解不能な頭脳によって産み出されたのだ。


「まぁいいや。黒須!」

嶺が投げたUSBメモリーを彼女は受け取った。

「これは?」

うどんを噛みきりながら彼女は聞いた。

「『革命の刻』のメンバーが持ってた物。何か情報が手に入るかもしれない」

黒須は突然目を輝かせて立ち上がった。

「いいじゃない。いいじゃない!うちのヘタレが持ってきたにしては上出来な依頼よ!うふふまさかの電子ロック?8重パスワード?期待できるなっもう~」



「やけに上機嫌ね?御簾」

「よっぽどヒマだったんじゃないの?緋糸も今は任務中だしね」


研究室の椅子を勝手に移動させて二人の少女は不思議な踊りを踊る科学者を見ていた。


黒須は備え付けのパソコンの電源を入れた。osの製造会社のロゴが表示されて、青い画面が現れる。それからしばらく手をブラブラさせていた黒須はデスクトップが表示された瞬間に画面に飛び付いた。

「さてさて。私を満足させなさい?」

USBメモリーを端子に突き刺して、黒須はプログラムを起動させる。

「ふんふん、中身は雑多なデータの山ねぇ…。うわっ、容量4GBだって、時代は256GBよ?何年前の化石?」

かなりズタボロな言われようである。

「無意味なメモ帳、新しいフォルダ732…。絶対何か隠してあるわね………。よし!」

黒須がキーボードを叩くと黒い画面が現れた。

「クロちゃん!」

黒須が呼ぶと、黒い画面に…まるで魔法使いや孫悟空やイルカが現れるように二頭身にデフォルメされた黒須が現れた。

『なぁに?今、敵国を攻めるのに忙しいんだけど。あっ!だからD3はスタクラからパワショだって!行動早いのよ!』


「ほらほら、そんなことよりUSBメモリーの中身の解析手伝ってよ。新しいフォルダ732とか多すぎるのよ」


『む…。わかったわようるさいわね…別にあんたのために手伝うんじゃないんだからね!』


「はいはい。お願いね」

賢い人工知能がUSBメモリーの中身を解析していく…。中身があるものだけが『クロちゃん』によってリストアップされていき…わずか数分で中身があるものを取り出し終えた。

『見つけてあげたわよ』

「ありがと。さて、次は私が本気を出す番ね!」

黒須は腕捲りをしてキーボードにかじりついた。小気味良いリズミカルなタイプ音が個人の研究室に響き渡る…

「雑多なデータに埋もれたモノ。私に姿を見せてみなさい。」

…すると、その声に応えたのかはたまたただの偶然か。画面に薄ぼんやりと言葉が浮かび上がった。


『作戦指令 20/02/2013』


黒須は見向きもせずにタイプを続けているが、見ていた三人は浮かび上がった文字に衝撃を受けた。作戦の指示データのようだ。


『オラクル様より伝達。桃花市、農業地区。座標77.83.21にある地蔵。飛鳥川の巨大な結界基点を破壊せよ。

19/02/2013 ミルフィ・クレーム』


それは、たった今止めた敵の作戦だった。嶺と瀬名は落胆のため息を吐いて机に倒れるようにうつぶせになった。

既に終わった作戦の内容を知っても、この程度では何の役にも立たない。無駄に時間を過ごした………


「…なんて思わないことね」


黒須が言った。


「画面を見なさい」


二人が顔をあげると、新たな文字列が浮かび上がっていた。


『…優秀なハッカーへ』


浮かび上がった文字は、今までの指示とは違う雰囲気を持っていた。指示は無機質な機械のような感じだったのが今はまるで挑戦するかのような文章になっていた。


『ジャンクデータの中からサルベージするなんて、なかなかやりますね。…ですが、あなたには退場願います』


と、画面に無数のノイズが走った。


「クロちゃん!ジャマープログラム走らせて!ウイルス来る!」


『ウイルスやだぁー!』


黒須のタイピングの速度が上がった。今はもうキーボードを叩く音が途切れるのが聞こえないほどに連なって連打されていた。


『システム浸食率25%!どーする?抑えらんない!』


「この私を舐めないでよ。ジャマーがウイルスを妨害してる間にこのウイルスを凍結させる。感染したファイルはフォルダごと切り捨てて!」


『イエス、マム!』


嶺と瀬名はその光景をただ見ているしかなかった。超高速連打されるキーボードと、管理AIとの連携でウイルス浸食率は20%台で安定している。だが、これは残っているフォルダとプログラムの浸食率。切り捨てても削除しても感染は止まらない。

「クロちゃん、試作ワクチン出来た!」

『さっすが天才!頼りになるね!』

浸食率が、僅かに低下した。

『ちょっと!効いてないよ?!』

「よし、トロイの木馬。ウイルス…よし、だいたい特定できた!」

再び高速タイピングが始まった。ただし、今度は

「そこの三人!隣のパソコンに繋がってるキーボードをちょうだい!」

御簾が真っ先に隣のUSBキーボードを引き抜いて、黒須に投げた。

キーボードは左手で受け止められて、あっという間に接続された。そして、彼女はキーボードが認識された瞬間からキーボードを2台同時に使用した!

黒い画面に白い文字がいくつもいくつも描き出される。

左右に別れた別々のコマンドによって新しいワクチンが猛烈な勢いで作られていく!


「天才を、甘く見ると…」


エンターキーが強く同時に叩かれた。

「後悔するから」

浸食率が完全に動きを止めた。ウイルスが停止して、今は隔離されていく

「…さ、流石は黒須。ウイルスへの対抗ワクチンを浸食中に作るなんて」


「普通はありえないけど、それをやれるのが天才。って事かしらね」

御簾が嶺に向かって笑った。

黒須が引っ張り出したデータを並べていく。壊れたデータ達が列を作るようにして整理整頓されていき……嶺はあることに気付いた。

「『アd・!*』、『カ>?ム』、『ツ/・$』、『キb,&』…。これって、先頭は必ず半角カナ文字だよね?」

並び替えられたデータ達は壊れてはいなかった。ただ、そう見えるように細工されていただけだったのだ。

「何が『ジャンクデータからサルベージするなんて』よ。カモフラは微妙なトコよ」


並び替えられた文字列は先頭だけを読むと『アカツキ』から始まる文章になっていた。

『アカツキヒヲミテツキヲオウトリハオチシロキハタハノボル』。

「アカツキ、日を見て月を追う。鳥は墜ち、白き旗は昇る……?」

嶺が首をかしげた。

「アカツキ…ねぇ…。まさかとは思うけど…」

黒須は思いつく事があるのか、パソコン内部の資料を表示させた。それは…


『アカツキ』


短く題された古い紙のスキャナー画像だった。


「これは…江戸時代後期。開国してしばらくたった後に書かれた資料。」

黒須が筆で描かれた文字を指でなぞりながら内容をわかりやすくまとめて、口にした。

「これは、この桃花市にいる全ての能力者を強制的に暴走させて能力者を根絶やしにしよう。という作戦の立案書…。もちろん、影響が計り知れないこの作戦は破棄された。」

黒須の言葉に御簾が眉をひそめた。

「能力者を暴走させる?どうやって?」

「皆は知ってるようにこの町は盆地よ。周囲を山々に囲まれた町。その山に封印の楔を打ち込んで、それを基点に能力の発動印章を描く。」

御簾は理解したのか、黒須の言葉の先を呟いた。

「能力者本人は動けないまま、能力が発動する。すると最終的には能力者でさえ制御できなくなって…」

能力者は暴走し、自分の能力によって死亡する。

「そ、そんな作戦アリなの?!非人道的じゃん!」

瀬名の叫びに黒須は、首を横に振った。

「破棄の理由は『能力がどう左右されるか不明』よ。『非人道的』は理由にないわ。」


瀬名は何も言わずに椅子に座り込んだ。目が何かを見たくないように震えているのを彼女は隠した。

「ねぇ…それって何?私達能力者は国にとっても邪魔だって事?!」

「昔の話よ。…ただ、残念だけど昔は『歩く爆弾』みたいな私たちは厄介者でしかなかった。それなら」

「一ヵ所に集めて爆発させればいい………。か。まるで地雷処理だな」

御簾の呟いた地雷処理、という単語に嶺はなるほどと頷いた。地雷は一度安全に集められた後まとめて爆破されたりもする。もちろん毎回ではないが、皮肉にも日本が行なった地雷処理と同じような方法だった。

「みんな、これは一部の人間しか知らないの。仲間のみんなは信頼してるから見せたけど…」

「外に漏らすな…か。確かにこれを聞いたら今の能力者と政府の関係は崩壊するな」

御簾の言葉に全員が同意の頷きを返した。ここでの会話は口外禁止。今この部屋にいるみんなの秘密………



時を同じくして、学校の目の前に二人の少女がたどり着いた。

絆と真畔。農業地区から歩いてきたのがようやく到着した。

「疲れた…やっと学園についたよぅ…」

絆が震える足を押さえながら呟いた。

「意外と…距離あったわね…」

実に2時間歩き続けたのだ。日頃からポテチ食べながらベットで雑誌を呼んでる女子高生には相当な労苦だっただろう。

「黙れ地の文…」

「キズナンの怖い声に地の文も冷静さを取り戻し、暫くの間沈黙することに決めたのだった!」



「校門は半分だけ開いた状態であり、校庭では小等部らしき少年少女達が走り回っている。キズナンと私マクロは普段いる自分達の高等部校舎を無視してさらに奥、大学院部へと向かった。

大学院部はこの学園で最も新しい施設で、日頃の無駄遣いを珍しく有効活用した事例だと皆は思っているが、学園の会計によると通常の十倍にも及ぶ巨額の建設資金が投入されているようだ」


「某どっかの誰か波の怪しい資産並に疑われている国のまさに隠部である。」


「我々は大学院部に入った。普段は入らない校舎とは何故こうも輝いて見えるのか。うちのオンボロ校舎を建て替えろと思わず言いたくなる。いや今言った!」


「西日が照らす階段を歩く。目の前の少女のスカートが揺れて実にけしからん」


「いい加減うるさい!」


「…そう言った彼女の足が私の胸を貫いた。誰もがそう思ったその時!手にしていた新聞紙が生死を分けるとはまだ誰も思ってもいなかったのであった。」


「な」


「『なに?』そう言おうとしキズナンは、小さく折り畳まれた新聞紙に防御されて驚きの表示を作った。今まで同じことをして散っていった無数の男子生徒諸君にベストアングルからの写真を………」



「『バーストウィンド』。」


「と…突然頭上から降り注いだ攻撃に写真に収めようとした少女は力尽きたのであった。ぐふっ」


「後で焼き回してもらおうか。そう言いながら一人の少年が階段を降りてきた。右手には剣を、左手には風の渦を作った彼は絆の前に立ちはだかるようにして両手を広げた…」




「…私は、それを見てイラッ(-_-#)としたので右手をドスッ()<<と突き立てたのであった」



「ちっがぁぁぁう!!!」

真畔は飛び起きて、叫んだ。

「そんな顔文字や絵文字は地の文が使うのはだめ!それから見ててイライラする!」


「絆!パパにいきなりクリティカルヒット技はやめなさい。目覚めちゃうでしょ!」

真畔と嶺を見て、絆は思った。


(この二人…ウザイ。)

と。


「…そういえば、ママは?」

絆が気を取り直して聞いた。

「黒須の研究室。案内するよ」

嶺が二人を引率するようにして階段を昇る。

階段を上り、廊下に出た。西日を真っ正面からうけて三人の姿がオレンジに染まる。色の変化した扉を叩き、嶺は二人を研究室に招き入れた。

絆の背後で扉が閉まり、オレンジの残光は消えて失せた。





研究室に入ると、黒須が絆に何かを手渡してきた。

「あ、ケータイ…」

そういえば、今まで取りに来ることができなかった。預かっていた小型の通信機を黒須に返した。

「今時めずらしいわねぇ…。ケータイ依存症じゃないなんて」

「依存症だなんてそんな…」

絆は苦笑いしながらケータイを調べる。メールの受信記録は、以前に使った時のままだった。

「調べてみたけど、異常なし。変なメールなんて見つからなかったわ」

黒須が残念そうに呟いた直後、待ち構えていたかのようにメールの着信音が鳴り響いた。

アドレス不明。件名なし。また飛んできた『消えるメール』。

「また来た!」

続けて二通目。三通目。

「嶺!電波測量計出して!」

「はいよ!ちょっと待って!」

嶺と黒須が何やら慌てて機材を動かし始めた。絆はメールの新着を確認して…中身を開いた。

待ってる   るてっ待

っ         っ

て    暁    て

る    の    る

     鳥   

     よ   

     早   

待    く    待

っ         っ

て         て

るてっ待   待ってる




「黒須!電波測量計振り切った!」

「これ…念写だわ。誰かが、絆ちゃんにメッセージを送ってる…」

黒須が再びパソコンに飛び付いた。

「クロちゃん!市内全域能力者サーチ。念写系統の能力者の居場所も合わせて表示して!」

『仕事多いー!』

AIは文句を言いながらも能力者をサーチする。学園に設置された特殊な波動を感知するレーダーが現在発動中の能力者を見つける。


『念写系の登録能力者、現在発動なし。市内発動1件だよ』


「でかした!クロちゃん!」


『ふ、ふん。別に…嬉しくなんかないんだからねっ!』


「嶺、絆ちゃん。行ける?」


黒須の言葉に二人は答える。

「もちろん。」

「いつでもok!」

二人のケータイに黒須からメールが送られてきた。中身には住所が書かれていた。

「未登録の能力者はそこにいる。二人とも、頑張って。」

絆は一礼して、研究室を走り出した。今まで届いた数々の嫌がらせメール。誰が、何の目的で送って来たのか直接捕まえて確かめなくては気が済まない。

「絆!」

嶺が双剣を手にして追いかけてきた。二人は廊下の突き当たりの窓が開いているのを見て、二人同時に跳んだ。下はコンクリート。落ちたら痛いじゃ済まない。

「風遊べ!『疾風大鷲』!」

嶺の叫びと共に巨大な鳥が現れて二人を背にのせた。校庭にいた子供達が気付いて歓声を上げた。

「でっかいとりー!」

「がんばれー!」

大鷲は結界の内側を一周すると、狙いを定めて結界を突き破って外に飛び出した。砕けた破片が二人の横に並び、落ちていく。

「場所はわかるね?」

ピュイーと鳴いた大鷲の首を撫でて嶺は叫んだ。

「なら羽ばたけ!大鷲!」

一度高く舞い上がった鳥は、上下をひっくり返して真下を目指した。まるで狩りの獲物を見つけたようだった。

狙った先は一軒の民家。大鷲はその庭に柔らかく着地した。


その家は。ごくごく普通の家だった。庭付き一戸建て。二階建ての民家。嶺は家の中から何事かと見つめる夫婦に挨拶した。

「こんばんはー。政府の査察官です。お宅の周辺でガス漏れがあったようなので危険性を計りに来ましたー」

定番の言葉だろう。ガス漏れは誰だって怖いし、何より目に見えない。案の定家の中の二人も驚いて窓を開けてきた。

「すみませんが、家の中を調べさせていただいても?」

嶺の右手にはいつの間にか小さな目盛りの刻まれた器具が握られていた。いつの間に手にしていたのか、全く気付かなかった…。

「…ど、どうぞ」

気の優しそうな夫らしき人物が二人を家に招き入れた。

「すみません。すぐに終わらせますので」

嶺が装置の電源を入れると、ピコンピコンという電子音が聞こえてきた。一秒間に二回の規則的なこの音が何なのかと絆は聞いた。

「能力測定器。能力の特定波長に反応する道具だよ」

小声で聞こえた回答に絆はなるほどと頷いた。ガス漏れを理由にして確かにバレにくい作戦だ。

「リビング異常なし。キッチンを見ても?」

「汚いですが…」

真面目そうな奥さんが恥ずかしそうに案内してくれた。キッチンはそれなりの広さがあり、全ての食器や調味料は整然と並べられていた。

「…汚くないじゃん」

「いやだお恥ずかしい」

絆の言葉に奥さんは嬉しそうに言った。

能力測定器は何の反応もない。

「…異常なし。ご協力ありがとうございました」

嶺が挨拶したのに驚いた。

「それではこちらからお帰り下さい」

「あぁすみません」

嶺が話を遮った。

「玄関を見てもいいですか?外と通じてるのでガスが入ったかもしれません」

奥さんは一瞬怪しんだが、すぐに快諾した。玄関を見るだけならば問題ないと判断したのだろう。今、入ってきた扉とは逆の扉からキッチンを出る。この家はキッチンに通じている道はリビングと廊下の二つがあるようだ。珍しい形である。

廊下から玄関へは10歩ほど。だが3歩進んだ瞬間、能力測定器がけたたましく鳴り響いた。

「…見つけた。隠し扉か」

嶺が壁を蹴った。まるで忍者屋敷のように壁の一角が回転した…

「あなたたち、何者?!」

奥さんが金切り声をあげて、一番最後にいた旦那さんが嶺に飛びかかる。

「『ウィンドシールド』」

風を固めた防壁が旦那さんを弾き返して、あたかも壁のように立ちはだかる。

「絆、能力者はこの先だ。行くよ」

嶺は壁を回すと隠し扉の内側に消えた。絆も行こうと扉を押すと、背後から絶叫が聞こえて、振り向いた。


…。



先ほどまでの優しそうな雰囲気はどこへやら。夫婦二人は包丁を握りしめて般若の形相で嶺の防壁を破壊しようとしていた。

このままだと突破される。絆は急いで隠し扉を回した。


隠し扉の内部はコンクリートで固められた地下への階段だった。先を進んでいた嶺が手招きしている。背後の二人を考えたら嶺と合流したほうが安全だ。

絆は階段を一段飛ばしで駆け降りて嶺の隣に着地した。

「英数の鍵がかかってる…パスワード式」

絆のケータイが鳴った。またしてもあのメールだ…けど

「1234…12?」

ただの数字の羅列。だが嶺はなるほどと個人の家には相応しくない施錠装置に文字を入れる。

『Dimension』

「1234はそれぞれ点、線、奥行き、時間を現す。そして『12』は神の領域。12次元を現してるんだね」

解説がされて、施錠が外れた。

上でも防壁が破られて鬼のような二人が迫って来る

「入るよ!」

嶺が、絆を押し込んで自分も扉に入った。再び施錠されたが嶺は扉を押さえて叫ぶ。

「能力者を探して!」

絆は、部屋を眺める。

窓はなく、ただ薄暗い部屋。元は倉庫だったのか人が住むには過酷な環境だ。

部屋の中央には裸電球がぶら下がっていて部屋の四隅まで届かない光を放っている…

『来た』

頭の中に焼けつくような衝撃が走った。

「これは、【テレパシー】?」

『暁の鳥。終わりの鳥。どうか私を助けて!』

絆は、部屋にあった…安楽椅子かと思う形の椅子を見た。何故か入口を向いていない椅子からは人の気配があった。

「絆!早く!」

嶺が大鷲を使って自分の体を固定して、二人分の扉への衝撃と戦っていた。抜き身の剣でよく固定できたものだと思った。

絆は武器を片手に椅子に近づき、ゆっくりと回り込んだ………




そこには、少女がいた。目隠しされ、口も猿ぐつわをされていて、両手足は椅子に手錠で固定されていた。古い洋服を着た少女の目隠しと猿ぐつわを切り裂いて、絆は大丈夫かと聞いた。

「…やっと、会えた。」

紅い瞳の少女は柔らかな声で笑った。

「絆!」

嶺が叫んで、二人の少女も状況を思い出した。

「お願い、自由にして」

「動かないで、今コレ切るから」

『刻鳥』が少女の手錠の鎖を切り裂いた。細い手足が自由になって、絆の助けを借りて椅子から立ち上がる

「うわっ!」

嶺が飛ばされて、扉が弾けるように開いた。夫婦は包丁を持って飛び込んでくると絆の隣の少女を見て、絶句する

「霊夢…!」

れいむ。不思議な名前だった

「お前達、なんてことを!!」

包丁を振り上げた旦那さんの腕が、燃え上がった。

「【パイロキネシス】?」

嶺が驚いて霊夢を見た。

「ごめんなさい。でも、やめて!」

今度は奥さんの包丁が飛んだ。

そして腕が燃えたままの旦那さんが叫んだ。

「この、悪魔が!」





「切り刻め『刻み鳥』」

カッチーンと来た。何が悪魔よ。何がいけないのよ

「この子を閉じ込めて、何になるの?あんたたちのほうがよっぽど悪魔よ!」

『刻鳥』を手にした絆は奥さんに刃を向ける。

「あなたは母親じゃないの?なんでこんな事が………」

一般人の子供も、能力を持っていることがある。それは、全ての人間が能力を持っているということ。

それなのに、能力があるからって悪魔呼ばわり?なら見せてあげる

「始まりを刻め!『始刻刻鳥』!」

本当の、悪魔の能力を。



―――――

絆は、自分の心の中にいた。

―その名は【終端】たる我の武器の名。

少し離れた位置に、もう一人。上下逆さまの絆が現れた。

「私の、刻鳥の本当の力が使いたいの。お願い、力を貸して」

自分が、笑った。

―【終端】をかたくなに拒絶し、

―別人格に押し込めた貴様が何を言う

絆は、言った。

「それは…謝るわ」

―小娘が。それでいいと思うか?

目の前にいる逆さまの自分はこれ以上ないほどの憎しみで絆を睨んでいた。

―名前を言えただけで

―我らの深く長い隙間は埋まると?

―力を知っただけで

―深く暗い絶望は癒えると?

―力を貸しただけで

―お前は【終端】を操れるのか?

絆は黙るしかなかった。

いくら封印があったとはいえ、自分の中にある力の一端には気付いていた。小さい時は彼女も話しかけてきた。


でも、その力は恐ろしかった。


触れるだけで【終わりを与える】この能力は、なんだか両親を殺した男のようで。できることならば消えてしまえと何度思ったか………



「そう、だよね」


私もあの母親と同じだ。

自身の内にある力を、【終端】を悪魔だと決めつけて、見向きもせずに閉じ込めた。


「だけど!だからこそ!」


今、私が【終端】を刻む


「この絶望に終端を!」





目の前の顔が驚きを浮かべた。そして


―あっははははは!


笑った。涙を浮かべて笑う絆を、絆は真剣に見つめた


―いやいや。

―まさかまさか【終端】が

―そんな使われ方をするなんてな


「バカにしてる?」


―少しな…ぷっ、はははは!


「わ、笑いすぎ!」


―いや、実に愉快だ。

―なら刻めるか試してやろう

―絶望を終わらせるこの力を。


『二人の、本当の始点は今刻まれた』!




地下室に、戻ってきた。

時間は動いてはいなかったようで武器を解き放ったその時のまま全員が動き出した。

「『始刻刻鳥』!?」

嶺が驚き、封印をしようとしたのを絆は片手で制止する。

「…大丈夫。コントロール確保、シンクロ率安定…80%。」


―どうした?能力の供給が足りぬぞ?


「能力、供給…シンクロ率振れ幅安定…」


「絆……?」


嶺が驚いて見ている。当然か。


―今までは我がコントロールしていた


「でも、今は私もコントロールしてる」


―アドバイスは任せよ


「頼りにしてる」


武器を持ち直して、燃えている男をまっすぐに見つめる。


「『炎上の終端』!」


空気が震えて、楔が打ち込まれた。終端が、『今』に訪れたのだ。


「終わりを刻め!『終刻刻鳥(しゅうこくきざみどり)』!」


打ち込んだ楔が、終わりを与える。

燃えている男の炎が消えた。『燃えている事実』が終わりを迎えたのだ


「悪魔でも、天使でも。私たちは生きてる。誰にも否定されない、絶対の終着点。」


あまりにも強力だった力が、その本当の力を解き放った。今まで恐れていた全てを受け入れようと絆は深い呼吸をした。


―終わりは、悲しみとは限らない。


そうだ。私が終わらせ、私が解き放つ。


『能力とはこう使うんだ!』



…地下室に静寂が訪れた。

夫婦は意識を失って、仰向けに転がっていて嶺はしんじられないといった表情で絆を見つめていた。

絆は、霊夢と呼ばれた少女の元へと向かった。彼女はずいぶんと痩せていて肌も病気のように白かった。

紅い瞳が嬉しそうに笑っている。

「あなた…名前は?」

少女は柔らかな声で答えた。

芳椏(よしあ)…霊夢。」

絆は芳椏をじっと見つめて、頭の中を駆け巡る思考を纏めていく。何故ケータイにメールを送れたのか。何故絆を選んだのか。何故絆の周囲の状況を知ることができたのか。そして、暁の鳥とは、なんなのか。

どれから聞いたらいいのかがわからない。それでも絆は必死に思考を巡らせて一つだけ叫んだ。

「どうして私だったの?強さならばパパ達のほうが良かった。私以外の人じゃだめだったの?」

芳椏は、紅い瞳で絆を覗き込む。

「な…近い…」

「『暁の鳥、今太陽の終端が地に墜ちる。終わりを迎える世界に向かう』」

とん。と絆の胸に指が置かれた。

「それがあなた。ずっと待ってた。私の鳥。」

意味がわからない………と言いたいのだが、絆はなんとなく理解していた。いや、正しくは内側にいる自分が気付いていたのだ。


―彼女もまた、我と同じか


そう。彼女もまた自分の能力が強すぎるのを知っていたのだ。


―似たような者は自然と結ばれる

―こやつも、我らに引かれたのかもな


「…こほん。ちょっといいかな?」



嶺が立っていた。

「芳椏霊夢…ちゃん。君には学園に来てもらいます。どうみても万全の状態じゃないからね、一旦検査させてほしいんだけど良いかな?」

芳椏は頷いた。

「それから絆。後で話があるから忘れないように」

「あう…やっぱり?」

「【終端】を使いこなせた理由と、一般人への能力発動。反省文提出ね」

「そ、そんなぁー!」

反省文なんて書いてたら夜が明けてしまう。絆は能力の疲労を嶺に訴える

「パパの言うことを聞きなさい。」

「やだ。パパなんか嫌いだもん」


…間違いなく、効いた。


「べ、べべ別にききき嫌いででも?ききき気にしな…気にしないし?」

面白いくらい動揺している。もう少し揺さぶりをかければと思ったが絆の隣の少女が袖を引いたので止めた。

「…私が書く。いい?」

「………。やれやれ」

嶺は地下室の扉を切り裂くと気を失った夫婦の体を風で浮かび上がらせた。

「あーあ。爆発って怖いなー。誰も見てなくて良かったなー」

棒読みだった。

あまりにも分かりやすいごまかしだったが、絆は嶺に感謝の言葉をかけた。

隣の芳椏に笑いかける。

「一緒に行こう?」

「うん。」

二人は、階段を登った……。地下から家へ、非日常から日常へ、暗闇から明るい場所へ。二人は一歩一歩確かに歩き始めたのだった。

―――――

あとがき

―――――

こんにちは。白燕です。

今回は…こんな感じでした。

一応シリアス。そして予定の話を3話くらいを凝縮してみました。ちょっと詰めこみ過ぎた。反省してます



さてさて、今回から登場の芳椏さん。名字で呼ばれてますが別にどっかの巫女さんは意識してないです。ただ嶺といい栖といい、似た名前が増えてきたぜ…というわけで亜理椏しかライバルのいない名字で参加していただきました。


(腋巫女には天地がひっくり返ろうと月が消えようと海が割れようと勝てません)



絆も、少し成長してきました。ただの銀行強盗を倒せる女子高生から世界を終わらせられる能力者に………。


あれ?女子高生?魔王じゃない?




……。と、成長していく絆の頑張りにご期待下さい!


それではまた次回~( =△=)ノシ

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