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第十一階位 飛鳥川神社! Aパート

ツバイ本社襲撃から数時間後……。


風翼の屋敷で自堕落に過ごしていた嶺たちの前に妖姫が現れて……

肌寒い昼の風に身震いした。

ここは住宅街から離れた、やや平らな部分。人もあまり寄り付かない場所だった。風翼絆は先頭を歩く妖姫にまだつかないのかと聞いた。

「もうすぐよ、もうすぐ。」

………と、つい1km前でも言われたセリフにため息をついた。

「はぁ…歩くのダルい…めんどい…死んじゃう…」

「まったく…絆姉ったら情けない。私のようにおんぶしてもらえばいいのに…。ねっ!栖兄♪」

「嫌よ…」

誰におんぶしてもらえと?嶺に?頼りないわよ

「大丈夫!絆ちゃん!」

…と、椏理亜が笑顔で話しかけてきた。

「嶺は私がおいしくいただくわ!もちろんせいt(ry」

みぺきゅ!と椏理亜が吹っ飛ばされていった。何事かと見回すと瀬名と御簾が嶺を奪い取って地面を転がしている光景………を見なかった事にした。

疲れてるなぁ…。連日任務だし、十二階位に関わった途端海外にいた嶺の兄弟が帰ってくるし…。なんだか、運命かなぁ…と考えてしまう。


「ほら、お姉ちゃんに背負われないの」

「まったく…」


私には見えない。気絶したままの嶺がゴロゴロ転がってる姿なんて見えない見えてない。

「…はい。到着」

ひょ?と絆が妖姫の方を見ると朱色の鳥居が見えた。どうやらいつの間にか到着したようだ。鳥居に刻まれた文字を読み上げる。


『飛鳥川神社』



そこは、広い神社だった。人気(ひとけ)は少なくまたあるのも本殿と売店。そして飛鳥川神社の神主の家と思われる平屋の屋敷があるだけだった。

一人の巫女が落ち葉を掃いていた手を止めて走ってきた。

「みなさーん!お久しぶりですね!」

長い髪を揺らすその巫女さんはいきなり栖に飛び付いた。

「お久しぶりです!風翼の嶺さんっ!しばらく見ない間に逞しく…たくまし…///」

「別人よバカみこ!」

おんぶ状態の可憐が理不尽なまでの高速移動で巫女さんを蹴り飛ばした。なんて罰当たりな!

「いたーい!何するのちびっこ!」

「私は、中学生だー!」

…どうみても140cmしかありません。本当にありがとうございました。

「あははっ!本当にお久しぶりです!風翼の皆さん!それに『流浪の月』の皆さん! 私は第十二階位。『飛鳥川』の皐月です!」

天真爛漫。まさにそんな感じの人だった。

笑顔で、ぴょんぴょん跳ねるようにして全身で嬉しさを表現している…。絆はちょっぴりと羨ましいと思った。

(違う世界の私も…こんな風に笑っているのがいるのかな?)

今の境遇に不満はない。むしろ刺激とスリリングな学校生活に満足しているくらいなのだが………。ほんのわずか、あの笑顔が羨ましかった。

「皐月ちゃんも相変わらずねー。他のみんなは?」

「お姉ちゃん達は倉庫の整理してるよ?」

キラン、と妖姫の目が輝いた。

「あらあら、好都合。想騎!」

「は、はい!」

想騎は飛鳥川の屋敷へと走っていった。

「さぁ。行くわよ」

妖姫は先頭を切って進んだ。一行は従い、列を作って歩いていった………




平屋、一階建て。縁側装備の完全無欠THE日本家屋へとやってきた。ここは『飛鳥川』の住居なのだろう。外見上は薄いものの生活感があった。妖姫は入り口を無視して建物の裏手に回った。裏手には倉庫らしき『蔵』があり、入り口の前で二人の巫女がホウキとハタキを手に内部の見えざる敵と対峙しているようにも見えた。

「あらあら。どうかしたの?」

妖姫が話しかけると、二人は同時に振り返り、叫んだ。

「「来ないで!」」

絆には何か不可視の物体が跳び上がるのがわかった。それは…なんとなく質量があるのか妖姫向けて落下してきた。

「危ない!」

叫んだのが先か。妖姫が動いたのが先か。胸元から抜かれた短刀の鮮やかな紅の軌跡が『ソレ』を切り裂いたのが見えた。

「妖姫さん、どうしたの?」

「素振り…かしら?」

瀬名と御簾は気付いていないのか首をかしげていた。いや、絆以外は気付いてすらいない。

「妖姫さん?そこなんもないよ」

「妖姫様?」

妖姫は斬り抜いた刃をそのまま振り上げ、ソレに向けて振り下ろした。

「万象。(アヤカシ)。月の盆より溢れた哀れな者よ、次の輪廻に戻りなさい。」

ソレは空に跳び上がり、まるで道連れを狙うかのように絆を狙って落ちてきた!

「くっ…刻め!『きざ』」

声が出ない! しまった忘れてた…

落下してくる相手に向けて絆は全神経を集中する。能力ならば、まだ多少は使える…!

「風よ渦巻いて!」

…だが、何も起きない。昨晩は弱くとも使えたのにっ!

「『結界基点設定』」

光が、いや、違う。眩しい何かが絆の周囲に現れた

「繋いで!『反魔結界』!」

バキッ!と酷い音がして絆の手前でソレは静止した。蔵の前にいた二人がすかさずお札を投げつけてソレに当てた。

ぐにょん。と歪んだソレを飛鳥川皐月が結界を変形させてソレを逆に包み込むようにした。

「捕まえた!」

お札が淡く光を放ち、不可視の物体を吸収してしまった…。これが噂に名高いTHE徐霊だろうか?

絆は皐月に聞いてみる。

「うわっ!見えてたの?うっそ…私でさえ見れるようになるまで幽霊の出る部屋で生活させられてたのに…」

…幽霊だったのだろうか?

絆は落ちてきたお札を掴んでしげしげと眺めてみる。複雑な模様を描かれた和紙で、黒い墨と赤い朱で描かれたお札には『封魔』と力強く書かれていた。

絆が中に入ったアレはどうなったんだろうと思考を巡らせていると、蔵の前にいた巫女達が走ってきた。

「ねぇ、大丈夫だった?」

「お怪我はありませんか?」

先に話しかけた方は巫女姿の三人の中で真ん中くらいの年齢だと思った。茶色のショートカットでやや『つり目』の気が強そうな少女だった。

もう一人はおそらく三人の中で一番年上だと思われる女性。長い黒髪に印象的な□と◇が組み合わさった小さな飾りのついた髪留めが特徴的な人だった。

「あらあら、卯月(うづき)ちゃん、如月(きさらぎ)ちゃん。お久しぶり」

妖姫に卯月と呼ばれたつり目少女が小さく頭を下げて、如月と呼ばれた髪留め女性が恭しく礼をした。

「『流浪』と『風翼』。二つの家系が我が家にどのような御用でしょうか?」

如月が不思議そうに全員をぐるりと眺めた。今いるのは『流浪』の妖姫、想騎。『風翼』の栖、嶺、椏理亜、可憐、絆。『聖蓮』の瀬名、御簾。椿井は風翼の屋敷に残っている。

確かに、一度に9人も来れば驚きもするだろう。

「実はね、お願いがあってきたの」

妖姫はくすくすと笑いながら言葉を続けた。

「嶺、絆、瀬名、御簾、想騎を特訓してほしいの。そこらへんは『飛鳥川』の得意分野でしょ?」

想騎は自分の名前が出て驚いているようだった。

「…不可能ではありませんが、嶺さんクラスともなると命がけでも強くなれるかどうか…。」

「レベルキャップに到達してんのに強くなるのか。私たちはそこまでの責任は持てないよ?」

如月、卯月と返答された。

「ふふふ。嶺なら大丈夫。普段がヘタレてるからちょっと鍛えれば延びるわよ~」

ヘタレって言うな。と聞こえたが誰も気にしなかった。

「…いいでしょう。ですが。対価を支払えないのならば鍛えられません。彼ら全員の価値と釣り合う品があれば…」

「はい。お代はこれで」

妖姫が胸元から取り出したのは一升瓶………。どこにこんな物を入れていたのかと驚いたが、如月はそれを見て

「こ…これは幻の大吟醸…『(うるう)の秒針』っ!」

「閏の秒針?聞いたことないなぁ…」

隣で卯月がつまらなさそうに呟いた。

「うふふ。数年に一度、12月31日に一本だけ我が家で作る日本酒よ。味は保証するわ」

「…いいでしょう。これだけ貰えれば文句を言うことすらできないです」

「さっすが如月ちゃんは賢いわね。これだけの対価を出されても狼狽しないなんてね」


妖姫の言葉はわずかにトゲがあるようにも思えた。だが如月は瓶を抱くと、いそいそと屋敷へと持ち帰っていった。

「如月お姉ちゃん…嬉しそうだね…」

「っだー!姉ちゃん酒癖悪いんだから自重してくれよ…はぁ…」

二人の巫女は9人へと振り返り、同時に言った。

「「ようこそ、『飛鳥川』の屋敷へ」」



屋敷の正面へと歩いていき、一行は屋敷に入る。今まで神社には初詣(はつもうで)などで来たことがあったが、屋敷の内部に来たのはさすがにはじめてだった。

見た感じ…というより、造りは確かに古い日本家屋だったが内部は実に近代的だった。薄型LEDのテレビ、『羽のない扇風機』、デスクトップパソコン。しかもOSはあの『ウィンドアズ2015』の『プレミアムエディション』。数十万円は積まないと手に入らない代物で、隣にはHMDヘッド・マウント・ディスプレイというゴーグルのような装着型装置が置かれていて、自動お掃除ロボが丁寧に磨いていた。

「おぉ~…うちとは大違いの装備だ…」

「ムッ。絆ちゃんこんなので感心してたらママの家に来たら驚いて死んじゃうよ?」

瀬名の家はどんなものがあるのかと想像しかけたが、世界有数の大企業『ツバイ社』の家ともなればさぞかし凄いのだろうなと思って自分の貧弱なイメージをケシゴムで消した。


「全員、居間へ行っててくれよ。私たちは寝床の用意をしとく。数人で相部屋だけど文句言うなよ?」

卯月が皐月を引き連れて部屋を出ていった。絆達は居間に入ってコタツに足を入れて深い息を吐いた。

「ふぅー…やっぱり日本といえば炬燵(こたつ)よね~。ねっ、嶺♪」

「ちょ!姉っ!膝に乗せようとしないでー!」

きゃいきゃいと騒ぐあの二人は…

「リア充か~。って思った?」

瀬名が話しかけてきた。御簾がコタツの上に盛られていたミカンを投げてきて絆は受け取った。

「ママ、なんであの二人…というか嶺の兄弟はあんな風に仲が良いの?」

ミカンを剥きながら瀬名がそうねぇ、と呟いた。

「絆ちゃんはさ、十二階位の子供の育つ経緯を知ってる?」

「育つ経緯…?」

「いや…うーん。過程。ならわかりやすいかな? 十二階位の子供。ましてや当主候補ともなれば昔から大変なのよ」

と言って、彼女はミカンを口に放り込んだ。

「むぐむぐ…。いじょ」

「終わりなの?!」

肝心な部分が全て無かった気がする。いや確実に無かった。

片テールの少女はポニーテールの少女に抗議の視線とため息を向ける。

「聞いても面白くないよー。私たちなんか」

「野郎共。寝室の準備は終わったぞ」

障子が乱暴に開けられて卯月が戻ってきた。

「ん?どした?」

絆の不服そうなむくれた顔を見て彼女は不思議そうな表情を見せた。

「部屋割りを言うぞ」

彼女は全員に部屋の位置と組み合わせを伝えた。部屋割りは以下の通りである。


1.瀬名、御簾、可憐


2.絆、妖姫、椏理亜


3.嶺、栖、想騎


男女、それぞれが分かれた形になった。

まぁあたりまえだけどね☆

「栖お兄ちゃんと一緒がいぃー!嶺死ね!」

「あぁん、嶺ぃ~」

当たり前が通用しないなんて予想の範囲内さ。あはははは

「文句あるやつ、表へ出ろ。」

巫女が、勇ましかった。

「「「…すいませんでした」」」

三人が土下座して解決となった。めでたしめでたし。っと

「卯月お姉ちゃん、荷物受け入れできるよ」

皐月が、ヒョコと顔を出して言った。

「よっし、全員。まずは部屋に行って装備を外して。剣や銃は境内ではご法度っ!」


居間を半分追い出された形で、全員は廊下に移動する。1,2,3、のそれぞれのグループの部屋の位置は今いる居間から屋敷をぐるりと回った先。縁側に沿った三部屋である。

縁側は苔むした大きな石と、その隣にあるまだ小さな木が一本生えた光景がなんとなく印象的だった。

「ねぇ、可憐ちゃん。あれは?」

絆は木を指さして聞いた。

「うーん・・・私はわかんない。お兄ちゃんならわかるかも」

二人の視線が栖に集まった。

「・・・あれは、この神社の御神木。の種を育てたものだ。いつなにがあるかわからないからな。今は屋敷の結界と一部の霊域のコントロールを行っているらしい」

「つまり、御神木の補助装置?」

「そんなところ。か」

「えー。絆姉。そういうことだって」

「いや、さっぱりわかんないんだけど・・・」

絆は風翼の次期当主候補、とはいえつい最近まで『十二階位』システムの存在どころか瀬名と御簾が『聖蓮』の当主候補であるということすらも知らなかったのだ。結界だの霊域だの、コントロールなどと言われても話が繋がらない。

「ええとですね。結界とは『特定の領域を防御、または隔離』するものを指します。基本的に当主が自分の屋敷の周囲に何重もの結界を張って屋敷が襲撃されないように防衛しています。」

「そうそう。ちなみに、風翼の屋敷は3重の物理、魔法結界に警報機能のついた魔法結界を周囲に張り巡らせてあるよ。警報機能は『敵対心を持つ者、あるいは害なす者』に反応する結界なんだよ」

「嶺さんの言ったものが『結界』の使われ方です。霊域とはこの神社一帯を囲む特殊な領域です。私たち飛鳥川は結界術などを得意としていますが、それらの構築に最適な状態を維持しているのが『霊域操作』です。今は御神木がコントロールしてくれています」

「んでもって、補助装置ってのはメインである『御神木』つー古ぼけた大木が何らかの機能障害。たとえば折れるとかをやらかした場合メインの機能の全部。ないし一部を発動する予備のシステムだ。うちらは御神木が結界や霊域操作を担当してるが、風翼は嶺の『大鷲』が一括管理してるよな」

「そうだね。でも、予備システムには風翼の人間と瀬名・御簾の武器を使用可能にしてあるよ」

…なるほど。

「つまり、何?」

「風翼で言えば大鷲の管理してる機能ってこと。はいわかりやすい」

嶺が完結させたので、この話は終わってしまった。もっとも。既に部屋には到着していたのだが。

「はい。皆さん部屋に小箱がありますのでその中に武器を入れておいて下さい。必要時には私達が解除に行きますので」

皐月が頭を下げた。

「まっ、うちの防御結界は並みの威力じゃ壊せないからね。私たちが解除するのは修行の時だけだろうけどな……。」

修行。その言葉を聞いて絆はハッとする

「修行って何年もやるの?」

「いやいや、何も修行は時間をかけるものだけじゃないんだよ。例えば、一回でキツイものをやるとかすれば短時間でレベルアップ。って訳。効果は長い修行のが高いんだけどねー」

卯月の言葉になるほどと頷いた。確かに少年マンガの主人公たちは短い修行で格段に強くなったりしている。

「ご都合主義」

「可憐ちゃん!シーッ!」

ここでも、そんな特訓ができるのだろうか?

「後でわかるよ。そんじゃ、一時間後にさっきの蔵の前に来てくれ。水分補給は訓練前には必須だぞ」

「それじゃ、私たちはこれで! みなさんごゆっくり!」

二人は走って行った。残された人々をまとめるように嶺が全員が一度部屋に入ることを指示した。絆の部屋は2番目。3部屋の真ん中だ。同室は妖姫と椏理亜。

「椏理亜(ねぇ)、武装入れた?」

「ちょっとまって…あとは…これだけ…」

妖姫、絆は既に入れたのだが椏理亜は自身の武器の封印状態を確認してから白い小箱に入れた。絆が蓋を閉じると箱が淡く光を放って蓋の部分に小さな紋様を浮かび上がらせた。

これで箱は封印された。

「百合の模様で綺麗ね。」

妖姫が呟いて、それから部屋の壁にたてかけられていた小さなテーブルを降ろした。

絆も部屋に入り、見回した。


部屋の内部は6畳程度の部屋だった。畳が敷かれ、小さなテーブルとポットが備えられていて今妖姫が茶筒と湯呑みを運んでいる。

小さな音をたてて茶筒が置かれると彼女は急須を取り出して茶葉を中に入れた。ポットの沸騰寸前のお湯を湯飲みに注ぎ、全員の湯飲みに少量のお湯を注ぐ。それから余分に一つお湯を注ぎ、少し置いてから急須にお湯を流し込んだ。

蓋をして、2分30秒。静かに目を閉じていた彼女は目を開き、全員の湯飲みのお湯を余分に使用した物に集めると、空いた湯飲みに緑色の茶を注いだ。

「さすがは飛鳥川…。茶葉も一流じゃない」

コトン、と急須を置いた妖姫が二人に湯飲みを取ることをすすめる。

「…くっ、やっぱ日本茶はいい…っ!」

椏理亜が唸っているのを見て絆も一口飲み込む。

ふわっ、と緑茶の香りが鼻を抜けた。

「えっ?これ緑茶?おいしい…」

絆の反応を見て妖姫は嬉しそうに笑った。

「良かったわ~。気に入った?」

「はい!…でも、これはどうしてこんなにおいしいんですか?」

「良い質問ね」

妖姫は立ち上がり、胸元からメモ帳と万年筆を取り出した。

「日本茶に限らず茶葉には最適な温度があるの。高すぎると苦味が出て、低いと旨味が出ないその中間。日本茶はそれが50度なのよ。この温度にするために一度お湯を湯飲みに溜めて、急須に注ぐのよ」

「それから、すぐに注ぐのもダメ。茶葉に抱かれた旨味成分がにじみ出るのをじっくり待つの。『才能は時間をかけて引き出す。』そして『時間をかけすぎてはダメ。』うまい加減が必要なのよ」

くにゃくにゃと絵が描かれていき、絆は妖姫の話に飲み込まれていく。

「絆ちゃんも紅茶とかならば詳しいでしょ?紅茶を扱う漫画は多いから。」

飴○とか。と妖姫は言った。

「う…ん。」

だから詳しいとは限らないんじゃ…と言いたかったが、絆は緑茶と共に飲み込んだ。

「あちゅ!」

「絆もまだまだ子供ねー」

「な、なにを!私は高校生で…」

「顔を赤くして、カワイイ~♪」

「椏理亜姉っ!!!」

妖姫はその光景を眺めていた。

ムキになってポカポカ殴る絆と、笑いながらその攻撃から身を守る椏理亜。ああなんて

「緊張感がないのかしらね」

だって、笑ってられるのは今だけ。3年前と同じ流れならばオラクルの次の一手で戦況は荒れる。万能術者の嶺が戦いの渦に飲まれたように、終端の能力者の彼女もまた………戦いの渦に飲まれるだろう。

元来、十二階位は戦いの駒。それが本来の姿であり、またそれこそが十二階位の存在理由。彼女もそれを目の当たりにするだろう。いや、既に知ってるのかもしれない。

【終端】の能力者なのだから。


「あらあら、二人ともテーブルにぶつからないでよ~」

妖姫はそう言って二人を眺める作業に戻ったのだった…。

一方。1号室では

「むー」

「むー」

「ふぅ」

可憐、瀬名、御簾が睨みあっていた。

曰く可憐は

「嶺を踏み台に栖に近寄ろうとする女」

曰く瀬名は

「なんか言いがかりをつけるちびっこ」

曰く御簾は

「そんなことはどうでもいいから…」

三人の意見がまとまらなかったので御簾は仕方なく提案する

「一旦、トランプやろ。気分転換にいいし」

「え…御簾…それどころじゃ」

「そーだよ!こんな女とトランプなんて…」

「や・れ♪」

御簾の笑顔が怖かった…。

「うぅ…」

「はぃ…」

三人はテーブルを囲み、御簾が取り出したツバイ社のトランプがシャッフルされていくのを見ていた。プラスチックのトランプをショットガンシャッフル(ヒンズーシャッフルとも言う)して、パチパチパチ、バララララとまとめ上げられて3人に5枚の手札が配られた。

「ポーカー?」

「そう。2回交換。」

「ふっ…眠った獅子と言われた私の実力を見るといいわ!」

いざ!




6分後




「はい。ロイヤルストレートフラッシュ」

「「さっ三連続!?」」

フルハウスの手札が投げ捨てられて最強の組み合わせの前に瀬名と可憐が沈んでいった。

「イカサマだぁー…連続でその役を引くなんて絶対イカサマだー…」

「私を疑うなら、可憐ちゃんが混ぜて配ってみるといいわよ?」

「くぅー…御簾には絶対トランプで勝てないのよね…バカみたいに強いし…」

「私、こういう運は強いのよ…っと」

トン。とトランプの山が作られて御簾がにんまりと笑った。瀬名と可憐は思わず抱き合って御簾から逃れようと威嚇してみたが、効果が無いみたいだ。

「いつまでも喧嘩しとると…」

二人はヒッと小さな悲鳴をあげて

「「ごめんなさぁぁぁい!」」

逃げ出した。


御簾は部屋から逃げ出した二人がどこかへ走り去るのを見届けてから「ふぅ」とため息を落とした。

「…お茶でも飲むかな。」

障子を閉じて一人だけでコポコポとお湯を急須に入れた…

それから適当に時間が流れて巫女の三人が部屋の扉を開ける頃には全員がくつろぎモードだった

「鬼が…御簾がぁぁ!」

「またトランプが襲ってくるぅぅぅ!」

訂正。約二名はトラウマを負っていた。

「準備がととのいました。皆様に武器を返却します。」

小さな箱を三人が持ち、小さな百合の紋を撫でる。

「どうぞ」

如月が蓋を開けてそれぞれを持ち主に渡していく。絆も受け取って手首に輪を通した。

「それでは蔵の前へ行きましょう」

「結界仕込むのも大変なんだぜ?感謝してくれよー」

三人が先頭を進み、九人は後に続く。屋敷の入り口まで戻り、それからぐるっと蔵まで回り込んでいく。

すると、そこは先ほどまではなかった巨大な魔法陣が描かれていた。三角形と円をいくつも組み合わせた物が大きな、一辺6mはあろう正方形に囲まれていた。

「塩で書いた結界印章だ。私らもがんばったろ?」

確かに。と頷いた。

「それじゃ、起動します」

巫女達がゆっくりと言葉を紡ぎ歌う。塩の結界印章がほんのりと輝き、四角い線に沿って空間に「ゆらぎ」が生まれた。

「…『断層結界』。世界の理より位相を外れた場所。この中は別の空間です。内側からはこちら側の現実世界には一切干渉できません」

「つまり、中でいくら暴れてもお咎め無しって訳だ」

「でも、現実なので痛いし、たまに死にます」

死ぬ…とその単語にざわめきが広がった。

「でもっ!もし仮に死んでも私たちがお葬式しますからご安心下さいっ♪」

ご安心できません。と言いたかったがグッとこらえる。つまりそれほど辛い修行なのだと自分に言い聞かせる。

「それでは修行の皆さん。中へ」

絆、嶺、想騎が中に入る。

「んじゃ、如月姉は通常業務よろしく」

「如月お姉ちゃん、いってきまーす」

卯月、皐月が結界に入ると「ゆらぎ」が消えて何事もなかったかのように白い結界印章が姿を現した。

「三人の成長が楽しみね」

妖姫が笑うと

「…ホントに『あれ』を使って良かったんですか?」

如月が心配そうに呟いた

「あれだと…ホントに死んじゃうかも…」

「大丈夫大丈夫。中にいるのは英雄とうちの剣士。それから【終端】の能力者。やり返す事はあってもやられる事はないわ」

「…だと良いですが」

「さて。後は嶺から頼まれた調べ物ね。如月ちゃん、準備はできてる?」

「はい。『歴代の能力者辞典』は蔵の中に」

「はい。どーも」

妖姫が蔵へ向かうと

「むっ…イベントフラグの気配」

「瀬名。何その勘は」

妖姫を追う瀬名と、隣でやれやれと首を振った御簾は蔵に走って行った…



結界内。


絆、嶺、想騎の三人は不思議な色合いの空間にいた。赤と朱と褐色に黒を混ぜたような不気味な景色が無限に続いているようだった。

「凄いね、こりゃ…」

嶺が思わず呟いたのが聞こえた。

「一時間で作れた。なんて信じられないな…」

絆はどこらへんが凄いのかわからなかったが、とりあえず広大な世界に圧倒された。

「ほい。ちゅーもーく。今から私たちが放つ式神を倒せたら修行終わり。間違いなくレベルアップするよ」

絆と想騎が小さく驚きの声を上げた。

「ただ…その…命がけの戦いになると思います。私たちは手助けできません。修行になりませんから…」

皐月が小さく頭を下げた。

卯月はそれを見て、小さく笑い、呟いた

「まさか…三年前に、数百年後に伝えようと作った封印を私たちが解くとはね。笑える」

歌を歌うように静かに、それでいて力強く言葉が紡がれる。一音一音に言霊が宿りそして一音一音毎にしめつけられるような無色のエネルギーを感じる。まるで虚空を引き裂くようなエネルギーの衝撃が絆を一歩後退させる。

「『外せよ(かせ)を。解けよ楔よ。永久(とわ)に続く記憶の図書館に収めし記憶のヒトカケラ。虚空に咲きて巻き戻らん』」

「『解くのは懐かしき戦いの記憶。第三次の戦争を終わらせた苦くも目映い(あで)やかな戦史(せんし)。』」


「「『オラクルと嶺の戦いの栞よ、今、その場面を映し出せ!』」」


空間にポツンと穴が開いた。針先ほどの微小な穴は周りを浸食するかのように急激に半径を肥大化させて、一人の男を吐き出した。

「…//…/…///。」

まるで磁気テープの出だしのようなノイズで掠れた声が聞こえた。

「来たか。待ちわびたぞ」

黒いコートを着た男。オラクルがこちらをまっすぐ見つめて言った。

「っ!」

絆は身構える。本物かわからないほどの…いや、絆が知るオラクルよりも遥かに強い威圧を放つ人物に襲われるのではないかと思った。

「大丈夫。こいつは幻影。僕が三年前にあいつを封印した時の幻だよ」

嶺が両手を左右に開くようにして翼を模した双剣を解放する。

「まさか、スタート直後にラスボスとはね。レベルアップは間違い無いけど…」

「ゲームオーバーしそうだ」

嶺は走り出した

「風遊べ『疾風大鷲』!」

双剣が男の頭上に叩き落とされる。

かん高い金属音。跳ねる剣。黒い光が世界を刈り取る!

「飛鳥川結界四式『縛網牢』!」

嶺がオラクルと自分の間に光のような、無色の目映い何かを張った。先ほど変な生命体に襲われた時に見た結界と同じような輝きだった。

「おー。あいつうちの家系の術まで使えるのか。万能だな」

卯月が呟き、嶺が次の動きを見せた。

「風よ、眼前の敵を捕らえよ!『ウィンド・バインド』!」

風の輪がオラクルの両腕を胴体に縛り付け、締め上げる!

「吹き抜けろ『烈風大鷲』!」

一瞬だった。


「相変わらず、多彩な技だ。」

一瞬で全ての拘束を打ち破り、剣を弾き返したオラクルが硬直状態の嶺に指を向ける。

「『バインド』」

詠唱どころか、普通の、何のへんてつもない術。絆が精錬学園小等部の授業で習った程度の術に嶺はがんじ絡めに締め付けられた。

元は数秒から数分程度の拘束術だったものが嶺の全身をまるで鎖のように縛り上げる威力となって、拘束したのだ。

「…鳥を捕まえるのは難しい。捕まえようと手を伸ばしてもひらりと逃げて離れた場所で小さく笑う。」

「嶺。お前の武器は非常に優れた、優秀な知能を備えている。お前のコートに練り込まれた魔力繊維を利用して攻撃を受けた瞬間に強制転移する…。一撃目の絶対回避。実に優秀だ」

「だが、欠点がある。まず一に『攻撃に対して』強制転移すること。そして、『武器に頼ること』だ」

剣が嶺の顎を持ち上げる。

「私は伊達に数千の時を生きてはいない。この戦争もまた繰り返される歴史だ。何故お前は我々の邪魔をする?」

「…」

「我々はただ戦争を憎む。世界の不平等を憎む。あらゆる不幸を憎む。誰もが手を繋ぎ、誰もが差別なく生き、誰もが幸福を享受する………。その何が気に入らない」

「………。」

「あぁ。そうだな。お前は言った。『手段が悪い』と。」

「ならばどうする!我々は世界の代弁者!だが声を上げれば弾圧され、散らされ、果てには凶弾に倒れるだろう!我々の仲間を!同志を!守るために我々は戦うのだ!」

「この馬鹿が!」

拘束を緩めた嶺の蹴りがオラクルを捉えた

「何が不平等だ何が不幸だ!お前たちは誰もがその脱出の機会を得ていた!だがそれを手にできなかった。手にする勇気がなかっただけだ!」

「何度聞いても虫酸が走る!お前が演じるのは世界の代弁者じゃない!ただの…具者の道化師だ!」

「切り刻め!『斬翼大鷲』!」

鳥が、大きく叫びを上げた。

嶺を縛る拘束を切り裂き、主人に頭を寄せる。

「当主権限行使。絆の封印を解除する!舞い上がれ『極風大鷲』!」

まるでオーロラのような神々しき姿に変化した大鷲が絆の前にやってきて、嘴で唇に触れた。

「っ!?」

予想外の出来事に絆は唇を手で隠したが、大鷲は少しだけ笑うような目を見せてから主人の元に帰って行った。

「さぁ幻想よ。終わる時が来た。風翼嶺と風翼絆、想騎の三人に砕かれて永遠の眠りにつくがいい!」

あとがき



こんにちは。白燕です。

今回は『修行編』であり『三年前の決戦』の再現パートとなります。

『三年前』にあった嶺とオラクルの戦い。『三年前』を知らない絆の戦い。そして『三年前』を知る想騎の戦い。その全てが一つに繋がり、この物語を描き出す………






と、いいな……(何

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