第十階位 『ツバイ』攻防戦!後編
『ツバイ』襲撃編、第三部です。
前二本と比べたら文章量は少ないです。今回は語れる部分があまりないので(ネタがバレる)どうぞ本編へお進みください。
むしろまえがきの存在理由がな(ry
オラクルの能力。それは【エンドレスエンド】という不死身チートだったり【理想を現実にする能力】とかいう下手すれば神すらも越えそうな物が揃っているが、彼もまた人間だ。全ての状況を同時に管理はできない。
放った槍に向けて走る相手がいようとは。ましてやそれがこの中で最年少の少女がやろうとはあまり想定していなかった。
「姉さん!兄さん!援護を!」
短双剣を持つ少女、可憐が数百の槍を睨み、刹那の一瞬で切り刻んだ!
打ち漏らした槍は狙撃され、空中で真っ二つにへし折られてしまった。
「風打連式『禍風』」
旋風と共に舞った少女の周囲を、まるで不思議の国のアリスのティーパーティーのようにくるくるくるくると槍が回る。槍がさながら指揮棒のように踊り、次々とワルツに誘う。彼女の周囲は不思議と優雅な舞踏会に見えたのだ。
「『PEX-033』【クリエイト】」
ツバイ社の『PEX』シリーズ。双銃の独自規格であり『PEX-001』から存在する。ちなみに『PE』シリーズは片手持ち拳銃の規格である。
椿井の双銃がオラクルへと向けられ、タタタンと短く発砲された。
「輪廻の海より這い出し腕よその腕で空を掴め。『天握の巨手』」
再び現れた巨大な手が弾丸を全て握り潰した。
「やばっ!あれ妖姫さんがやられたやつよ!みんな捕まらないで!」
瀬名が叫んだが、栖は腕が自分の攻撃範囲に入るのを見て長い剣を一度だけ振るった。ピッ…と切れ目の入った腕が空中でゆっくりと分割され、砕けた。
「ま…魔力体を斬った…?」
あの腕は並大抵の物理攻撃を受け付けない技だったのだが…それをただ一撃で破壊したとは…。瀬名も絆もポカンと見ているしかなかった。
「俺の能力は【猛禽の爪】。逃がさないぜオラクル!」
「ほぅ…だが、踏み込みすぎたな」
ズッ…と空気がまとわりつくように感じた。これは結界に触れたときに似ていて、絆は周囲を見て愕然とした
「全方位『ファランクスシフト』。【終端】よ、果てろ!」
槍が全て穂先を向けていた。なるほど。逃げ場は無さそうだ。
「流石『密集方陣』。逃げられないかも…」
槍が放たれるその瞬間、体が押されてほんのわずかに空いた隙間に身を隠せた。そして、鈍い音が続いた。
「ちぃ…無様に死にそうになるんじゃねぇ…俺が働かないといけなくなるだろ…」
嶺が…大鷲が身代わりに槍に貫かれていた。引き連れていたのは『腐死鳥大鷲』。
「死んだら…死ねないからな…畜生め…」
みるみる治癒していく傷に、わずかに恐怖した。
「回復したか。そうでないとな」
「うるせぇよ、オラクル。俺は俺の家系を守るだけだ!」
だが、既に嶺は限界のようだった。手がわずかに震えていて、立っているだけで精一杯…そんな感じだった。
「…まぁいい。我々は引き上げよう。椿井よ、いずれ報いを受けるだろう。それまで、死なないよう足掻くといい」
オラクルは虚空の穴に片足を入れた。
「待て」
『栖!やめなさい!』
通信機から声がした。オラクル一味は撤退し、後には第六階位『風翼』の人間と第七階位『聖蓮』。それから
「ふふ…ふふふ…恐れをなしたか!オラクル!」
なんかヘリから叫んでるのが取り残されていた。
「あれ?戦場まだいたの?」
「酷いね絆君。僕の活躍が妬まし」
『はい、お話し中失礼。黒須ちゃんの報告よ』
戦場以外は耳を傾ける。
『結論だけ言うと、逃がしたわ』
「む…黒須なにしてんのさ」
『結論だけよバカ嶺。』
「バカ言うな」
『オラクルは転移直後に嶺がつけた発信機を破壊したわ。だから、一瞬だけだけど電波が受信できたの!』
「…で?クロ姉。場所は?」
『…桃花市南部。山中。そこまではわかったわ。あとは詳しく分析すれば…数日で詳細な位置が判明するわ』
おぉーというどよめきと小さな賞賛を込めた拍手が沸き上がった。
『位置の詳細は学園で調べるわ。だからみんな、今日は傷を治すことを考えてね』
「…まったくだ。全員、じきに警察も来るからな。撤収するぞ」
栖が嶺を肩に担ぎ、そして御簾が氷の道を作る。
「それじゃ、風翼の家へ」
一行は氷の道に乗り、滑るように夜空を走り抜けていった。火災の黒煙と鼻をつく異臭。何人が犠牲になり、何人が怪我をしたのか。絆は野次馬を天空から眺めつつ呟いた。
「何人が幸せになれたのかしら、ね」
ノウラ達の顔が脳裏に浮かんだ。彼らの『死者の鍵』は彼らの犠牲を払って作り出されたのに誰も幸せになんかなれなかった。今夜だって、誰も幸せになんかなれなかったと思った。
誰かを犠牲に。それが間違ってるとは言えないけれどもこれだけは言えた。
「悲劇の過程しか描かれないのなんて辛すぎるわ…」
パキン、とタイミングよくビルに触れていた『アイスグラインド』が割れた。
絆はもう振り返らずに瀬名の後ろを走っていった………オラクルは不機嫌に椅子に座っていた。
「まさか椿井を仕止め損ねるとはな。私の失敗だ」
その隣で直立不動していた少女がオラクルの顔を覗き込んだ。彼女もまた、不機嫌だった。
「相手の狙撃手…300mも先から狙撃していました。しかも対角線で300m離れていた私の弾丸まで打ち落としていました。間違いなく相手は『風翼』の長女です。」
明らかに激昂している少女をオラクルが宥める。
「ミルフィ、君が怒るのはわかるが状況が許さなかった。あの『風翼の兄弟』は相手にするのは非常に厄介だからな…」
「…先代の能力を受け継いだ者達。そんな馬鹿な事があるのでしょうか?」
「風翼茜。彼女の亡霊はまだ現世に留まっているのかもしれないな」
ふっ…と笑ってから彼は
「笑えないな」
そう呟いた。
「…まぁいい。我々の作戦はまだ始まったばかり。次の一手は地味な一手。駒のとれないポーンを2歩進ませるくらいにな」
オラクルは手を打ち鳴らして立ち上がった。その後ろで少女は黒衣の男を見つめる。次の言葉を、次の指示を。殺しでもなんでも、彼の望むままに引き金を引くために。彼女は真剣な眼差しで男の背を見る。
「さぁ。我々の次なる一手を奴等に見せつけよう!次は東部…畑を占拠する!」
その言葉を聞いた数百人もの人々、全員が雄叫びをあげたが、全員
(畑を占拠?)
と疑問に思っていたのだった…一方。
夜明けの桃花市、住宅街に二人の人影があった。閑静な住宅街に明らかに不釣り合いな和装の女性と少年がてくりてくりと歩いていた。
「想騎、私達おいてかれちゃったね」
早朝散歩をしていたご老人までもが思わず振り返るほどに豊満な胸を揺らして妖姫は呟いた。
「それはそうですよ…妖姫様は気を失って、しかもビルが切り裂かれた後なんですから。私だって必死で妖姫様を担いで下階まで逃げたんですから…」
想騎はボロボロになりながらもあの場面で必死に主を守ったのだ。ただ胸が邪魔してなかなか走れなかったり、降り注ぐ瓦礫から当主を守るべく『幽月』を酷使したりして右腕は痛み、左腕は包帯で巻かれていた。
「もぅ…想騎にあちこち触られるから恥ずかしいわー。えっち」
「知りませんよ!あの場面で必死に妖姫様を背負って走った私の身にもなってください!」
想騎はぜいぜいと息を切らせて反論する
「ムキにならないでよ~。ほら、触っていいから」
「だ・れ・が・触りますか!」
想騎の反応が面白かったのか妖姫はクスクスと袖で口元を覆って笑う。
「冗談よじょーだん。生真面目ねぇ…想騎は」
「…むっ」
想騎は身構える。目指す風翼の屋敷から異様な気配を感じたのだ。
「殺気…ですか?普段とは違う気配…」
「朝ごはん争奪戦かしら?」
「それだけは違います」
想騎は用心しながら風翼の門まで進み、木造の立派な門を押し開けた………「ほら、嶺兄?そんなに息をあらげてどうしたの?」
「はぁ…はぁ…」
「ほら、足嘗めたいの?ねぇ?言ってよ」
…修羅場?だった。
想騎は思わず飛び出して幽月を払う
「朝から何してるんですか!嶺さんに可憐さん!」
可憐は幽月をつぃと摘まんで、投げた。
「あれ?いつの間に…」
「つまんない。」
可憐は一番幼い容姿で辛辣に叫んだ。
「…あらあら想騎、人のお楽しみに割り込むのはダメよ? 特殊な趣味も受け入れてあげないと人間小さいままよ?」
妖姫に諭されて、想騎は小さく頭を下げた
「すっ、すみません。つい…嶺さんがこんな趣味を持ってるとは知らなかったもので…つい…ごめんなさい!」
「そうそう。人間大きくないと、ね」
「…あのさ。人が変態みたいな趣味を持ってるみたいにまとめないでくれるかな…?」
変た……嶺が呟いた。
「可憐め…朝いきなり人の首にナイフを突き立てに来るとか…絶対許さないからな!」
「あらあら、いきなりsmの話?変態さん」
「いくら妖姫さんでも怒るよ?」
嶺は屋敷の縁側に腰を降ろし、深いため息をついた。
「聞いてよ想騎。朝起きたらいきなり『じゃぁ死ね♪』って斬りつけられて、逃げたら鬼のような速さで追いかけられ、最後はなんかしらないけど…見たでしょ?」
「…苦労してますね」
「うん。苦労してる」
半泣きの嶺の背後の障子がスッと開いて、人が飛び出して来た!
「いたー♪私の嶺っ!」
「みぎゃ?!」
ぐるんぐるんと…地獄車を受けて嶺は庭につぶれたように倒れた。
「まったく…せっかく寝てるうちに『昼間から口にできない用語です』してあげようとしたのに…こんなトコにいたのね」
その人物は、想騎には見覚えがなかった。だが、妖姫は「あらあら」と笑ってその女性に声をかける。
「椏理亜ちゃんじゃない。久しぶりね~」
ロングヘアーの女性は立ち上がり、笑った
「妖姫さんおひさです。」
女性…椏理亜は実に奇妙な服装を…というよりはアクセサリーを身につけていた。小さな弾丸型の装飾が両肩の服にあいている穴から鎖で繋がれて揺れていて、腰に巻いたベルトにはポーチと、風翼の家紋…鳥が描かれた手帳がホルスターに入った拳銃よろしく収まっていた。
「椏理亜姉…重い…みぺくっ?!」
後頭部に一撃が叩き込まれた。
嶺は沈黙…。
「相変わらず賑やかな家ねぇ~。私たちの屋敷とは大違い。ね、想騎」
「まぁ…今は二人しかいませんからね。少し賑やかさも羨みます」
ふぅ。とため息をついた想騎に、屋敷の方から人影が近づいてきた。キリッとした雰囲気を漂わせるいかにもやり手の起業家。そう聖蓮椿井だった。
「これは…第七階位当主。お久しぶりね」
「第五階位の当主。久々に町に戻って早々すまないな。オラクルを相手にし、手間取った。」
「私も、微々たる力しか貸せずに残念でしたわ。でも…お土産は手に入れて来たわよ」
想騎。と短く呼んだ。
「はい! こちらが昨夜の戦闘時の嶺さんと絆さんの武器とのシンクロ率のグラフです」
その図は、良く言えば地震計。悪く言えばミミズか蛇にしか見えない図だった。
「この図は上が嶺さん。シンクロ率が120%と常人の3倍の数値は叩き出しています。これはシンクロ率の高さで有名な嶺さんならば納得です」
100%と書かれた横線を大きくはみ出した折れ線を指差した後、想騎は指を滑らせて下の図を見せる。こちらのクネクネ度は上ほど大したことはなかったが…
「見ての通り、シンクロ率100%を叩き出しています。これは常人では武器と融和し過ぎている状態。それを『能力封印状態』の絆さんが成し遂げています。」
「ぐ…つまり、普通の状態『能力を介した武器の解放』とは違う方法で絆は『刻鳥』と同調してたのか…」
嶺が復活した。
「そういう事です。それからここ。嶺さんが『腐死鳥』を解放した後、嶺さんのシンクロ率が300%に達するまで絆さんのシンクロ率が上昇を続けています。」
「んーつまりあれ?嶺の『封印』が不十分だったってこと?」
「いや、椏理亜姉さん僕の『封印』は当主権限『極風大鷲』の能力で施した物だから緩むことはあり得ない……。少なくとも、【ウィンド】程度ならば茜さんにも対抗できる威力があるよ」
ふむ。と嶺に乗っている椏理亜が頷いた。
「とりま、朝ごはん食べながら考えよ。お腹空いたし」
風翼椏理亜。彼女が一番マイペースなのであった
屋敷内。
普段は嶺、瀬名、御簾、絆が朝からもそもそとパンを食べている場所に、普段の倍以上の人間が集結していた。
嶺。
「多いなぁ…狭くない?」
絆。
「うわ…座れない…」
可憐。
「栖兄こっちこっちー!」
栖。
「缶詰じゃない朝食か…何日ぶりだろうな」
椏理亜。
「どれどれ、お姉ちゃんが採点しましょう」
妖姫。
「ごはん♪ごはん♪」
想騎。
「居候は遠慮して―という言葉がありますが自重して下さいよ。妖姫様」
瀬名。
「だぁー!トーストの楽さが羨ましい!」
御簾。
「静かに鮭焼きなさい。焦げてるわ」
椿井。
「娘の手料理か…パパ嬉しい!」
以上。10人。
狭い部屋に入りきらず、入りきれない人々はお茶碗と焼き鮭と玉子焼きの乗った皿を手に縁側へと移動した。
「いただきます。ほら可憐も。」
「べ、別に聖蓮の作った食べ物なんて信用できないけど栖兄が言うから『仕方なく』食べるだけなんだからね!」
「ごめんね、瀬名ちゃん御簾ちゃん。うちの妹ツンデレで…」
椏理亜が謝ると…いや謝ってるのか?
「いえいえ。別に『うまい…うますぎる!』なんて言わせようと頑張ってなんかいないから大丈夫なんだからね!」
「…埼玉銘菓?。…というかツンデレに対抗しないの」
ペチム。と御簾のチョップが瀬名の暴走を止めた。
「熱々ごはんに鮭に塩をかけて…日本人っていいわね~」
「妖姫様。それはしょうゆです」
大丈夫かこの二人?
「それじゃ!みんなで食べよー!」
嶺がオレンジジュースのグラスを掲げる。
「かんぱーい!」
「「「『何一人だけ飲んでんだぁぁぁぁ!!!』」」」
風や氷や雷や剣や光やらが降り注いだ…。
とてもお待ちください………
「ごちそうさまでした。」
可憐が箸を置いて、朝食は一段落ついた。庭で嶺が倒れているが誰も気にしない。
「さて、今日はどうするの?椏理亜姉?」
「そうねー…。昨日のアレで流石に学園も休校だし、絆ちゃんも暇だし…」
勝手に暇だと決めつけられてしまった。いやまぁ実際暇だけど。
「あらあら、なら良いことを思い付いたわ」
妖姫が手をあげて、想騎がすかさず
「駄菓子屋、お菓子屋、食事処巡りは却下です!」
そう叫んだ。
「あ、酷い。想騎は当主をそんな食い意地の張った人間だと思ってたのね…悲しいわ」
「なん…ですって…」
「絆ちゃんも嶺も昨日で色々思い知ったでしょ? まだまだ弱い。強くならないと…って」
絆は頷いた。昨日は何もできなかった。最後は無力を知ってか攻撃すらされなかったのだから…。
「強くなりたい。妖姫さん!」
「…いい返事ね。なら、行きましょう」
すっく、と妖姫は立ち上がって全員を眺めた。そしてにっこりと笑うと
「あなた達の実力は十分なの?」
全員が立ち上がり、妖姫を見つめた。
「良い目ね。…その気持ち、忘れちゃダメよ」
「なら行きましょう。桃花の結界守護者である『飛鳥川』家へ」
妖姫はゆっくりと、歩き出した。
あとがき
こんばんは。こんにちは。白燕です
長かった『ツバイ襲撃編』ようやく終幕です…いや長かった…。たぶん4万文字は越えたので原稿用紙100枚分。読書感想文に直すと実に25人~33人分の文章量ですね。
クラス全員分あるだと?!
しかもボツったルート、消えた文章を換算すると+1000文字は間違いなくあるのでやる気のない作文1人分追加です。最低値で。
次は、『飛鳥川』家で大騒ぎ?
『怒濤の努力編(名称は仮のもので変更になる場合があります)』がスタート!
それではまた次回お会いしましょう~
(=△=)ノシ