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霧の中より

作者: 吉川明人

 急に立ちこめた季節外れの霧は、あっという間に伸ばした腕のひじから先が見えなくなるほどの濃霧となった。右も左も分からない。一寸先は闇、いや、薄ぼんやりした光だけが見える真っ白な闇。

「そこに誰かいますか?」途方に暮れていたところへ男の声がした。

「います。ここが分かりますか?」

「そこを動かないでください。我々がそちらへ行きます」

 返事からほどなく、少し変わったデザインの背広を着た二人の男が近づいて来る。

「いったいこの霧はなんなのでしょう?」

「それよりも、今は何年の何月何日なのか教えてください」

 彼らはこんな時に何を言ってるのだろう。

「頭がおかしいと思われるかもしれませんが、我々には非常に重要な問題なのです。教えてください」

 理由は分からないけれど、彼らの真剣な言葉に今日の日付を答えると、二人で何やら話している。

「失礼しました。ご安心ください。我々が立ち去ればこの霧はすぐに晴れますから」

「どういうことですか。まさかあなたたちは宇宙人か何かでしょうか?」

「違います。説明したところで信じられないでしょうし、誰かに話したところで笑われるだけなのでお話しますと、我々はこの時代よりずっと先の未来から来ました。


 この濃霧は時間移動の際に、空間を閉じ込めておくための粒子ですので、我々がいなくなればすぐに晴れるというわけです」

 確かに彼らの服装は未来的とよべるだろう。だからと言って、もちろん信じられる話ではない。

「幻覚を見たとでも思っておいてください。もうお会いすることはありませんので」

 濃霧の中に消えて行こうとする、未来人と名のった彼らに、1つだけ問いかけたかった。

「この国は今、大変な被害に遭っています。これから立ち直ることができるんでしょうか?」

「この国ですか? ここは現在、何という国なのでしょうか」

 振り返った彼らに国名を告げると、顔を見合わせて微笑み、力強くうなずく。

「大丈夫です。この国ならどんなことが起きても必ず立ち直り、以前よりもさらに繁栄していきます」

 霧の中に消えた彼らを見送った直後、嘘のように霧が晴れ、失われていた視界が戻った。


 そこに広がっているのは、どこからどう手をつけていいかすら分からない、見渡す限りの瓦礫となってしまった荒野……だけどその景色の中には、今も懸命に元の姿を取り戻そうとする人々、昼夜問わず働き続けてくれる頼もしい人たち、そして世界中から送り込まれる物資がある。

 心にも、歴史にも深い傷跡を残した被害に遭い、これからも乗り越えなければならない苦労はイヤというほどある。

 だけど、必ず助けてくれる人の手が伸ばされる。

 自称未来人の言葉をそのまま鵜呑みにはしないけれど、この国は何度も人の力で立ち直ってきたんだ。それは間違いない。それだけは信じられる。



「あれで良かったのでしょうか」

 タイムマシンの中で一方の男が問いかけた。

「もちろんだ。人の心が本当に折れるのは、希望を失ったときだからな」

「そうですね。なんとしても復興してもらわなければ。

 なにせ未来は世界中でこの国、この土地のすばらしい復興を手本にしているのですから」

「そういうことだ。さあ、次は誰の心を取り戻しに行こうか」

 タイムマシンが徐々に速度を落とすと、取り巻く霧は密度を高めていく。


被害を受けていない地域に暮らしていますが、自分に出来うる限りの支援はさせていただいています。

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