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【短編】神隠しにあった少年

作者: 田中佳奈

「そういえば小さい時に、神隠しにあったんですよ」


 彼は笑いながら、その話をしてくれた。

 居酒屋で呑んでいたこともあって、軽い気持ちで話してくれたのだろう。

 私も軽い気持ちで、すごいね〜、どんな感じだった?と相槌を打ってしまった。


 二人とも酔っ払っていたので、細かいことなんて気にしなかった。

 二日酔いから解放された後、ふと、彼の話を素面で聞いてみようと思った。

 あの時、何かがおかしいと思ったことを思い出したからだ。

 何がおかしいかは覚えていない。

 彼にそのことを話すと、「いいですよ」と返事をもらえた。


 今度は居酒屋ではなくファミレスに入り、ご飯食べながら話を聞く。


 *


 まあ、前話した時は二人ともベロベロだったんで。

 それにしても、この話もう一回聞きたいって、先輩、こういう話って苦手じゃなかったですか?

 ああ。血が出るのがダメなんですね。じゃあ、これはセーフなんだ。


 神隠しの話でしたね。

 僕が小さい時なんで、そう言えばあんなこともあったなあって感じですけど、いいですか?

 ……わかりました。

 確か、小学校上がる前ぐらいかな。

 そうですね。4、5歳くらいだったと思います。

 僕が住んでた所ってすごい田舎だったんですよ。

 周りは畑ばっかりだし、おじいちゃんおばあちゃんしかいないし。年の近い子なんて、10人もいなかったんですよ。

 その中でも僕が1番年下で、お兄ちゃんお姉ちゃんは小学校に行ってて、学校が終わるまでずっとおばあちゃんにくっついて回ってたのを覚えてます。

 懐かしいなぁ。


 ああ、すいません。

 それで、神隠しの話なんですけど、自分がそうなってたとは全然知らなかったんですよ。

 あるあるですよね。いつの間にか神隠しにあって、気付いたら戻って来て、本人は覚えてないって。


 あの時は、いつもみたいにおばあちゃんの後を追いかけて、畑で遊んでたはずなんですよ。

 それが、気付いたら神社の中にいて。目を覚ましたら真っ暗で怖かったのを覚えてます。

 泣いてたら、おばあちゃんが見つけてくれて、「大丈夫や、よう頑張ったなぁ」って抱きしめてくれました。


 ……神隠しにあってる時の記憶なんだと思うんですけど、なんか、浮いてたんですよね。

 村の中にいるんですけど、自分の目線がもの凄く高くて。塀とか木より高くて、すれ違った人が上から見えてたんですよ。

 そうなんですよ。すれ違ったみんな、僕に気づいてくれなくて。たぶん、声かけたと思うですけど、それでも誰もこっち見てくれなくて。怖かったなぁ。


 まあ、これが僕の神隠しの話です。

 あんまり怖くなかったですね。

 いやいや。すごい頭良くなったりとか、超能力が使えるようになったとか、そんなのないですよ。

 あったら、もっといい大学行ってますって。


 *


 私は彼に礼を言い、ご飯を奢った。

 いいんですか?と聞きながらも、しっかりデザートまで食べやがった。

 引っかかったものがなくなりスッキリしたので、それくらいは許そう。


 要はそういうお祭りだったのだろう。

 子どもを1人選び、神とする。

 神は畏れ多い存在だから、目も合わせないし口も聞かない。

 視線が高く飛んでいるようだと言っていたのは、神輿に乗っていたのだろう。なにせ神なのだ。

 そして、神は神社へと帰る。

 だから、おばあちゃんはよく頑張ったと誉めたのだろう。

 たぶん、神社から出発したと思うけど、まあ、小さい時の記憶なんて当てにならんからな。


 私も小さいときにディズニーランドに行ったみたいだけど、ミッキーに抱っこされている写真を見ても思い出せなかった。

 小学校に上がってから行くべきだと、親を少しだけ恨んだ。


 まあ、本当にそんな祭りがあったのかは、知らないけど。

 自分が納得できればそれでいいのだ。

 誰かに話すわけでもないし。

神輿は木より高くはないと思います。

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