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エピローグ そして伝説へ

「これっ! 起きんか、雑魚雑魚勇者!」

 げしげしと蹴られて、勇者は目覚めた。


 体のダメージに加え、ジャンプの急加速に耐えられず、気絶していたらしい。


 朝露の湿り気と草の匂い。

 どうやら街道から少し外れた草原のようだ。

 魔王城付近は暗雲が立ち込めているため、久々に朝日を拝んだ気がする。


「ここは?」

「知らん。ジャンプで飛びすぎてしまったようじゃ」

 少なくとも城の崩壊からは無事逃れられたか。


 勇者が辺りを見回すと見覚えがある。


「俺が王都から旅立って、何日かした頃に通った場所だ。距離にして歩きで3、4日といったところか」


 旅の始まりを思い出しながら、改めて今の自分の姿を確認する。


 聖剣は折れ、伝説の鎧は砕け、魔法の袋も脱出の際に置いてきてしまったようだ。

 袋は便利だったが、もう武具は必要あるまい。


 旅人同然の簡素な格好になった自分を見て、勇者は己の役目が終わったことを認識した。


「ここは王都の近くだ。俺は世界征服を阻止したことをそこにいる国王様に伝えなければならない」


「わしもついて行こう」


「魔王本人が会いに行くのは、さすがに色々とまずいだろう」


「人間の王の前に顔など出さん。それより、王都の近くにはお前の故郷があるじゃろう。とっとと用を済ませてそこへゆくぞ。ほれ、菓子が名物だと言っておったではないか」


 魔王は部下からの(しら)せか、勇者の故郷の位置は把握していたらしい。

 冷徹な老魔王だった頃に、家族を人質に取られたりしなくて良かった。

 勇者はつくづくそう思った。


「すぐにでもあの、かすたーど、を食いたいが魔力の加減が効かなくての。次にまたジャンプしたら、どこまで飛んで、どこに落下するか分からん」


「なら……のんびり歩いていくか。王都まで寝泊まりするくらいの路銀(ろぎん)はある」




 王都への道すがら、魔王軍に破壊された町を通りかかった。

 住民が壊された家や道を直している。


「こんなに荒らされて、ひどいことをする奴もいたものじゃ」

「お前の部下どもがやったんだよ、全部。命令したんだから、間接的にお前がやったようなもんだろ」


 魔王軍は勇者がすべて撃退したが、町には戦いの傷跡が深々と残っている。

 人々はそれに負けじと復興のため、懸命に汗を流していた。


 魔王はスッと片手を掲げる。

 その手には魔力が込められていた。


「おい、何をする気だ」

「わしは魔王ゆえ「罪滅ぼし」などと情けない言葉は使わぬ。が、世界征服を止めにしたからには、もう決して破壊はしないのじゃ」


 魔王の手が光ると、ブロックや材木が浮き上がり、積み木のように組み上がっていく。

 そして、あっという間に家1軒を直してしまった。


 無尽蔵に近い魔力と人間には未知の魔法で、建物を次々に修復していく。


 突如として現れた、魔法で家屋を直していくビキニ幼女に住民たちが殺到する。


「おお、破壊された家々を直してくださるとは」


「幼い外見ながら、さぞや名のある魔法使い様に違いない。お名前を頂戴できますか」


「わしは魔王じゃ」


「マオー、おお、マオー様とおっしゃる」


 マオーマオーと歓声があがる。

 魔王も張り切って、ハイペースで建物から道から、手当たり次第に直していく。


(被害に遭った彼らにはとても正体を教えられないな)


 町を破壊した者たちのボスが町を直している。

 故意ではないにせよ、これを空前絶後の壮大なマッチポンプと言わずしてなんと言う。


 しかし目の前の幼女を魔王だと思う者があるはずもなく、感謝の声は渦になっていく。


「人間はただただ脆弱で、すぐに死んでしまう弱き者じゃと思っていたが、実際近くで見るとこれほど活気がある生き物なのじゃな」


「世界征服を企んでいた魔王が、今ごろ人間への認識を変えたのか」


「今になってどの面をさげてと思われるかもしれんが、「変身の秘術」を使ってから、新しい価値観を受け入れられそうなくらい頭の中がとても軽いのじゃ。もうやってしまったことは(くつがえ)らんが……わしがなぜあそこまで世界征服や地上制圧にこだわっておったのか、今では理解できん」


 たしかに老魔王が持っていたどす黒い邪悪さは、漂白されたかのように消えてしまった。


 変身の秘術のデメリットとは、使用者の思考を本当に子供にまで戻してしまうのかもしれない。


 それによって、魔族に不要な善性が芽生えることを恐れ、禁呪にまでされてしまった可能性もある。

 勇者はそんな推測を立てた。



 マオーと名乗るビキニ幼女と勇者らしき若者が、街道沿いの町を次々と復興しているという噂は瞬く間に広かった。


 各地でそんな旅路を過ごした2人は、目的地の王都にたどり着いた。


 凱旋した勇者は国王に、魔王は魔王城ごと滅んだと報告し、その活躍に報いる多大な賛辞を受けた。


 そう話した以上、魔王の正体は明かせないので、旅の途中でお供代わりに保護した、魔法を使う妖精のようなものとして周りに説明した。


 魔王はその偽の肩書きを受け入れ、人間界の日常へ次第にとけ込んでいった。


 勇者が褒美で屋敷をいくつか建てると、魔王はその1つに住み、毎日ぷらぷらしては、条件として提示していた「美味いもの」を頬張った。


 人間の食べ物はなんでも美味いと評価し、なんでもよく食べた。

 特にカスタードとふわふわのオムライスが大のお気に入りらしい。


 美味いものをよこせば世界征服は止める、という約束を反故にしたりせず、魔王は決して悪さはしなかった。


 それどころか時折、世界中のどこかへ飛んでいってはその魔力を使って、復興に協力しているようだ。


「魔王は魔王ゆえ、罪滅ぼしも改心もしないのじゃ」

 そう主張しているが、できる限りの償いをしようという気持ちは根底にあるらしい。



 勇者はその後、国王から高等な爵位をもらって貴族となり、姫を妻に(めと)って、やがて子供が生まれた。


 魔王はあれからずっと幼女の姿のままである。


 勇者は忙しい領地経営や社交界の合間に、魔王と食い道楽の旅に出たりもした。

 魔王討伐の旅の道のりのなかで出会った人たちのもとを訪れ、各地の絶景や名物を楽しむ。

 人生を豊かにさせる旅だ。


 そんな日々が続き──


 それから長い長い月日が流れ、勇者は年老いて亡くなった。

「人間はやはり、すぐに死んでしまうんじゃのう」

 葬儀で彼を弔った魔王は、やはり幼女のままであった。



「雑魚雑魚勇者が死んでしもうてから、なんだか、ここにいてもつまらんのう。もうどんなに甘い菓子を食っても、なぜかしょっぱい味しかしないのじゃ」


 魔王は勇者の墓参りをし、彼の家族に別れの挨拶をすると魔法のゲートを開いて魔界へと帰っていった。

 そして2度とこの世界に戻ってくることはなかったという。




 勇者の手によって魔王は倒され、魔王城の崩壊をもって、人類と魔族の戦いは終結を迎えた。


 勇者はその後、領民から慕われる領主となり、お供とされた白き少女は各地の復興に尽力したあと、多くを語らずにいずこかへと消えた。


 平和が続く後世の伝説では、ただそれだけが語られている。

 お読みいただきありがとうございます。

 ちょっとだけ作品説明と反省点などを。



 RPGで最終形態になると自我を失うラスボスを見て、それをギャグ方向に持っていけないかと考え、こんなキャラ造形になりました。


 TS設定はあまり活かせてないかもしれません。

 前半やたらと重い口調にさせて、それをあの小生意気ロリキャラにさせてギャップにした点くらいでしょうか。


 最初はコメディー短編にするつもりが、DBZの善の魔人ブウ、善性に目覚めた魔王が今までの破壊や殺戮を思い返したらどう行動するだろうか、みたいなシリアス要素を入れていった結果、こうなりました。


 最後は蛇足みたいですが、寿命が違う生き物の別れと、魔王にも人情みたいなものが芽生えたのかも、という形にして終わりにしました。


 しかしキャラ同士のやり取りは難しいですね。

 会話に勢いをつけてみたら、勇者が途中で少し口が悪くなってしまいました。


 ではありがとうございました。さようなら。

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― 新着の感想 ―
[一言]  素敵なお話をありがとうございました。  最終形態魔王様の好奇心を上手に操る勇者の機転、相手を見て上手に掌で転がす様子に、応援したくなりました。  きっと故郷ではいいお兄ちゃんなのかなと…
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