真・魔王降臨
真・魔王の声はCV釘宮理恵で脳内再生
「こ、これが、魔王の究極の姿……?」
絶え間なく溢れる、自らの魔力になびく長い白髪。
老いとはまるで無縁の若々しい肉体。
いや、若々しいにしても、若すぎる。
厳密に形容すれば、その姿は「幼い」のだ。
子供である。
それも10歳かそこらの、少女だ。
身長も勇者と頭2つ以上違う。
なぜあどけない少女の姿なのか。
今の今まで、髭をたくわえた老人だったはずだが。
その理由は魔王自らが語っていた。
性別や体のサイズなど意味を持たない。
それが魔族であると。
ならば男性体から女性体に変わっても、何一つおかしいことはない。
生えかわった角、つぶらな紫色の眼差し。
蒼白の肌には魔族文字を象った赤い紋様。
装備らしい装備はなく、身につけているのはビキニ状のわずかな白い布のみ。
武具とは戦闘力を補強するための道具だ。
それが要らないということは即ち、
補う必要がないほどの、完成された強さをその身に備えている、ということか。
「こんな子供の姿が」
「侮るでないぞ、勇者よ」
鈴を転がしたような甘やかな童女の声。
それは怜悧そうで、聞いた者に気位の高さを刻み込んでしまう響きすら持っている。
「真・魔王のパワー、身をもって知るがよい、のじゃ」
魔王は目を見開くと、片目での瞬き、ではなく、
パチッ☆
ウインクをした。
すると、大気を激震させる衝撃波が勇者に襲いかかった。
「! ぐわああーっ!!」
壁に大の字に叩き付けられてめり込み、飛散した破片ごと床に倒れ伏した。
先ほどより段違いにパワーが上がっている。
「ぐはぁっ! ぐ、ぐうう!? つ、強い……!」
魔王はその様子を無表情で見つめていたが、
「……ぷぷッ❤️」
小さく噴き出すと、
「勇者なのにそーんな、だぁらしない声をあげるとはのう❤️ 情けないのう、みっともないのう、あわれの極みじゃのう❤️」
今までの威厳はどこへやら、クソ小生意気なロリボイスで嘲った。
「勇者のとんだ名折れじゃなあ? それでは死んでも、歴代の勇者や英雄にあの世で顔見せできんのう? やーっぱり、全力を出しちゃった本気なわしに比べたら、お前なんか雑魚よのぉ~❤️ この雑~魚、雑~魚❤️」
「なっ、く、くそおっ!?」
「キャハハハ、怒った怒ったぁ❤️ じゃがぁ、怒ったところでぇ、勇者は雑魚雑魚の雑魚じゃからぁ、わし相手にはぁ、な~んにも、できんのう❤️ のう? のう?」
激突のダメージで思うように動けない勇者をこれでもかと強烈に煽ってくる。
「くっ」
勇者はなんとか片膝をついて体勢を整えた。
まだにらみ返すので精一杯だ。
「くやしかろ? くやしかろ? さぞ、くやしかろうのう❤️ わしに歯向かうとはとんだ愚か者も愚か者、大馬鹿者じゃ、バカバカバ~カ❤️ バカ勇者❤️ これからテッテー的に痛めつけてやるぞ❤️ バカな犬っころを躾するようにのう❤️ わしの超パワーの前に屈服させ、ピーピー泣かせて、情けない悲鳴をあげさせてやるぅ❤️ よいか、ひっぱたいて、蹴っ飛ばして、めーいっぱい踏んづけてやるから覚悟しろ、なのじゃ❤️」
(!? 老魔王だった頃の貫禄が欠片も消え失せている。これではまるで故郷にいた悪ガキも同然だ。知力の減退とはこのことか!?)
魔王は掌を向けると、
「これが魔王の真の魔力じゃ!」
拳大の爆発魔法弾を放った。
勇者が飛び退くと、今の今までいた場所にドーム状の爆発が起こり、
「うわあ!」
爆風で飛ばされながら彼が目にしたのは、直径7、8メートルのクレーター。
あの弾のサイズであの破壊力。
人が知りうる最上級魔法の、さらにその上を行く爆発魔法か。
直撃すれば死、あるいは重傷は免れない。
あろうことか、魔王はそれを連発し始める。
「ほれほれぇ、必死に逃げんと吹き飛んでしまうぞー!」
切迫を感じた勇者は、加速魔法でとにかく避けることに専念する。
知力は下がっているが、魔力そのものは増大しているため、どんな特大呪文も打ち放題だ。
しかし己の居城であるにも関わらず、何も頓着せずに打ちまくっている。
「なんて奴だ、うお! うおお!」
「キャハハハハ❤️ 駆けずり回って、無様な姿じゃのう❤️ 愉快愉快❤️ のろのろしとると、消し炭も残らんぞー」
間一髪で爆発から逃げて駆け回る勇者を見て、魔王はすべすべの腹を抱えてキャッキャと笑う。
完全に、遊んで、はしゃいでいる子供だ。
1発放つごとに壁は崩れ、吹き飛び、別の部屋まで大穴が開いてしまう。
もう城がどうなろうと構わないらしい。
「キャハハハ❤️ どうじゃどうじゃー❤️」
流れ弾のせいで城の一部が崩壊を始めているというのに、半ば面白半分で魔法をばら蒔いている。
後先を考えない子供の思考。
やはり知力が著しく下がっている。
「ほれ、これではどうじゃ!」
腕を一振りすると、作り出された十数個の魔法弾が滞空し、勇者を目掛けて一斉に殺到する。
「これは避けきれない──はあっ!」
勇者は黄金色の光を一瞬だけ周囲に放ち、四方八方からの攻撃を相殺した。
「ほほう、さっきの大技でも見たその金色の光は、聖女の加護じゃな」
「そうだ、王女にして聖女の姫が俺に与えてくれた加護。みんなが俺の勝利を、世界の平和を祈っている」
勇者は剣を構えると、
「姫のためにも、お前の野望は打ち砕く!」
大きく踏み込み、容赦なく全力で頭へ振り下ろす。
が、
「なに!?」
人差し指と中指で剣を挟まれてしまった。
伸びきってもいない子供の2本指なのに、万力で固定されたようにびくともしない。
魔王は魔力を込めた一方の手で剣を弾き落とすと、一瞬で勇者の右手首をつかんだ。
「ぐ、か、体が!?」
小手を砕かれて素手だったため、妨害魔法をじかに流し込まれ、体の自由を奪われてしまう。
「加護の力はすべての能力が上がるが、1度使うたびに合間が要るようだと部下が言っておったのう」
「……くっ」
必殺剣を連続で放てなかったのは、この休憩が必要だったため。
なお、魔法弾への対処で今使ってしまったばかりだ。
「厄介な力じゃが、サキュバスクイーンに力をドレインで奪われかけ、苦戦したと報告があった気がするのう。せっかくじゃ、その加護の力、このわしのドレインで奪い取ってやるとするかの❤️」
魔族にはもともと、人から生命力や精神力を奪取する能力が備わっている。
当然魔王も例外ではなく、どの魔物よりも秀でている。
「!? なんだ、指が勝手に」
魔力を加えられ、強制的に人差し指だけを伸ばした形にされてしまう。
「わしなら大袈裟な術など使わなくとも、こんな体の末端部からでも体の内側に宿る力を吸い取れるのじゃ。このようにな❤️」
魔王は勇者の指を、蕾のように可愛らしい唇に添える。
そして結んだ唇と唇の間に指先を押し当てると、割り入れるようにチュプッと口に入れた。
「よ、よせ、うう……」
根元まで口に含まれた指に、生温かな舌が絡む。
なめらかな舌が指の関節の凹凸にまで、みっちりと隙なく絡み付いてくる。
魔王は舌で指を上顎に押し付けながら、口腔で締めつけるように吸い始めた。
チュポッチュポッチュポッ❤️
ただ吸われているだけなのに、触手モンスターの幾重にも重なりあった肉襞に絡め取られるような、ねっとりとした感触で指を締め上げられる。
チューッと一息に吸われると、ゾクゾクとした感覚が、腰骨から背骨にかけて寒気のように広がった。
(こ、これは精気やエネルギーを奪われる前兆だ!)
数多の魔物と戦ってきた経験から分かる。
このままでは加護の力を吸い出されてしまう。
そんな彼の焦りを読んだのか、魔王が念で頭に言葉を送り込んでくる。
「どうじゃ、最上級の魔物とも比べものにならぬわしのドレインは? 雑ッ魚雑魚な勇者の脆弱な精神ではとても堪えられんじゃろう❤️」
にゅるにゅると舌の上で指を転がされると、ぞわぞわと背中に鳥肌が立った。
鎧の中で冷や汗が流れ落ちるのが分かる。
「くっ、耐えるんだ。姫が一途に俺のために祈って授けてくれた加護……勝って帰るという約束を守るためにっ」
「強がってもガクガクと震えているのが分かるぞ❤️ そんな女の願いなど忘れて、わしのドレインに屈し、力を吐き出してしまうのじゃ❤️」
魔王が小さいストロークで頭を前後させて、じゅうじゅうと指をきつくしゃぶると、
「ぐ、ぐあああ!?」
勇者の体に異変が起きた。
ブルブルと背すじが震えると、体内から込み上げてきた熱い力の塊が、指先へと向かっていく。
「くう、まずい、このままじゃ力が吸い取られてしまう!? 堪えなければ」
「無駄じゃ、雑魚雑魚の雑魚勇者がわしのドレインに抵抗することなどできなかろう❤️ 無駄な我慢などせず、溜め込んどるものをぜ~んぶ出すのじゃ❤️」
ズゾゾゾゾッ❤️
魔王が勢いよく啜ると、ついに、加護の力が指先から吸い出され始めた。
「ぐ、ぐあああ、か、加護の力が吸われていく……!」
「無駄な努力じゃったな、お前の負けじゃ❤️ ほれほれ❤️ 雑魚らしいカッコわる~い声をあげながら、たっぷり出すがよいぞ❤️」
「ぐ、ぐわあああああ!」
勇者は痺れる刺激に全身を貫かれ、背を逸らせた。
彼の意に反し、指先から黄金色のエネルギーが迸ってしまう。
魔王はニヤニヤと目元を緩めながら、指先から溢れ出る力をコクコクと喉を鳴らして、液体のように飲み込んでいく。
勇者の切り札であった力が奪われてしまった。
それは人類の希望が奪われたも同じ。
なんと救いのない、残酷かつ絶望的な光景であろうか。
これが変身の秘術が生み出した、真・魔王の恐るべき残忍さなのか。
魔王の力を吸う嚥下が止まった。
含んでいた指をチュポンと口から出すと、
「う、うう」
勇者は脱力し、尻餅をつく。
「ぷはぁっ」
魔王は清涼飲料でも飲み干したように息を吐く。
そして白い肌に映える、目を刺すような真っ赤な舌で舌舐めずりしてから、
「どうじゃ❤️ 姫とやらから授かった加護の力、わしが残さず飲んでやったぞ❤️」
べぇーといたずらっぽく、挑発的に舌を伸ばした。