【九十九】白波女子、有馬女学園のお引っ越しが始まる!
徳田康代は、生徒会会長と大統領の立場で、豊下秀美と明里光夏に白波と有馬の転居を任せることにした。
執務室の隣室の生徒会室では、サポート体制の準備が生徒会役員の指示で進んでいる。
『秀美、光夏、聞いて!
ーー 明日の二十七日より、白波女子、有馬女学園の面接を安甲先生がします。
ーー 同時にお引っ越しが始まります』
『面接は、一日五十名、お引っ越しも五十名です。
ーー 全員で七百五十名ですから、最短で十五日が必要です』
「宝田劇団のお引っ越しの経験が生かせますね」
秀美が言った。
『生徒会の門田菫恋さんに伝えてあるから、
ーー 生徒会の支援を受けてお願いします』
「康代さん、心配無用です」
「秀美は、単純でいいわね」
「光夏、それは無いでしょう」
近くにいた静女がくすくすと笑い始めた。
「静女殿、笑い過ぎです」
「秀美は、単純でござるよー」
天女の太鼓判に、秀美はボブヘアの赤茶の髪を弄り始めた。
秀美の癖である。
陰陽師の安甲晴美は神聖女学園の面接室で面接の準備を始めた。
生徒会のメンバーが数人でサポートしている。
「安甲先生、これが生徒の個人情報と入居リストです」
「門田さん、ありがとう。
ーー じゃあ五名ずつ呼んでください」
生徒会の門田が白波女子の生徒五名を呼んだ。
部屋の中央には椅子が五つ置かれている。
「お入りください」
安甲が着席を指示して、五人は椅子に腰掛けた。
「あなたは、かるた部の人ね。
ーー お会いしているから、すぐにお引っ越し手続きをしてください」
別の生徒会メンバーが案内する。
残りの四名の自己紹介を安甲が促し、最初のグループの面接は何もなく終わった。
安甲は、門田から渡されたリストにメモを入れている。
第五グループで二十五名になった。
「あら、逢坂さんじゃない。
ーー あなたは面接必要ないわ。
ーー お引っ越し手続きをしてください」
「先生、ありがとうございます」
次々に自己紹介が終わり、リストにメモが加えられて行った。
初日の五十名の顔合わせは、予定より早く終えた。
安甲が生徒会の門田を呼び別の指示を出している。
「この二人をもう一度、呼んでもらえますか」
「はい、分かりました」
隣室では、面接を終えた女子生徒たちの身体検査が行われていた。
新しい制服の発注に必要な、身長とスリーサイズの計測だった。
生徒会は夏休みを返上して全員体制で対応している。
「安甲先生、お連れしました」
「君たち、二人は、能力も優れているので別クラスになるけど構いませんか」
「そんな、普通ですが」
「見た目はね。でも本当に優秀よ」
「成績も普通ですが」
「神聖女学園は、ちょっと変わった学園で能力者を育成しているの。
ーー あなたたち二人が該当したのよ。
ーー 逢坂さん、分かるでしょう」
「先生がそういうなら従いますが、ちょっと複雑」
「大丈夫よ、食べられることはないから、
ーー 落ち着いたら、かるた部にいらっしゃい。
ーー 先生が鍛えてあげるわ」
「元クイーンの安甲先生のご指導、夢のようです」
「逢坂さん、待っているわよ。徳田も喜ぶわ」
「私も徳田さんとお会いしたいです」
「大丈夫よ、これから飽きるほど会えるわよ・・・・・・」
安甲は、豊下を呼び面接スケジュールの変更をお願いした。
「一日の面接を六十名にしてもらえますか」
「入居スケジュールと併せてギリギリですが出来ます」
生徒会にもスケジュール変更が伝えられてた。
夏休みのイベントがクリアされて息抜きをしたいと、徳田康代は思っていた。
かるた部の練習会が消えたわけでは無かった。
宝田劇団の朝川を除く四名、夜神、赤城、大河原、朝霧は旧体育館での朝稽古に熱中している。
その関係で、かるた部に朝川夏夜だけが来ていた。
最近の朝川は校内大会以来、更に気合いが入り自陣かるたにみがきを掛けている。
大会では、夜神に敗退した訳だが、朝川は対戦成績を引きずるタイプでは無かった。
森川楓副部長が、朝川に声を掛けた。
「朝川さん、復習も兼ねて私の練習相手をしてくれますか」
「森川さんの相手になるレベルじゃ無いですが」
「自陣かるたの練習ですから、あまり気にすることないわよー」
「じゃあ、森川さんよろしくお願いします」
朝川は、夜神より三歳年上のアラサーだったが、年下の子たちへには丁寧な対応を心掛けていた。
「朝川さん、一字決まりが複数並んでいると両方が飛ばされやすくなりますよ」
「森川さん、分散ですか」
「上級者は両方を同時に払って払ったことにする強者もいるわ」
「なんとなくそういうのもあるかと思っていたわ」
「自陣の配置の戦略って難しいわね」
「朝川さん、五十枚かるたをしませんか」
「空札無しですか」
「変則的な練習ですが自陣配置の練習にはなるわよ」
「五十枚、覚えるのは、大変じゃ無い」
「自陣の五十枚を覚えることで、
ーー 試合の時の自陣二十五枚と敵陣二十五枚を覚えやすくできるわ」
「なるほど、脳トレね」
お昼になって、朝川は森川と一緒に校舎の一階食堂に行く。
遅れて夜神たち四人と合流した。
「朝霧さん、五十枚かるたしたことある」
「いい練習よね・・・・・・したことあるわ」
「なにそれ・・・・・・」
赤城だった。
「自陣かるたを二十五枚じゃなく五十枚で遊ぶ一人遊びよ」
「朝霧さん、どうするの」
「普通は三段の置き方でしょう。
ーー それを四段にするだけよ。ちょっと中央が窮屈になるわね」
「面白そうね・・・・・・」
夜神だった。
「奇想天外ね」
大河原も呟いた。