第二十一章【九十】かるた予選が始まるでござる!
この連載小説のジャンルはローファンタジーに設定しています。
【登場人物プロフィール紹介】を一〇七話のあとに追加しています。
女子高生は大統領では、縦書き表示対応に漢数字を使用しています。
徳田康代の会話に二重鉤括弧を使用しています。
『 』
皆さまの隙間時間でお楽しみください。
三日月未来
田沼光は、お酒の勢いもあって饒舌になっている。
「今、世界は大変なことになっているんだよ・・・・・・」
助手の若宮が取り繕う。
「田沼先生は、お酒が入ると愚痴っぽくなるので、どうか気にしないでください」
安甲晴美が田沼の顔を覗き込む。
「先生、お気持ちは分かりますが、その辺にされないと大変なことになりますよ」
田沼は、若宮の顔が変わるのを見て息を呑んだ。
「あぶない、あぶない、機密でした・・・・・・」
田沼が言葉を濁したが、神使のセリエには届いていた。
「田沼先生、ところでね、学校改革の噂をご存知ですか?」
安甲の言葉に、ポカンとする田沼と若宮だった。
「元々は、新政府の学校改革でしたが、まさかの統廃合が起きて、
ーー どうやら、神聖と白波と有馬が統合されることになったの。
ーー 多分、徳田さんは、首を縦に振るわね」
安甲がお猪口を手に言った。
「それで、みなさんが集まっていたのですね。
ーー ところで、こちらは?」
田沼が安甲に尋ねた。
「ご紹介が遅れました」
田沼の言葉を受けて、田沼の前の松山が挨拶する。
「私は有馬女学園のかるた部顧問の松山八重です」
安甲の前の由良が続く。
「白波女子高かるた部顧問の由良道江です」
「私は、田沼光で、隣が、若宮咲苗です」
安甲がホログラムディスプレイからエールをオーダーした。
しばらくして、店員がエールをテーブルに置いた。
「じゃあ、みなさん、改めて、私たちの職場に乾杯しましょう」
安甲の明るい声が店内に響いていた。
八月二十一日午前九時、神聖女学園校内かるた大会予選日。
神聖女学園武道場に神聖の女子生徒が集まっていた。
「先生、凄い人数ですね」
生徒会の門田菫恋だった。
「数字で見るのと実際に見るのとでは違いますね」
傍にいた豊下が門田を見ながら話す。
「ところで、女子高生以外もいるようだが・・・・・・」
「豊下さん、中等部の女子中学生も参加しています」
「まあ、実力の世界だから、年齢は関係ないわね」
門田菫恋が会場の司会を担当した。
「一回戦第二試合に出場される方のお名前をお呼びします。
ーー 呼ばれた方は隣の部屋でお待ちください。
ーー 続いて、一回戦第三試合に出場される方のお名前を呼びます。
ーー 武道場地下のお部屋でお待ち下さい」
氏名を呼ばれた女子生徒が指定された場所に退出したあと、門田がマイクで呼び掛けた。
「お名前を呼ばれてない方は一回戦第一試合になります。
ーー 壁にお名前と番号が貼り出されていますので、
ーー 番号のある場所に移動ください」
門田菫恋の説明が終えたあと、安甲晴美かるた会代表が注意事項を話し始めた。
「読手は、わたし安甲晴美がします。
ーー 待っての合図は私に見えるように手を上げてください。
ーー あと、怪我をされないように、ご注意下さい」
安甲は続けた。
「協会と他校から審判員が参加されています。
ーー 白波女子高の由良道江先生と、有馬女学園の松山八重先生です」
一回戦、第一試合、第二試合が終えて、第三試合が始まった。
徳田康代たちは、かるた部の部室で自陣かるたの練習を繰り返していた。
『朝川さんと夜神さん、大分並べるのが早くなりましたね。
ーー 校内大会が終えたらC級に挑戦してみてください』
「徳田さん、ありがとうございます」
夜神だった。
『赤城さんと大河原さんも、いいわよ』
徳田康代は、安甲のいない留守を預かっていた。
生徒会会長でもある徳田にしてみれば、自然な流れだったが、唐木田かるた部部長を徳田は気にしていた。
「徳田さん、今日は先生もいませんから、
ーー 上級者の徳田さんのアドバイスが私たちには参考になります」
唐木田だった。
『じゃあ、今日の読手は、わたし徳田がしますね。
ーー 逢坂さんの相手は、朝霧さんでお願いします。
ーー 唐木田さんと姫乃さん、森川さんと和泉さんがいいわね。
ーー なるべく、レベルの近い人と模擬戦をする方が本番に役立つでしょう」
と言って徳田は続けた。
「今日は、練習なので運命戦になったら終了よ。
ーー じゃあ、かるたを掻き混ぜて並べてください』
午後になって武道場の一回戦が終了した。
女子生徒たちは、二百五十六名から百二十八名になっていた。
「じゃあ、二回戦も第一試合と第二試合に分けます。
ーー 勝ち残った人は、明日の三回戦に進みます。
ーー じゃあ、第一試合参加者のお名前をお呼びします・・・・・・」
二回戦第一試合の読手は、白波女子高の由良道江先生が担当となった。
第二試合は、有馬女学園の松山八重先生が担当した。
二回戦の試合が終わった。
女子生徒六十四名が翌日の三回戦に進むことになる。
由良先生と松山先生が宿泊施設に戻ろうとした時、安甲先生に呼び止められた。
「先生たちも、統合後は学園寮にお引っ越しされると思うので、
ーー 今夜は、学園寮の食堂は如何でしょうか」
「よろしいのかしら・・・・・・」
由良が安甲に言った。
「問題ありませんわ」
三人は武道場地下から神聖女学園寮の地下通路を移動した。
「先生、神聖学園都市の地下って、
ーー 未来小説の地下要塞みたいですね」
松山が安甲に言うと由良も言った。
「松山さんも、そう思います?
ーー 私も同じことを感じていたの?」
実際、神聖学園都市の設計者は、シェルターを想定して学園都市を設計した。
地下の秘密は教師や生徒にも知らされていない。
徳田康代と安甲晴美だけが知っていた。
安甲は松山と由良の勘の良さに舌を巻いた。
「先生たち、この地下通路は、すべて学園校舎の地下玄関と繋がっています。
ーー 警備は二十四時間、巡回ロボットがしています」
「これは、なんですの?」
「校舎と学園寮の東端を結んでいるリニア式エレベーターです」
「リニア式ですか?」
「はい、水平移動するエレベーターです」
由良と松山が顔を見合わせていた。
「初めて聞くわ・・・・・・」
「じゃあ、先生たち、乗って見ます?」
三人は学園寮の東端まで、あっという間に移動して戻ることになった。
「遊園地みたいね・・・・・・」
由良先生が呟いた。