【八十一】八月十五日、西和に二度目の大地震でござる!
八月十五日午前中、生徒会執務室では、大統領キャビネットが招集されていた。
徳田康代大統領は、事務的に確認作業をしている。
『じゃあ、まとめるわよ、光夏、よろしくね』
明里光夏大統領補佐官が、報告を受け継ぐ。
「生徒会の日程によれば、校内かるた大会が八月二十三日で、
ーー 体育祭の前倒しの水泳大会が八月二十五日です。
ーー 九月に入ると体育祭と文化祭の予定が例年と同じ頃に予定されています」
『光夏、昨日の盆踊りは、どうなってますか』
「間に合いませんで、今夜を予定してます」
『分かりました。あと、旧体育館のメンテナンスの進捗はどうですか』
豊下秀美副首相が手を上げている。
『秀美、どうぞ』
「はい、今日、連絡が入り、まもなく終了するそうです」
『そうですか。宝田劇団責任者の朝川夏夜さんに伝えてもらえますか』
「今日の劇団員受け入れの時に、お伝えします」
『あと、西和大陸の件ですが、状況が悪化しているわ。
ーー 鎖国中の皇国が関わることはないわ。
ーー けれど噂が起きた場合は、信美に任せるわ』
織畑信美首相は、急に立ち上がり話始めた。
「あの、その場合は、徳田幕府の女子高生支部が適任と思いますが」
『じゃあ、信美は、全国生徒会会議に指示を出してください』
「そうさせて頂きます」
徳田康代は定例会を終え、会議テーブルを離れ窓側の大きな青いソファに腰を下ろした。
側近の天女天宮静女が康代の隣に腰掛けた。
織畑信美、前畑利恵も傍の席を選んだ。
豊下と明里は受け入れ準備のため、隣の生徒会室へ向かった。
『利恵、最近、すれ違い多いわね』
「康代さんとは、時間帯がズレることが多くて・・・・・・」
『そうね、短歌の方は順調なの』
「地味に地味に、静かに進んでいます」
『派手さは、無いけど和歌は素敵ね』
「康代さんも、そう思われますか」
『だって、私たち競技かるたで百人一首を詠んでいるのよ』
「そうでした・・・・・・」
『じゃあ、私は、食堂を経由してから茶色の棟に行くわね。
ーー 信美、利恵、静女もランチどう』
「もう、そんな時間ですか?」
『信美と利恵も今夜の盆踊りは、どうですか?』
「行くわよ」
『信美、どっちですか』
「両方よ」
康代は執務室を出て、生徒会室にいた光夏と秀美に声を掛けた。
「ランチに行くわよ」
秀美がものすごい勢いで近寄って来る。
「じゃあ、席取りに行きますね」
『あら、もう消えている』
隣にいた静女が笑いを堪えきれずにいた。
徳田康代は食事を終え、信美や利恵と食堂で別れた。
光夏と秀美を引き連れて校舎地下玄関への通路を選んだ。
「康代さん、水平移動エレベーターですか」
『秀美、遠いから、その方がいいでしょう』
「そうですね・・・・・・」
『あら光夏、どうしたのよ』
「それが、リニア式エレベーターは、苦手で」
『どうして?』
「夢の中で暴走したことがあって」
『普通の悪夢よ。問題ないわーー じゃあ、動くわよ』
あっという間に、茶色の土の棟の学園寮の地下玄関に到着した。
「まるで、ワープみたいですね」
『光夏、面白いことを言うわね』
三人はエスカレーターで学園寮の地上玄関前に出た。
朝川夏夜、夜神紫依、赤城麗華、大河原百合が、前日の到着組と一緒に学園寮前で待機している。
『朝川さん、例の旧体育館のメンテナンスが終わるそうよ』
「いつですか」
『詳しくは、豊下さんに聞いて』
「豊下さん、いつですか」
朝川は豊下を見て尋ねた。
「まもなくと聞いていますが、あとで再確認しておきますね」
「じゃあ、豊下さん、分かったら、連絡を入れてもらえますか」
「私の方で、いいわよ」
夜神が間に入った。
「そうね、夜神さんに連絡して上げて」
朝川が言った。
「じゃあ、あとで」
夜神は豊下に告げ、朝川と劇団員二十名の受け入れ準備に入る。
受け入れを終えた夜神と朝川は、徳田と一緒に水平移動エレベーターでかるた部へ急いだ。
「東の外れから西の外れは遠いですね」
大河原が隣の赤城に呟く。
西和大陸の西和ネットニュースでは、続々と地震の報告が入っていた。
「チーフ、東海岸でも大きな地震が起きています」
「余震じゃないのか」
「多分、別ものじゃないですか」
「どうして、そう断言できる」
「震源の距離が離れ過ぎているし、地震規模が余震にしては大き過ぎます」
「それで、どのくらいなんだ」
「マグニチュード八・五」
「西海岸のロックー山脈に引き続き、
ーー 東海岸でマグニチュード八が連発なんて聞いたことがない」
「チーフ、ドローンの映像ですが・・・・・・」
「ビルの倒壊と液状化か」
「いえ、東海岸が水没仕掛けていますが」
「軍は、どうした」
「軍の大半は、神隠し事件で消えています」
西和大陸に残っているのは、汚れた魂の持ち主が殆どだった。
人助けよりトクダネを狙うネット配信局も例外に漏れず、人間の命を軽視していた。
地球の守護神女神アセリアの神使セリエは黒猫姿で、天界の神使メリエの前に現れた。
白猫姿のメリエは、セリエに尋ねた。
「セリエさま、何かありましたか」
「メリエさま、地球の状況が切迫しています」
「セリエさま、ここは、魂の光の世界ですよ
ーー 光がどんなに集まろうとも、ここが溢れることはありません」
「裁きの庭は、どうなりますか」
「あそこでは、私たちは立ち会うだけですから、
ーー あとは、それぞれの魂の記録が照会されて、
ーー 相応しい場所に送られるだけなんです」
「魂の自浄作用ですね」
「普通の魂の場合は、自浄作用が働くのですが、
ーー 穢れた者のどす黒い魂が元の色に戻ることは無いのです。
ーー まあ、魂の処刑は、残酷なので見たくはありませんがね」
「メリエさま、分かりました。
ーー 状況悪化の場合は、報告に参上しますので」
「セリエさま、ご苦労さま」
神使セリエは、消えて光になった。
「康代殿、異変の気配を感じるでござるが・・・・・・」
天女天宮静女が康代の耳元で囁いた。