【六十八】目指せかるたC級!登竜門でござる!
八月二日、宝田劇団のスタッフの第二陣二十名と団員二十名が神聖女学園の学園寮に到着した。
残るスタッフ三十名と団員三百六十名は、明日以降に順次転居して来る予定だ。
まだまだ、半分以上は宝田劇団本部で待機していた。
夜神、朝川、赤城、大河原は、スタッフと団員を受け入れたあと、かるた部へ急いだ。
夜神たちに丸投げされた明里光夏と豊下秀美だったが、豊下は事情を明里に伝え演劇部に向かう。
赤茶髪のボブヘアの豊下秀美が神聖女学園の廊下を足早に歩いていると、前から長身の姫乃水景が近付いて来た。
秀美の背丈は一六七センチだが、黒髪セミロングの姫乃演劇部長の背丈は一七五センチもある。
しかも、モデル並みの超美人だ。
「あっ、姫乃さん」
「あら、豊下さん、どうしたの」
「姫乃さんが、部室にいると思って急いでいました」
「何か急ぎのご用ですか」
「あの、宝田劇団の一部が学園寮に転居した関係で
ーー 姫乃部長に、ご相談があります」
「と言うと・・・・・・」
「廊下じゃ暑いので、生徒会室かそちらの部室で如何ですか?」
「今ね・・・・・。
ーー かるた部に行こうとしていたのよ」
「じゃあ、あとにしますか」
「生徒会室でお願いしても、いいかしら」
「じゃあ、生徒会室でお願いします」
「でもね・・・・・・。
ーー 時間、あまり無いわよ。いいかしら」
豊下と姫乃は、雑談をしながら生徒会の執務室に移動した。
『あら、秀美、早いわね』
「康代さん、姫乃さんをお連れしました」
『姫乃さん、一緒にかるた部に行きましょうか』
「康代さん、スケジュール調整ですが」
秀美が康代に釘を刺した。
『そうねーー 姫乃さん、スケジュールを相談したいのよ』
「と言いますと・・・・・・」
『宝田劇団のお稽古のスケジュールは未確認ですけど、
ーー 施設の使用頻度が増えそうなの』
「と言うと・・・・・・」
豊下秀美が徳田康代のあとを続けた。
「大講堂の大ホール、中ホール、小ホール、体育館、体育館の地下、旧体育館などです」
「あっ、そう言うことですか、豊下さん。
ーー 文化祭では、多分、中ホールを使うと思いますが、
ーー 普段、大講堂を使うことはないわ」
姫乃は、腕組みして天井を見上げながら続けた。
「演劇部の台詞の練習は部室でしているので、
ーー そういう場所はあまり使わないわね。
ーー でも、トレーニングで多目的ルームを使うことがあるわ」
『じゃあ、詳細が分かったら、あとで豊下か明里に教えてくれますか』
徳田が姫乃に言った。
「いいわよ。徳田さん、じゃあ、この話の続きはあとでということで・・・・・・。
ーー かるた部の唐木田さんが待っているわ」
『そうね。じゃあ、豊下さん、そう言うことで・・・・・・』
「康代さん、分かりました」
徳田康代と姫乃水景は、競技かるたの話をしながら、かるた部への廊下を進んだ。
かるた部に到着すると新しい畳からい草の匂いがした。
「あら、珍しく、遅いわね」
安甲晴美顧問の皮肉が聞こえた。
『先生、すみません
ーー 姫乃さんを生徒会に付き合わせて・・・・・・』
「いいわよ。気にしてないから
ーー 処暑の前日に予選大会があるわ」
部員たちの前で安甲が説明を続ける。
「予選大会の勝者十六名と、
ーー かるた部十六名が決勝トーナメントで他校と対戦することになるの。
ーー 白波女子十名、有馬女学園十名で五十二名の予定だけど・・・・・・」
安甲は、説明しながら考え込む。
「この人数だと不戦勝が面倒ね・・・・・・。
ーー あと十二名を入れて、六十四名にしたいわね」
『先生、招待校を増やしませんか』
徳田が安甲に提案した。
「たとえば、何処がいい」
『地方予選準決勝の高砂女子は如何ですか』
「ライバル校に力をつけさせかねないな」
『じゃあ、全国大会準々決勝の笹原女子は如何ですか』
「移動距離の問題ないか」
『あそこなら、有馬女学園と変わりませんよ』
「そうか、聞いてみるか。
ーー ダメなら神聖からピックアップすればいいし・・・・・・」
安甲は宝田劇団の参加者を見て続けた。
「さて、宝田劇団のみなさんには、予選までにD級を目指してもらいます。
ーー D級レベルあれば、予選三回戦の十六名に入れるわ」
ーー 予選は、十六名決定で終了して、決勝トーナメントに進む事になるの」
「先生、D級って何ですか」
赤城麗華が聞いた。
「競技かるたはね。
ーー A、B、C、D、E級の五段階のグループに分かれて個人戦が闘われるのよ。
ーー A級への昇段はB級個人戦で優勝するか、準優勝二回が基準だけど、
ーー それ以下のクラスは三位入賞なの。この場合の三位は準決勝に残った者を指すのよ」
安甲は、競技かるたの説明になって目が輝いている。
「四位は準々決勝に残った者とされているけど、四位はダメなのよね。
ーー その他にね、各会の代表者に実力が認められた者も入るのよ。
ーー 私が代表者なら、私が認めればいいのですが、確認しないと分からないわ」
『じゃあ先生、かるた部に神聖女子かるた会を設立して、
ーー 先生が会の代表者になればいいじゃあないでしょうか?』
また、徳田が安甲に提案する。
「徳田大統領の手腕には負けるわね。
ーー じゃあ、それは、検討させて頂くわ」
徳田を褒めながら、安甲は宝田劇団の参加者を見た。
「宝田劇団のみなさんに、お伝えするわ。
ーー かるた部は、顧問の私と徳田さんがA級で、
ーー 唐木田さん、森川さん、姫乃さん、和泉さんの四人がB級よ。
ーー あと、夏生さん、春日さん、三笠さんがC級ね」
安甲は、そういうと感想を言った。
「高校生ならC級は十分な結果と思うわ」
「何で、目標がD級なんですか」
大河原だった。
「D級を通過しないとC級にはなれないからよ」
安甲の説明は正論だった。
「よーし決めた。D級を目指そう!」
夜神は、赤城と大河原に向いて声を上げた。
「ただ、校内大会は非公式な大会で昇段出来ないのよ。
ーー みなさんが、慣れたら昇段出来る大会を紹介するわ。
ーー 部員で昇段していない人も一緒よ。
ーー E級の個人戦で三位に入賞すればD級よ」
安甲は簡単な説明を終え、練習課題に入る。
「じゃあ、守りかるたを徹底的に練習しましょう。
ーー 守りかるたと自陣の戦略が出来たら次のステップよ。
ーー 守りかるたで、自陣札の取り零しを防ぐのよ。
ーー お手付き無ければ、接戦に持って行けるからね」
元かるたクイーン安甲の説明に部員たちにやる気が漲る。
「派手さは、無いけどスマートなスタイルよ。
ーー 相手が札を動かそうが、マイペースを維持できるわね」
朝川夏夜は、管理職らしく、メモを取っていた。